石田衣良
(いしだ・いら)作品のページ No.1


1960年東京生、成蹊大学卒。広告制作会社勤務を経て、コピーライターとして活躍。97年「池袋ウエストゲートパーク」にてオール読物推理小説新人賞を受賞して作家デビュー。2003年「4TEEN」にて 第129回直木賞、06年「眠れぬ真珠」にて第13回島清恋愛文学賞、13年「北斗−ある殺人者の回心−」にて第8回中央公論文芸賞を受賞。


1.池袋ウエストゲートパーク

2.うつくしい子ども

3.エンジェル

4.少年計数機−池袋ウエストゲートパーク2−

5.赤・黒−池袋ウエストゲートパーク外伝−

6.娼年

7.波のうえの魔術師

8.スローグッドバイ

9.骨音−池袋ウエストゲートパーク3−

10.4TEEN


LAST、電子の星、1ポンドの悲しみ、約束、反自殺クラブ、東京DOLL、てのひらの迷路、ぼくとひかりと園庭で、眠れぬ真珠、灰色のピーターパン

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6TEEN

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1.

●「池袋ウエストゲートパーク」● ★★☆   オール読物推理小説新人賞

 

 

1998年09月
文芸春秋刊

(1619円+税)

2001年07月
文春文庫化

 

2003/07/03

まさかこんなにも面白い作品であるとは、思っても見ませんでした。今まで読もうとしなかったことを、すぐ後悔した作品。そう感じた作品は、随分と久し振りです。

小説の舞台は東京の池袋、というのはとても珍しい。私自身、学生時代はしきりと池袋中心に出歩くことが多かっただけに、嬉しくもありまた懐かしくもあり。
主体となって登場するのは、真面目な学生生活からはちょっとスポイルしたような少年、少女たち。そんな彼らの間に起きる事件は、売春や殺人であったり、仲間数人による常習的レイプ、麻薬売買、池袋を根城とする2グループ間の抗争であったりと、現代の若者像を色濃く映し出しています。
そんな中で、主人公である真島誠がとても格好良い。どのグループにも属さないけれど、その行動力と洞察力を評価されて一目置かれているという存在。そのマコトが単独で、あるいはチームを募って、警察の手を借りず自分達で事件を解決していくというストーリィです。
シャープかつスリリング、そのうえエキサイティングな青春ストーリィ4篇。そのマコトの何よりの魅力は、池袋という街を愛している、だからこその行動、奮闘であるという点でしょう。
是非お薦めする作品です。

池袋ウエストゲートパーク/エキサイタブルボーイ/オアシスの恋人/サンシャイン通り内戦

      

2.

●「うつくしい子ども」● ★★☆

 

 

1999年05月
文芸春秋刊

(1524円+税)

2001年12月
文春文庫化

2006年03月
徳間文庫

 
2003/07/23

小学生の女の子の殺人事件。犯人は、なんと13歳の弟だった。
その時から、穏やかだった生活は崩壊し、主人公である14歳の兄と妹も、世間やマスコミからもみくちゃにされます。しかし、そんな中で、主人公は自分自身を見失うまいとする。
何やら重松清作品を読んでいるような錯覚に襲われます。しかし、そこからの展開が違います。

本作品は中学生の物語です。彼の両親や、教師や、新聞記者等も登場しますが、彼らは外周にいる人物に過ぎません。
特に優秀でもなく、“ジャガ”と渾名されるあばた面の少年が、世間からの批難を決然と受け止め、たった一人で行動を起こそうとします。自分の力で事件を解き明かそうとする辺り、池袋ウエストゲートパークに通じるものがあります。
また、中学生であってもその力を信じたい。本書にはそんな石田さんの期待が篭められていると感じます。
そして、彼を応援する同級生3人もいます。その3人とて彼らなりの悩みを抱えている点、主人公に変わりありません。勇気、そして友情、そこは4TEENに通じるものがあります。
その点で、本作品はいかにも石田さんらしい。また、石田さんの原点となる作品のひとつと言って良いでしょう。
読み出したら止まらず、一気に読み上げました。感動と衝撃のふたつあり。
石田衣良作品を読んでいくに当たって、欠かせない作品だと思います。お薦め。

         

3.

●「エンジェル」● 

 

 

1999年11月
集英社刊

(1600円+税)

2002年08月
集英社文庫化

 

2003/07/26

殺されて幽霊として甦った主人公が最初に目撃したのは、自分の身体が山中に埋められる現場。
それからフラッシュバックのように、出生時からの思い出が回想されていきますが、直近2年間の記憶だけが戻りません。
父親からの手切金を基に一人で投資会社をやっていた主人公が殺されるまでに、何があったのか。

ストーリィは、幽霊としての生活に慣れる一方で、自分が殺さた真相を探るという、ミステリ風ファンタジー。
幽霊等をモチーフにした作品は、森絵都「カラフル等何作か読んでいますが、大抵は再生の物語。それらと違い、ミステリが基調になっているところが、石田衣良作品らしいところです。
事件の真相が判明していく一方で、主人公の子を身篭った愛する女性にも危険が迫ります。
恋人を守るため、焦燥感にかられつつ、幽霊として限界ある能力の全てを尽くして闘いを挑む場面には、石田さんらしいスピード感と躍動感があって読み応えがあります。
とは言いながら、ファンタジー小説の故か、他の作品のようなキレのある手応えが感じられません。したがって、評価はひとつ低くなりました。

プロローグ/フラッシュバック/今へ帰る/天使の攻撃/エピローグ

  

4.

●「少年計数機−池袋ウエストゲートパークU−」● ★☆

 

 

2000年06月
文芸春秋刊

(1619円+税)

2002年05月
文春文庫化

 
2003/07/12

池袋ウェストゲートパークの続編で、同じく真島誠を主人公とした連作短篇集。
「池袋ウエスト」には、池袋に集う若者群像、主人公マコトが愛する池袋というストリート、という視点に魅力がありましたが、本書でそれらはすっかり薄れてしまったようです。
図らずも「池袋ウエスト」で誕生した、マコトというトラブルシューター(解決屋)を主人公とするシリーズものサスペンス・ミステリ、すっかりそれに化けてしまったという印象です。

といっても、そこは池袋を舞台にした若者のストーリィらしく、風俗嬢も出てくれば、ヤクザも、ストーカー、まともに考える事もできないまま犯行におよぶ若者たちも登場します。
本書におけるマコトは、トラブルシューター兼ストリートマガジンのコラムニスト。キング・タカシも勿論登場。
登場人物で忘れ難いのは、やはり表題作「少年計数機」ヒロキです。常に計数機をカチカチさせ、数でしかものを考えることのできない小学生。結末では、彼が抱える切なさに少し胸打たれます。
最後の「水の中の目」は、本書頁数の半分を占める中篇作。それだけにじっくり構えたスリリングさがあり、読み応え充分です。

妖精の庭/少年計数機/銀十字/水のなかの目

    

5.

●「赤・黒(ルージュ・ノワール)−池袋ウエストゲートパーク外伝−」● ★☆

 

 
2001年02月
徳間書店刊

(1600円+税)

2004年02月
徳間文庫化

2006年01月
文春文庫

  
2003/09/27

本書主人公は、マコトではなく、売れない映像作家の小峰渉。しかし、徒手空拳で奮闘する雰囲気、IWGPでお馴染みのサルこと斉藤富士男、池袋のキングも登場することから、「外伝」という副題が納得できます。

賭博で借金を積み上げた小峰が誘い込まれたのは、池袋のカジノ売上金の強奪計画。一旦成功したかにみえた犯行は、思わぬ展開となり、小峰はカジノ経営の暴力団・氷高組に捕われます。窮地に陥った小峰は氷高組長に交渉し、売上金の奪回を約束します。本書は、そこから本格展開する、事件解明というサスペンスに、犯人一味から掛け金を根こそぎ掻っ攫うという大博打(ルーレット)を仕掛けるサスペンス、2つを重ね合わせたストーリィ。
氷高組長から監視役につけられたのが、サルこと斉藤富士男。監視といいつつ、結構相性の良いコンビとして2人が活躍します。

主人公の愚かさから始まるストーリィだけに、もうひとつ没頭できないものがありますが、主人公と氷高組長の駆け引き、小峰の怒りと誇りを賭けた最後の逆転劇と、面白さはあります。
本書中好感を覚えるのは、主人公たち愚かな男を健気に支えようとする恋人・秋野香月とフィリピーナ・アグネスの2人。
それなりに楽しめる、犯罪サスペンスです。

        

6.

●「娼 年」● ★★

  

  

2001年07月
集英社刊

2004年05月
集英社文庫

(400円+税)

 

2005/01/16

石田衣良作品の中では、ずっと未読になっていた作品。
題名からちょっと引いてしまったこともありますが、図書館の諸蔵本になかったという理由も大きい。文庫を図書館で見つけて、すっと手が出ました。その結果は正解。

ストーリィは、女性にも大学生活にも退屈してバーテンダーのバイトで毎日を過ごしていたリョウが、スカウトされて「娼夫」の仕事に入り込んでいくひと夏を描いたもの。
ホスト稼業の友人に連れられてリョウの前に現れたのは、御堂静香という女性。その静香は、女性相手に若い青年を斡旋する秘密クラブのオーナーだった。静香にスカウトされたリョウは、退屈しのぎ、“情熱”探しの目的で「娼夫」の世界に入り込んでいきます。
端的に言えば売春であり、官能的、退廃的なストーリィかと思ってしまいますが、そこは石田衣良さんだけにだいぶ違う。
むしろ爽快で、鮮烈な印象を受ける作品です。肯定的な姿勢がそこにあるからでしょう。
まず、買う側の女性たちを優しく描いている点が挙げられます。歳を増すに連れ人の性的快楽は広がっていくものであり、それを楽しみたいと思うのは悪いことではない、ということ。
リョウの仕事は相手に歓びと充実感を与えるものであり、金銭が問題なのではない、ということ。その点で、リョウには歓びの探訪者という面影があります。
本書に登場する女性たち、リョウから見た一人一人が魅力的なのも好い。
そして最後にリョウは、仕事を続けるか、止めて普通の世界へ戻るかの決断を迫られます。
リョウがどう決断を下すか、それも見所です。

※文庫本の解説は姫野カオルコさん。この解説もいい。

           

7.

●「波のうえの魔術師」● 


  

2001年08月
文芸春秋刊

(1333円+税)

2003年09月
文春文庫化

2007年02月
徳間文庫化

2003/08/31

二流大学を卒業したものの、就職もせず、パチンコで生活費を稼ぎ出している白戸則道が主人公。
そんな白戸に、自分の仕事を手伝って欲しいと声をかけてきた老人がいる。東京下町の町屋に住む相場師・小塚泰造
高額な報酬により引き受けた白戸は、その時から経済、株式、相場というマーケットの世界に取り込まれることになります。

ちょうど、銀行による変額保険融資が社会問題になる一方、長銀が破綻が目前に迫り、銀行業界が大きく揺れていた時期。本ストーリィが、そうした銀行業界に目をつけたストーリィであることは間違いありません。それと同時に、ダイナミックな相場という世界を垣間見せるストーリィ。
その世界でそれなりの地位を築いた老相場師が、白戸を助手にどんなダイナミックな勝負に挑むのかと期待しました。ところが、要は、大銀行の一角であるまつば銀行に対する、個人的な恨みに発した復讐計画。
スケールが小さくなって、期待感がしぼんだと言わざるを得ません。まぁ、それなりの経済犯罪ストーリィではありますが。

  

8.

●「スローグッドバイ」● ★★

  

  

2002年05月
集英社刊

(1500円+税)

2005年05月
集英社文庫化

  

2003/07/24

ごく短い、10篇のラブ・ストーリィ。いずれも恋人たちのひとコマを切り出したようなストーリィです。
こうしたショート・ストーリィ、ましてラブ・ストーリィとなれば、私の好みです。かつて愛読した本はというと、片岡義男さんの短篇集。ただ、片岡作品はシャレてい過ぎ、私とは全くかけ離れた世界でのラブ・ストーリィといった観がありした。その点、本書ストーリィは、ちょっと隣の出来事のような、親しみが感じられます。そのうえ小気味良く、ウキウキと楽しくなってくるような、快さがあります。
石田さん自身、「あとがき」にて「書いていて、ひどく楽しかった」と言っていますが、作者が楽しければ読者だって読んで楽しいのは当然のことでしょう。

冒頭の「泣かない」で、まずグッと惹きつけられます。ただものではないゾ、といった感触、魅力あり。
10篇の中で特に私が好きなのは、「You look good to me」 「フリフリ」「真珠のコップ」「ローマンホリデイ」の4篇。いずれも、男女のどちらか一方に、恋愛に自信なさそうな様子が窺えるストーリィ。相手の優しさとの微妙なブレンドに、魅せられます。
また、表題作の「スローグッドバイ」は、振り出しに戻るという風で、鮮やかな終幕。
ミステリ、中学生ものにとどまらず、石田さんがなかなかのストーリィ・テラーであることは、本書でも明らかです。
ラブ・ストーリィ好きの方には、お薦めしたい一冊。

泣かない/十五分/You look good to me/フリフリ/真珠のコップ/夢のキャッチャー/ローマンホリデイ/ハートレス/線のよろこび/スローグッドバイ

          

9.

●「骨 音−池袋ウエストゲートパークV−」● ★☆

  

  

2002年10月
文芸春秋刊

(1619円+税)

2004年09月
文春文庫化

 
2003/08/21

池袋ウェストゲートパークの第3作目。
主人公マコトをはじめ、Gボーイズのキング・タカシ等、主要な登場人物はこれまでと変わらず。しかし、前2作と比べるとパワーダウンした印象が拭えません。池袋を舞台に、若者の新しい流行等を追っている趣向は変わらないものの、新しい展開が感じられないためでしょうか、マンネリ化は否めません。
それでも、ストリート探偵を主人公とするシリーズもの、と単純に割り切ってしまえば、依然としてそれなりの面白さがあるのは事実です。ただ、従来どおり面白いストーリィとマンネリ化したストーリィ、その差が大きくなっているように感じます。

表題作の「骨音」「キミドリの神様」の2篇は今ひとつ。
それに対し、「西一番街テイクアウト」は秀逸です。サンシャインで知り合った11歳の女の子・桜田香緒と、その母親・ヒロコの造形がお見事。ヒロコは、池袋の街で自由に生きていたいと言う、連れ出しパブのホステス。香穂とヒロコの2人を守るため、何とマコトの母親まで活躍。そして、マコトがタカシサルの協力を得て新興ヤクザとついに対決する場面は、圧巻です。
また、「西口ミッドサマー狂乱」は中篇と言うにふさわしい篇。それなりの読み応えがあります。

骨音/西一番街テイクアウト/キミドリの神様/西口ミッドサマー狂乱

   

10.

●「4TEEN(フォーティーン)」● ★★★     直木賞

 

 

2003年05月
新潮社刊

(1400円+税)

2005年12月
新潮文庫化

 

2003/06/16

東京の月島に住む、14歳の中学生4人組の、ちょっと早熟な青春ストーリィ、8篇。
中学生とはいえ、そこにはいろいろな物語があり、決して現実と無縁ではありません。仲間の一人は、早期老化症候群を患っているし、同級生には過食症の女子生徒、あるいは同性愛の男子生徒がいます。
それでも彼等は明るく、他者への思いやりを持っています。それは、彼らが未来への可能性をしっかり持っているからこそ、と言えるでしょう。
現代の中学生ですから、セックスへの関心も、実際にその興味を行動に移すこと、親に内緒で冒険をするという行動力も十二分に備えています。
決して悪びれていないから、4人の友情がしっかりまとまっているから、8つのストーリィはとても瑞々しく、爽やかです。
大人の視点から中学生を描くのではなく、中学生の視点で描いたストーリィであることが、本作品の素晴らしさでしょう。

※なお、最後の「十五歳への旅」は、本書を締めくくる為のストーリィと言って良いでしょう。都心近くに住む中学生だからこその冒険物語。東京人の一人として、東京こそが故郷、という思いを新たにするストーリィでもあります。

びっくりプレゼント/月の草/飛ぶ少年/十四歳の情事/大華火の夜に/ぼくたちがセックスについて話すこと/空色の自転車/十五歳への旅

       

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