"食"について

〜1986年〜



不快な社員食堂
当時の私は朝、昼、晩の3食をほとんど会社の社員食堂で食べていた。朝食は約200円、昼食と夕食は 350円も出せば適当に食べれた記憶がある。この社員食堂、安いのはいいが安い分だけ不快な食堂 だった。まず気に入らないのが箸である。普通は食堂の箸というのは割り箸である。しかしその社員食堂の 箸は不特定多数の人間で使い回すプラスチック製の箸なのである。その箸は淡い黄色で良く見ると誰かの 歯型がついていたりする。病気の人が使った箸じゃないか思うと気味が悪くなってしまう。

味噌汁の盛り付けも気に入らない。ワカメの味噌汁などは必ずワカメがお碗の外側にベタっと くっついてくる。極端に言うとまるで豚の餌の盛り付けである。 味は勿論の事、食べ物は見た目も大切である。あんなにグチャグチャに盛られるとまずいメシがさらにまずく なる。当時の私は独身でまだ若かったが、いい年をして3食ともこの食堂で食事をしている人は すぐに会社の中で噂になったりした。社員食堂もさる事ながら会社も少し変わってたね。

◇ ◇ ◇

おばちゃんの定食
さて、休日の食事であるが、都心に出掛けない日はほとんど近所の定食屋で食事をする事にしていた。 その店は60歳ぐらいのメガネを掛けたおばちゃんが経営する定食屋で、車で10分のところにあった。 定食のメニューは5つぐらいしかなく、お金がない時はいつもハムエッグ定食を食べていた。これは確か 450円だった記憶がある。私はハムエッグに醤油をかけて食べるのが大好きだった。お金がある時は 迷わずとんかつ定食を食べた。確か600円だった。消費税などない時代なので600円はあくまで 600円。古き良き時代だった。

◇ ◇ ◇

どうして俺んとこに来たの?
私は自分では全く料理ができない。結婚する前からした後も全然変わっていない。妻には今時の男ではない などと言われる始末である。しかしそんな私でも独身の頃は年に数回ぐらいは自炊をしていた。自炊と 言ってもほとんど買ってきてすぐに食べられる物ばかりで、自分で作るのは味噌汁と得意のハム炒めぐらい。 私は自分で作る味噌汁には卵とネギを入れる事に決めていた。その日も味噌汁に入れる卵を買ってきて、 お湯が沸くのを待っていた。お湯が沸くと同時に味噌を入れて溶かし、その後で生卵を割って入れる 手順だ。

私はいつもの通り熱湯に味噌を入れて溶かした。そして卵を割ったその瞬間、私は飛び上がった。生卵から 出てきたのはいつも見慣れている黄色い塊ではなく、なんとヒヨコの形をした真っ赤な塊だったからである。 まさかそんな物が卵の中から出てくるとは思いもせず、鍋の真上で卵を割ってしまったのでその塊は沸騰 したお湯の中にポトンと落ちてしまった。思わず「あっ!」と声をあげたがどうする事もできなかった。

もちろん卵の中で雛が生きていたはずはなく、既に死んでいたはずだ。きっと何かの手違いで有性卵が 売られてしまったのだと思うが、雛が鍋に入る瞬間を見た私はとても哀れな気持ちになってしまった。 羽根を折り畳むような格好をしている雛を見れば誰もがそう思うに違いない。もちろんその味噌汁には 手を付けずに鍋に合唱してから中身を処分した。それからしばらくの間は生卵は怖くて割れなくなった。

雛ちゃん、あんたどうして俺んとこにきたの?



さすらいの月虎/HOME

我が人生のわだちに戻る | 前のわだち | 次のわだち