陽成天皇の乳母。嵯峨天皇の皇子源澄、または同皇孫蔭の妻かという。子に益がいる。元慶六年(882)、従五位上。同七年、益は陽成天皇の御所で「格殺」された(日本三代実録)。
題しらず
富士の
【通釈】炎にはならず、煙ばかりをあげる富士山のように、私の思いも成就しないまま燻(くす)ぶるだけ燻ぶるがいい。神も消すことが出来ない空しいその煙を。
【語釈】◇富士の嶺のならぬ思ひ 炎にはならず、煙ばかりをあげる富士山の、その煙のように燻ぶった思い。「おもひ」のヒに火をかける。「ならぬ」には、恋が成就しない意をかける。◇消(け)たぬ 消さない。「消た」は、「消す」の古形「消つ」の未然形。
【補記】古今集巻十九、雑体の誹諧歌。恋の心を詠むが、諧謔を主とするので誹諧歌に分類されたか。なお『平中物語』十一段にも見え、同書によれば平中(平貞文)の「我のみや燃えてかへらむ世と共に思ひもならぬ富士の嶺のごと」への返し。
【他出】古今和歌六帖、平中物語、五代集歌枕、歌枕名寄
【主な派生歌】
ふじのねの空にや今はまがへましわが身にけたぬむなし煙を(西園寺公経[新勅撰])
消えはつる行方とも見よ思ひわびかへぬ命のむなしけぶりを(定為[新千載])
恋ひ死なんむなし煙をせめてただならぬ思ひの果てとだに見よ(頓阿)
つれなくはそれゆゑになど果てざらむさらで消えむも空しけぶりを(宗祇)
更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成22年08月23日