芦沢 央(よう)作品のページ Mo.1


1984年東京都生、千葉大学文学部卒。出版社勤務を経て。2012年「罪の余白」にて第3回野性時代フロンティア文学賞を受賞し作家デビュー。18年「火のないところに煙は」にて第7回静岡書店大賞を受賞。


1.罪の余白

2.今だけのあの子

3.許されようとは思いません


4.雨利終活写真館

5.獏の耳たぶ


6.バック・ステージ

7.火のないところに煙は

8.カインは言わなかった

9.僕の神さま

10.汚れた手をそこで拭かない

神の悪手、夜の道標

 → 芦沢央作品のページ No.2

 


                      

1.
「罪の余白 ★★          野生時代フロンティア文学賞


罪の余白

2012年08月
角川書店刊

2015年04月
角川文庫

(600円+税)



2016/09/05



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娘が8歳の時に妻は癌で死去。それ以来、一人娘の加奈だけを生き甲斐に生きてきた大学教員の安藤聡
しかし、その大事な娘が通っている高校で転落死するという突然の事態が安藤の身を襲います。絶望の淵に突き落とされた安藤が狂気のように求めたものは、加奈が遺した日記を見たい、加奈が死んだ理由を知りたい、というもの。
そしてある日、安藤が住むマンションを加奈の同級生であった一人の女生徒が訪ねてきたことがきっかけとなって、安藤の復讐の念が燃え上がります・・・・。

かけがえのない子供を遊び気分で殺された親による復讐、というと
湊かなえ「告白がまず思い出されます。
作品としての衝撃度は「告白」に及ばないものの、父親の安藤、そして加奈の死に関わりを持つ女生徒2人を追い詰めていく展開は、息の詰まるようなスリリングを覚えて圧倒されるばかり。
本作品の読み処は、まさにその部分にこそあると感じた次第です。

さて結末、そういう復讐の方法があるとは、かねてより思っていました。
でも、読了後心に残ったのは、サスペンス部分ではなく、自分の命を粗末にしてはいけない、粗末にすることは大事な人を悲しませることなのだというメッセージ部分です。

※なお、本作品では安藤聡の同僚である
小沢早苗の存在が独特の効果を発揮しています。人の感情を理解できないという欠陥を持つ故に唯一、唯物的視点を備えている登場人物。そんな早苗の存在が本ストーリィに厚みをもたらしています。

                  

2.

「今だけのあの子 ★★☆


今だけのあの子

2014年07月
東京創元社

(1500円+税)

2017年04月
創元推理文庫化



2017/05/06



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芦沢央さん、流石に上手い!
どれも日常ミステリに分類される内容ですが、アットホームなものでは決してない。どれも主人公の身に深く関わり、女性間の友情を問うミステリに仕上がっています。その意味では、かなりサスペンスフルなミステリ短篇集。

「届かない招待状」:親友の結婚式。大学仲間の内、何故自分だけ招待されなかったのか? 疑念を抱えたまま彩音の結婚式場に足を運ぶ・・・。
「帰らない理由」:車にはねられ事故死した中学生のくるみ。葬儀が済んだ後、くるみの親友であった瑛子と彼氏だった須山は亡きくるみの部屋に座り込み、相手より先に帰るまいとするように対峙している。いったい2人の意図は?
「答えない子ども」:ソウくんママの自宅を出た後、娘の恵莉奈が描いていた絵がなくなったと直香に告げる。ソウくんが絵を盗ったのか?
「願わない少女」:一緒に漫画家を目指していた仲間だったはずなのに、奈央悠子を部室に閉じ込める。一体2人の間に何があったのか・・・動機は嫉妬なのか?
「正しくない言葉」:有料老人ホームで暮らす澄江、隣室の孝子さんの嫁=麻実子さんがもう我慢できないと夫に訴えているのを漏れ聞いてしまう。姑嫁の間に一体何があったのか?

途中でふと、各篇の登場人物が他の篇の人物と何らかの関りを持っていることに気付きます。
相互にどう関係しているのか、整理して読み解くのは読み手に委ねられています。そんなミステリ趣向が本書の魅力をさらに高めていて嬉しい。お薦めです。


なお、5篇の中で特に秀逸なのは冒頭の
「届かない招待状」
そして「答えない子ども」に登場した
ソウくんママ、魅力あふれる人物像として特筆しておきたい。

届かない招待状/帰らない理由/答えない子ども/願わない少女/正しくない言葉

  

3.
「許されようとは思いません ★★☆


許されようとは思いません

2016年06月
新潮社
(1600円+税)

2019年06月
新潮文庫化



2016/07/16



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驚愕、そして鮮烈のミステリ5篇。
いずれも主役となるのは老若を問わずに女たち。
彼女たちにどんな深い思いがあったのか。そんな彼女たちのストーリィにどんどん引き込まれていき、その心の中を手探りしている末に、ようやく真相が明かされるという構成。
その凄さ、見事さには呆然とする思いです。しかし、結末では何とも言えない温かさが漂います。

「許されようとは思いません」:何故祖母は曾祖父を刺殺したのか。祖母の骨を墓に納めるため祖母が住んでいた村へ向かう孫と恋人の女性が、その動機に思い至ります。温かな余韻。
「目撃者はいなかった」:交通事故を目撃した若い会社員、自分のミスを隠すため証言を拒否するのですが、その結果はとんでもない事態に。会社員の気持ちも判るだけに恐ろしい。
「ありがとう、ばあば」:孫娘の杏のためとそのマネージャーに徹する祖母ですが、その結果・・・。いったい彼女は何という孫娘を育ててしまったのか。杏の笑みが凄絶。
「姉のように」:罪に問われた姉を意識し過ぎたのか、幼い娘を育てる主人公がどんどん追い込まれていく闇の穴が恐ろしい。彼女はどれだけ孤独だったことか・・・。
「絵の中の男」:幼い頃に目の前で両親と姉を殺された過去をもつ女性画家が主人公。どうにもならない宿命に翻弄された主人公の人生は何と過酷だったことか。

余韻の深さ、温かさにおいては表題作「許されようとは思いません」がお見事。
一方、展開の凄み、衝撃度においては「姉のように」が抜群。
いずれの篇もミステリを超え、深い余韻を残す逸品ばかり。
見逃したら勿体ないこと間違いなし。是非、お薦め!


許されようとは思いません/目撃者はいなかった/ありがとう、ばあば/姉のように/絵の中の男

                          

4.

「雨利終活写真館 ★☆


雨利終活写真館

2016年11月
小学館

(1600円+税)



2017/06/03



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日常ミステリの連作短篇集。
特徴は、その舞台が、遺影専門を宣伝文句にしている
雨利写真館であること。それ故に謎は常に遺影絡みになるというところにミステリの異例さがあるのですが、逆にその分、肝心の謎の広がりが制限されてしまい、芦沢さんにしてはもう一つインパクトを欠く、という印象。

主人公は29歳の
黒子ハナ。4年間交際してきた恋人から3ヶ月前にプロポーズされ、勤務していた表参道にある人気美容室を寿退職したばかり。それなのに今頃、恋人から既婚の身と告げられるとは。
さらに、祖母の死によるゴタゴタが加わり、祖母が遺影を撮った雨利写真館を訪ねるのですが・・・・。結局ハナはスタイリストとして雨利写真館に勤務することとなり、遺影に絡む幾つかの謎に向かい合うことになります。

「一つ目の遺言状」:祖母、遺言状で伯父と叔母には財産を遺したのに、何故ハナの母親には触れずじまいだったのか。クイズ好きの祖母にとって一番お気に入りだった筈なのに・・・。
「十二年目の家族写真」:ずっと疎遠になっていた祖父と息子と孫息子という3人。3人で写真を撮影したことがきっかけで、こじれた原因となった事実の謎が解ける・・・。
「三つ目の遺品」:妊娠中の母親と父親2人の記念写真。ふとその名前に目を留めた時、本当にそれは父親なのか、あるいは不倫相手なのでは、という疑問が生じる・・・。
「二枚目の遺影」:癌で余命僅かという依頼主。1回目は写真館に娘と来店して撮影。2回目は自宅で妻と一緒に撮って欲しいとの依頼。ただし、最初の撮影のことは内緒で、と。自宅で、依頼主の家族は妻と息子だけと知る・・・。

元恋人のこと、急逝した父親のこと、苦しい思いを抱え込んでいるハナ、その気持ちは最後に救われるのでしょうか。


一つ目の遺言状/十二年目の家族写真/三つ目の遺品/二枚目の遺影

             

5.

「獏の耳たぶ ★★☆


獏の耳たぶ

2017年04月
幻冬舎

(1700円+税)

2020年02月
幻冬舎文庫



2017/05/10



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生まれたばかりの赤ちゃんの取り違え。
聞いただけでもそれぞれの親、子供の心情を思うと痛ましい思いがこみ上げます。
本作は、その取り違え事件を扱ったもの。ただし、取り違えは病院のミスによるものではなく、一方の母親が自ら赤ちゃんの交換を行っていたものだった・・・・。

冒頭から余りに痛ましく、切ないストーリィ。
我が子を他の子と交換した
繭子の、そこにまで追い詰められた心情が痛ましい。そして、同じ日に出産した母親仲間として交流が生まれた相手の郁絵の胸に抱かれる我が子、今自分の腕の中にいる育てるべき子の両方を目にする繭子の不安と恐怖に震えおののく心情は、限りなく痛ましい。
全篇を覆う痛ましさに、冒頭からぐいぐいとストーリィに引きずりこまれ、頁を繰る手が止まりませんでした。

「何故?」という点ではミステリと言えますが、むしろサスペンスというべき内容。
推理小説の分類に例えれば、全てが暴かれるまでのサスペンスという点で“倒叙推理”型と言えるでしょう。

後半、取り違えが発覚した以降、ストーリィは
石田繭子の視点からではなく、平野郁恵の視点(主人公)から語られます。
繭子は責められて当然の人物ですが、私としてはとても責める気にはなれません。他の誰よりも辛い思いと恐れを抱えてきたのは繭子ですし、懸命に育児に尽くしてきた一人の母親であるという点では郁絵と何ら変わりないのですから。
当然ながら2人の子供、
航太璃空(りく)の存在も重要です。

なお、本ストーリィから距離を置いて眺めると、子育ての大変さを描いた作品とも思います。
初めての出産・子育てという不安。同じ初産と言っても保育士としての知識・経験があり、夫と親のサポートを期待できた郁絵に対し、夫は繭子の心情への理解が薄く、母親に頼れないという思いを抱えていた繭子の孤独さたるや・・・・。

読了後、そんな繭子への思いがいつまでも消えません。
是非お薦めしたい秀作です。

                     

6.

「バック・ステージ BACK STAGE ★★


バック・ステージ

2017年08月
角川書店

(1500円+税)

2019年09月
角川文庫



2017/09/21



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新入社員の玉ノ井愛美にパワハラ三昧の澤口を懲らしめるため、不正行為の証拠を手に入れようと暗躍しだした先輩社員の康子。何故かその康子に手伝えと引っ張り込まれた松尾が、序幕&終幕での主人公。
その挙句に2人が行き着いたのは中野大劇場。折しもそのホールでは人気演出家=嶋田ソウの舞台が今しも幕を開けようとしていた。
その舞台を中心軸に、円環小説の如く展開する5つの物語+α。
表題はもちろん、<舞台裏>という意味です。

「序幕」康子の変装ぶりにはもう唖然。何故そこまでしてと思うのですが、その伏線は後になってから明かされます。
「息子の親友」:小学生の息子が抱えた秘密は? 康子が図書館で声を掛けられた男の子(浩輝)の母親であるが主人公。
「始まるまで、あと五分」:人気舞台のチケット2枚を抱えて彼女が来るのを待っている奥田が主人公。しかし、奥田はその彼女からフラれた?ばかり。
「舞台裏の覚悟」:公募オーディションで重要な役に抜擢された川合春真の元に、シーン32に出るな、もし出たら浮気を公表するという脅迫状が届きます。ずっと無名の自分を応援してくれた恋人をリザーブ席に招待したというのに。後悔先に立たず。一体どうすれば良いのか?と幕開き寸前だというのに春真の心は千々に乱れるばかり・・・。
「千賀稚子にはかなわない」:ベテラン女優の千賀、実は認知症。マネージャーの信田篤子は心配しながら見守りますが、そこに不審者が・・・。
「終幕」:「序幕」の解決篇。

芦沢さんのミステリの上手さにはこれまでも舌を巻いてきましたが、これって日常ミステリ?それとも日常サスペンス? いやいやドタバタ劇でしょう?と惑わされるばかり。
でも、ミステリ要素(「始まるまで、あと五分」)、サスペンス要素(「舞台裏の覚悟」)がきっちり盛り込まれているうえに、ラブロマンス要素もしっかり付け加えられています。
総じていえば、コミカルで、心憎いばかりの群像劇。

やっぱり芦沢さんは侮れません、本当に上手い!
5篇の中で、「始まるまで、あと五分」が私は一番好きだなぁ。それと「舞台裏の覚悟」も面白さ、この上なし。
※なお、本書は、表紙の裏側に後日談となるショート・ストーリィ付き。図書館本はしっかり表紙がガードされていますので、申し訳ないけど、書店で表紙裏を立ち読みさせてもらいました。


序幕/1.息子の親友/2.始まるまで、あと五分/3.舞台裏の覚悟/4.千賀稚子にはかなわない/終幕

                    

7.
「火のないところに煙は ★☆


火のないところに煙は

2018年06月
新潮社

(1600円+税)

2021年07月
新潮文庫



2018/07/16



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許されようとは思いませんの再校ゲラを戻し終えたばかりの作家(私)に、「小説新潮」の編集者から突然に短篇小説の依頼があります。
それも、
「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」と。
その依頼から思い出したのは、かつて体験した悲惨な出来事。
その
「染み」から連鎖していくように、幾つもの怪奇現象話が語り続けられていく、という趣向の怪談もの短篇集。

正直なところ、それ程面白いと思わなかったのは、余り怖いと感じなかったからでしょうか。
怪談話を読んで怖いと感じないというのは、カレーを食べて辛さを感じないようなもので、味気ないというしかないものですが、私自身の感性の問題なのかもしれません。
ただ、考えてみると、怪奇現象を体験した人たちが語った話という設定なので、今一つリアル感を得られなかった所為ではないかと思う次第。

芦沢央さん、毎回期待している作家なので、ちょっと残念。

「染み」:占い師からの予想外の言葉を受けてから、恋人同士だった2人の身に異変が・・・。
「お祓いを頼む女」:フリーライターである君子の元に、突然小学生の息子連れで押しかけて来た主婦。その祟りとは・・・。
「妄言」:購入した中古住宅に引っ越した途端、隣家の主婦が妻にあることないこと告げだし・・・。
「助けてって言ったのに」:夫の実家で姑との同居を始めた途端、智世は奇怪な夢を見るようになり・・・。
「誰かの怪異」:大学生が入居したアパートに何度も怪奇現象が。友人の高校クラスメイトに助けを求めるが・・・。
「禁忌」主人公は再び作家。5話に共通するものは・・・。

1.染み/2.お祓いを頼む女/3.妄言/4.助けてって言ったのに/5.誰かの怪異/最終話.禁忌

               

8.
「カインは言わなかった ★☆


カインは言わなかった

2019年08月
文芸春秋

(1650円+税)

2022年08月
文春文庫



2019/09/18



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ダンスカンパニーの舞台、その監督と主役を演じようとするバレエダンサーたちの、狂気ともいえる没入ぶりを連作風に描いた長編小説。

題名の「カイン」とは、言うまでもなく旧約聖書にて人類初の殺人者となる兄カインのこと。
クラシックバレエとコンテンポラリーダンスを融合した
HHカンパニーの次の舞台は、そのカインを題材とする新作。
そのカリスマ監督である
誉田規一の、主役に選ばれた藤谷誠に対する指導、指示は、まるで際限なく誠を苛め倒すかのようです。
その結果なのか、誠は恋人の
嶋貫あゆ子「カインに出られたくなった」という言葉を残して、それ以降音信不通に。
一方、姿を誠に代わってカインを演じるよう指示されたのは、
尾上和馬。しかし、いくら演じても誉田の意図に沿うことはできないのか・・・。

悪鬼のような誉田、誉田の抱える狂気に翻弄されつつ呑み込まれるかのような誠と和馬。そして画家である誠の弟=

彼らの狂気を、その周辺にいる人物たちを代わる代わる主人公にして、その狂気を浮かび上がらせるように描き出されます。
そこに、何者かによる殺人事件が絡むのか・・・。
藤谷誠は何処に消えたのか、誰が誰を殺害したのか。本作は、ミステリ要素を含んで展開されます。
 
狂気のような迫力、到底そこに近づけないという部外者の諦念等々、様々な想念が本ストーリィ中に渦巻いているようです。
その迫力、そして力作であることは充分理解できるのですが、私としては辟易してしまうような場面が幾度も。
率直に言って、楽しめたとはとても言えず。


1.降板/2.絵の中の嵐/3.一日前/4.群舞/5.その前の世界/エピローグ

             

9.
「僕の神さま ★☆


僕の神さま

2020年08月
角川書店

(1600円+税)

2024年02月
角川文庫



2020/09/08



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主な登場人物は、小学5年生。
何か困ったことが起きると皆が相談するのは、
水谷くん
どんなことでも、明快にその理由、対応策を示してくれる。即ち“名探偵”なのですが、主人公はじめ皆は
「神さま」と呼ぶ。

連作日常ミステリ、しかも小学生の世界でのそれ。
幾ら何でもと驚きますが、まぁコナンもいれば金田一少年もいる訳ですから否定することもなし。水谷くんをホームズとすれば、主人公がワトソンというところでしょう。

しかし、その2人の関係が大きく揺らぐのは最後のエピローグ。
さながら
E・クイーン「レーン最後の事件」にも似た衝撃でしょうか。

ただ、名探偵といってよい水谷くんのキャラクター、ある面では出来物ですが、ある面では不気味。もうひとつ、その人物像を掴み切れないという印象のため。
この水谷くん、
石持浅海<碓氷優佳と同類の人間なのだろうかとつい考えてしまうところ。

最後のヒネリは、芦沢央さんに相応しいものですが、肝心の水谷くん像への踏み込みが足りなかった印象を受けるが故に、★2つ評価に至らず。

「春の作り方」:祖父がアレルギーを発した原因は?
「夏の自由研究」:谷野さんが川上さんに絵の具で汚れた水をかけた理由は? そして、川上さんの抱える問題に水谷くんはどう解決策を示すのか?
・「作戦会議は秋の秘密」:騎馬戦で何故三橋君は敵から逃げ回ったのか? その騎馬戦に勝利する方法とは?
「冬に真実は伝えない」:読むと呪われる、という本の噂。 黒岩くんは何故その呪いを怖がったのか?
「春休みの答え合わせ」:主人公が知らなかった事実とは? 最後に思いもよらぬ真相が明らかにされます。

1.春の作り方/2.夏の「自由」研究/3.作戦会議は秋の秘密/4.冬に真実は伝えない/エピローグ.春休みの答え合わせ

                  

10.
「汚れた手をそこで拭かない ★★


汚れた手をそこで拭かない

2020年09月
文芸春秋

(1500円+税)

2023年11月
文春文庫



2020/10/19



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日常に潜む事件、ミステリを扱った短篇集、5篇。

一口に“日常”と言っても、北村薫さんや加納朋子さんらの日常ミステリとは趣きを異にします。そこにはやはり“事件”があるのですから。
日常ドラマのひとコマといっても、主人公本人にとっては大きな出来事。それは主人公らが、犯罪と縁のないごくフツーの人だからと言えます。
フツーの人にとっては、思わぬ事態に対してそう簡単に開き直れる筈がありません。だからこそ恐れる・・・それた読み手に伝わってくる、そうした処が凄い。 
まさに切れ味鋭い、芦沢さんらしいミステリ短篇集です。

「ただ、運が悪かっただけ」:がんで余命僅かな妻が夫に、あなたの苦しみをあの世に持って行ってあげましょうと言う、その出来事とは・・・。
「埋め合わせ」:プールの排水バルブを閉め忘れた若い教師、何とか誤魔化そうと画策した結末は・・・。
「忘却」:アパート隣室に住む老人が熱中症で死去。その原因は、まだらボケになった妻の請求書渡し洩れなのか?
「お蔵入り」:やっと映画制作の機会を手に入れた監督が直面した思わぬ事態とは・・・。
「ミモザ」人気料理研究家となった主人公の前に突然現れたのは、学生時代のバイト先で不倫関係を結んだ相手。その相手によって陥れられた危機は・・・。

5篇の中では特に
「ただ、運が悪かっただけ」「忘却」の2篇がお見事。

ただ、運が悪かっただけ/埋め合わせ/忘却/お蔵入り/ミモザ

    

芦沢央作品のページ No.2

   


   

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