鹿島 茂
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1949年神奈川県横浜市生、東京大学大学院修了。明治大学教授、専門は19世紀のフランス。91年「馬車が買いたい!」にてサントリー学芸賞、96年「子供より古書が大事と思いたい」にて講談社エッセイ賞、99年「職業別パリ風俗」にて読売文学賞、2004年「成功する読書日記」にて毎日書評賞を受賞。

  


     

「モンフォーコンの鼠 ★★☆




2014年05月
文芸春秋刊

(2000円+税)

  

2014/06/24

  

amazon.co.jp

19世紀前半のパリを舞台にした壮大な歴史フィクション。
一旦読み出したら、面白いこと面白いこと。頁を繰る手が止まりません。

まず文豪=バルザックが登場、その元に正統派貴族のカストリ侯爵夫人から手紙が届き、さっそくバルザックは夫人を籠絡しようと取らぬ狸の皮算用。
一方、警視総監代行の
ジスケに公衆衛生学者のシャトレが案内するという形で、花の都パリというイメージを壊してしまうような悪臭ぷんぷんたるモンフォーコンの廃馬処理場&屎尿処理場の実態が描かれると思えば、サン・シモン主義者フーリエ主義者が争い、さらにユゴー「レ・ミゼラブル」の登場人物であるジャベール警部が登場し、
ジャン・バルジャンの名前までも取り沙汰されるといった具合で、ストーリィは混沌しつつもどこまで広がっていくのかまるで予想もつかない、という風。
こうしたストーリィ前半も近代都市パリの実態を暴くかのようで興味尽きないのですが、ストーリィは後半、地上のパリから一転して採石場跡という広大な地下空間に舞台を移し、主要な登場人物たちが次々と地下に潜り込んでいくという展開へ。この辺りに至ると、まるで
ダーク・ピットの冒険活劇ばり。
これが面白くなくして一体何が面白いというのか、と言いたくなるような面白さ。

冒頭で、バルザックの元に彼が若い時に使用した筆名による「デヴォラン組」という三巻本の小説が持ち込まれ、バルザックは書いた覚えがないという謎も、本書にバルザック的な面影を与えています。
また面白さに浮かれていると見落としがちなのですが、本作品には強烈な現代社会への風刺が含まれています。
ユートピア社会像が論じられる一方で、成熟社会における人間の幼稚化、同性愛、エネルギー問題等々が取り上げられますが、とくにエネルギー問題は原発の「想定外」事故に対する批判に他なりません。
バルザックへの関心、歴史物語の面白さ、それに加えてスリリング極まりない冒険活劇風の展開と、まさに比類なき面白さです。お薦め!


1.きなくさいパリ/2.教母失踪/3.地下ファランステール

 


  

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