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アメリカ&カナダの温泉コラム 2008年1月

カナダに在住して温泉開発をされているマイク佐藤さんから、昨年は「カナダの温泉事情」を紹介してもらいました。今年はアメリカとカナダの温泉に関するトピックを送っていただくことになりましたので、これから「アメリカ&カナダの温泉コラム」と題して紹介します。(項目見出しはクマオがつけました。)



第2回 カナダの温泉保護



保護地域管理計画

年末にBC環境省(BC Ministry of Environment)から、1月中旬にバンクーバー島のナナイモ市で開催される、Protected Area Management Planning (保護地域管理計画)に参加するよう要請がありました。 この手の会合は今まで参加しても余り成果はありませんでしたが、招待状には温泉の専門家として温泉の保護と適正利用に関する意見を聞きたいと書いてあったのと、宿泊代などの経費が役所負担なので断る理由もないので出席してきました。

カナダでの温泉保護

それまで私は、温泉の保護は日本のように温泉資源を守って末永く楽しんでもらおうするのが温泉の保護だと思っていましたが、それがどうもカナダの保護は意味が全く違うのです。私は「温泉は限りある自然資源なので将来も利用できるよう保護する」、そのためには適正利用に関する調査研究が重要と思っていました。

ところが参加者のほとんどは温泉の使用禁止こそが温泉保護だと考えていたのです。 現在の日本の温泉保護は、掘削技術の向上で大深度掘削による温泉湧出量が、既存の温泉施設の湧出量に影響を及ぼすので、汲み上げ量などの指導基準を制定して必要な指導を行うのだから、それなりに理解できます。

ところが今回の会議の意図する温泉保護は、入浴客に人気のある既存の野天風呂の全面使用禁止が目的なので、私のような温泉愛好家には到底納得できないものでした。 もともとBC州の温泉の約90%は州有地の中にあり、州有地の開発がほとんど不可能な事を考えれば、これ以上温泉資源を保護する施策は必要ないはずです。そしてほとんどの温泉が州立公園、レクレーションサイト、生物保護区(Ecological reserve)などに指定され、すでに二重に保護されています。

生物保護区(Ecological reserve)の大半は人跡未踏の秘境にあるので、さしあたり温泉使用制限の問題はあまり影響ありません。しかし今回の会議で指導基準強化の答申を受けていた二箇所の温泉は、カナダの温泉の中では比較的アクセスのよい温泉なので、これらの温泉まで使用禁止になってはたまらないので利用者を代表してその答申には反対してきました。


ラムクリーク温泉

特にラムクリーク温泉(Ram Creek Hot Springs)はロッキー山脈の西側にあり、慎重にドライブすれば乗用車でもハイウエーの93/95線から30〜40分で到着できる、カナダでは貴重なアクセスのよい野天風呂です。(ただ大雨の後は洪水で林道がかなりダメージを受けるので注意が必要) それだけに夏場は温泉愛好家のメッカになり、近郊には何箇所かの温泉もあるので、重要な観光資源でもあると思います。

この野天風呂は40年ほど前に、温泉ボランティアがダイナマイトで石灰岩を爆破して穴をあけ、その周りに石灰岩を積んで、温泉をせき止めて造ったらしいのです。野天風呂の底は砂と砂利で、温泉ボランティアが建設したにしては巧くまわりの自然に調和しており、日本と比較してもそんなに遜色のない野天風呂です。

泉質は無色透明の単純泉で、源泉が数箇所あり湯量もかなり豊富ですが、泉温が36〜37度の低温泉なのでサマータイムしか利用できないのが唯一の欠点で惜しまれます。野天風呂が二つあり、大きな野天風呂は直径が7〜8mあり、十数人が同時に入湯できます。この野天風呂からの眺めは素晴らしく、これだけの野天風呂が生物保護区に指定される何年か前に完成していたのは神様の悪戯ではないかと思っていました。



ラムクリーク温泉の全景

下段でリラックスする友人のウェーン


上段の温度計測中の私



ラムクリーク温泉の保護強化

ここの温泉は1971年に生物保護区に指定されました。 温泉地に見られる特殊な自然の生態系を保護し、科学的な研究や教育目的での利用を目的とした生物保護区です。 生物保護区を一般に公開しているのは、ハイキングや自然観察、写真撮影などの非破壊な研究のためで、入浴などのアウトドアレクレーションのために制定されたものでないので入浴文化の保護は少数意見でした。そもそも源泉の保護と、貴重な植物の生態系が温泉客やその他の要因でダメージを受けないために生物保護区指定されたのだから、温泉利用者の権利を主張する私のほうが会議ではごり押し見えて分が悪いのです。

さらに会議に出席して、ラムクリーク温泉の指導基準強化の答申が、糸トンボの保護にあることが分かり驚いてしまいました。1970年代からの入浴客の増加で貴重な糸トンボ(red listed damselfly)の生息地が破壊され、生息数の減少していると言うのです。糸トンボと温泉を比較されては、どれが糸トンボかの識別も出来ない私にはそれ以上の反論は不可能でした。


温泉保護のありかた

温泉利用の立場を代弁する私のような参加者が二人ほどいたのが幸いして、最初の答申はラムクリーク温泉(Ram Creek Hot Springs)はレクレーション利用は即刻禁止でしたが、ここがカナダの面白いところで、継続審議になりました。ただし将来はレクレーション利用は徐々に制限されて全面禁止は避けられない状況です。

これだけの温泉地、日本ならば地域をあげて開発に邁進し、温泉旅館や温泉街ができる可能性があります。それが糸トンボのために閉鎖されようとしているのですから、これがカナダの奥深さかも知れません。日本のように温泉に便乗して安易に温泉旅館やソバ屋やラーメン屋を許可するような市町村はカナダにはありません。また、利益に群がる軽薄な商売人もいません。過剰なまでに自然環境や地域の景観を保護しているのに国の経済が成り立つカナダは、さすがに底力のある国だとが改めて感心しました。

マイク佐藤


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