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カナダの温泉事情6 カナダのスパ(SPA)事情 2007年3月



マイク佐藤さんからのカナダの温泉事情第6信は、温泉と「SPA」の違いについてです。(本文の小見出しはクマオがつけています。)


「温泉」の英訳はSPA?
          
日本で温泉めぐりをすると、町の標識に SPA とか SPA TOWN と表示しているのを目にします。たぶん役場の職員あたりが、辞書を引いてそのまま使用したのでしょう。そのたびに何で ONSEN とそのまま表示しないのかと思っていました。 カナダに長く住んでいると「温泉」の英訳に「SPA」を使うのは無理があると感じているからです。

いろいろな説はありますが、スパはもともとは温浴をベースに、くつろぎや治癒力向上の環境を提供する施設の意味でした。北米では特に十数年前からスパというが言葉が目に付くようになりました。それまでは同じような施設は「HOT POOL」と言われていました。HOT POOLS は水や温水を利用した健康浴施設の意味が強く、日本のサウナや銭湯に近い施設もあります。

アメリカに「HOT SPRINGS & HOT POOS OF THE SOUTHWEST」いう温泉の本がありますが、この本の中で HOT POOLS は「GAS-HEATED TAP OR WELL WATER POOL」となっています。TAP WATER は水道水のことです。掘削加熱泉でこの範疇に入るものもあります。近年はストレスの増大や高齢社会を背景に、スパとは健康と美の維持や回復のための施設のことで、ほとんどが日本でいうエステサロンみたいなものです。

日本人の場合は日本独特の温泉のイメージがあります。そのため日本の露天風呂のイメージでカナダの商業温泉施設に行くとガッカリさせられます。これらの商業温泉施設は水着着用の温水プールだからです。一方、カナダ人はスパというとエステサロンやマッサージ・エステのことで、温泉を思い浮かべる人はほとんどいません。開発された温泉の中には HOT SPRINGS SPA と称する施設もあり、そこには温水プール、ジャグジーバス、サウナなどがあります。


カナダ、アメリカのスパ

近年の健康ブームでカナダ全土に1000ヶ所以上のスパ施設があります。ところが温泉に関係するのは3施設だけで、あとはすべてエステ関連の施設です。そのうち2箇所では数年前に温泉リゾートにスパの名称を加えて「HOT SPRINGS RESORT & SPA」としました。従来からある温泉施設に、マッサージやエステを加えて新しい客層をターゲットにしたものと思われます。

これはアメリカも同じで「SPA RESORT」と称したら温泉ではなく、鉱泉、冷泉、あるいは水道水を沸かしたものがほとんどです。それでも温泉リゾート等に併設しているスパ施設は、カナダよりもアメリカの方が多いです。ですから、カナダでスパ(SPA)や SPA RESORT の看板があっても日本人が期待する温泉ではないと考えたほうが賢明です。このスパ事情がわかっていると、北米の温泉めぐりの計画を立てるときに貴重な時間をむだにしないで済むと思われます。残念ですが、日本人がイメージするような温泉施設は今のところカナダにはありません。


温泉は貴重なもの

カナダで温泉があるのは北西部の4州だけで、カナダ東部には温泉はありません。ですからトロントやモントリオールの郊外に日本風の旅館や入浴施設を建設しても温泉の表示はできません。温泉はあくまで湧出温度が37℃以上の地中から自噴する温水です。これはアメリカも同じで東部には温泉はほとんどありません。日本のように含有物質による救済がないので、37℃以下の温水や鉱泉を温泉(HOT SPRINGS)と呼ぶこともできません。

しかし近年は日本の温泉モドキの施設が北米に数箇所できるようになりました。温泉ではなく加熱、消毒、循環した水を使用しているので、どんなに日本風の建物や風呂を置いても、温泉(HOT SPRINGS)と称すことはできません。温泉の素を大量に使用しても温泉にはなれないのです。


スパと温泉の勘違い

経営者が自ら温泉と宣伝することはないのですが、それを温泉と書く旅行記がかなり目に付くようになりました。日本から観光で来た人や北米に住む日本人さらにはメディア関係者が、スパが温泉施設であると連想することからくる勘違や、温泉の定義を理解していないことが、このような間違った情報になる原因なのではないかと思われます。残念ながらバンクーバーにボーリングで温水を掘り当てても温泉と表示する事はできません。温泉はあくまで“湧出温度が37℃以上の地中から自噴する温水”です。

ワシントン州に「DOE BAY VILLAGE RESORT」という施設があります。このリゾートは近年まで日本の雑誌や新聞などで温泉施設として紹介されていました。ところが冷泉を沸かした HOT TUB なので、HOT SPRINGS と称することはできません。3年ほど前に私が宿泊してマネージャーに質問したところ、彼らは一度も HOT SPRINGS と言ったことはなく、ある本の誤記が始まりで次に書く人がそれを引用して、今日に至っているそうです。本来このリゾートは「HOT SPRINGS & HOT POOS OF THE NORTHWEST」のいう分類で HOT POOL の範疇に入れるのが妥当なのです。

日本では、十数年前に謀大手新聞の記者が温泉と書き、それを後の人が引用して今日に至っています。シアトル近郊に手頃な温泉施設が無いので、アメリカの温泉に入湯したいという日本人の要望にシアトルの観光業者が便乗した面もあります。一年ほど前にシアトルの日本語関係のサイトの管理者に、温泉と称するのは適切でないと話しました。これはカナダでも同じで、スパを温泉と間違って書くのはほとんどが日本人です。日本でも本来の意味からかけ離れてしまった言葉があると思いますが、北米でのスパはその典型です。


北米の温泉ファンも「源泉かけ流し」にこだわる

北米でも温泉ファンは結構いるので、未開発の温泉でも週末は芋の子を洗うような場所もあります。ただ脱衣所もトイレもなく、川をせき止めただけの温泉が大半なのでワイルドさに驚かされると思います。1970年代から北米では、温泉ファンが飛躍的に増加してきました。彼らは日本の野湯ファンとほとんど同じで、裸で温泉に浸りながら大自然の息吹を楽しんでいます。

北米の温泉ファンは、施設など無くても温泉が深山渓谷にあり自然の地形に近い野天風呂があればそれだけで充分に満足します。彼らはナチュラル・ソーカー(NATURAL SOAKER)と呼ばれています。彼らは循環、塩素消毒なしの FLOW-THROUGH POOL にこだわっていて、これは北米の温泉ファンの中にも浸透している温泉評価の基準です。 FLOW-THROUGH POOL とは源泉掛け流しの野天風呂のことです。

日本でも10年程前から温泉施設の評価の目安に「源泉掛け流し」という言葉が用いられるようになりました。一方、北米では1970年代の出版物に既に CLOTHING POTIONAL や FLOW-THROUGH POOL の記述があります。日本で「源泉掛け流し」という言葉がさかんに使われる前から、北米ではすでに温泉の評価の目安に FLOW-THROUGH POOL があったのです。このことは温泉ファンは日本人だけではなく、北米にも熱心な温泉ファンがいるという事の証明だと思います。





原始温泉オスピカ・コーン


クマオ注:右端の写真の青い服の人物はマイク佐藤氏

オスピカ・コーン(Ospika Cones Ecological Reserve)の写真です。こんな温泉堆積丘もカナダにはあります。

2001年に環境保護区になりました。温かい鉱泉が素晴らしい温泉堆積物の丘を形成しました。保護区は380万坪の広さです。政府関係者でも数人しか保護区に行った人はいません。ヘリコプターによるアクセスのみで、現在は許可の無い人に立ち入りは禁止です。ヘリコプターもかなり離れた場所でないと着陸できません。

私は12年ほど前に200km離れたところで温泉調査をしました。私の温泉調査に同行したパイロットに温泉の兆候について教えておいたら、2年後に温泉かもしれないと知らせてくれました。山火事の調査でその付近を飛行したら偶然に見つけたそうです。私のことを思い出して連絡してくれました。カナダには湖や池が人間の数ほどあるので、パイロット仲間でも誰も知らないといっていました。

こんな雄大で綺麗な温泉堆積丘はカナダでもめずらしいものです。近くの村から70kmも離れており、バンクーバーから1,100kmほど北上します。オスピカ・コーン(Ospika Cones)は将来、もう一度行きたいと思っています。



マイク佐藤 (Mike Sato, Scenic Hot Springs)


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