天野純希
(あまの・すみき)作品のページ


1979年愛知県名古屋市生、名古屋市在住。2007年「桃山ビート・トライブ」にて第20回小説すばる新人賞を受賞し作家デビュー。13年「破天の剣」にて第19回中山義秀文学賞を受賞。


1.信長嫌い

2.雑賀のいくさ姫

3.もののふの国

  


       

1.

「信長嫌い ★★


信長嫌い

2017年05月
新潮社

(1700円+税)

2019年10月
新潮文庫



2017/06/22



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織田信長によってその人生を左右された、7人の武将等を描いた短篇集。
信長については十分読み切ったという思いが以前からあるのですが、本作、実に面白かった。
その魅力は、信長が殆ど登場しないにもかかわらず、信長という存在の大きさが全篇を覆っている、と感じるところにあります。
どの主人公もまるで、信長の存在に追い詰められるように、何とか気持ちを奮い立たせて対抗しようとするかのように、それぞれの人生を左右されてしまう、といった観あり。

「義元の呪縛」:主人公はもちろん今川義元。信長に対抗心を燃やし、信長を嵌めるつもりが逆に嵌められていた、という展開が実に面白い。
「直隆の武辺」:朝倉義景の武将、真柄十郎左衛門直隆が主人公。何かと動きの鈍い朝倉家の中にあって、じりじりする思いをずっとこらえていた武将像が、ガキ大将のようで楽しい。
「承禎の妄執」六角承禎が主人公。生き延びた末の結果は、武将としてどうなのでしょう。
「義継の矜持」三好左京大夫義継が主人公。人の言いなりになって過ごしてきた義継の最後の行動は、爽快と言って良いのではないか。※妻となった寧子との微妙な関係も読み応えあり。
「信栄の誤算」:信長に追放されたことで有名な織田家の宿老=佐久間信盛の嫡男である信栄が主人公。戦の度に胃痛がひどくなるという武将にあっては・・・。

・「丹波の悔恨」:本書中で最もユニークな篇。伊賀を滅ぼされた恨みから信長を狙う老忍び=
百地丹波が主人公。老いて忍びの腕が怪しくなっている丹波と、2歳下ながら未だに忍びの腕が確かな老妻=お梅のコンビのやりとりが実に楽しい。
・「秀信の憧憬」:主人公は、かつて秀吉に利用された信長の嫡孫=
三法師こと織田秀信。後日談的な篇ですが、秀信が描かれることは少ないだけに興味尽きません。

1.義元の呪縛/2.直隆の武辺/3.承禎の妄執/4.義継の矜持/5.信栄の誤算/6.丹波の悔恨/7.秀信の憧憬

         

2.

「雑賀のいくさ姫 ★★


雑賀のいくさ姫

2018年11月
講談社

(1650円+税)



2018/12/07



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歴史時代海洋冒険ストーリィ。
見知らぬ大洋へ、仲間たちと船で乗り出そうとするその気概、ワクワクします。
時代もの海洋冒険というと思い浮かぶのは、
白石一郎「海狼伝」「海王伝、そして隆慶一郎「見知らぬ海へ
自ら操る船による交易、海賊との戦闘という点では本作、白石一郎作品に似た趣向を感じます。

主人公はイスパニア人の
ジュアン
見知らぬ世界に憧れ、故郷を飛び出してマニラに。さらにハポンのサムライに憧れて日本へ向かう貿易船に乗り込みます。しかしながら、思わぬ事態により一人船に残され、漂流する始末。
そんなジュアンを拾い上げたのが、
“雑賀のいくさ姫”と異名をとる、雑賀孫一の娘=鶴姫
ジュアンが乗っていたイスパニア船<サン・フェルナンド号>を補修して我が船<
戦姫丸>とし、アジア諸国との交易に乗り出そうとしますが、そこに降って湧いたのが、明国人の大海賊=林鳳の、九州を征服し独立国家を建てるという野望。
薩摩水軍の先頭に立つ
巴姫ら島津一族の仲裁により結成された西日本大名率いる連合水軍と、林鳳率いる海賊との激闘が、奄美大島近くの大洋上で繰り広げられます。

後半の見せ場は、何と言っても派手派手しい海戦の様子。
大規模な海戦の様子は、つい胸躍り、興奮尽きることなく、エンターテインメントとしての面白さが堪能できます。

なお、願いが叶うならば、「海狼伝」と続編として「海王伝」があったように、鶴やジュアン、
左近兵庫、蛍といった面々、さらには月麗にも、是非もう一度会いたいものです。

1.ジバングへ/1.戦姫丸出航/3.海のサムライたち/4.林鳳の影/5.日本水軍集結/6.奄美沖海戦/7.決戦/終章.まだ見ぬ海へ

     

3.

「もののふの国 ★☆


もののふの国

2019年05月
中央公論新社

(1800円+税)

2022年12月
中公文庫



2019/06/02



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中央公論新社企画“螺旋”プロジェクトに連なる作品、中世・近世篇。
平将門から西郷隆盛まで、その時代の代表的な武士たちを各篇の主人公とし、武士が主役だった時代を大きな流れとして描いた人物伝的歴史ストーリィ。

各篇の主人公として登場する武士は、
平将門〜源頼朝〜平教経、足利尊氏〜足利義満、明智光秀〜徳川家康、大塩格之介(平八郎の養子)〜土方歳三〜西郷隆盛
当然ながら、その背後にて、
源義経や、楠木正成、織田信長、豊臣秀吉、坂本龍馬という人物も登場します。

それぞれの時代は様々な歴史時代小説で読んできましたが、こうして連ねられたものを一気に読むと、まさに武士たちの時代を俯瞰している気持ちになります。

教科書や歴史時代小説を読んでいる限りでは、武士の時代も必然的なものと安易に思っていましたが、本作を読むと、武士の時代は果たして必要なものだったのだろうか、と思います。
民や国のことを考えて行動しようとした人物は稀で、多くは自分の立場を強固にするため、自分たち一派が生き残るため、というだけだったように感じられます。

武士の時代は、日本国にとってプラスだったのかどうか。そう簡単に答えを出せるものではないと思いますが、そんなことを考えてみるのも面白いかな、と思った次第。

なお、海族・山族という争いについては、わざわざ付け足しされたという印象で、捉われずに読んだ方が良いと感じます。


源平の巻 :1.黎明の大地/2.担いし者/3.相克の水面
南北朝の巻:4.中興の秋(とき)/5.擾乱に舞う/6.浄土の咲く花
戦国の巻 :7.天の渦、地の光/8.最後の勝利者
幕末維新の巻:9.蒼き瞳の亡者/10.回天は遠く/11.渦は途切れず

  


  

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