スティーヴン・キング作品のページ


Stephen King 1947年米国メイン州ポートランド生。高校在学中から短篇を自費出版し、大学卒業後の73年処女長篇「キャリー」にて一躍脚光を浴びる。以後、「呪われた町」「デッド・ゾーン」等にてベストセラー作家となる。「シャイニング」「ファイアスターター」「IT」「骨の袋」等、作品多数。また、O・ヘンリ賞をはじめ文学賞の選考委員も勤める。同じく小説家であるタビサ・キングと共にメイン州バンゴア在住。


1.スタンド・バイ・ミー

2.グリーン・マイル

3.ドラゴンの眼

4.セル

 


 

1.

●「スタンド・バイ・ミー」● ★★★
 
原題:"The Body"

 


1987年03月
新潮文庫刊

 


1991/08/23

原作を読むより映画を先に見たため、映画での印象が強烈でした。4人の少年たちの演技も良かったし、とくに“スタンド・バイ・ミー”の曲がなんと言っても良い!
小説が初めにありき、というものの、本作品については原作が映画の後追いになってしまいました。
勿論、映画で感じるよりも、深くそして複雑な子供たちの心情が判ります。2日間の4人の冒険後、彼らの交流が薄れていく必然性も、小説を読んで納得できること。

本作品は、ゴードン・ラチャンスという作家の、思春期12歳の頃の思い出話です。夏休みの最中、轢死した子供の死骸を、遠いその場所まで3人の仲間と徒歩で見に行く、という冒険譚。現在はその仲間3人とも既に死んでおり、残っているのは自分ひとりという状況。
ゴードンを含む4人とも、家庭的に不幸です。ゴードン自身は、兄の死によって親が落胆し、ゴードンは親にとって“見えない子供”。クリスの父親は飲んだくれ、2人の兄はろくでなし。そのうえ弟妹たちもいる。テディの父親は精神病院に入院中。その父親の所為で彼は難聴になり、補聴器と度の強い眼鏡が離せない。そして、バーン、彼はぐずでのろま。

この4人の冒険行の中で、ゴードンは自分と仲間それぞれの人間的弱さ、欠点を見出し、それを認識する。しかし、テディ、バーンには結局それが判らなかったし、この後この2人は当たり前のように不良の道を辿っていく。一方、ゴードンとクリスは進学に向けて袂を分かつ。
トム・ソーヤーハックルベリー・フィンの冒険を現代に移すと、惨めで暗い気持ちになると同時にどこか心に残る、こんな行動になるのでしょうか。
一方で、アメリカという広大な国ならではの、教育の問題を感じさせられる作品です。

  

2.

●「グリーン・マイル 1〜6」● 
 
原題:"The Green Mile"




1997年2〜7月
新潮文庫刊

全6巻

2000年01月
新潮社
愛蔵版刊行
(3500円+税)


1997/08/28

1.「ふたりの少女の死」
2.「死刑囚と鼠」
3.「コーフィの手」
4.「ドラクロアの悲惨な死」
5.「夜の果てへの旅」
6.「闇の彼方へ」

コールド・マウンテン刑務所では、死刑囚が最後に歩くリノリウム張りの通路を“グリーン・マイル”と呼んで いた。本作品は、同刑務所を舞台に、「不思議な鼠と巨漢の黒人死刑囚をめぐる、奇跡と恐怖、癒しと救済の物語」とのこと。
しかし、

1.
は、あっさりしていて、何程のこともない。
2.は、物語の揺り戻しがあり、まあまあ。
3.は、フムフム、少し面白くなってきたという風。
4.は、ぐいぐいと、作中世界に引きずり込まれます。理屈などなんのその、ただただ、読みふけってしまう、という結果。
6巻揃ってから読み出してみると、僅か3日。この短く、キングにしてはあっさりしているという作品を、6カ月かかって読み上げた人のお気持ちは如何なるものだったのでしょう?
6冊まとめ読みはルール違反なのでしょうか。(^^;)

 

3.

●「ドラゴンの眼」● ★★
 
原題:"The Eyes of The Dragon"     
訳:雨沢泰




1987年発表

2001年03月
アーティストハウス刊
上下
(各1886円+税)

 

2001/08/22

 

amazon.co.jp

本書は、S・キングが12歳の愛娘ナオミのために書いた限定出版作「ナプキン」に、手を加えて刊行した冒険ファンタジー。ですから、子供向けの冒険物語です。
となると思い浮かぶのはハリー・ポッターですが、同作品より少し低学年向きで、かつもう少しファンタジー的、と感じます。でも、大人が読んでも子供と一緒に楽しめる作品という点では「ハリー・ポッター」と同様です。
本作品を読んで強く感じるのは、S・キングの物語りのうまさです。
キング作品はこれまで2作しか読んでいないのですが、本書を読むと、キングがベストセラー作品を連発してきた理由が判る気がします。あっという間にこの物語の世界に引き込まれてしまうのですから。途中ページを閉じるのが無念に思える小説、というのは、そう多くはありません。本書はまさにそんな小説のひとつです。
物語のうまさと並ぶもうひとつの魅力は、主人公である王子ピーターにあります。勇敢で凛々しく、常に正々堂々としていて、将来国王になるべくして生まれてきた王子、というのがその人物像です。
そのピーターは、魔術師フラッグの悪計により、愛する父王殺害の罪を負わされ、脱出不可能と言われる高さ90メートルの牢獄“針の塔”に幽閉されます。如何にしてピーターは針の塔から脱出するのか、そしてどのように宿敵フラッグを倒すのか。それがこの物語のクライマックスです。
ストーリィも登場人物も、極めて単純です。それでも惹かれるのは、王子ピーター、その親友ベン、執事の息子デニス、ピーターの弟トマスと、少年から大人に成長していく若い世代が中心のストーリィであり、それが明るい希望を感じさせるからでしょう。また、物語ですから嫌な大人も勿論登場しますが、嫌味が後に残らない。それ故に気持ち良く読めるところが、この物語の楽しい理由です。
なお、キングの娘と同名の、ナオミという勝気な娘が登場するのもミソ。娘さんへのプレゼントなのでしょう。

   

4.

●「セ ル」● 
 
原題:"CELL"        訳:白石朗




2006年発表

2007年12月
新潮文庫刊

上下
(各705円+税)

 

2008/02/14

 

amazon.co.jp

10月 1日、ボストン、午後 3時 3分。
主人公クレイ・リデルが歩いている途中の街中で、一瞬にして人々の狂気的な行動が始まります。
犬に噛み付いてその耳を齧り切るビジネススーツ姿の男性、パワースーツ姿の女性の喉笛に噛み付き血を浴びている少女。そして次々と、人々の異常な行動が繰り広げられていきます。
いったい何が起きたのか?
後に<パルス>と呼ばれるこの現象、それに共通するのは、異常化した人々がその時一様に携帯電話を使っていた、ということ。
クレイは別居中の妻と息子の身を案じ、仲間となったトム・マッコート、15歳の少女アリス・マックスウェルと共にメイン州を目指す、というストーリィ。

人間性を失って凶暴化した携帯人間から逃れ、正常な人間が生き延びる道を探すというストーリィ、最近見た映画アイ・アム・レジェンドを思い出します。
似てはいるものの、現在誰しも(私も含め)手放せなくなった携帯電話に端を発しているというところが、いかにもS・キング的現代社会ホラー。
その点に興味を惹かれ読んだのですが、どうもホラーと私は相性が合わない所為か、いまいち楽しめませんでした。
それでも、この異常な事象についてジョーダンという寄宿学校生徒の語る解説が面白い。これが如何にも現代ならでは。

着想が面白い点は認めるとして、読みながら冗長さを感じてしまうのはアメリカ小説について常のこと。
また、折角仲間となり共に道中を続ける仲間だというのに、3人の内の1人が呆気なく死んでしまうのは、私としては納得し難いこと。
そして、結局はホラーに始まり最後までホラーに留まるという点が、私に合わないところと思う次第です。

  


 

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