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1.文身 2.生者のポエトリー |
1. | |
「文 身」 ★★ |
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普通の状況だったら多分、本作を読むことはなかったでしょう。 それくらい凄みのある、極めてダークな作品。 こうした類のダークさは、私の苦手なところです。 「最後の文士」と評された無頼作家の父親=須賀庸一が死去。 父親とはずっと絶縁状態でしたが、大勢の人から頭を下げられて頼まれ、やむなく実娘の山本明日美は喪主の座に。 その葬儀の後、山本明日美宛てに届いた宅配便、差出人は須賀庸一と記されていた。 その中身は 400枚にも及ぶ原稿用紙。そしてそこに書かれていたのは、須賀庸一と弟・堅次という2人の驚くべき物語だった。 須賀庸一の私小説(主人公は菅洋市)、執筆していたのは庸一ではなく堅次だったのか。半世紀も前に自殺したと伝えられていた須賀堅次は、実は生きていたのか・・・。 小説と言えば虚構のもの。一方、私小説と言えば、それは事実を土台にした虚構。 しかし、もし虚構と事実の順番が逆だったら・・・・・、恐ろしいことを考え付いたものだなぁと思いますよ、ホント。 自分が作ったシナリオどおりに人間を操る、それはもう神あるいは悪魔の仕業に他なりません。 最後の一文に戦慄。悪の連鎖は断ち切れないのでしょうか。 序幕/1.虹の骨/2.最北端/3.無響室より/4.深海の巣/5.巡礼/終幕 |
2. | |
「生者のポエトリー」 ★★☆ |
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生きていれば苦しい状況に置かれること、停滞を自覚することも多々あると思います。 でも、言葉(詩)を口にすることができれば大丈夫。勇気をもって前に足を踏み出すことができる筈、という連作ストーリィ。 言葉はとても大切なものだと思います。 自分の思いを誰かに伝えるものでもあり、自分という存在を主張するものでもありますから。 流暢に言葉を出すことができなくても、詩を綴り、それを読み上げることも一つの方法でしょう。 本作はそうした主人公たちを描く連作ストーリィ。 心の中に溜まっていた想いを詩の朗読という形で吐き出し、これを機に前に向かって進もうとする主人公たちの姿には、熱い心の底から湧きだす声を感じます。 是非、お薦め。 ・「テレパスくそくらえ」:子どもの頃から言葉を発することができない佐藤悠平・25歳。でも思いがない訳ではない。 ・「夜更けのラテ欄」:同じ大学生の恋人は自分勝手のうえ、千紗子を見下げ、千紗子が書き溜めていた詩を馬鹿にする風。 ・「最初から行き止まりだった」:拓斗・25歳、強盗致傷罪で実刑4年、仮釈放中。自分の為に選んだ道は、路上ライブ。 ・「幻の月」:山田公伸・72歳、妻が4年前死去して以来一人暮らし。妻が遺した朗読ノートを見つけ・・・。 ・「あしたになったら」:日本語ができない外国人児童相手の学習指導員をしている林田聡美、伊藤ジュリアというブラジルから来た少女に出会い・・・。 ・「街角の詩」:市の文化事業<街角の詩>のため、録音された詩の書き起こしをしている嘱託職員の押本勇也・25歳、上司から突然に事業計画の中止を伝えられるのですが・・・。 テレパスくそくらえ/夜更けのラテ欄/最初から行き止まりだった/幻の月/あしたになったら/街角の詩 |