byやませみ

2 温泉の分類いろいろ

2-1 温泉水の化学的性質 温泉分析表のみかた

温泉旅館や日帰り温泉施設の浴場の入口などに、「温泉分析表」が掲示されているのをご覧になったことがありますか? これは伊達や自慢で飾っているわけではなくて、温泉法の第13条に「温泉成分等の掲示」として義務づけられているものです。ではこの分析表は誰が作っているかというと、これは環境庁によって指定された分析機関(公的機関と民間会社)に依頼されて作成されています。下に一般的な温泉分析表の例を示しておきます。

温泉分析表の例

1.源泉名 ???温泉 第1源泉
2.泉質 ナトリウム・カルシウム-塩化物泉(低張性弱アルカリ性温泉)
3.泉温 摂氏40.0度(気温27.0度)
4.沸出量 約270リットル/分(掘さく動力揚湯)
5.知覚的試験  無色透明微塩味硫化水素臭
6.pH値 8.6
7.効能 適応症、禁忌症など(略)

実はこの温泉分析表には重大な欠陥があります。分析の日付がはいっていないことです。温泉の成分は年月によって少しづつ変化していきますから、何年もたつと当初の分析値とはほど遠い成分になっていることもあります。法的には登録時に一度分析すれば良いことになっているとはいえ、何十年も前の分析表を平気で掲示しているような温泉施設は、ちょっと真摯さに欠けるといえないでしょうか? 温泉の分析にはだいたい5〜10万円くらいかかりますから、そう度々できることではありませんが。

さて、われわれが一番注目して見るのはやっぱり最後の効能のところではないでしょうか。これは誰がきめているのか? 古くから開湯されている歴史的な温泉では、「傷の湯」とか「眼の湯」とかの効能が知られているものがあります。これは何世代にもわたる人体実験を経てわかった結果というもので、充分な信頼性をもっています。ところが、新しい温泉ではこうした効能はまだ未知ですよね。じつは、温泉分析表の成分から自動的に決定されているのです。効能書きをよくみると、神経痛とか便秘とか皮膚病とかあんまり当たりさわりのない症状が並んでいます。逆に、効能書きに「肝臓ガンに効く」なんてことが書いてあったらその根拠を良く確認しておく必要があります。

最も注目しなくてはならないのは、禁忌症のところです。効能のほうにばかり目がいってなんとなく見過ごされがちですが、ある種の症状の人にはかえって病気が悪化することになる場合もあるのです。

温泉分析表は本当は2枚組になっていて、上の例はその1枚目です。2枚目のほうには詳しい化学分析結果がのっていますが、これは掲示しなくても良いことになっています。私などはせっかく温泉に行って化学分析結果が表示されていないとがっかりしてしまいます。自分の浴感と分析表の成分がどう対応しているかを確かめるのを楽しみにしているからです。

温泉水の化学的性質による分類をしてみましょう。温泉ファンであればなんとなく聞いたような用語が出てくると思います。

1) 泉温(温泉の温度)
厚生省の「衛生検査指針」では泉温によって少し細かく分けています。

冷鉱泉 25度(C)以下
微温泉 25度(C)以上34℃未満
温泉 34度(C)以上42度(C)未満
高温泉 42度(C)以上

温泉法では25度(C)以上を温泉としていますが、先にいったように冷鉱泉でも含有成分が規定量に達していれば、温泉と名乗ることができます。上の区分での「温泉」の温度は、入浴にちょうどいいですよということです。冷ましたり沸かしたりしないですむので源泉のままを楽しむことができてありがたいことです。

2) 浸透圧
温泉に溶けている成分の量(濃度)によって、人体への浸透圧が違ってきます。
温泉水1kgあたりの溶存物質総量で分けられています。

低張性 hypotonic 8g以下
等張性 isotonic 8g以上10g未満
高張性 hypertonic 10g以上

等張泉は人体の細胞液とほぼ等しい浸透圧をもっています。スポーツドリンクなんかと同じです。高張泉は浸透圧が大きく、成分が細胞に入り込む割合が多いといわれています。低張泉では長湯すると皮膚がしわしわになります。

3) 水素イオン濃度(pH)
pHは、昔の高校化学ではペーハー(ドイツ語)と読むと教わりましたが、ピーエイチ(英語)がほんとです。くわしくは温泉の化学のなかでとりあげますので、ここでは分類だけです。

強酸性 strong acid pH2未満
酸性 acid pH2以上4未満
弱酸性 weak acid pH4以上6未満
中性 neutral pH6以上7.5未満
弱アルカリ性 weak alkali(base) pH7.5以上9未満
アルカリ性 alkali(base) pH9以上


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