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組写真による表現

2枚以上で表現するのが組写真

 通常の写真は、1枚だけで何かを表現します。それとは異なり、複数の写真を組み合わせて表現する方法もあります。写真の世界では、組写真(くみしゃしん)と呼んでいます。逆に、1枚で表現する方を単写真(たんしゃしん)と呼びます。

 組写真の枚数に制限はなくて、2枚以上であれば何枚でも構いません。一般的には、数枚から数十枚で表現します。多くても数百枚が限度でしょう。枚数が多いと、全部見るのが大変だからです。もし数千枚の写真を用意したとしても、最後まで見てくれる人はまれでしょうから。

 それでは、組写真とはどんなものなのか、その概要を簡単に紹介しましょう。単写真と比べる形で。

単写真は、たった1枚での完成を目指す

 まず先に、単写真による表現を整理してみましょう。単写真の場合は、たった1枚だけで完結するという面と、1枚でしか表現できないという面の2つがあります。そのため、次のような特徴を持っています。

・表現意図を1枚の写真で伝える
・他の写真との関係を考慮する必要がない
・表現意図を、写真に直接反映させればよい
・1枚で可能な表現意図に限られる

 1枚の写真で完結するため、他の写真との関係を考える必要はありません。1枚ごとに表現意図を設定し、その意図を伝えられる写真に仕上げます。撮影している1枚だけに集中できるので、もっとも楽な撮影スタイルです。

 最大の欠点は、表現に1枚しか使えないことです。1枚の写真の中に何でも詰め込めるわけではないため、表現できる内容は限られます。実際には、写真の中に多くの要素を詰め込むのは無理です。表現意図がぼけてしまって、意図が伝わらない写真になってしまいますから。

 このような特徴があるため、単写真で表現できる内容は、かなり限られてしまいます。通常、かなり単純な内容しか表現できません。

組写真は、全体としての表現を狙う

 これに対して組写真は、必要な枚数だけの写真を使えます。1枚の写真ごとに伝わる内容よりも、全部の写真を見たときに伝わる内容を重視した形で。組写真の主な特徴は、次のとおりです。

・複数枚の写真で、狙った表現意図を伝える
・個々の写真の印象よりも、全体で何が伝わるかが重要
・異なる写真を組み合わせることで、相乗効果が狙える
・単写真に比べ、可能な表現意図が格段に広がる
  ・より広く、より深く、より強い表現が可能に
  ・難しいテーマの表現意図も伝えられる
・単写真とは異なる面白さがある

 これらから分かるように、組写真とは、より複雑な意図を伝えるための方法なのです。組写真の表現意図としては、単写真で不可能な内容が、すべて対象となります。抽象的なテーマ、難しいテーマなどです。

 表現意図の中には、芸術的でない内容も含まれます。たとえば、戦争の実体を伝えるとかです。その場合でも、戦争の実体の中で、どの部分を伝えたいのか、表現意図を明確にしなければなりません。戦争の悲惨さを選ぶとかです。このように決めないと、意図したとおりに伝わらなくなります。

 余談になりますが、このように説明すると、違和感を持つ人もいるでしょう。写真に撮れば、いつも真実が伝わるのではないかと。しかし、写真に詳しい人なら、「写真は必ずしも真実を語らないこと」や「写真で嘘を伝える方法」を知っています。つまり、写真とは、使い方によって反対の意味すら伝えられるメディアなのです。だからこそ、表現意図を明確にして、それに沿って写す必要があるわけです。

組み合わせ枚数が多いほど、複雑なテーマが表現可能

 単写真と組写真のどちらを用いるかは、表現意図の中身で決まります。表現意図を1枚の写真で伝えられるなら、単写真で済ませます。もし不可能なら、組写真を用います。これが基本です。

 組写真の枚数も、表現意図の中身で決まります。一般的な傾向として、表現意図が複雑なほど、必要な枚数が増えます。あえて簡単に表現すると、単純なテーマを伝えるなら数枚の写真、より複雑なテーマを伝えるなら数十枚以上の写真となるでしょう。

・単純なテーマの組写真(数枚でも可能)
・複雑なテーマの組写真(数十枚以上が必要)

 テーマが単純か複雑かは、テーマ自体の難しさで決まるのではありません。写真というメディアを用いて伝えるのが、簡単か難しいかで決まります。写真で伝えるのが難しいテーマほど、必要な枚数が増えます。つまり、写真に向いてないテーマほど、より多くの枚数を使うわけです。

 具体的な枚数ですが、実際に撮影してみないと決まりません。何でも自由に描ける絵画と違って、写真の場合は実在の被写体を写さなければならない制限があるからです。そのため、まず表現意図を明確にし、それに沿って実際に撮影しながら、撮影枚数を調整していきます。

組写真は、単写真と根本的に異なる

 ここまでの説明で、組写真の概要が理解できたと思います。表現意図を伝えるという原点では、単写真と変わりありません。しかし、より難しい表現意図を伝えられる特徴があります。そのため、表現意図の中身によって、単写真と組写真を使い分けるものなのです。

 これ以降で、組写真をより詳しく解説します。それを知れば、単写真の集まりが組写真ではないことや、組写真に適した撮影方法が理解できるでしょう。もちろん、組写真の撮影方法は、単写真とは視点が異なります。

(作成:2003年6月20日)
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