和泉式部 いずみしきぶ 生没年不詳

「題しらず」「恋歌の中に」などの鑑賞の上で特に必要ないと思われる詞書は省略した。

※略伝・注釈付きテキスト・文献情報などはこちら

  7首  2首  5首  8首  41首 哀傷 20首  17首 計100首

春霞たつやおそきと山川の岩間をくぐる音きこゆなり(後拾遺13)

むめの香を君によそへてみるからに花のをりしる身ともなるかな(和泉式部続集)

のどかなる折こそなけれ花を思ふ心のうちに風はふかねど(続後拾遺93)

あぢきなく春は命のをしきかな花ぞこの世のほだしなりける(風雅1480)

われがなほ折らまほしきは白雲の八重にかさなる山吹の花(和泉式部続集)

岩つつじ折りもてぞ見るせこがきし紅ぞめの色ににたれば(後拾遺150)

世の中はくれゆく春の末なれやきのふは花の盛とかみし(和泉式部続集)

さくら色にそめし衣をぬぎかへて山ほととぎす今日よりぞまつ(後拾遺165)

思ふことみなつきねとて麻の葉をきりにきりても祓へつるかな(後拾遺1204)

人もがな見せも聞かせも萩の花さく夕かげのひぐらしの声(千載247)

ありとてもたのむべきかは世の中をしらする物は朝がほの花(後拾遺317)

秋ふくはいかなる色の風なれば身にしむばかりあはれなるらん(詞花109)

はれずのみ物ぞかなしき秋霧は心のうちに立つにやあるらん(後拾遺293)

今はとてたつ霧さへぞあはれなるありし(あした)の空ににたれば(和泉式部続集)

野辺みれば尾花がもとの思ひ草かれゆく冬になりぞしにける(新古624)

もみぢ葉もましろに霜のおける朝は(こし)白嶺(しらね)ぞ思ひやらるる(和泉式部続集)

外山(とやま)ふく嵐の風の音きけばまだきに冬の奥ぞしらるる(千載396)

こりつめて真木の炭やくけをぬるみ大原山の雪のむらぎえ(後拾遺414)

さびしさに(けぶり)をだにもたたじとて柴をりくぶる冬の山里(後拾遺390)

竹の葉にあられ降るなりさらさらに独りはぬべき心地こそせね(和泉式部続集)

ぬる人をおこすともなき埋火(うづみび)を見つつはなかく明かす夜な夜な(和泉式部集)

せこがきて臥ししかたはら寒き夜はわが手枕(たまくら)を我ぞしてぬる(和泉式部集)

つれづれと空ぞ見らるる思ふ人あまくだりこむものならなくに(玉葉1467)

夕暮に物おもふことはまさるやと我ならざらむ人にとはばや(詞花249)

黒髪のみだれもしらずうちふせばまづかきやりし人ぞ恋しき(後拾遺755)

世の中に恋といふ色はなけれどもふかく身にしむものにぞありける(後拾遺790)

涙川おなじ身よりはながるれど恋をばけたぬものにぞありける(後拾遺802)

いたづらに身をぞ捨てつる人をおもふ心やふかき谷と成るらん(和泉式部集)

逢ふことを息の緒にする身にしあれば絶ゆるもいかが悲しと思はぬ(和泉式部集)

絶えはてば絶えはてぬべし玉の緒に君ならんとは思ひかけきや(和泉式部集)

君恋ふる心は千々にくだくれどひとつも失せぬものにぞありける(後拾遺801)

かく恋ひばたへず死ぬべしよそに見し人こそおのが命なりけれ(続後撰703)

人の身も恋にはかへつ夏虫のあらはにもゆと見えぬばかりぞ(後拾遺820)

九月ばかり、あかつきかへりける人のもとに

人はゆき霧はまがきに立ちとまりさも中空にながめつるかな(風雅1133)

なげくことありとききて、人の「いかなることぞ」ととひたるに

ともかくも言はばなべてになりぬべし()になきてこそ見せまほしけれ(宸翰本和泉式部集)

雨のいたくふる日、「なみだの雨の袖に」などいひたる人に

見し人にわすられてふる袖にこそ身をしる雨はいつもをやまね(後拾遺703)

枕だにしらねばいはじ見しままに君かたるなよ春の夜の夢(新古1160)

露ばかりあひ見そめたる男のもとにつかはしける

しら露も夢もこの世もまぼろしもたとへて言へばひさしかりけり(後拾遺831)

弾正尹(だむじやうのいん)為尊(ためたか)のみこかくれ侍りてのち、太宰帥敦道のみこ花たちばなをつかはして、いかがみるといひて侍りければ、つかはしける

かをる香によそふるよりはほととぎす聞かばやおなじ声やしたると(千載971)

ながむらん空をだに見ず七夕にあまるばかりの我が身と思へば(和泉式部集)

太宰帥敦道のみこなかたえける頃、秋つかた思ひ出でてものして侍りけるによみ侍りける

待つとてもかばかりこそはあらましか思ひもかけぬ秋の夕暮(千載844)

風ふき物あはれなる夕ぐれに

秋風はけしき吹くだに悲しきにかきくもる日はいふかたぞなき(和泉式部集)

つゆまどろまで嘆き明かすに、雁の声をききて

まどろまであはれ幾日(いくか)になりぬらんただ雁がねを聞くわざにして(和泉式部集)

かくて、つごもり方にぞ御文ある。日ごろのおぼつかなさなど言ひて、「あやしきことなれど、日ごろもの言ひつる人なん遠く行くなるを、あはれと言ひつべからんことなん一つ言はんと思ふに、それよりのたまふことのみなん、さはおぼゆるを、一つのたまへ」とあり。あなしたりがほ、と思へど、さはえきこゆまじ、ときこえんも、いとさかしければ、「のたまはせたることは、いかでか」とばかりにて、

をしまるる涙にかげはとまらなん心もしらず秋はゆくとも(和泉式部日記)

雨風はげしき日しも、おとづれ給はねば、きこえさする

しもがれは侘しかりけり秋風の吹くには荻のおとづれもしき(和泉式部集)

「おなじこころに」とある返り事に

君は君われはわれとも隔てねばこころごころにあらんものかは(和泉式部集)

心地あしきころ、「いかが」とのたまはせければ

絶えしころ絶えねと思ひし玉の緒の君によりまたをしまるるかな(和泉式部集)

男の、はじめて人のもとにつかはしけるに、かはりてよめる

おぼめくな誰ともなくて宵々に夢に見えけん我ぞその人(後拾遺611)

いかなる人にかいひ侍る

いとどしく物ぞかなしきさだめなき君はわが身のかぎりと思ふに(和泉式部集)

また

わが(たま)のかよふばかりの道もがなまどはむほどに君をだに見ん(和泉式部集)

夜ごとに人の「来む」といひて来ねば、つとめて

今宵さへあらばかくこそ思ほえめ今日くれぬまの命ともがな(後拾遺711)

互ひつつむことある男の、「たやすく逢はず」とうらみければよめる

おのが身のおのが心にかなはぬを思はば物はおもひしりなむ(詞花310)

わりなくうらむる人に

津の国のこやとも人をいふべきにひまこそなけれ葦の八重ぶき(和泉式部集)

しのびて人にもの申し侍りけるころ

なにごとも心にこめて忍ぶるをいかで涙のまづしりぬらん(続古今1023)

身のうさも人のつらさもしりぬるをこは()(たれ)を恋ふるなるらん(玉葉1679)

男のもとより、「たまさかにもあはれと言ふになむ、命はかけたる」といひたるに

とことはにあはれあはれはつくすとも心にかなふものか命は(和泉式部続集)

人と物語してゐたるに、人のまうできあひて、ふたりながらかへりけるにつかはしける

半天(なかぞら)にひとり有明の月を見てのこるくまなく身をぞしりぬる(玉葉1476)

男にわすられて、装束つつみておくりはべりけるに、革の帯にむすびつけはべりける

なきながす涙にたへでたえぬれば縹の帯の心地こそすれ(後拾遺757)

男にわすられて侍りける頃、貴船(きぶね)にまゐりて、御手洗(みたらし)川にほたるのとび侍りけるを見てよめる

物おもへば沢の蛍も我が身よりあくがれいづる(たま)かとぞみる(後拾遺1162)

保昌にわすられて侍りける頃、兼房朝臣とひて侍りければよめる

人しれず物思ふことはならひにき花にわかれぬ春しなければ(詞花312)

ここち例ならず侍りける頃、人のもとにつかはしける

あらざらんこの世のほかの思ひいでに今ひとたびの逢ふこともがな(後拾遺763)

哀傷

敦道親王におくれてよみ侍りける

今はただそよそのことと思ひ出でて忘るばかりの憂きこともがな(後拾遺573)

すてはてむと思ふさへこそかなしけれ君になれにし我が身とおもへば(後拾遺574)

かたらひし声ぞ恋しき俤はありしそながら物も言はねば(和泉式部続集)

はかなしとまさしく見つる夢の世をおどろかでぬる我は人かは(和泉式部続集)

ひたすらに別れし人のいかなれば胸にとまれる心地のみする(和泉式部続集)

あまてらす神も心あるものならば物思ふ春は雨なふらせそ(和泉式部続集)

身よりかく涙はいかがながるべき海てふ海は潮やひぬらむ(和泉式部続集)

身をわけて涙の川のながるればこなたかなたの岸とこそなれ(和泉式部続集)

君をまたかくみてしがなはかなくてこぞはきえにし雪も降るめり(和泉式部続集)

夕暮はいかなるときぞ目にみえぬ風のおとさへあはれなるかな(和泉式部続集)

なぐさめて光の間にもあるべきを見えては見えぬ宵の稲妻(和泉式部続集)

寝覚する身を吹きとほす風の音を昔は耳のよそにききけん(和泉式部続集)

夢にだに見で明かしつる暁の恋こそ恋のかぎりなりけれ(和泉式部続集)

我が恋ふる人は来たりといかがせんおぼつかなしや明けぐれの空(和泉式部続集)

十二月の晦(つごもり)の夜よみはべりける

なき人のくる夜ときけど君もなし我がすむ宿や玉なきの里(後拾遺575)

内侍のうせたるころ、雪の降りてきえぬれば

などて君むなしき空にきえにけんあは雪だにもふればふるよに(和泉式部集)

小式部内侍なくなりて後よみ侍りける

あひにあひて物おもふ春はかひもなし花も霞も目にし立たねば(玉葉2299)

小式部内侍なくなりて、むまごどもの侍りけるを見てよみ侍りける

とどめおきて誰をあはれと思ふらん子はまさるらん子はまさりけり(後拾遺568)

若君、御送りにおはするころ

この身こそ子のかはりには恋しけれ親恋しくは親を見てまし(和泉式部集)

小式部内侍うせてのち、上東門院より、としごろ給はりけるきぬを、亡きあとにもつかはしたりけるに、「小式部内侍」と書きつけられたるを見てよめる

もろともに苔の下にはくちずして埋もれぬ名を見るぞかなしき(金葉三奏本612)

山寺にこもりてはべりけるに、人をとかくするが見えはべりければよめる

たちのぼる(けぶり)につけて思ふかないつまた我を人のかく見む(後拾遺539)

道貞、わすれてのち、陸奥守(みちのくにのかみ)にてくだりけるに、つかはしける

もろともにたたましものをみちのくの衣の関をよそにきくかな(詞花173)

宮、法師になりて、髪のきれをおこせ給へるを

かき撫でて生ほしし髪のすじことになりはてぬるを見るぞ悲しき(和泉式部集)

丹後国にて、保昌あす狩せんといひける夜、鹿のなくをききてよめる

ことわりやいかでか鹿のなかざらん今宵ばかりの命と思へば(後拾遺999)

観身岸額離根草、論命江頭不繋舟(四首)

たらちめのいさめしものをつれづれとながむるをだに問ふ人もなし(和泉式部集)

るりの地と人も見つべしわが床は涙の玉としきにしければ(和泉式部集)

【通釈】瑠璃の地と人も見るに違いない。私の寝床は、涙が玉のように敷き詰められているので。

暮れぬなり幾日(いくか)をかくてすぎぬらん入相の鐘のつくづくとして(和泉式部集)

すみなれし人かげもせぬ我がやどに有明の月のいくよともなく(和泉式部集)

世の中にあらまほしき事 (三首)

おしなべて花は桜になしはてて散るてふことのなからましかば(和泉式部集)

みな人をおなじ心になしはてて思ふ思はぬなからましかば(和泉式部集)

世の中にうき身はなくてをしと思ふ人の命をとどめましかば(和泉式部集)

 

いかにせんいかにかすべき世の中をそむけば悲しすめばうらめし(玉葉2546)

心地いとあしうおぼゆる比

我に誰あはれをかけん思ひ出のなからんのちぞ悲しかりける(和泉式部続集)

世の中つねなく侍りけるころよめる

しのぶべき人もなき身はある時にあはれあはれと言ひやおかまし(後拾遺1008)

よみ花のさきたるを見て

かへらぬは(よはひ)なりけり年のうちにいかなる花かふたたびは咲く(和泉式部続集)

地獄絵に、つるぎの枝に人のつらぬかれたるを見てよめる

あさましやつるぎの枝のたわむまでこは何の身のなれるなるらん(金葉644)

性空上人のもとに、よみてつかはしける

暗きより暗き道にぞ入りぬべきはるかに照らせ山のはの月(拾遺1342)

七日、例ならぬ心地のみすれば、「今日や我が世の」とおぼゆる

生くべくも思ほえぬかな別れにし人の心ぞ命なりける(和泉式部続集)


最終更新日:平成17年03月31日

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