藤原直子 ふじわらのなおいこ 生没年未詳

貞観十六年(874)、従五位下。延喜二年(902)、正四位下。古今集に典侍とある。古今集に一首。

題しらず

海人(あま)の刈る()に住む虫のわれからと()をこそ泣かめ世をば恨みじ(古今807)

【通釈】海人の刈る海藻に住む虫の「われから」ではないが、原因は自分自身なのだと思って声あげて泣こう。人を恨むまい。

【語釈】◇刈る藻 この歌が有名になったために、後世「かるも」で独立した名詞のように使われた。◇われから 海藻などに付着している甲殼類の虫。どのような虫を指すか諸説ある。「割れ殻」の意という。我から、すなわち「我が身ゆえに」の意と掛けている。◇世をば恨みじ 「世」は男女関係の意で、相手の人のこと。

【補記】この歌は古今伝授秘伝歌の一つ。

【主な派生歌】
海人の刈る藻にすむ虫の名はきけどただ我からのつらきなりけり(読人不知[拾遺])
秋風のいたりいたらぬ袖はあらじただわれからの露の夕ぐれ(*鴨長明[新古今])
果てはただあまの刈る藻を宿りにて枕さだむる宵々ぞなき(藤原定家)
あまのすむ里のしるべの幾年にわれから絶えて見るめなりけり(〃)
いかにせんねをなく虫のから衣人もとがめぬ袖の涙を(藤原範宗[新勅撰])
藻にすまぬ野原の虫も我からと長き夜すがら露に鳴くなり(藤原良経[新後撰])
あぢきなや海士の刈る藻の我からか憂しとて世をも恨みはてねば(藤原為氏[続後拾遺])
あまのたく藻にすむ虫にあらねどもわれから恋に身を焦がすかな(藤原為清[新拾遺])
のがれては山里ならぬ宿もなしただ我からの憂き世なりけり(*元政)


更新日:平成16年01月12日
最終更新日:平成22年08月23日