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11.フライ・バイ・ワイヤ 12.届け物はまだ手の中に 13.わたしたちが少女と呼ばれていた頃−碓氷優佳の推理 No.4− 14.相互確証破壊(文庫改題:真実はベッドの中に) 15.凪の司祭 16.
罪びとよやすらかに眠れ |
【作家歴】、月の扉、扉は閉ざされたまま、まっすぐ進め、心臓と左手、Rのつく月には気をつけよう、温かな手、君の望む死に方、ブック・ジャングル、彼女が追ってくる、玩具店の英雄 |
崖の上で踊る、不老虫、Rのつく月には気をつけよう−賢者のグラス、殺し屋続けてます。、君が護りたい人は、新しい世界で、高島太一を殺したい五人、あなたには殺せません、女と男そして殺し屋 |
11. | |
「フライ・バイ・ワイヤ」 ★★ |
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2015年06月
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近未来の高校を舞台にしたSFミステリ。 本書では当然ながら、ロボットにまつわるストーリィ要素が多彩です。操作型ロボットと自律型ロボットにどんな違いがあるのか、アシモフのロボット3原則も登場し、事件そのものにIMMID-28というロボットの存在が深く関わるのですから。 近未来、ロボットというSF要素、そして殺人事件という学園ミステリのストーリィですが、疑いもなく本書は青春ストーリィでもあります。 |
12. | |
「届け物はまだ手の中に」 ★★ |
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2015年10月
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27歳の公務員=楡井和樹は、恩人である益子の仇である工藤への復讐を果たした後、その生首をボストンバッグに詰めて、かつての親友である設楽宏一の自宅を訪れます。 共に益子に恩を受けながら、IT企業経営者として成功、復讐から脱落した設楽に、復讐の結果を突き付けるため。 設楽宅を訪れた楡井は、ちょうど4歳の息子=大樹の誕生パーティを開いていたところだと、設楽の妹である真澄、妻のさち子、秘書の遠野という3人の美女から喜んで迎えられ、パーティ開催場所の庭に招き入れられます。 しかし、仕事が終わったらすぐ現れる筈、と真澄から説明された設楽は一向に姿を見せない。 そのうえ、3人の女性たちの言動に楡井は何か不自然なものを感じます。 一体、設楽の身に何があったのか。 殺人で始まるストーリィであるのにミステリはその殺人行為にあるのではなく、主人公とはいえ犯罪者である楡井が探偵役に据えられて楡井家内のミステリを解く、という構成がまず面白い。 そして、設楽家の謎が明らかにされる最終場面での、登場人物たちのやりとりがすこぶる楽しい。 主人公と一緒に唖然としてしまう処が、ことに楽しき哉。 石持さんのこうした悪戯心、私は大好きです。 それにしても、肝の据わった女性たちに男性はとても敵いませんね。 序章/1.訪問者/間章/2.親友の妹、妻、そして秘書/間章/3.迷宮屋敷/間章/4.届け物 |
13. | |
「わたしたちが少女と呼ばれていた頃」 ★☆ |
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2016年03月
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火山学者である碓氷優佳を探偵役とするシリーズ第4弾。 シリーズ開始時は大学院生、第2弾は火山学者という設定だった後、碓氷優佳がどんな女子高生だったのかと、高校時代に遡って描いたのがこの第4作だそうです。 横浜にある名門の中高一貫校=私立碩徳横浜女子高等学校に、碓氷優佳が入学した処から本ストーリィは始まります。 主人公=語り手となるのは、すぐ親友となった上杉小春。 そこから1年、2年、3年と3年間に亘り、同じ特進理系クラスの同級生たち一人一人を紹介するように描きながら、その同級生にまつわる謎を易々と碓氷優佳(通称「うすうす」)が小春宛てに解き明かせてみせる、という構成です。 謎解きそのものについては、かなり“決めつけ”という印象を受けますが、3年間クラス替えなしの特進クラスだからこその遠慮ないやりとりが高校生らしく、高校青春連作ストーリィとして楽しめました。 そのうえで最後に、碓氷優佳とはどんな人物だったのか、をさらりと描いてみせたところが石持さんの油断ならぬところです。 この後の碓氷優佳に通じる、重要なこと、ですから。 赤信号/夏休み/彼女の朝/握られた手/夢に向かって/災い転じて/優佳と、わたしの未来 |
14. | |
「相互確証破壊 Mutual Assured Destruction」 ★★ |
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2022年03月
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官能小説風ミステリ短篇集。 「官能ミステリを書いてほしい」という出版社からの依頼に応えた作品集とのことです。 ストーリィの半分以上、いや大部分がセックス場面。といっても石持さんが官能小説家ではない所為もあるのか、セックス描写は多いものの煽情的な印象は受けません。 舞台設定が本短篇集の妙、「殺し屋、やってます。」の先駆けとなる新趣向のミステリかと思って読み始めましたが、あに図らんや、ストーリィの妙はもっと超えたところにありました。 その辺りは流石に石持さんと、脱帽です。 ミステリは、主要人物2人のセックス行為、2人の男女関係そのものにあった、というのが本作の骨頂。 表紙絵、内容紹介に腰を引く方もいるかと思いますが、それらを意に介さないミステリファンには、珍しい趣向のミステリとしてお薦めです。 ・「待っている間に」:違法業務を担わされている男女6人がその業務のため保養所施設に。まず男一人が殺害され・・・。 ・「相互確証破壊」:不倫関係。お互いへの牽制のためと行為をビデオ撮り。しかし、男は何故今も撮り続けるのか・・・。 ・「三百メートル先から」:自宅ヒキコモリの兄は何故殺されたのか。妹が恋人(兄の友人)とセックスしながら推理します。 ・「見下ろす部屋」:会社の上司と不倫関係。しかし、彼の挑み方がいつもと違う、それは何故なのか・・・。 ・「カントリー・ロード」:ヒッチハイクする女と彼女を乗せた男。当然の如くラブホテルで一緒に泊まった2人が隠していた事情とは・・・。 ・「男の子みたいに」:何故恋人は、自分に男の子の格好をさせて抱くことを好むのか。ルームシェアしている女友達が、その理由を推理します・・・。 待っている間に/相互確証破壊/三百メートル先から/見下ろす部屋/カントリー・ロード/男の子みたいに |
15. | |
「凪の司祭」 ★★☆ |
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大勢の人間が訪れるショッピングモール“汐留アルバ”。 そこを舞台に史上最悪のテロが開始された。 実行するのは、帽子とサングラス、マスクにラッシュガードパーカーで完全防備した、篠崎百代という若い女性。 そして彼女の武器は、カビ毒から抽出した猛毒のトリコセテン・マイコトキシン。百代はニューヨーク同時テロ事件の犠牲者数を更新するのが目的の如く辺り構わず猛毒を振りまき、阿鼻叫喚極まる汐留アルバの中で、大勢の来店客たちをなぎ倒し続けていきます。 とはいえ、単なるコーヒー専門店のバイト店員という彼女にそれだけの犯行プランを作れる訳がない。百代の思いを知って犯行プラン作り、猛毒作りのサポートをしたのは、百代がバイトするコーヒー専門店の常連客たち。自称“五人委員会”。 しかし、百代が決行すべく皆に見送られて汐留へ向かったその日、5人の一人=木下隆昌が殺されているのを発見し、百代を追いかけて汐留に向かった残り4人(藤間護・池田祐也・辻野冬美・三枝慎司)の歯車が狂いだします。 いくらフィクションとはいえ、あってはならないような凶悪犯罪ですし、罪もない人々が次々と倒れていくストーリィを推奨などしてはいけないだろうと思うのですが、それらを超えて、本ストーリィの圧倒感は凄い! まさに圧巻! そして、リアルに凶行を繰り広げ続ける百代をもうひとつ憎む気になれないのは、彼女が元々はひたむきで可憐な若い女性であること、恋人を亡くした悲しみを今も深く内に秘めているからです。 リアルタイムで進行していく各章に添えられた「間章」は、それ以前の犯行計画、準備過程を描いたストーリィ。 あくまでフィクションであると冷静に受け止められる方なら、是非お薦めしたい、圧倒的な破壊力ある力作長編。 読み逃さないで、良かった・・・。 1.出撃/2.舞台/3.攻撃開始/4.非常ベル/5.殺戮/6.後手/7.憧憬/8.反撃/9.応報/10.誕生/11.贅の巣/12.終局/13.拾遺/終章 |
16. | |
「罪人(つみびと)よやすらかに眠れ」 ★☆ |
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札幌の中島公園、その近くにある大きな邸宅。 悩みや問題を抱えた者がその前に立ち尽くした時、偶然のように通りがかったその邸宅の住人が各篇の主人公たちをその中に誘います。 礼儀のように事情を打ち明けた主人公たちがそれではと辞去しようとした時、北良(きたら)という美形の青年がいきなり、主人公たちに鋭い一言を投げかけます。 それをきっかけに、主人公たちが謎を抱えていたこと、その謎の真相が解き明かされる、というパターンの連作短篇6作。 タイプとしては安楽椅子探偵ものでしょう。 最初は単なる問題事を語るという風だったものが、北良のひと言によって<謎>があることが明らかにされ、さらにそのまま一気に真相が解明されるという流れは、ミステリとしてやや物足りなく感じる処もないではありませんが、このパターンの稀なる妙が私としては好きです。 しかし、本書における最大の謎は、業を抱えた者しか入れないというこの邸宅そのものの存在であり、その住人(中島夫妻、娘の碧子、女子高生らしいメイド?の菖蒲ちゃん、執事らしい老人の木下、そして北良)各々の人物像です。 本書において、その謎が明らかになることはありません。となれば、続編があるのか? 趣向の切れが楽しめる連作ミステリ短篇集。私の好みです。 さいしょの客−友人と、その恋人/2人めの客−はじめての一人旅/3人めの客−徘徊と彷徨/4人めの客−懐かしい友だち/5人めの客−待ち人来たらず/さいごの客−今度こそ、さよなら |
17. | |
「パレードの明暗−座間味くんの推理−The Parade That Decided Their Fate」 ★★ |
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2019年05月
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“座間味くん”シリーズ4作目。ただし、私は初読。 本作での主人公は、若い女性警察官の南谷結月。 元柔道部員で現在は特別機動隊に所属し、現在は羽田空港の保安検査場に勤務。 業務に一生懸命なのは良いが視野の狭い処があると心配した向島教官から、ある人の飲み会に同席するよう命じられます。 その「ある人」とは、巡査である結月からしたら雲の上の人と言うべき大迫警視長。そしてその大迫が会う相手というのが、10年以上前に那覇で起きたハイジャック事件の折、民間人でありながら単身で犯人に人質解放交渉を行ったということで評判になった“座間味くん”。 その2人の会食に結月が同席させてもらうという設定で展開される7篇の謎解きストーリィ。 副題にあるとおり<推理もの>なのですが、その軽妙洒脱なストーリィ展開が私好みで、とても楽しい。 まずは大迫警視長が、実際に起こった事件での警察官等の活躍ぶりを披露し、その良かった点とまずかった点について説明。ところが、その後の座間味くんのひと言が、誰も認識していなかった当事者の真意を鮮やかに解き明かして他の2人を驚愕せしめる、という構成が本連作ミステリの妙味。 ミステリとしては軽い作品ですが、いやいやどうして、その謎と推理は本格的なものであると言って差し支えないでしょう。 ちょっとしたコーヒーブレイクのお供に最適な連作ミステリ。 シリーズの前3作も是非読みたくなりました。 女性警察官の嗅覚/少女のために/パレードの明暗/アトリエのある家/お見合い大作戦/キルト地のバッグ/F1に乗ったレミング |
18. | |
「殺し屋、やってます。」 ★★ |
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2020年01月
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思いがけない探偵役はミステリ界にこれ迄、どれ程いたことか。私が忘れられない異色の探偵は“ブラウン神父”ですけれど、本作での探偵は、何と殺し屋! 殺しを依頼された標的に、何やら不可解な行動。いったい何のためなのか。 だからといって殺し屋が、依頼された殺しをしない訳ではありません。依頼通り実行すると共に、自分が気になっていた謎の真相も推理する、というのが本書のパターン。 殺人は非道、ケシカランという意見もあるかもしれませんが、あくまで小説という虚構の上でのこと。 石持さんが繰り出す、予想を超えた趣向が、私は好きです。 殺し屋は副業、本業は中小企業相手の経営コンサルタントというのが、主人公である富澤充。 その富澤の元に殺し仕事を持ち込んでくるのが、友人で現在は公務員の塚原俊介。但し、殺しの依頼を受けているのは「伊勢殿」と呼ばれる人物で、富澤は会ったこともないという仕組み。 淡々と殺し屋稼業に励む富澤が時に放つ一言は、極め付けにドライで、この上ないブラックユーモアになっています(特に、恋人である雪奈に対する一言が圧巻の可笑しさ)。 こうしたスパイスがまさに私好み。 ・「黒い水筒の女」:保育士の女は、夜中の公園で何故水筒の水を捨てているのか? ・「紙おむつを買う男」:独身なのに何故男はスーパーで紙おむつを買い込んでいたのか? ・「同伴者」:母親と名乗る女が依頼人をせっつくように伊勢殿に殺しを依頼。その母親の本当の狙いは? ・「優柔不断な依頼人」:殺しの依頼が2度も取り下げられたその背後に、どんな事情があったのか。 ・「吸血鬼が狙っている」:まるで吸血鬼の仕業と思えるような殺し方をオプション指定してきたその事情は? ・「標的はどっち?」:同じ名前を名乗る2人の女性。富澤が、この依頼は絶対受けてはいけない、と言った理由は? ・「狙われた殺し屋」:依頼のあった殺す相手は何と!? 黒い水筒の女/紙おむつを買う男/同伴者/優柔不断な依頼人/吸血鬼が狙っている/標的はどっち?/狙われた殺し屋 |
19. | |
「鎮憎師」 ★☆ |
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2021年06月
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??という題名の本作、毎回変わった趣向でミステリ風ストーリィを楽しませてくれる石持浅海さんだけに、今回はどんな趣向なのだろうかとワクワクする気持ちで手に取ったのですが、予想した連作短篇集ではなく長編ストーリィ。 大学時代のテニススクール仲間、仲間内でカップルとなった男女の結婚祝いパーティにかつての仲間たちが集まります。 しかし、3年ぶりに姿を見せた熊木夏蓮が何と翌朝、絞殺死体となって発見されます。夏蓮は3年前に起きた<無理心中未遂事件>の当事者。今回の事件はそれと関わりあるものなのか。そして犯人は、かつての仲間8人の内の誰かなのか? まさしくミステリの常道のような展開ですが、鎮憎師が登場する故にいつものミステリとはちょっと風向きが異なります。 主人公である赤垣真穂が、弁護士である叔父の新妻順司に紹介されたのが、新妻曰く“鎮憎師”という沖田洋平と千瀬の兄妹。 犯人捜しをする訳じゃない、事件を整理して皆が納得できるストーリィに解き明かし、復讐の連鎖が生じないよう事件を鎮める、というのがそのコンセプト。 安楽椅子探偵型、でも最後に真相を解き明かすのは事件の当事者ある一人という探偵の二重構造と、ちょっと捻ったミステリ。 仲間内で起きた事件、その犯人は仲間内の一人というのは、かなりスリリングな設定です。鎮憎師という設定は別にして、ミステリとしても十分楽しめました。 ただ、鎮憎師である沖田兄妹の魅力を本書一冊で満喫できたとはとても言い難い。まずは本書を初登場の舞台として、今後の活躍を次巻以降で期待したいところです。 乞う!続編。そうでなくては余りに勿体ない。 序章/1.再会/2.ジュリエット/3.絞り込み/4.分析/5.鎮憎師/6.機会と動機/7.事情聴取/8.残された者たち/9.状況報告/10.犯人はどちら/11.招集/12.復讐の連鎖/終章 |
20. | |
「賛美せよ、と成功は言った GLORIFY MY NAME, SAID SUCCESS」 ★★ |
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2020年03月
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“碓氷優佳の推理”シリーズ第5弾。 いつもの倒叙推理ものシリーズですが、今回は異色の趣向。 舞台は、予備校時代の親しい仲間たちが集まり、仲間の一人である湯村が勤務先の商事会社でずっと担当してきたロボット事業が経産省の賞を受賞したことを祝うため催された、河口湖畔の宿に一泊する形での祝賀会。 その祝いの宴の席上、仲間の一人である神山裕樹が、湯村の妻である桜子(旧姓:大庭)の何気ない一言に突如いきり立ち、皆の恩師である元予備校講師=真鍋宏典の頭をワインボトルで殴打し撲殺してしまうという事件が発生します。 神山の様子から、彼自身でも予想しなかった衝動的な犯行だったと思えるのに、何故か桜子は皆に、犯行は故意かつ計画的なものだったという心象を植え付けようと言葉を尽くす。 それに対し、桜子の弁に同意しながらもやんわりと、碓氷優佳が皆の心象を元に戻そうとする。 桜子と優佳との間におけるその密かなせめぎ合いが面白く、やはり仲間の一人である武田小春が、主人公としてその駆け引きを冷静に見守る、という構成。 いったい何故、桜子は神山の故意犯行に拘るのか? 結果は読んでのお楽しみですが、本シリーズでは毎回、最後にあっと言わされます。それはもう一種の快感かも。 1.再会/2.桃園の誓い/3.予想できた者/4.盾/5.矛/6.対話 |
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