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1.胸いっぱいの愛を(文庫改題:ヒット・エンド・ラン) 2.湘南シェアハウス 3.シャッター通りに陽が昇る |
●「胸いっぱいの愛を whole lotta love」● ★★ (文庫改題:ヒット・エンド・ラン) |
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2018年08月
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梶尾真治のSFロマン「この胸いっぱいの愛を」と題名が良く似ていて「この」の有無だけの違いですが、ストーリィ趣向は全く別のもの。ただし、題名は同じくロックバンド=レッドツェッペリンの曲名からのようです。 時代は1976年、場所は瀬戸内海を臨む香川県丸亀市。 まさに高校青春時代を謳歌しているという風なのですが、ぎりぎり、かつかつしたところがなく、のほほんとしているところが良いんですよね。 ※私だけの個人的な思いかもしれませんが、四国というのは高校青春ストーリィのメッカなのでしょうか? |
「湘南シェアハウス」 ★★☆ | |
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30代から70代まで、それぞれの年代が揃っての女性5人が、江ノ島にある古いアパートをリフォームしてシェアハウスにし、同居生活を始めるというストーリィ。 会社員兼小説家の上沢夏都(なつ)49歳。両親が相次いで死去した結果、夏都が祖母から受け継いだのは、江ノ島にある古い一軒家&古いアパート。 夏都の担当編集者であり友人でもある鷹野紀代子59歳が、さっそくシェアハウスにして一緒に住もうと提案し、そこから偶然出会った人も仲間に参加して、女性5人のシェアハウス暮らしがスタートします。 他のメンバーはと言うと、女子大准教授の栗田真代45歳、アロマストレッチ講師の北尾アリサ30代、専業主婦の田所史子75歳という面々 シェアハウス暮らしに積極的に参加したからには、各人それぞれ訳有りの事情がある訳で、現在どちらかというとひとりぼっち、これから後の暮らしを考えると暗い気持ちになる、といったような状況。 それがシェアハウス暮らしを始めると皆が次第に生き生きとしてくるのですから、その様子が気持ち良い。 必要なのは自分を応援してくれる人が傍にいてくれること、なのでしょうか。 5人の内の一人が言う通り、「遠くの肉親より近くの他人」という言葉が得心できるストーリィです。 本作品も、30代以降の女性読者にお薦め。 ※それにしても定年退職後の男性は形無しですねぇ。私も用心しないと。 |
「シャッター通りに陽が昇る」 ★★ | |
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主人公の藤木英里子は39歳、3歳年下の恋人を若い女子社員に寝取られ、彼女が妊娠したからと恋人から別れを告げられます。折りも折り、実家の父親が入院したとの知らせを母親から受けた英里子は会社を退職し、故郷である四国の“さぬき亀山市”に帰ろうと決断します。 かつて賑やかだった商店街も今はすっかりシャッター通り。実家の“藤木フルーツ”は贈答向けの商売で頑張ってきましたが、父親が退院する当てもない今の状況では、廃業も止む無しというところ。 しかし、地元に戻って歩き回り、いろいろな人々に出会い語り合う内、英里子の胸の中に地元商店街に何とか昔の賑わい、元気を取り戻したい、という気持ちが湧き起ってきます。 本書は、東京での会社勤めを辞めて故郷に戻ってきたアラフォー女性による、気持のよい町おこし&人生再スタートストーリィ。 町おこしあるいは村おこしストーリィ、今や決して少なくありません。 でも多くは、強力なエンジン役となる登場人物がぐいぐいと大勢を引っ張っていき、一気に活気をもたらすというパターンが多いのですが、本作品はその点がちと違う。 故郷に戻ってきた英里子、まずあちこち歩き回ります。何故寂れて行ったのか、何故そうした状況が少しも改善されないのか、商店街の住人たちはどう考えているのか、外部からの協力はあるのか、等々。 この辺りの展開はすごく地味で、やや退屈する処でもあります。 しかし、ひょっとした拍子に英里子が地元民2人と“桃園の誓い(三国志)”を結んだところから、徐々に動きが見え始めます。 英里子が皆を引っ張っていく訳ではありません。英里子の活躍はほんのちょっとしたもの。でもその行動がスパイスとなり、刺激を受けた地元民たち間にうねりを呼び起こし、大きな町おこし行動へと繋がっていく、という展開。 ひとりひとりの胸の中に火がついたように、皆が元気になっていく様子がとても気持ち良いのです。 単純な事務仕事とはいえ、長年大会社に勤務してきた英里子の経験も人や物事を動かすことに役立ち、そのまま英里子の人生再スタートへと繋がっていきます。 アラフォー女性と地元民皆による気持ちの良い町おこしストーリィ、お薦めです。 ※本ストーリィの“亀山市”、勿論モデルは丸亀市でしょう。 |