みしゅらん掲示板 特集クチコミ情報


アメリカ&カナダの温泉コラム 2008年1月

カナダに在住して温泉開発をされているマイク佐藤さんから、昨年は「カナダの温泉事情」を紹介してもらいました。今年はアメリカとカナダの温泉に関するトピックを送っていただくことになりましたので、これから「アメリカ&カナダの温泉コラム」と題して紹介します。(項目見出しはクマオがつけました。)



第4回 北米の温泉の定義(1)



これまでの温泉の定義

北米ではここ数年、一般の温泉ファンが発信して、利用者がもとめる新しい温泉のルール〔温泉全般の定義〕を制定しようとする動きがあります。North American Hot Springs Associationなどがその中心でしたが、地熱開発なども取り上げたので間口が広くなりすぎて、温泉ファンが納得できる新しい北米の温泉の定義を定めることができませんでした。

それまでは温泉の法規に関する情報は、一部の政府関係者、地質学者、温泉旅行作家などの、その分野の専門家からのみ発信されていました。その結果、州の環境保護行政や、保健法の大幅な改正を求めるような斬新な提言はほとんどありませんでした。これは日本と比較すると国としての水資源に対する基本的な考え方の大きな相違の結果です。

北米は環境行政がしっかりしているので、温泉の使用を許可しないことや、それに便乗した建造物を造らせないことが結果的に源泉の保護につながるという考え方です。北米には北米なりの水利用の歴史がありますので、それだけに、温泉に関しては日本のようにほとんどなし崩しに進めてきた国とは行政指導のあり方がちがうのです。そのためあえてその法律を変えていくには、考えられないような大変な労力と時間を要するわけです。

温泉ファンが新しい定義を検討

それならばインターネットの発達で普通の温泉ファンが情報発信できるようになったので、一般の温泉ファンがインターネットで情報発信していくことによって徐々に状況を変化させたいという話になってきました。北米の温泉の定義と分類に一般の温泉ファンが情報発信して、北米の温泉の状況を徐々に変化させられる可能性は確かにあります。

北米には温泉法が無いので、ユーザーが情報発信して温泉ネットや温泉の本に使用されれば、将来は北米の温泉の定義と分類の基本になる可能性もでてきます。そこで昨年の夏にオレゴン州で、温泉ファン、温泉ネットの管理責任者、温泉の有識者、旅行作家などからなる「北米の温泉の定義と分類(North American hot spring definition & classification)」を討議をする会議がありました。そこで日本の温泉法を理解できる立場(日本語が読める)にあることや、温泉の経営や開発にたづさわっていることから原案つくりのメンバーに私も参加させられました。

日本と比較し宿泊施設の伴う温泉地が少ないので、温泉に関する利害関係が少ないと思ったのですが、温泉ファンの中には温泉や地熱関係の専門家、弁護士も加わっていたのでその調整が大変でした。単に温泉ファンだけでなく、その分野の専門家が見ても納得できる北米の温泉の定義と分類が必要だというのです。

温泉の楽しみ方の違い

北米には日本のような温泉法がありませんので、ロサンゼルス市内にあるような市民プールと大自然の中にある温泉が同じプールの法律で運用されることになります。プール法では塩素殺菌、水着着用、プールの色、プールに使用できる材料などが詳細に決められています。入浴料を徴収し温泉施設を営業する場合は必ずこのプールの法律に従って、企画、設計、建築、運営しなければなりませんので、法律通りに造るとどうしても温水プールやスパプールにになってしまいます。これには増加してきたナチュラルソーカー(裸入浴者)の温泉利用や、野天風呂建設の実態とあわなくなってきました。北米の温泉利用はほとんどがレジャー中心の温泉利用ですので、大きく分けると温泉の楽しみ方としては次の二つに分類できることになります。

(1)温泉プールやスパープールでカップルや家族がのんびりする
(2)大自然の温泉(野天風呂)を探して裸で入る

それまでは大都市からのアクセスがよければよいほど、温泉リゾートやスパホテル型の温泉施設が多く、アクセスが悪くなるにつれて、会員制やスピリチュアルの温泉施設が点在し、もうこんな僻地ではビジネスにならないというような場所には、天然の野天風呂が残っているというのがほとんどでした。観光客がたくさん来てお金を落とせそうなところは、温泉リゾートやスパにして、余り期待できない場所では、癒しやスピリチュアル効果で人を呼び、アクセスが悪すぎでビジターが来そうでないところは無料の野天風呂というパターンです。

ナチュラルソーカーの増加

「温泉プールやスパープールでカップルや家族がのんびりするの」が温泉の楽しみ方のメインの時代は、それまでの州の保健法やプール法で何とかなりました。ところが30年ほど前から、温泉地のロケーションに拘り、不便でも、本物の温泉を堪能したいと思う温泉ファンが急激に増加して来たのです。

それまでは原始温泉の野天風呂に集まるナチュラルソーカーは、ほとんどがヒッピーまがいのいかがわしい人間と思われていました。ところがその原始温泉が、アウトドアレクレーションやキャンパーなどにレジャーとして頻繁に利用されるようになってきたのです。その結果、北米の温泉ファンは体力と行動力がありますので、どんな秘境の温泉でも温泉ファンの痕跡が見られるようになりました。そして現在ではそれが何千万人もの温泉ファンに膨れ上がっています。

北米の温泉ファン(Natural Soaker)が温泉に求めるのは“くつろぎ”や温泉そのもので、源泉が本物で天然の野天風呂があればそれだけで満足します。ドライブ、ハイキング、そして野天風呂という温泉めぐりのパターンがほとんどなので、特に温泉に到達するまでの自然環境にこだわります。自然環境のスケールがちがうので同一には論じられませんが、これは日本のここ数年の「源泉かけ流し」ブームのような温泉の見直しの雰囲気と同じ傾向だと思います。かっては日本の大温泉地ではお湯を循環させ消毒するのがあたりまえだったのが、それが泉質やお湯の新鮮さを売り物にする温泉旅館が増えてきているのと同じような流れです。

スパブームの問題

それと今回の動きには近年のスパブームで、北米でスパ施設が飛躍的に増加している危機感もありました。カナダには全土で1,000箇所以上のスパ施設がありますが、其の中で源泉が温泉であるのは僅かに4箇所のみで、残りの99.95%はエステ関連の施設だからです。この4箇所も(Hot Springs Resort & Spa)と従来からある温泉施設にマッサージやエステを加えて、健康ブームに便乗しているに過ぎません。

これはアメリカも同じでSpa Resortと称したら、ほとんどが温泉ではなく、鉱泉、冷泉、あるいは水道水を沸かししてお客に提供しているのが実情です。ボーリング温泉がアメリカで一番多いのはカリフォルニア州です。そのためカリフォルニア州には温泉リゾートやスパリゾートが多いので、日本のような野天風呂を期待して行くと必ず失望します。これは好みの問題ですが、Hot Springs Resort や Spa Resort のサインがあったら期待しないほうがよいと思います。

スパを温泉と書くのはほとんどが日本人で、北米ではスパというとエステサロンとプールで、温泉を思い浮かべる人はいません。しかしホットスプリングスと名乗れるかどうかで、北米でも日本と同じで、ビジネスに影響することがありますので、温泉本の誤記や法律の盲点を悪用しようと考える経営者が出てきます。

それと日本の温泉に似せたスパ施設がNew Mexico州をはじめ、アメリカ各地に建設されています。どれもが日本風の庭園を造り日本の温泉風にしていますが、これも源泉が温泉ではないので温泉を名乗ればニセ温泉となります。そのために今後起こるであろうトラブルを想定して、早急に北米の温泉の定義と分類の原案を作る必要に迫られてきました。

日本と違う天然温泉の定義

カナダでは大自然の中に自然な状態で湧出しているのが温泉であるという考え方なので、その点ではカナダの自然保護行政は参考になりました。参考にしようと思っていた日本の温泉法は、25度以上の水温と指定された成分が何か一つ所定の含有量以上が入っていれば温泉として認められるので、結構あいまいな法律なためほとんど参考になりませんでした。

25℃の水は裸で入浴する北米の温泉ファンの体感ではあくまでも水であって、それを温泉とは認められないのが大勢でした。しかし北米でもほとんどの州で低温度温泉を21℃(71F)以上としていますので、21℃(71F)以上の自然湧出泉を低温度温泉に分類するのは常識的なボーダーになります。

日本のように25℃で温泉となる温泉法を悪用して、市町村が公営の温泉施設を建設するような行政は北米では考えられません。また北米ではボーリング温泉を「天然温泉」として宣伝するような市町村も存在しないので、この分類で問題ないと思われます。

天然温泉とは少なくとも年間を通して加温をせずに入浴できる37℃以上の自然湧出泉で、「ボイラー室」がある施設は天然温泉の範疇には含まないが多数意見でした。カナダの温泉はすべて自然湧出であり、ボーリングやポンプアップなどはありませんので、日本と比較してどうしても掘削泉のガイドラインが厳しくなります。そのためボーリングで無理やり掘った温泉は、天然温泉とは完全に区別すべきで、地下1,500mもの深さからポンプアップした大深度泉は、あくまで地下水であるがほとんどの意見でした。

日本のように車で15分も飛ばすとすぐに公営のボーリング温泉施設が出現するのは、自然の景観にこだわる北米の温泉ファンからすればかなり矛盾していると思われています。日本の温泉ファンのような泉質こだわり派は北米にはいません。しかし会議の参加者のほとんどが日本での入湯の経験がありましたので、日本の温泉法がなぜボーリング温泉を規制しないのかを疑問に思っていました。

 

北米でも一般の温泉ファンが情報発信して、利用者がもとめる新しい温泉のルール〔温泉全般の定義〕を制定しようとする動きがありますので、次回はその原案の内容についてお知らせします。

マイク佐藤(Mike Sato)


もどるTOP目次すすむ