|
21.神さまを待っている 22.若葉荘の暮らし 23.ヨルノヒカリ 24.世界のすべて |
【作家歴】、国道沿いのファミレス、夏のバスプール、海の見える街、南部芸能事務所、メリーランド、運転見合わせ中、ふたつの星とタイムマシン、夏のおわりのハル、春の嵐、みんなの秘密 |
感情8号線、オーディション、罪のあとさき、タイムマシンでは行けない明日、家と庭、コンビ、消えない月、シネマコンプレックス、大人になったら、水槽の中 |
「神さまを待っている」 ★★ | |
2021年10月
|
作家デビューするまでアルバイト生活だったという畑野さんの実体験を元にした、貧困女子の過酷な現実をリアルに描き出した長編。 主人公の水越愛は4年制大学を卒業したものの就職できず、派遣社員として働きながら正社員への登用に期待を抱いていた。 しかし、3年という期限を目の前にして派遣切りに遭い、失業手当を受給しながら職を探していたが、ついに見つからず、アパートの家賃ももはや払えずとなって、ホームレスの道を選ぶ。 愛を邪魔者扱いするだけだった父親を頼りにできず、高校以来の友人で現在は公務員である雨宮には頼っちゃいけない、と覚悟してのこと。 漫画喫茶に寝泊まりし、日雇いバイト、漫画喫茶仲間のマユに紹介されて<出会い喫茶>にも。 しかし、決して<ワリキリ>はしないと決めていても、リピーターたちが望むのは所詮セックス。 そんな中で愛は、同じように貧困、ホームレスといった状況に喘ぎつつも何とか生きている、2人の子持ち女性=サチ、やむない事情から家を出た十代の少女=ナギとも出会う。 一旦そんな状態に落ち込んでしまうと、どう足掻いてもそこから抜け出すのは至難のこと、何が良いか悪いかという判断力さえ壊されていく・・・。 金がない、正当に働いて収入を得る道を閉ざされる、居場所を失う、頼れる相手がいない・・・それはどんなに苦しく、恐ろしいことか。 そして、生活保護等の福祉制度があるのに、それに頼ってはいけないと思い込んでいることが、さらに彼女たちを追い詰める。 本作はフィクションですけれど、ノンフィクション並みのリアルさと社会への警鐘を含んでいます。 決して他人事ではない、徐々に広がりつつある現実である、と私は受け留めました。 題名の「神さま」とは、彼女たちを今の窮地から救ってくれる存在のこと。しかし、誰を「神さま」と思うかはその人によってそれぞれ、その事実も余りに切ない・・・。 |
「若葉荘の暮らし」 ★★ | |
|
主人公の望月ミチルは40歳、独身、一人暮らし。 バイト勤務先の洋食店<アネモネ>は感染症の影響で時短を余儀なくされ、時間給であるミチルの収入も必然的に減少。 これまでのような家賃は払えないと、友人の紹介で移り住んだのが<若葉荘>。 トイレ・風呂は共同、部屋に鍵もかからないといった古い木造家屋で当初は大丈夫かと心配したものの、そこは意外と居心地の良い場所だった。 その若葉荘は、40歳以上独身女性限定のシェアハウス。 同居人は、大家兼管理人のトキ子(年齢不詳)、真弓(50代半ばのキャリアウーマン)、美佐子(50代後半、薬局勤め)、千波(43歳、元人気作家)、幸子(40歳、介護関係)という面々。 近過ぎず、遠過ぎず、という絶妙の関係。 それでも将来の生活を考えると、ミチルの悩みは尽きない。 そしてこの若葉荘で暮らす内、大家のトキ子を始め、それぞれ皆過去に苦しみ、傷つき、そしてこの若葉荘に至ったことを知ることになります。 その時代故の偏見、家を出ようとすれば結婚するしか道がなかった時代、総合職の時代、それぞれの時代で女性たちは悩み、傷つけられてきたことが語られます。 そしてそれは、長く派遣社員、現在はバイトにしか過ぎないミチルにとっても他人事ではないこと。 そうした経緯からすると、若葉荘は女性たちにとって避難場所という印象を受けますが、決してそうではない。 もう一度外に向かって踏み出すまでの休息場所、そしてミチルにとっては新しい出発の場所になっている処が素晴らしい。 長い道のりがあって、最後に至ってようやく、しみじみ良いなぁと感じられるに至る展開がお見事! どれも大きな社会問題であると同時に、誰にでも繋がる身近な問題であることを認識させられます。 読み終えて、新しい生き方、人生の光あるいは扉が見えて来た気がします。お薦めです。 |
「ヨルノヒカリ」 ★★☆ | |
|
恋愛感情が分からないという糸谷木綿子(35歳)と、家族というものを知らない夜野光(28歳)の出会いから、お互いに心を開き、大事な家族らしい関係に至るまでの9ヶ月間を描いたストーリィ。 夜野光、シングルマザーだった母親は中学を卒業した頃、家を出ていったまま、7年後にその死去を知る。 その光、普通の家族の暮らしをしたことがない。 一方の糸谷木綿子、祖父母の店「いとや手芸用品店」を継承。 恋愛感情が分からず、恋をしたことがない。男性に身体を触られること自体が気持ち悪くてしかたない。 木綿子が一人で暮らしていた店舗兼住宅に、光が住み込むようになると、周囲の人間は恋人関係なのか、いずれ結婚するのかと憶測するようになります。 しかし、当の二人にそんな思いはないものの、相手を大事にしたいという思いは増していく。 今や、生き方も、夫婦・家族の在り方も多様であって良い筈。 しかし、木綿子も光、いずれも自分は普通ではないと思うから、気持ちを相手に打ち明けることができない。 そんな二人が手を携えるまでに至るまで、どんな紆余曲折があるのでしょうか。 二人の思いがとても切ない。普通ではないと思いは、孤独感に通じるものですから。 しかし、孤独な境遇と言うしかない光にも、彼を気遣ってくれる人たちはいるのです。アパート隣室のじいちゃんや、小学校時代からの友人である成瀬の一家。彼はある点で、幸せでもあったのです。 ひとつひとつの文章、ひとつひとつの進展が、何と切なく、何と胸いっぱいになることか。 他人が二人をどう思い、勝手な憶測をし、どう勘繰ろうといいじゃないですか。 大切なのは、自分たちが納得して、幸せになれると思う関係が築けるか、幸せになれるかどうかでしょう。 そんな二人に、また多様な生き方をさぐる多くの人たちに、心からエールを送ります。 新たな生き方を探る感動作。 是非、お薦め! |
「世界のすべて」 ★★ | |
|
主人公の鳴海優輝(28歳)は、5年間勤めた大手家電メーカーを退職し、今は街の小さな喫茶店<ブルー>でアルバイト店員をしている。 会社勤務の間、ストレスが少しずつ積み重なり、このままずっと我慢してくのは無理、と思ったから。 店主の蒼井啓介は、気さくでいろいろ配慮もしてくれる人柄。そのため、優輝にとっても<ブルー>は極めて居心地の良い働き場所。 そしてそれは、優輝だけでなく、店の客たちにとっても同様だったらしい。客の中には、秘密を抱えている人たちもいた。 デザイナーの北村、高校二年生のヒナちゃん・・・。 そしてまた、優輝もある秘密をずっと抱えてきた。さらに、店主の啓介、その妻である絵梨もまた同様であることが、次第に明らかになっていく・・・。 セクシュアリティの多様さ、誰にも言えない秘密として抱える悩み、苦しさを描いたストーリー。 LGBTQは既に聞き慣れた言葉ですが、世の中にはもっと多様なセキュリティがあることに驚かされます。 同時に、今の日本ではそれを明らかにしにくい、生き辛いだろうなぁということを感じさせられます。 優輝、今はいなくても前に恋人がいたこともあったんだろうと、とかく決めつけるように言われることに反発していますが、それは優輝でなくても同様でしょう。 恋愛、恋人についていろいろ言われることは本人として不愉快でしょうし、冗談ごとにしろ女性を性の道具のように見る発言も不愉快であることは勿論のことです。 その点、優輝と高校の同級生である瀬川つぐみとの関係には、安らぎが感じられて気持ち良い。 日本もまた、多様性を受け入れられる社会になって欲しい、心からそう思います。そのうえで、本書はいろいろ考えさせてくれる作品になっています。畑野さんには、その点で感謝です。 ※アセクシュアル、ポリアモリー、デミロマンティック、本作で初めて知る言葉もありました。 (※ポリアモリーは、辻堂ゆめ「ダブルマザー」でも登場) |
畑野智美作品のページ No.1 へ 畑野智美作品のページ No.2 へ