ミカエル・ニエミ作品のページ


Mikael Niemi 1959年スウェーデン最北部、フィンランドとの国境に近い北極圏のパヤラ村で生まれ。工学を学んだ後、教師、青少年カウンセラー、出版社でのアルバイト等様々な職を経て、88年に初の詩集を出版。その後詩集、戯曲、児童書、ノンフィクションなどを発表。自伝的長篇「世界の果てのビートルズ」がベストセラーとなる。

 


 

●「世界の果てのビートルズ」● ★★
 
原題:
"Popularmusik fran Vittula"      訳:岩本正恵




2000年発表

2006年01月
新潮社刊
(1900円+税)

 

2006/06/04

スウェーデンの最北部、北極圏にある小さな村・パヤラ村が本作品の舞台です。
フィンランドとの国境に近いこの地域はトーネダーレンと呼ばれていて、人口はまばら。言葉はこの地域特有のフィンランド語が使われているのだとか。
本作品はこの村で生まれ育った著者による半自伝的な少年物語です。

冬は長く暗く、太陽は少しも姿を現さない。その代わり夏は白夜の季節となる筈なのですが、本書を読んでいると冬の場面ばかりが印象に残ります。
辺境の村での少年物語というとトム・ソーヤーの冒険を再び読むような懐かしさにとらわれますが、本作品は舞台が北極圏であるだけにちょっと違う。
大人たちは樵や鉱夫を仕事にしている人が多く、力自慢、酒飲み自慢が多い。サウナ風呂に大勢で入り込み誰が最後まで耐えられるか競争する。一方、少年たちは密造酒で誰が大酒飲みかのコンテストを繰り広げる。喧嘩が始まれば一族全体の喧嘩に広がっていくのが常で、それにうっかり巻き込まれないよう注意して歩かないといけない。いやはや常識では通じないような単純な生活スタイルがここでは繰り広げられるのです。
そんな主人公たちの生活に飛び込んできたのが、ニイラの遠縁であるアメリカの少年達からプレゼントされた一枚のビートルズのレコード。
「雷鳴がとどろいた。火薬の樽が爆発し、部屋がふっ飛んだ」ような衝撃を主人公マッティと親友のニイラを受けます。
ロックンロール・ミュージック!に目覚めた主人公が始めたことといえば、板とゴムひもで手作りのギターを作り、地下室で陶酔したように歌い演奏すること。かなりデタラメなものだったらしいことは容易に想像つきますが、少年たちの単純明快さが愉快、そして愛おしくなります。
アフリカから来た黒人牧師の言葉が通じず皆が呆然とする中でニイラだけが通訳できたとか、ニイラのお祖母ちゃんの幽霊話、悪夢のようなネズミ退治の話も凄いのですが、空気銃で撃ち合うという遊びには仰天。そんな一度読んだら忘れられないエピソードが幾つも散りばめられています。短篇集として読んでも楽しいくらい。
珍しくサウナで2人っきりになった父親がおもむろに口を開こうとするので、てっきり性体験の伝授と思いきや、爺さんが暴走した結果お前の知らない従姉妹が5人いるから近親婚をしないよう気をつけろとか、長い年月に亘り我が一族と対立する家系があるゾという話。余りに予想外で思わず仰け反ってしまうというか、笑ってしまいます。
そんな親たちと別に、ロックに夢中にな少年たちを厭わず応援し励まし続けてくれるグレーゲル先生の存在が秀逸です。

北の果ての村だからこその珍しさ、少年たちの息遣いが身近に感じられる気持ち良さ、懐かしさが本作品の魅力です。
なお、祝いの席での大食いや大勢でのサウナ入浴は、本書の楽しい場面です。北欧の人々の生活にとってのサウナがどんなものであるかを実感できることも、本書を読む楽しさのひとつ。

 



新潮クレスト・ブックス

   

 to Top Page     to 海外作家 Index