温泉の科学特別編
良い温泉を選ぶために
 by
やませみ

栃木県新湯温泉むじなの湯

その2 泉質による浴感の違い

立ち寄り湯や一泊温泉では、浴感の好き嫌いが満足できるかどうかの最大の分かれ目なので、簡単ながら触れておきます(私個人の好みも入っています)。泉質名だけを見てどんな温泉かだいたい判断できるようになれば、温泉選びに大いに役立つでしょう。

・単純温泉

だれにでも優しく、好き嫌いの出にくい泉質です。ただし、含有成分がどの塩類泉に近いかで浴感はだいぶ違ってきます。アルカリ性の強いナトリウムー炭酸水素塩泉(重曹泉)型のものは、滑らかな感触で、つるつる感があるので女性には好評なようです。アルカリ性単純温泉と書かれているものには、このタイプが多いようです。

・塩化物泉

ナトリウムー塩化物泉(食塩泉)はだれにでも分かるしょっぱい温泉です。
高濃度の塩化物泉(強塩泉)では、ふつうは微量にしか含まれない成分を明瞭に感じるほど含有していることが多いので、香りや味で面白い温泉といえるでしょう。ただし、海岸に湧出するものは、海水が熱くなっただけのことがあるので、これは期待はずれになりがちです。山奥の塩化物泉をねらいましょう。

よく温まるといわれていますが、夏場は汗が引かないので辛いです。カルシウムやマグネシウムを含む含土類食塩泉(旧泉質名)は、浴後べたべたするのでちょっと困りものです。

・炭酸水素塩泉

ほとんどがナトリウムー炭酸水素塩泉(重曹泉)で、滑らかさと浴後のさっぱり感が特徴です。夏場に向いています。皮膚を清浄にする効果が強いので、美肌の湯といわれますが、アルカリ性の強いものでは脱脂効果も強力なので、浴後は保湿クリームなどでケアする必要があります。胃散と同じ成分なので、ちょっと食べ過ぎたかな、というときには飲泉をお薦めします。

カルシウムなどを含む重炭酸土類泉(旧泉質名)は、白や黄褐色に濁ることがあります。とくに硫化水素や炭酸ガスを多く含んでいて、pHが酸性に片寄ると、魅力的な白濁湯になることがあり、たいへん人気が高いです。さらに、お湯から析出した沈殿物が浴槽を厚く覆っていることがあり、これは好き嫌いが分かれますが、なかなか面白いものです。

・硫酸塩泉

含有する陽イオンの種類で、細かく分かれています。
ナトリウムー硫酸塩泉(ボウ硝泉)とカルシウムー硫酸塩泉(石膏泉)は無色透明なことが多いので、単純温泉とあまり違いがよくわからない感じがしますが、飲んでみると、それぞれ特徴的な味がします。とくに、純粋な石膏泉は甘い香りと味がして、私はたいへん好きです。浴用では皮膚の弾力性を回復し、引き締める効果が強いので、しわのばしの湯、といわれます。飲用では便秘に良く効くので、長期の旅行などには重宝します。

マグネシウムー硫酸塩泉(正苦味泉)は、日本ではたいへん珍しい泉質です。私はまだ経験したことがありません。もし出会ったらどんな感じだったか教えてください。

アルミニウムー硫酸塩泉(明礬泉)は純粋なものは少なく、たいていは鉄を伴っていて、明礬・緑礬泉とよばれます。「礬」はアルミニウムの和名で「ばん」と読みます。明礬は「みょうばん」、緑礬は「りょくばん」です。いずれも旧泉質名で使われる用語です。

新鮮なうちは透明ですが、浴槽に注入して時間がたつと緑褐色に濁ってきます。酸性の温泉に多いので、浴感は酸性泉に準じます。飲用すると、独特の渋いようなサビっぽいような味がしてマズいといわれることが多いですが、慣れてくるといろんな味が感じられて奥深いです。

・鉄泉

上の鉄ー硫酸塩泉(緑礬泉)のほかに、鉄ー炭酸水素塩泉(炭酸鉄泉)と単純鉄泉などがあります。新鮮なものは美しい緑色をしていますが、このような状態に出会えるのはたいへん稀です。浴槽ではたいてい酸化が進んで、いわゆる赤湯になっています。鉄は微量な成分なので、浴感は塩類泉の泉質によります。浴感より色を楽しむべきでしょう。また、飲用では鉄分補給に良く、貧血に即効性があるといわれていますので、中高年の女性に人気があるようです。冷鉱泉に多い泉質です。

・硫黄泉

硫黄の香りを嗅ぐと、ああ温泉に来たなあ、と実感しますね。日本人はとくに硫黄泉が好きですが、外国人にはあまり評判良くないみたいです。臭いんだそうで・・・
含まれる硫黄の状態によって、透明な緑色だったり、白濁したりと、色の変化が面白い泉質です。また、少し黄色っぽい湯ノ花がひらひら舞っているのも、眺めていて飽きません。
酸性の硫黄泉(硫化水素泉)は火山の近くにあり、白濁湯が多いので、秘湯気分が満点です。

食塩泉に硫黄がともなってくる含硫黄ー塩化物泉は、硫黄の香りと食塩泉のぬくもり感が同時に味わえて、たいへんお得な泉質といえます。

単純硫黄泉はちょっと注意が必要です。硫黄の含有量が少ないものでは、加熱や循環で容易に失われてしまうので、ただのお湯に変貌していることがあります。冷鉱泉の沸かし湯に多いようです。

・炭酸泉

二酸化炭素(炭酸ガス)が溶け込んでいる温泉です。単純CO
2泉と略されることもあります。いわゆるサイダーなので、新鮮なものは飲むと清涼感があって美味しいですが。残念ながら冷鉱泉が多く、浴用に加熱すると炭酸ガスの大部分が抜けてしまうのでただのお湯になってしまいます。ここは我慢して冷たい源泉浴槽に浸かりたいものです。はじめは辛いですが、長く入っていると不思議にぽかぽかしてきます。これは炭酸ガスの吸引で抹消血管が拡張して血行が良くなるせいだといわれています。

炭酸泉と書かれていなくても、お湯につかると細かい泡が身体についてとても気持ちが良い温泉がときどきあります。お湯が新鮮な証拠なので、これは大当たりです。

・放射能泉

放射能を発する元素の種類によって、ラドン泉、ラジウム泉、トロン泉などがあります。
放射能自体にはなんの味も匂いもないし、元素の含有量もひじょうに微量なので、単純放射能泉は最も浴感に乏しい泉質です。温泉ファンには人気がありませんが、放射能はいろんな病気に効果あるといわれていますので、療養向きの温泉です。
ただし、高濃度の塩化物泉にともなう放射能泉は、変わった微量成分を含んでいることが多いので、究極の通向きといえなくもない。

・酸性泉

pHが3以下の温泉を酸性泉といいます。硫黄(硫化水素)成分だけが多い単純酸性泉と、金属含有量に富む酸性硫酸塩泉があります。独特の酸っぱい味と、肌に刺激的な浴感が特徴で、やみつきになります。

皮膚病に療養効果が高いですが、反面、皮膚の敏感な人は肌荒れを起こしますので、要注意です。とくに関東の人は冬場たいてい乾燥肌になっているので、影響が出やすいようです。ほとんどが火山近くの高所にある温泉地なので、夏場の避暑や新緑・紅葉など自然に親しみながら利用するのがベストです。


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