ローリー・ムーア作品のページ


Lorrie Moore  1957年米国ニューヨーク州グレンフォールズ生、コーネル大学創作科大学院修了。85年処女短篇集「セルフ・ヘルプ」(白水社刊)にてデビュー。短篇「ここにはああいう人しかいない」(新潮社刊「アメリカの鳥たち」所収)にてO・ヘンリ賞を受賞。現在ウィスコンシン大学英文科教授。

 
1.セルフ・ヘルプ

2.あなたといた場所

3.サンタクロースの忘れもの

 


  

1.

●「セルフ・ヘルプ」●  ★☆
 原題:"Self-Help"      訳:干刈あがた・斎藤英治

 


1987年発表

1989年
白水社刊

1994年9月
白水社

Uブックス

(951円+税)

 
2002/01/06

ハウツー本のような文章スタイル、年月を逆に遡っていくような進行等、様々なスタイルで綴られている短篇集。本書の魅力は、そのきわめて斬新なスタイルにあると言って間違いないでしょう。
小説ですから、一応ドラマチックな物語要素を含んでいる筈なのですが、「○○しなさい」、「○○しましょう」、といった文章であっさり綴られると、そのストーリィが世間でありきたりの話のように思えてきます。同時に、主人公たちを客観的に眺める視点が明確となり、新鮮な印象を受けます。
不倫関係の行き詰まり、母親の絶望感、癌告知を受けて自殺するまでのなりゆき、恋愛関係の破局、妻および母親である人生の破綻と、語られるストーリィの殆どは人生に対する寂寥を感じさせられるものばかりです。
しかし、シンプルなストーリィ、かつそこはかとなくユーモラスであって、どこかカラッとしています。なかなか他にはない味わいがあります。
本書は、作者ムーアが28歳の時に書いた処女短篇集であり、原題は“Self-Help”。いかにも若い世代に受けそうな題名です。

別の女になる方法/奪われしもの/離婚家庭の子供のためのガイド/HOW/このようななりゆきで/母親と対話する方法(覚え書き)/アマールと夜の訪問者−愛の道へのガイド/作家になる方法/満たすこと

    

2.

●「あなたといた場所」●  ★
 原題:"ANAGRAMS"      訳:古屋美登里 




1986年発表

1995年3月
新潮社刊

(1845円+税)

 

2001/12/20

原題のAnagramsとは、ある言葉の文字をばらばらにして組替える遊びのことだそうです。
本書には5篇の小説が収録されていますが、各篇にベンナという女性とジェラードという男性が登場し、2人の内いずれかが主人公になっています。各篇のベンナとジェラードは、全く同一人物という訳ではありませんが、性格・経歴等の面でかなり似通っています。つまり、題名のとおり、ベンナとジェラードの設定をいろいろと組み替えて展開される幾つものストーリィ、でも小説のテーマは一貫している、という構成の連作短篇集です。
2人とも30歳前後。恋愛関係、仕事関係のどちらも中途半端な状況に置かれています。それがわかっていながらも、もうひとつ踏み出しきれない、他人と親密な関係を維持できない、そんな孤独さが2人からは感じられます。
4篇はごく短いものですが、最後の「修道女のように」だけは独立した長篇なみの長さを持っています。ベンナは、喧嘩別れした夫に事故死されて孤独な33歳。ジョージアンという 6歳になる想像上の娘がいますが、それだけ彼女が孤独で不安だということでしょう。ベンナは大学で詩の授業の講師をしています。この部分は第三者的に描かれていますが、外見はしっかりとした一人前の女性であるということを、内面と対照的に描く為にとった手法のようです。そして、一方のジェラードは、セールスマン兼さえないジャズピアニストで、ベンナの貴重な友人。
そう語ると、如何にも沈鬱な作品と思われそうですが、不思議なくらいに明るく、軽やかな作品です。その辺りが、作者ローリー・ムーアの持ち味なのでしょう。宣伝文句によると、洒落てウィットに富んだ作風とありますが、そこまでは感じられません。翻訳の限界のなのかもしれません。

ラヴキラーから逃れて/短すぎて使えないリボン/ヤード・セール/水−ウォーター/修道女のように

  

3.

●「サンタクロースの忘れもの」●  ★★
 原題:"The Forgotten Helper"     訳:古屋美登里・絵:網中いづる




1987・2000年

2001年11月
新潮社刊

(1300円+税)

 

2001/12/08

ごく薄い一冊。読み始めるとすぐ読み終わってしまうような、あっさりとした本です。感動というより、短篇としての上手さが印象に残りました。
しかし、読み終えた後、時間が経つ程に、ジワジワと心が温まってくる気がします。そんな良さのある一冊です。
ストーリィは、悪戯好きの妖精・アーベンと、クリスマスなんて大っ嫌い、という女の子・アイヴィの、2人の物語。
クリスマス・イブの夜、アーベンはサンタクロースのいいつけを守らなかったことから、「とっても悪い女の子」=アイヴィの家に置き忘れられてしまいます。
北極へ帰る為にはサンタが来る1年後を待たなくてはならない、しかし、アイヴィのような悪い女の子の元にサンタがやってくる訳がない。さて、アーベンはどうしたら良かろうかと頭をひねります。
一方、アイヴィにも、母親は行方知れず、父親は長いこと戻らず時々手紙を寄越すだけ、という悲しさがあったのです。
アーベンという妖精の楽しさ、アイヴィが最後に示した健気さへの感動、そして、クリスマスのお祝い気分。そんな要素をうまくまとめあげたクリスマス・ストーリィ。
12月だからこそ読むのに相応しい。クリスマス・プレゼントにも格好の一冊です。

※クリスマスにお薦めしたい本、もう1冊は サラモン「クリスマスの木」

     


 

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