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カナダの温泉事情11 カナダの温泉日本の温泉 2007年4月



マイク佐藤さんからのカナダの温泉事情第11信は、カナダと日本の温泉に対する考え方の違い、温泉文化の違いについてです。(本文の小見出しはクマオがつけています。)



日本の「温泉」の定義は広すぎる

地中から自然に湧出している温水は世界中のどこの国にもあります。日本人が温泉文化は日本固有のものだとこだわっても、温泉は決して日本だけにあるものではありません。ただ、温水を温泉と思う国と、温泉と思わない国があることは確かです。東ヨーロッパのハンガリーなどの温泉はほとんどが掘削泉で、これはカナダの温泉の定義では温泉にはなりません。

カナダの新聞に載ったハンガリーの温泉の案内では、Geothermal Springs と書いてあり、Hot Springs とは区別しています。日本の露天風呂と野天風呂のような微妙なニュアンスの差があります。日本の温泉の定義だと、基準が曖昧で世界中の何処の国にも温泉があることになります。タンクロータリーで運んでも温泉などというのは自然の摂理に反する横暴だと思っています。

日本は温泉ボーリングが一般化する前の1960年代に、将来を見据えた厳格な温泉の定義を、関係する役所や団体が協議すべきでした。もう手遅れかもしれませんが、東京のビルの谷間や県道の脇に1500mもボーリングして掘り出した深層熱水や、そこにトラックで運び込んで造った石組みの風呂を、天然露天風呂と表示するのはどう考えても無理があると思われます。ボーリングは人工的に温泉を掘り出す手段で、その掘り出した深層熱水を天然温泉と呼べるのは日本だけの特殊な温泉事情です。国際的に理解される解釈とは思われません。

 

北米に日本風温泉?

近年、北米にも日本風のモドキ温泉施設や“お風呂”のような温浴施設が徐々にでき始めています。これを逆に考えれば、日本の温泉文化が普及するきざしですので、早急に国際的に通用する温泉の定義を定める必要があると思います。今の日本の温泉法の定義では、日本人が想像もできないような自称“日本風温泉”が将来は北米の各地に出現する可能性があります。

北米の日本食レストランの90%が、本来の日本食とは似ても似つかないアメリカン・ジャパニーズレストランやカナディアン・ジャパニーズレストランになっているのと同じような現象です。自然湧出の温水のみが温泉のはずなのに毎年温泉が増加している国は日本だけで、これなどは自ら温泉文化の破壊に手を貸していると同じだと思います。温泉文化が日本固有とするならば、掘削泉は温泉と呼ばせないような厳しい方策が必要です。

ここ十数年、北米の個人の高級住宅やリゾートホテルのプールなどで、日本の造園のアイデアが取り入れられる施設が増加してきました。カリブ海に保養に行くと、リゾートホテルの海を臨む岸壁の上に展望岩風呂があることがあります。これはジャグジー・バスですがそれなりに周りの風景に溶け込んでいます。

日本人が海外の温泉に行って真っ先に感じる違和感は温泉施設の造りであると思います。カナダやアメリカではどうしても温泉リゾートや温水プールになってしまいます。そうするとどうしてもシックリきません。ただ温泉施設の周辺に日本庭園風のアレンジをすると、違和感が少し解消されるのも事実です。ですからモドキ温泉が出現するのは、「ONSEN」がこれから世界的に取り入れられる兆しではないでしょうか。

 

他の国の温泉事情

日本の温泉ファンが希望するような野天風呂があったり、将来できる可能性のある国は、世界中でアメリカ、カナダ、ニュージーランドの3国だけだと思います。未開発の原始温泉は世界のほとんどの国にありますが、まとまった数があり温泉の大半が原始温泉で残っているのはこの3国だけです。台湾や韓国の温泉は日本人観光客が火付け役になって、日本の温泉の商業的な悪い面だけマネしているような気がします。

ヨーロッパだと温泉施設が豪華で、いかにも人工的に造った豪華なところが目につきます。ですから日本の温泉の感覚でヨーロッパの温泉に行くと違和感だけが残ってしまいます。ヨーロッパの温泉施設は、ホテル付属であれ日帰り施設であれ、近代的で豪華なところが目立ちますので、日本人が視察に行っても参考になるとは思われません。それでも自然空間を利用した街づくりや高級感が漂う街並みは勉強になりますので、街並み視察のような感じで気楽に行けばよいと思います。

日本の温泉旅館は北米の温泉リゾートや日帰り温水プールにはない日本の固有のもののような気がします。海外には日本的な温泉旅館のような温泉施設はありません。日本の温泉旅館はチェックインすると浴衣に着替えて、チュックアウトするまで総合的にリラックスできる場を提供してくれます。温泉旅館は日本の温泉文化の誇るべき特長なのかもしれませんが、カリブ海のリゾートなどに1〜2週間滞在すると、温泉はありませんが食事もバッフェスタイルで日本の温泉旅館と同じようなリラックスした気分になれます。そのほうが私には快適で、日本の温泉旅館のように駐車場まで見送りされるとかえって煩わしさを感じてしまいます。

 

カナダの温泉と日本の温泉の違い

日本人が日本の温泉のイメージでカナダの商業温泉に来ると、リゾートホテルや温水プールなので、日本の露天風呂との落差で失望するは人がいるのは事実です。“どうしても温泉に行ったと気分になれない”というのが主な理由です。この不満の大きな原因は三つあります。

まず最初は温泉プールに対する不満です。これは前章でも説明しましたが、ほとんどの人が観光地の商業温泉プールをみて、これがカナダの温泉だと判断してしまうミスです。カナダの温泉の91%は大自然の中で湯煙をあげている原始温泉で、商業温泉プールはわずか9%を占めるにすぎません。確かに一般の観光客の場合は短期間の滞在ですし、日本人の観光ガイドなどの知識では案内できる温泉も限られています。プール化された温泉が嫌ならいくらでも自然の野天風呂はあるのです。

これはカナダの温泉ファンが学会などで日本に出張して日本の温泉に行った場合は、逆のことが起こります。ガイドに温泉を案内してもらうと、時間の制限で案内できるのがアクセスの便利な箱根や熱海になってしまいます。すると大自然がバックの野天温泉に慣れたカナダの温泉ファンは、圧迫感のある日本の温泉よりはカナダの方がはるかに温泉らしいと結論付けます。

日本人が一番行く可能性のあるバンフのアッパー・ホットスプリングスでは、マイナスよりプラスの面を探してはどうでしょうか。お湯はまぎれもなく硫黄温泉であり、開放感もあり、カナディアン・ロッキーを眺めながらの入浴には日本にはないスケールの大きさがあります。温水プールはシンプルですが、その眺めの良さなら世界屈指でしょう。カナディアン・ロッキーの大自然を堪能しながらの入湯は格別なものがあります。

これは他の温泉プールでも同じで、日本人から見れば温泉の風情はないものの開放感があり湯量も豊富な温泉が数多くあります。水着着用の温泉プール形式なのは残念ですが、その弱点をおぎなってあまりある雄大な景色がカナダの温泉にはあるのです。ただし、バンクーバーに一番近いハリソン・ホットスプリングスの街中にある日帰り温泉プールだけは屋内プールなので、開放感がなく温泉気分がでないのが残念です。正直この温泉プールはカナダの温泉プールの中ではワースト・ワンです。

お勧めの温泉プールはBC州中南部にあるアインスワース温泉(Ainsworth Hot Springs)です。これだけの規模の洞窟風呂は日本でも見かけません。銀の採取で掘った洞窟に温泉を流し込んだ洞窟風呂ですが、長い年月の間にあたかも自然の鍾乳洞のようになりました。馬蹄型の洞窟部分は鍾乳洞の中の温泉という風情で、年間25万人の日帰り入浴客で賑わっています。洞窟に入るとこもった温泉の蒸気で天然のサウナのようになります。

 

温泉の温度の違い

次の不満は温泉の温度が低いことです。確かに商業温泉プールは40℃前後の水温が殆どなので、日本人には肌寒く感じるかもしれません。しかし殆どのカナダ人はレクリエーションで温泉に来ているので、家族や友人と談笑しながら何時間もゆっくり入湯するために、少しぬるめの温度のほうが健康と入浴スタイルに適しているようです。熱い湯にガマンして浸かる習慣が無いからではなく、日本人観光客のように時間を区切った慌ただしい入浴をしないだけです。

日本から友人が来た時にバンフのアッパー・ホットスプリングスに案内しますが、殆どの人が申し合わせた集合時間よりもかなり早く上がってしまいます。ライフスタイルの違いで、日本人のように30分ぐらいでさっさとプールから上がるカナダ人はおりません。ですから商業温泉プールでは、日本人の場合は温泉の注入口の付近に腰掛けるのも方法です。ここはプールの中で最も温かい湯が出てきます。

日本人好みの温度の商業温泉となると、BC州中南部のナカスプ温泉(Nakusp Hot Springs)がカナダでは一番になります。ここの温泉プールは泉温が43℃に設定してありますので、日本人が入浴しても満足できます。大自然の中だから当然空気もおいしく雰囲気のある温泉です。風光明媚な渓谷がありますし、熱いお湯の大好きな日本人でも十分に楽しめます。

 

カナダは混浴が普通

3つめは水着着用に対する不満です。水着着用のプールは日本人に評判が悪いのですが、カナダの温泉はすべて男女混浴なので、商業温泉プールの場合は水着着用となります。温泉には家族連れやカップルで行くので、家族連れやカップルが別々に入浴するのは慣習に反するからです。水着の入浴になると混浴でもリラックスできます。

ただカナダの温泉の91%を占める大自然の中の野天風呂では、原則完全混浴の clothing optional(裸入浴可)です。混浴になるとカナダ人は日本のように野天風呂に手ぬぐいを持ち込む習慣がないので丸見えになります。ブラブラもあれば、きれいな女性が大また開きで座っている場合もあります。それをもろに真正面から見てしまった私の友人は、思わずめまいがして倒れそうになって30分そこそこで温泉を後にした人もいます。

日本の女性のようにタオルを巻くような混浴はありません。もし水着着用に不満があるならこの混浴慣習に適応する必要もあります。ただ人気のある野天風呂ではケース・バイ・ケースで、水着を持参する必要に迫られる時もあります。特に家族連れが混雑している場合は仕方がありません。

1970年代から大自然の中にある野天風呂の利用者が北米では飛躍的に増加してきました。北米で裸入浴はする人達は、ナチュラル・ソーカー(Natural Soaker)と呼ばれています。Soak とは浸かるという意味ですから、日本の入湯に近い感じです。ただひたすら温泉で談笑しながら浸っています。日本のように石鹸やシャンプーで泡だらけになる人はいません。

裸入浴は新しいトレンドとして増え続けていますが、これは裸の方がより快適であることが体感できるからだと思います。北米の場合は宗教や文化よりも快適性の追求のほうが優先する、実利主義の温泉ファンが増加している結果です。カナダ人でもやっぱり野天でお湯に浸かっている方が気持ちがいいものです。

 

カナダの温泉の良さ

カナダには大自然と触れ合えるスケールの大きな温泉が存在し、カナダ人のみならず世界中の温泉ファンを魅了しています。秘湯が本当の秘密でなくなった日本から見れば、うらやましい限りの自然環境があります。日本の野天風呂に似た雰囲気で、豪快な川の流れを見ながら温泉を堪能することができます。

これまでは温泉地を自然の状態そのままに利用する考えが主流でした。そのために単なる川か湖といった印象の温泉もあり、野天風呂も充分な深さがないものがあります。渓流を堰き止めた湯溜まりがあるだけの、管理する人も使用料を取る人もいない天然の温泉がほとんどです。

日本であれば間違いなく大露天風呂を造れる立地にありながら、BC厚生省や環境省の規制が厳しいために自然環境に手がつけられません。ですから設備の整った露天風呂は今のところ日本が一番と言わざるをいません。ただし少し手を加えるだけで、最高のロケーションに日本の有名な露天風呂を凌駕する大きな岩風呂ができます。日本の露天風呂ランクの中では湯原温泉の大露天風呂などはトップクラスだそうですが、岩を動かし湯底の砂利を清掃しただけでそれを凌駕する大露天風呂が簡単にできます。それだけの自然環境と温泉がカナダにはあるのです。

 

温泉文化は日本だけ?

温泉文化は日本固有のものだと主張する人の中に、日本人は温泉を日常と考えているのでそんな国は世界中にないという意見があります。温泉を日常と感じるかどうかは、気候や文化の相違もよりも生活のエリアに温泉があるかどうかの温泉密度の問題だと思います。日本は国土が狭く源泉数が世界一多いので、温泉に身近に接する機会が多くなります。ボーリングで温泉が発掘される近年まで、沖縄に住む人が温泉を日常と感じることはなかったろうと思います。

カナダでもバンクーバーから800キロほど東にある人口1400人のナカスプ町には、カナダで唯一の町営温泉(Nakusp Hot Springs)があります。この温泉の年間12万人の温泉利用者の半数は地元の人で、中には毎日通っている人もいます。ただ温泉は街の中心から15キロも離れてますし、この距離ですから日本のように下駄履きで温泉というわけにはいきません。この距離を考えるとナカスプ町民の温泉利用率は、日本と遜色ないと思われます。

この規模の日帰り温泉施設がバンクーバー近郊にあれば、道後温泉の本館並みの賑わいになる可能性もあります。これは文化や非日常的と言うより国土のサイズと温泉の数の差が大きな要因です。カナダ東部には温泉がありませんので、トロントの人が温泉が求めるとBC州まで4〜5時間飛行機に乗ってこなければなりません。この距離だと日本から東南アジアに行く距離ですので、温泉文化の相違より温泉密度の問題ではないでしょうか。

外国人が日本に行けば、ほとんどの人は日本の文化にふれたいとか、日本をもう少し日本を知りたい思っています。温泉も同じで私の泉友などは、日本の鄙びた秘湯の宿に宿泊を希望します。ところが学会などで日本に行くと、計画したとおりの充分な時間が取れません。本当は日本的な情緒のある温泉を求めているのですが、結局は手軽な箱根や熱海になってしまいます。もう昭和の初めのような時代ではないので、北米でも価値観が変わってきて、日本に行った際に日本の近代的なリゾートホテルに泊まりたいと考える人ほとんどいないと思います。

「国が違えば温泉も違う」当然といえば当然ですが、そんなおおらかな目でカナダの温泉を楽しむと逆に日本の温泉文化のよさも認識できるのではないでしょうか。カナダ人も温泉を気持ち好いと感じるのは同じで、みんな談笑しながら温泉を楽しんでいるのです。

 


グレーシャーレイク温泉探査

先日、グレーシャーレイクの幻の温泉をヘリコプターで探査しました。上空から撮った写真を紹介します。

 


幻の温泉のあるグレーシャー湖

ハリソンレイクの湖の神が祭られている岬


先住民の住む伝統流域
後方は神聖な氷河の山


マイク佐藤 (Mike Sato, Scenic Hot Springs)


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