ロザムンド・ピルチャー作品のページ


Rosamunde Pilcher 1924年イギリス生。18歳の頃から短編小説を雑誌に発表。長編小説に「シェル・シーカーズ」「9月」あり。


1.ロザムンドおばさんの贈り物

2.ロザムンドおばさんのお茶の時間

3.ロザムンドおばさんの花束

4.夏の終わりに

5.懐かしいラヴ・ストーリーズ(中村妙子編訳アンソロジー)

 


 

1.

●「ロザムンドおばさんの贈り物」●  ★★☆
“A GIRL I USED TO KNOW”and other stories from THE BLUE BEDROOM and FLOWERS IN THE RAIN 

 

1985,91年発表

 
1993年10月
晶文社刊

  

2000/10/04

陽だまりで感じる気持ちの良さ、楽しさに喩えられるような、快い短篇集です。
善意に対する信頼、心の温かさ、という点で、ケストナーが思い出されます。ただ、似ているといっても、そこはイギリスの作品らしく、抑制の効いた、落ち着きのある作品集になっています。
いずれのストーリィも、身近な日常生活のひとコマを描いたものですので、肩を張ることなくゆったりとした気持ちで読めるのが、快く読める理由のひとつです。イギリス風午後の紅茶のひとときに、ちょっと1篇読む、というのに相応しい短篇集と言えるでしょう。
多分、時間が経てばストーリィは忘れてしまうでしょうが、爽やかな風を受けたような印象は、きっと忘れないような気がします。
「あなたに似たひと」「週末」は、若い恋人2人に人生経験者がそっと力を添えるというストーリィで、爽やかな味わいがあります。「忘れられない夜」はユーモラスなストーリィですが、それ以上に楽しげな雰囲気が嬉しい。「日曜の朝」は、娘2人がいる未亡人と結婚した主人公が、義理の娘と気持ちのつながりを持つまでの経過を語ったストーリィで、さりげなく描かれていますが、心温まる思いがします。また、「長かった一日」も忘れ難い一篇です。

あなたに似たひと/忘れられない夜/午後のお茶/白い翼/日曜の朝/長かった一日/週末

 

2.

●「ロザムンドおばさんのお茶の時間」●  ★★
“Endings and Beginnings”and other stories from THE BLUE BEDROOM and FLOWERS IN THE RAIN 

 

1985,91年発表

 
1994年03月
晶文社刊

  


2000/10/15

ピルチャー短篇集の2冊目。快い読後感があるのは、1冊目と変わりありません。ただし、原本となっている短篇集は1冊目の「贈り物」と同じですから、比較すると1冊目収録の7篇の方が、本書収録の6篇よりまさっているように感じます。もっとも、2冊目ということで、私の目が欲深くなっていた為かもしれませんが。
暫く離れ離れになっていた男女が再会して、長い間の恋が結ばれるらしいストーリイが3篇(「雨あがりの花」、「湖に風を呼んだら」、「再会」)。出産という事件に直面したことから、少年あるいは少女と、身近な人物との気持ちが通じ合うというストーリイが2篇(「丘の上へ」、「父のいない午後」)。そして、「気がかりな不在」は、新婚夫婦のちょっとユーモラスなストーリィです。
「雨あがり」、「再会」には、子供時代の思い出ある場所、親しかった人への愛情が、「湖」にはイギリスの田園地方へのはっきりとした愛情が語られていて、気分の良いもの。
「父のいない午後」は、エミリーと継母ステファニーが出産を機に本当の家族として結ばれるというストーリィで、とても感動的でした。
「再会」は、意固地になっていつも誤った選択ばかりをしてきたような女性キティと、メイベル伯母の住むキントン城でトムが再会するストーリィですが、2人を思わず応援したくなるような力作です。

雨あがりの花/湖に風を呼んだら/気がかりな不在/丘の上へ/父のいない午後/再会

  

3.

●「ロザムンドおばさんの花束」●  
“The Doll's House”and other stories from THE BLUE BEDROOM and FLOWERS IN THE RAIN 

 

1985,91年発表

1994年11月
晶文社刊

 

2001/04/30

“ロザムンドおばさん”の短篇集も、3冊目となると、安心して読むことが出来ます。それと、自分の心に安らぎを与えたいなぁと思う時、手にとるのに丁度良い本だ、ということが判っています。
前2冊と同様、快く読めるという、本書の魅力は変わりありません。ただし、この3冊目に含まれる短篇の主人公は、どちらかというと年齢高め。「人形の家」の主人公が少年である以外、独身で一人暮らしの老嬢、キャリアウーマン、貧しい夫婦、子供たちが巣立った後の寂しい母親だったりします。でも、そうであってもささやかな希望を与えてくれる、そんな温か味が本書にはあります。
「人形の家」は少年が寡婦となった母親を見る眼が新鮮、「初めての赤いドレス」、「クリスマスの贈り物」は幸福への予感が感じられて嬉しくなる作品。「ブラックベリーを摘みに」「息子の結婚」は、味わい深いものを感じます。

人形の家/初めての赤いドレス/風をくれた人/ブラックベリーを摘みに/息子の結婚/クリスマスの贈り物/記念日

   

4.

●「夏の終わりに」● 原題:"The End of Summer" ★★   訳:浅見淳子

  

1971年発表

1997年07月
青山出版社刊

(1700円+税)

 

2002/06/07

すっきりとした快さに浸ることができた作品。
スコットランドのエルヴィー湖の側にある祖母の家、エルヴィー荘。幼少時代を過ごした懐かしく思い出深いその家へ、父親をアメリカに残し、主人公ジェインは数年振りに戻ってきます。
今や20歳を過ぎたジェインの心の中には、祖母とその家に対する懐かしさのほかに、子供の頃から慕っていた従兄シンクレアとの再会への期待があります。本書は、そんな滑り出しから始まる、一夏のラブ・ストーリィ。
といっても、本書は、楽しい或いは悲しいラブ・ストーリィの、そのどちらでもないと言うべきでしょう。
強く印象に残ることは、舞台となるスコットランドの田園地方のひんやりと爽快な雰囲気、幼い頃の淡い憧憬との訣別、そして主人公ジェインの凛とした姿です。
最近の国内小説ばかり読んでいると、常に喧騒の中にいるような気分になります。ところが、本書を読んでいると、静かで落ち着いた世界でのくつろぎを感じます。その居心地がとても気持ちよい。本書は、そんな作品です。
登場人物は僅かですが、いずれの人物についても、作者ピルチャーの慈しみを感じます。本書での悪役はシンクレアですけれど、彼に対してさえ、悪く思う気持ちは後に残りません。
本書の良さは、読み終えた後静かに余韻をかみ締める、そこから次第に広がってくる味わいにあります。

 

5.

●「懐かしいラヴ・ストーリーズ」●(中村妙子編訳) ★★

  

2006年12月
平凡社刊

(1700円+税)

 

2007/05/22

 

amazon.co.jp

訳者の中村妙子さん編集による、女性作家7人・7篇のアンソロジー。
題名には「懐かしい」とありますが、ラヴ・ストーリィならずとも、7篇にはいずれも懐かしい雰囲気があります。
中学生から高校生の頃読み漁るように読んでいた文庫本の海外小説のうちには、こんな雰囲気がありました。
穏やかで落ち着いていて、気持ちの良い作品。
最近の恋愛小説のもつ刺激的な内容に比較すると穏やか過ぎて物足りない気もしてしまうのですが、ゆったりとした気分でじっくり味わってみると、これはこれで良いものです。

冒頭の3篇「雪あらし」「マウント荘の不審な出来事」「愛だけでは・・・」はいずれもユーモラスなところがあって、なんとなくO・ヘンリのラヴ・ロマンスものを思い出させられます。
本書ラヴ・ストーリーズの中で私の好みなのは、偶然の悪戯な重なりを描いたスタブズ「雪あらし」と、都会の青年との婚約を解消して昔馴染みの青年の待つ故郷へ戻ってくるまでを描いたピルチャー「ララ」の2篇。
病床にあった夫は最後まで妻のことを見守り、その夫が逝った後ひとり静かに通夜をしようとする姿を描いたリード「ドクター・ベイリーの最後の戦い」は、若者の恋愛ではありませんが、長い年月を共に過ごした老夫婦の深い愛情が感じられて、これも素晴らしい一篇。
なお、デュ・モーリア「もう一度、キスをして」は、謎めいた娘に対する憧憬と痛ましい結末を描いた、本書中では唯一異色のラヴ・ストーリィです。

ジーン・スタブズ「雪あらし」/ジュディー・ガーディナー「マウント荘の不審な出来事」/ステラ・ホワイトロー「愛だけでは・・・」/ロザムンド・ピルチャー「ララ」/ダフニ・デュ・モーリア「もう一度、キスをして」/ミス・リード「ドクター・ベイリーの最後の戦い」/メアリ・ラヴィン「砂の城」

  


 

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