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Marie=Philippe Joncheray 1974年生、ソルボンヌ大学で現代文学、国立東洋言語文化学院で中国語を学んだ後、中等学校と高校で十年間フランス語を教える。現在、作家業に専念。 |
「あなたの迷宮のなかへ−カフカへの失われた愛の手紙−」 ★★☆ 原題:"J'avance dans votre labyrinthe" 訳:村松 潔 |
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2024年02月
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1919〜20年、フランツ・カフカと恋人関係にあったミレナ・イェセンスカーがカフカに宛てた手紙、失われたその多数にのぼる手紙を創作した書簡集。 本作のミレナからカフカへの手紙は、すべて著者による創作ですが、いったん本書の世界に入り込んでしまうと、そんな思いはどこかに消し飛んでしまいます。 これこそミレナの手紙だ、そう感じるばかりです。 そして、カフカ「ミレナの手紙」と本書を続けて読んでみると、カフカとミレナの間にはそもそもズレがあったのではないか、と強く感じられます。 その経歴、本書から感じられるとおり、ミレナとはエネルギッシュな女性だったのでしょう。カフカとは対照的です。 カフカの手紙が理念的、妄想的であるのに対して、ミレナの手紙はとても現実的、肉体的です。 ただ、ミレナもまたカフカに負けず、カフカへ多数の手紙を書いていたのでしょうから、自分と言う人間を訴え、誰かに理解されたいという思いを抱えていたのでしょう。 本作は、ミレナ本人だけでなく、カフカという人間像もくっきりと浮かび上がらせています。 その点、お見事!の一言。 本作での手紙は、1920年 3月 6日から1923年12月 1日まで。 終盤は、二人の関係が終わりを遂げていく過程です。 何故二人は別れたのかという理由も、この創作書簡集を読むと得心が行きます。 その意味で、本作は単なる手紙の創作というに留まらず、カフカを知る意味でもとても意義のある作品、そう思います。 ※ミレナ・イェセンスカー:1896-1944 チェコのジャーナリスト、編集者、翻訳家。 夫は銀行家・文芸評論家であったユダヤ人のエルンスト・ポラック、後に離婚、再婚。 ユダヤ人援護活動に関わり、ナチスの強制収容所に収容、腎臓の悪化で死去。 |