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1.佐藤さん 2.ジョナさん 4.100Km!(ヒャッキロ) (文庫改題:明日の朝、観覧車で) 6.チロル、プリーズ 8.ただいまラボ 10.ぼくとニケ |
●「佐藤さん」●(絵:長野ともこ) ★★★ 講談社児童文学新人賞 |
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2007年06月
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主人公は高校生になった佐伯智樹。本物語は冒頭からその彼が、クラスメートの女の子「佐藤さんが怖い」としきりに言うところから始まります。何故同級生の女の子が怖いか? それが本物語の楽しいところです。 「佐藤さん」を書いたとき、著者の片川さんは未だ中学生だったそうです。自分と等身大の高校生を描いた物語。その所為か、本書に登場する子供たちは実に生き生きと、かつ伸び伸びとしていてとても気持ち良い。 本物語は5つの章から成りますが、現代の高校生たちが抱える身近な問題が各章にて実に見事に描かれています。イジメの問題、恋愛問題、家庭問題。そう長くもない本書の中に、洗いざらい書き出された、という印象です。 たかが子供というなかれ。子供だって子供なりに悩んだり、苦しんだりすることは沢山あるのです。・・・という趣旨のことを言ったケストナーの作品を思い出します。 佐藤さんがとりわけ魅力ある女の子であるのはもちろんのこととして、2人の同級生である志村や田川詩織、そして幽霊の安土さんもやはり魅力ある登場人物です。さらに、僅かに顔を出すだけですが、佐藤さんのおばあさん、主人公の妹である百華の言葉も心が篭っていてなかなかに忘れ難い。
私としては大好き、と言いたい部類の作品です。 佐藤さん/中途半端に腐ったバナナ/アグリーボーイXアングリーガール/レッツゴー☆肝試し/スタバの前で転んで笑おう |
●「ジョナさん」● ★★ |
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2010年10月 |
未だ現役高校生である片川さんの2作目の小説。 主人公は高校2年生のチャコ(萩原茶子)。 親友であるトキコとの気持ちのすれ違い、言い争い。公園で知り合ったかっこいいお兄さんへのほのかな恋心。そして、亡き祖父に対する複雑な思い、進路選択を迫られた戸惑い。 何といっても、高校2年の揺れ動く主人公の心情を素直に描き出しているところが、本書の魅力です。 |
●「動物学科空手道部1年高田トモ!」● ★☆ |
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2011年01月
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現在大学生である片川さんが描く、女子大学生=高田友恵の大学青春ストーリィ。 何といっても同世代の女の子を主人公にした青春小説だけに、新鮮さが溢れています。 そしてまた、ファンとしては片川さんの作品に再び会い見えられたことが嬉しい。 「動物学科空手道部1年」とはまた随分長い題名だと、誰しも思うことでしょう。ユーモアを狙ったものかと思ったのですが、それは誤り。この題名にはそのまま、この小説の意味がこめられていたのですから。 誰しも大学生ともなれば一度は当然のごとく抱える悩み事かもしれません。でもそれがあるからこそ大学時代という青春期が愛しくあり、それを現在自分も大学生である片川さんがリアルタイムで描いているという新鮮さが、本作品の魅力。 1.女らしさなんてくそくらえ/2.トモちゃん、強力してくれるよね?/3.ありのままでいいんだ/4.優しいだけじゃダメなんだ |
●「100Km!(ヒャッキロ)」● ★★ |
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2015年05月
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ただ歩くだけのストーリィ、そんなものが何故小説に成り得るのか?と思ったのに、読んでみたらそれが実に面白かった、というのが恩田陸「夜のピクニック」。 さすがにその作品だけのことと思っていたら、またまた出くわしたのが本書「100km!」。 元々私自身、歩くのは大好きで(最近は全く長距離を歩いていませんが)、独身時代旅する先で必ず長時間歩く工程を入れていました。 主人公は高校1年生の塚本みちる。叔父のけんちゃんが勝手に「三河湾チャリティー
100km歩け歩け大会」への参加を申し込んだ挙句、本人は直前にキャンセル。 ただ歩いているといろいろなことを考えるんですよねぇ。みちるの場合はすっかり変わってしまった母親のこと。 |
●「動物学科空手道部2年高田トモ!」● ★★ |
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現在獣医科大学生である片川さんが描く、女子大学生=高田友恵の大学青春ストーリィ、第2弾。 1年時は1年生なりに、2年時は2年生なりに、悩み尽きないのが主人公のトモ。 第1章では空手部に新入生が入ってくれるかどうかやきもきし、入ったら入ったでその習得の速さに落ち込んでしまう。 第2章では夏休み、愛ちゃん、マルと3人で山形の肉牛農家へ牧場実習へ。 第3章は、空手部同期の栄を好きになったという愛ちゃんの応援に奮闘しますが、かえって栄に怒られるばかりか、ちっとも懲りていないという真知子をはじめ、周囲の皆に呆れられる始末。 一方、学祭では2年生が中心になってお好み焼き販売に大奮闘、でも・・・。 第4章は、そんなトモが意外な人物から告られ、困惑して逃げ回ってしまうという展開。 とにかく、何をしても生一本、でも不器用な高田トモのキャンパスライフを描くストーリィなのですが、「1年」に比べると、ぐっと面白くなった、という印象。 この人はこんなことができる、あの人はこれができなくてもこんな良さがある等々、それなのに自分は何にもできない、自分の存在価値なんて・・・と落ち込むところが超・不器用者たるトモらしさなのですが、その気持ち、判るんですよねぇ。だからこそ、トモに親近感が湧き、本ストーリィを楽しめるのです。 青春小説は数多くあれど、作者が同世代をリアルタイムで綴っていく青春ストーリィなど滅多にあるものではありません。 その意味で貴重、それと関係なく楽しい、というのが本作品。 青春ストーリィがお好きな方にはお薦めの大学生シリーズです。 1.ほうっとくのもさびしいじゃないの/2.ねえ、運命だと思わない?/3.友達の恋路は応援しなきゃね/4.お前、俺と付き合えよ |
●「チロル、プリーズ」● ★★☆ |
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チャコとトキコの親友2人が登場する「ジョナさん」を片川さんが書いたのは高校3年生の時。そして続編となる本作品を刊行した現在は、獣医学科の大学6年生。 本書は、大学1年の時から講談社ウェブサイトでずっと連載を続けていた「クロワッサン」を加筆・訂正しての単行本化だそうです。 「ジョナさん」から半年〜1年後の物語。 「そういやあたし、結婚するから」といきなりトキコに宣言され、チャコは思いっきり動揺。そりゃそうですよねー、まだ17歳なのですから。しかも相手は27歳の会社員だとか。チャコ、親友であるトキコから取り残されたような寂しさを味わいます。 そうはいってもチャコは受験生、毎日予備校に通う日々。その予備校でチャコが親しくなったのは、犬顔故に“ポンちゃん”という仇名の男子受験生。 受験自体、受験生にとっては大きなプレッシャー。それなのにトキコとギクシャクしてしまい、チャコの悩みは深い。ポンちゃん相手に掛け合い漫才のような会話を交わすことが唯一の息抜きだったというのに・・・・。 受験生時代の半年、チャコの様々に揺れる胸の内を、ひとつずつ丹念に辿った高校生・青春ストーリィ。 ストーリィ中でも言われることですが、過ぎ去ってしまえば、あぁそんなこともあったなぁと懐しく思い出す高校時代の一片に過ぎないことでしょう。 でもその渦中にあった時は大問題、それこそ真剣に思い悩むのです。 ちと行き過ぎでは、いい加減にしたらと思う程なのですが、そんな女の子だからこそチャコは、友人たちからも大切にしてもらえるのかもしれません。 愛おしく、ひとつひとつが大事な時間だったあの頃。そんな時期をこれ以上ないと言いたいくらい瑞々しく、細やかに描いた青春小説の逸品です。 こんなに瑞々しく描けるのも、片川さんが主人公たちの世代に近い若い作家だからでしょう。その点からもかけがえのない作品です。お薦め! ※表題の「チロル」とは、チロルチョコのこと。 |
7. | |
「動物学科空手道部卒業高田トモ!」 ★★ |
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獣医科の女子大学生=高田友恵の大学青春ストーリィ、第3弾にして3〜4年の2年間を駆け足で描いた完結編。 トモも研究室入りして忙しくなり、更に卒業後の進路を目的にした実習も加わり、空手部の幹部学年となりながらも練習に参加できない日々が続きます。 そうした状況の中、空手部において孤軍奮闘の観ある彼氏=栄との間にもすれ違いが多くなり、2人の間にさざ波が立ちます。 獣医学部は6年、それより2年早く社会に出るトモと栄の間にはそうした意識の差もあるのでしょうか。 危機感、卒業を目の前にしての焦燥感、そして自らの進路への迷い、トモの千々に乱れる胸の内が初々しく語られます。そうした迷いや苦しさを経るからこそ、卒業を迎える日の感慨があるのでしょうか。いやー、思わず私自身の卒業の日のことを思い出してしまいます。 初々しさ、そして生真面目さ。片川優子さんへの好感を新たにしました。 1.ほんの少しの優しさがほしいだけ/2.一歩足を踏み出すこと/3.私もあんなふうになれるかな/4.思った通りの道を行こう/最終章:卒業 |
8. | |
「ただいまラボ」 ★★ |
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2019年04月
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獣医学部で分子生物学研究室所属という、現役大学生作家である片川さんによるリアルな青春群像ストーリィ。 理系学生、それも珍しい獣医学部の学生たち5人を主人公にした連作ストーリィという処が、何より希少価値にして楽しい哉。 もっとも読み始めた最初からそう感じていた訳ではなく、前半は変わり種青春ストーリィに留まるという印象だったのですが、徐々に引き込まれました。 獣医学部という特殊な学科の学生だからこその悩み、迷い、戸惑いがあります。またそれを乗り越えていく経緯にも独特なものあり。 特別なドラマや感動的な展開が無くったって、自身現役学生だからこそ描ける、リアルタイムな学生群像ストーリィという処に本作品の魅力があります。 「シカミミ!」は、研究室で鹿の耳を切り刻む作業から始まります。獣医学部6年の学生生活の内でまだ4年目という太一、就活に疲弊する彼女との仲を守れるのか・・・・。 「ナツジツ!」は夏実習のこと。両親が経営する動物病院を継がざるを得ず動物学科に進んだ東は、さっさと逃げ出した兄と姉に今の立場を押し付けられたという不満が・・・。 「ネガコン!」は、ペット保険会社でインターン実務研修をした5年生の新倉が主人公。彼女がそこで学んだものは・・・。 「コンフル!」は、研究室長を務める6年生の君島が主人公。証券会社に勤務する友人が設定した合コンに参加させられるのですが・・・。 「ブンセイ!」は分子生物学のこと。太一の同級生であるミカは何に迷い、どうこれからの道を選択するのか。 シカミミ!/ナツジツ!/ネガコン!/コンフル!/ブンセイ! |
「わたしがここにいる理由」 ★★ | |
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同じ団地に住む幼なじみ3人−璃子・一輝・彩加里−がそれぞれ中学生になって抱えた悩み、葛藤を描いた中学生ストーリィ。 「朝日中高生新聞」に連載されたシリーズに、加筆修正を加えての単行本化とのこと。 ・璃子は活発な女の子でしたが、母親の憧れを背負わされて小中高一貫教育の私立女子中学校に進学。公立校とはうって変わった上品な校風とお金持ちの同級生に囲まれ、璃子は自分本来の地を抑えて我慢する日々。 ・サッカー馬鹿の一輝は中学校でも当然の如くサッカー部。ところが努力を怠らない自分が結果イマイチなのに、練習では手抜きしているのにいざ試合となるとゴールを連発する兼岩蓮の姿を見せつけられ、自分にとってサッカーとは一体何なのか?という葛藤を抱え込みます。 ・一輝と同じ公立中学に進学した彩加里は、元々かなり内気な女の子。注目度の高い名敷クララのグループに入りますが、璃子とはまた違う意味で自分の気持ちを表に出せず、悩む日々。 子供だって大人と同様に悲しい思いをすることもあれば、悩むこともあるんだ、と語ったケストナーを思い出させるようなストーリィ。 片川優子作品の良い点は、3人やその同級生、友人たちが等身大で描かれていることでしょう。 主人公3人だけでなく、登場する中学生それぞれが抱える悩みや葛藤を描き出されていますが、それを救うのが新たな出会い、新たな友情という処が嬉しく、また楽しい。 片川優子作品、私はやっぱり好きだなァ。 プロローグ−小学四年生−/1.璃湖(りこ)/2.一輝(かずき)/3.彩加里(あかり)/エピローグ |
「ぼくとニケ」 ★★ | |
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不登校中の幼馴染、仁菜がいきなり玄太の家を訪ねてきます。 その仁菜の腕には汚れた段ボール箱、そしてその箱中には薄汚れて弱弱しい小さな仔猫が一匹。 母親が大の猫嫌いだからという仁菜の願いを受け入れて、玄太の家ではその仔猫を飼うことに決め、さっそく「ニケ」という名前が付けられます。 次第に元気になり、すっかり仁菜や玄太の家族にとって大切な存在になったニケでしたが・・・・。 小さな可愛い存在(ニケ)との出会いと愛情の深まり、そして飼う側の責任についてきちんと教え諭してくれるストーリィ。 途中、見栄を張るのを捨てられない小学生男子と、ちょっぴり大人である女子の違いもさらりと描かれていて、判るなぁと思いつつ、微笑ましい。 獣医さんらしさと、片川さんらしい健やかな優しさを感じさせてくれる一冊。 ストーリィ中に登場する優しい獣医さんは、片川さんの理想像なのでしょうか。 犬や猫といったペット動物が堪らなく愛おしくなるストーリィ。片川作品、やっぱり好きだなぁ。 1.ニケがうちにやってきた!/2.ニケ、いきなり改名の危機/3.母子バトル、ぼっ発!/4.シロ姉(ねえ)とみいちゃんと/5.またもや、嵐の予感/6.ぼくたちとニケ/おまけ |