たで Water pepper

柳蓼 神奈川県鎌倉市二階堂にて

単に「蓼」と言えば、柳蓼を指すのが普通である。犬蓼と同じくタデ科の一年草。犬蓼は街なかでもよく見かけられ、路傍や原っぱなど至るところに生えているが、柳蓼は川べりや水田のふちなど、水辺でしか見た記憶がない。葉は細く柳に似、柳蓼の名はこれに由来する。本蓼・真蓼とも。古歌に「水蓼」「青蓼」などと詠まれているのも柳蓼或はその変種と思われる。
犬蓼と比べると、花の色は薄く、穂の密度も薄い。繊細な感じのする花で、犬蓼などより風情はまさっている。
辛味があるせいで「蓼食う虫も好き好き」の諺では見下されたような恰好であるが、若葉は魚料理などに欠かせない香辛料とされてきた。

『好忠集』 四月中 曾禰好忠

やほ蓼も川の瀬みればおいにけり辛しやわれも年をつみつつ

「やほ蓼」は万葉集にも用例があり、「八穂蓼」すなわち花穂をたくさん付ける蓼。好忠の歌では「辛(から)し」とあるので、おそらく柳蓼のことであろう。「おいにけり」に「生いにけり」「老いにけり」を掛け(「生い」は正しくは「生ひ」であり仮名違いであるが)、「つみ」には「摘み」「積み」を掛けている。香辛料に摘まれる草に言寄せて、老境の身を嘆いた歌である。

琴後(ことじり)集』 蓼 村田春海

からきにも馴るれば馴れて過ぐす世に蓼はむ虫を何かとがめむ

「蓼はむ虫」は「蓼くふ虫」と同じことで、昔から同じ意味の諺が使われていたことが知れる。辛い葉をわざわざ好んで食う虫をなぜ非難しよう。辛いことばかり多い世の中、その辛さに馴れて過ごしやるしかない人生ではないか。
このように昔の歌では味が辛いことに引っ掛けた述懐色の濃い歌が多い。この花独特の風情を生かした歌を探してみると、

『亮々遺稿』 蓼 木下幸文

故郷を秋きて見れば水かれし池の汀に蓼の花さく

あたりが辛うじて見つかる程度で、少し寂しい気がする。

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  『万葉集』(平群朝臣が嗤ふ歌一首)
わらはども草はな刈りそ八穂蓼を穂積の朝臣(あそ)が腋くさを刈れ

  『山家集』(題しらず) 西行
くれなゐの色なりながら蓼の穂のからしや人の目にもたてぬは

  『風情集』藤原公重
みづたでの穂にいでて物を言はねどもからきめをのみ常に見るかな

  『亮々遺稿』(虫) 木下幸文
蓼の花咲きみだれたる山川の岸根にすだく虫の声かな

  『柿園詠草』(秋哀傷) *加納諸平
露霜の 秋さり衣 吹きかへす 風を時じみ 蘆垣の 籬にたちて もみぢ葉の すぎにし人を うつらうつら 恋ひつつをれば 蓼の穂に 夕日くだちて 雁なきわたる

  『透明文法』 塚本邦雄
紅蓼のたのしき芽生え玩具用戰車製造商破産後に


公開日:平成21年12月07日
最終更新日:平成22年06月30日

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