藤原忠国 ふじわらのただくに 生没年未詳

『尊卑分脉』によれば、北家魚名の裔で、陸奥守連煎の子。陸奥守従五位上。但し『勅撰集作者部類』は、父を連煎の弟、伊予介連永とする。いずれにしても古今集の歌人後蔭のいとこにあたる。藤原実頼邸の歌会に参席したことが知られる。勅撰入集は後撰集の二首のみ。

左大臣の家にて、かれこれ題をさぐりて歌よみけるに、露といふ文字を得侍りて

我ならぬ草葉も物は思ひけり袖より(ほか)に置ける白露(後撰1281)

【通釈】私ばかりでなく、草葉も物思いをするのであった。我が袖のほかにも白露が置いている。

【語釈】◇袖より外に 袖以外のもの(すなわち草葉)にも。

【補記】左大臣藤原実頼の家で、探題(籤引きで題を当てること)の歌会をした時、「露」という文字を引き当てて詠んだという歌。涙を露に譬える趣向は当時の流行であるが、草木も心あるものとし、その葉に置いた露を悲しみゆえの涙と見たのは掲出歌がおそらく最初。尤も、「我ならぬ」と言い「袖より外の」と言いつつ、自身の袖の涙を訴えることにこそ眼目がある。婉曲な悲哀表現が後世の和歌に与えた影響は小さくない。後撰集の雑部に載せるが、恋の心を主としており、『定家八代抄』では恋歌として採っている。

【他出】古今和歌六帖、古来風躰抄、定家十体(濃様)、定家八代抄、別本八代集秀逸(家隆撰)

【参考歌】藤原興風「興風集」
つねの秋は草の葉にのみおく露をことしは袖のうへに見るかな
  紀貫之「後撰集」
秋の野の草もわけぬを我が袖の物思ふなへに露けかるらむ

【主な派生歌】
わが袖を秋の草葉にくらべばやいづれか露のおきはまさると(*相模[後拾遺])
おほかたの露には何のなるならむ袂におくは涙なりけり(*西行[千載])
つつめども袖よりほかにこぼれいでてうしろめたきは涙なりけり(西行)
秋はただ心よりおく夕露を袖のほかとも思ひけるかな(*越前[新古今])
下にこそ忍ぶの露のみだるとも袖のほかにはいかがもらさむ(祝部成茂[新後撰])
草の葉におきそめしより白露の袖のほかなる夕暮ぞなき(順徳院[続後撰])
我ならぬ草葉に月のやどりてや袖よりほかの露をしるらむ(藤原行家[続古今])
いつかわれ涙にぬるる影ならで袖よりほかの月を見るべき(覚助法親王[新後撰])
われもかなし草木も心いたむらし秋風ふれて露くだるころ(*伏見院[玉葉])


公開日:平成21年01月29日
最終更新日:平成21年01月29日