博物館めぐり

 2017年にフランスのマクロン大統領がアフリカ文化遺産の返還を宣言し、そして4年後の2021年に、フランスはベナンにダホメ王国アボメー宮殿から奪った文化財26点を返還しました。以来イギリスからナイジェリア、ドイツからナイジェリア、オランダからインドネシアとスリランカ、アメリカからナイジェリアへと、文化財返還が次々におきています。

 文化財の返還とともに各国で強力に進められているのが、出所調査です。たとえばイギリスの大英博物館では、2020年にブラック・ライブズ・マターの抗議活動が興隆すると、世界中から文化財を収奪したと博物館にも批判がよせられました。そこで代表的収蔵品と大英帝国との関係を解説したガイド・ルート(Collecting and empire trail)が設定され、どのようにして収蔵したのか、出所・由来・経緯が解説されるようになりました。しかしながら解説された物件はごくわずかにすぎません。

 公開されている大英博物館のデータベースで、エジプトが返還を要求している有名なロゼッタストーンを調べてみると(British Museum Object Database reference number: EA24)、説明と形状、制作年代、発掘者、出土地、材質、大きさ、由来、取得経路と時期などの一般的記述以外に、詳細な文献目録も載せられてます。いまや博物館には、公共的社会資本としての収蔵品に関する情報公開と、透明性がもとめられています。

 現在欧米諸国では博物館の収蔵物から帝国主義や戦争の痕跡を見出し、過去の暴力・不平等・抑圧などの不正義を是正する動きが活発になっています。一方、近代日本は帝国主義列強諸国に参入しようと、脱亜入欧の目標をかかげて東アジアで戦争と植民地化を進めました。日本の博物館の収蔵品からも、欧米に類似した過去の不正義を見出すことができるでしょう。ただし収蔵品から過去を見つめるには、収蔵品の情報公開と透明性が不可欠なのです。

 はたして欧米の博物館のように、日本の博物館・美術館で過去の痕跡を見出せるでしょうか、見ていきたいと思います。


根津美術館  根津嘉一郎(初代、1860〜1940年)のコレクションをもとにした美術館。根津は東武鉄道などの鉄道事業に携わった実業家です。2代嘉一郎が1940年に財団を創立して、翌年に根津美術館が開館しました。1954年に美術館本館を再建し、以後増築をくり返して、2009年に現在の本館が竣工しました。
 所蔵品は1940年の開館当時に4,643点でした。2025年3月末時点で7,630件に達し、国宝7件、重要文化財93件を所蔵してます。とくに尾形光琳の『燕子花図屏風』、『那智瀧図』、古経などが有名です。




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