坂門人足 さかとのひとたり 生没年未詳

伝未詳。大宝元年(701)九月、太上天皇(持統)の紀伊行幸に従駕し、大和国巨勢で歌を詠んでいる。

大宝元年辛丑秋九月、太上天皇の紀伊国に(いでま)せる時の歌

巨勢(こせ)山のつらつら椿つらつらに見つつ(しの)はな巨勢の春野を(万1-54)

【通釈】巨勢山のつらなって咲く椿の花――今は緑ばかりの木をつくづくよく見つつ、思い浮かべようよ、巨勢の春の野を。

椿
つらつら椿 春の盛りには梢に連なるように咲く。写真はヤブツバキ。

【語釈】◇巨勢 奈良県御所市の南部。◇つらつら椿 ツラは列。たくさん並んで咲く椿の花。あるいは並び立つ椿の木。◇つらつらに見つつ つぶさに見ながら。

【補記】万葉集左注に「或本歌」として、
 河上のつらつら椿つらつらに見れども飽かず巨勢の春野は
を挙げ、春日蔵首老の作としている。

【主な派生歌】
まきのむらつらつら椿つらつらに思へばひさし君が八千代は(大江匡房)
こせ山のつらつら椿つらからば逢ふにはかへぬ身をやつくさん(飛鳥井雅有)
めもはるに袖うちふりてこせの野のつらつら椿あかなくにみん(烏丸光広)
雁がねのつらつらつばき川上に咲くをみすつるこせの春山(契沖)
月てればつらつら椿その葉さへみなしらたまと見ゆるよはかな(香川景樹)
自らを頼まず同じ花あまたつらぬる椿つらつらつばき(与謝野晶子)
雙生(ふたご)の椿咲く丘はしきよし花はつらつら樹さへつらつら(長塚節)
麓より風吹き起り椿山椿つらつら輝き照るも(若山牧水)


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成15年03月21日