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21.山ぎは少し明かりて 22.二人目の私が夜歩く 23.ダブルマザー |
【作家歴】、いなくなった私へ、コーイチは高く飛んだ、あなたのいない記憶、悪女の品格、僕と彼女の左手、片想い探偵追掛日菜子、今死ぬ夢を見ましたか、お騒がせロボット営業部!、君の想い出をくださいと天使は言った、卒業タイムリミット |
ヒマワリ高校初恋部!、あの日の交換日記、またもや片想い探偵追掛日菜子、十の輪をくぐる、ようこそ来世喫茶店へ、トリカゴ、二重らせんのスイッチ、君といた日の続き、答えは市役所3階に、サクラサクサクラチル |
「山ぎは少し明かりて」 ★★ | |
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生まれ育った故郷がダムの水の下に沈むという悲哀を、三代(祖母・母・孫)に亘って描いた長大なストーリィ。 ダムに沈む村という話は昔、高校生の頃に石川達三「日陰の村」で読みました。悲惨で陰鬱な印象が残っている同作ですが、本作の印象は決して暗くなく、むしろ全体としては明るい。 まずは第一章で、現在のダム湖しか知らない大学生の孫=都を主人公にしているからでしょう。 ・「雨など降るも」:主人公は石井都、大学生。 実家で引きこもっていた都は、千曲川氾濫のニュースを見て、実家が流域でリンゴ農家をしているという恋人=韮沢竜太のことが心配になり、衝動的に家を飛び出し、竜太の元へ向かいます。 そこで知ったのは、竜太の故郷に対する強い想い。 ・「夕日のさして山の端」:主人公は都の母、石井雅枝。 ダム建設による立ち退き補償金により大きな家を建てたものの、残ったものは両親との確執という苦い記憶だけ。地元企業に勤め続け現在は営業部長、定年退職を目前にしている。 ・「山ぎは少し明かりて」:主人公は雅枝の母、瀬川佳代。 共に瑞ノ瀬で生まれ育った夫の孝光と共に、最後までダム建設反対運動を繰り広げ、最後は・・・。 ダム建設によって故郷が沈むという悲哀は、経済成長時代の日本にあって全国あちこちで起きていたことだろうと思います。 その是非、本当に必要なものだったのか、立ち退いた人々のその後の生活はどうだったのか、等々の問題は本ストーリィでも描かれています。 しかし、必要不可欠なものだったにせよ、自分の生まれ育った豊かな土地が、まるで無用なものとしてダム湖の底に沈められてしまうという悲哀は、厳然たる事実として消せるものではなかったのだろうと思います。 ※なお、辻堂さんらしく、ミステリ的な出来事が二つ。一つは、孝光失踪の謎。そしてもう一つは、都に向けてふと雅枝が漏らした言葉の謎。ちょっとした刺激材料になっています。 プロローグ/1.雨など降るも/2.夕日のさして山の端/3.山ぎは少し明かりて/エピローグ |
「二人目の私が夜歩く」 ★★ | |
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辻堂さんらしい、ファンタジーとは行かないまでも不思議なストーリー設定+ミステリ。 その背後には、登場人物たちの心の優しさがあるから、気持ち良い。辻堂作品を私が好きな理由はそこにあります。 「昼」の主人公は、高三の鈴木茜。小一の時に両親が交通事故死し、祖父母と暮らす。その事故がトラウマで睡眠障害。 その茜が、ボランティア活動をしている祖母の友人に誘われて知り合ったのが、厚浦咲子(29歳)。10代後半の時に交通事故に巻き込まれて脊髄を損傷し、首から下が不随、自発呼吸もできないという状況にある女性。 咲子を慕うようになった茜は、少しの間だけでも身体を入れ替わってあげたいと願う。 それ以来、夜、知らない間に自分が外を動き回っていることを、茜は祖父母から知らされます。 そして机の上のノートに、「わたしはサキ」という記載が。 そして「夜」は、茜を主人公とした「昼」の物語から一転し、咲子、サキを主人公とした、その裏側にある物語。 そこでは、茜が思っているのとは全く違った咲子が姿を現し、茜と咲子を結ぶミステリの謎が解き明かされて行きます。 着想の面白さ、そして茜の純粋さ、それに対する咲子の二面性。 ストーリーは面白く、興味深く、そして嫌味がない。 茜の性格設定のおかげか、読了後はすっきりとした気持ち良いものです。 このまま茜が、素直な心のまま成長していって欲しいと、願う気持ちになります。 プロローグ/1.昼のはなし/2.夜のはなし/エピローグ |
「ダブルマザー」 ★☆ | |
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電車に飛び込んで轢死した若い女性。 警察から連絡を受けた馬淵晴子は、娘の鈴(21歳)が死んだと知らされ、涙にくれます。 しかし何故か鈴のバッグの中に、柳島詩音(21歳)という女性の学生証が。 連絡をするとすぐやってきたその母親である由里枝は、鈴の写真を見た途端、これは娘の詩音だと主張する。 そこで初めて気づいたことは、2年前にした整形手術を含め、二人の母親とも、最近の娘について殆ど何も知らないということ。 飛び込み自殺した女性は果たして、鈴なのか、詩音なのか? そこから、二人の母親による事実究明が始まります。 デビュー作を含む、如何にも辻堂さんらしいストーリー。 ただ、そうした中では、本作は割と分かりやすい。 中盤で仕掛けの中身については気づきましたが、その後にどういう展開へ持っていくのだろうか、と興味を感じました。 娘たちの思いがけない、そして刹那的な抵抗という処に面白味も感じますが、その一方、死んだ女性に対する言葉の心無さという点が胸に引っかかります。 残念ながら、結末について、後味の悪さを感じざるを得ず。 1.母ふたり娘(こ)ひとり/2.娘の心母(おや)知らず/3.母と娘と山と水/4.不均衡母娘(おやこ) |
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