マリ=フィリップ・ジョンシュレー作品のページ


Marie=Philippe Joncheray  1974年生、ソルボンヌ大学で現代文学、国立東洋言語文化学院で中国語を学んだ後、中等学校と高校で十年間フランス語を教える。現在、作家業に専念。

 


                          

「あなたの迷宮のなかへ−カフカへの失われた愛の手紙− ★★☆
 原題:"J'avance dans votre labyrinthe"     訳:村松 潔


あなたの迷宮のなかへ

2022年発表

2024年02月
新潮社

(2400円+税)



2024/03/23



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1919〜20年、フランツ・カフカと恋人関係にあったミレナ・イェセンスカーがカフカに宛てた手紙、失われたその多数にのぼる手紙を創作した書簡集。

本作のミレナからカフカへの手紙は、すべて著者による創作ですが、いったん本書の世界に入り込んでしまうと、そんな思いはどこかに消し飛んでしまいます。
これこそミレナの手紙だ、そう感じるばかりです。

そして、
カフカ「ミレナの手紙と本書を続けて読んでみると、カフカとミレナの間にはそもそもズレがあったのではないか、と強く感じられます。
その経歴、本書から感じられるとおり、ミレナとはエネルギッシュな女性だったのでしょう。カフカとは対照的です。
カフカの手紙が理念的、妄想的であるのに対して、ミレナの手紙はとても現実的、肉体的です。

ただ、ミレナもまたカフカに負けず、カフカへ多数の手紙を書いていたのでしょうから、自分と言う人間を訴え、誰かに理解されたいという思いを抱えていたのでしょう。

本作は、ミレナ本人だけでなく、カフカという人間像もくっきりと浮かび上がらせています。 その点、お見事!の一言。

本作での手紙は、
1920年 3月 6日から1923年12月 1日まで。
終盤は、二人の関係が終わりを遂げていく過程です。

何故二人は別れたのかという理由も、この創作書簡集を読むと得心が行きます。
その意味で、本作は単なる手紙の創作というに留まらず、カフカを知る意味でもとても意義のある作品、そう思います。

※ミレナ・イェセンスカー:1896-1944
チェコのジャーナリスト、編集者、翻訳家。
夫は銀行家・文芸評論家であったユダヤ人のエルンスト・ポラック、後に離婚、再婚。
ユダヤ人援護活動に関わり、ナチスの強制収容所に収容、腎臓の悪化で死去。

      



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