110. 風待ち湊の深浦

著者=近藤 純正
青森県の日本海沿岸の深浦への10回目の訪問である。最新訪問の3回分の記事である。 五能線では三味線の演奏と弥三郎節の生の唄いをはじめて聴くことができた。冬の 五能線は時化ると運休や遅延があり注意した。 (完成:2013年3月5日)

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三陸沿岸の岩手県宮古と同様に、青森県深浦でも気象観測所の環境を維持管理する 方法の一つとして、試験観測を2012年10月3日から12月21日まで行った。

その準備や観測の途中経過を見るために、この年には9月20日から4回も訪問した。 深浦を最初に訪問した2007年3月28日から数えて10回目となる。この間、深浦の多くの 方々にはお世話になった。

深浦町は海岸に沿う長い町、JRの駅が18もある。青森から行く場合は奥羽本線の 川部から五能線で、または秋田から行く場合は東能代からの五能線で行く。 快速列車「リゾートしらかみ」に乗れば、青森からでも、秋田からでも深浦駅まで 約2時間かかる。

五能線の五所川原から鰺ヶ沢までの25分間は、いつも三味線を持った2人組によって 津軽三味線の生演奏が聴けた。これまでは唄いは聴いたことがなかったが10月4日の 列車で、はじめて三味線に合わせて弥三郎節を唄う2人組の演奏があった(写真110.1)。

唄う津軽三味線
写真110.1 三味線演奏と弥三郎節を唄う二人組(10月4日)。

『一つアエー 木造新田の下相野村の端ずれコの弥三郎エー アリャ弥三郎エー
二つアエー 二人と三人と人頼にで大開の万九郎から嫁貰らた アリャ弥三郎エー
三つアエー ・・・・・』


鰺ヶ沢から日本海が見えはじめる。絶景の海岸にくると列車は速度を落とし、 案内してくれる。この付近からは世界自然遺産の白神山地である。深浦への旅は 「小さな旅のたより」の91~93でも紹介してきた。

今回は秋から冬の深浦行きである。日本海が時化ると大波が線路まで上がるように なり、大雪でも列車は運休する。私は青森から往復することが多いが、冬には秋田から 往復するほうが確率的に安全なようである。

深浦は隆起によって生じる海岸段丘の地形にあり、海岸から二段目の段丘上の 史跡公園「御仮屋」に気象観測所(旧測候所)がある。ここは津軽の殿様の時代に 奉行所があった。眼下には風待ち湊と呼ばれてきた港が見える。展望台もあり 方位270度が開ける(写真110.2)。

御仮屋
写真110.2 深浦の史跡公園「御仮屋」、鉄塔は風速を測る測風塔(11月16日)。

風速計
写真110.3 御仮屋の広場に設置した超音波風速計、地面からの高さは1.85m (11月16日)。

観測所はフェンスで囲まれており、その外側に深浦町教育委員会の許可を得て、 超音波風速計を設置した。超音波風速計は耳には聞こえない高周波音が、10センチ メートルほどの距離を伝わる時間を測り、風があれば風下側に早く伝わることで 風速と風向が分かる。風速と風向はデジカメに使う小さなメモリカードに記録される (写真110.3)。

観測装置の設置、駅への出迎えは深浦町教育長の西﨑哲さんに協力していただいて いる。


備考:2007年の深浦訪問時の観測所
筆者が深浦を最初に訪問した2007年3月28日には、観測所の庁舎と職員宿舎が残って いた(「写真の記録」の「64.青森県深浦観測所」 を参照)。



深浦は北前船の風待ち湊として江戸時代から栄え、旅館も多数あった。最近は車で 通り過ぎる観光客も多く、旅館に泊っても客は私ひとりのことが多かった。

廃業した旅館もでてきたので、今回からは、平成15年に開業した深浦観光ホテルに 宿泊。JRの深浦駅から歩いて50分ほどの距離にあるが、送迎バスも来てくれる (写真110.5, 110.6)。

ホテル
写真110.4 深浦観光ホテル(11月16日)。

ロビー
写真110.5 深浦観光ホテルのロビー。

ホテルには大浴場温泉があり、湯は近くの源泉から車で毎日運んでいるという。 毎回、温泉に入るのが楽しみである。

深浦に限ったことではないが、旅館は美味しい料理を楽しむことが本来の姿であろう。 しかし、私はたくさん食べられないので、量と品数を少なくして欲しいとお願いしても、 注文を聞いてくれない。普段の私は副食2~3品だが、旅館では12以上の品が出され 食べきない。深浦には、近くにコンビニがなく、宿泊時の夕食はカロリーメイト など非常食で済ませる。

旧秋田屋旅館は改築され、「ふかうら文学館」として2004年から公開されている。 ここには何度か入館した。太宰治が滞在したことから太宰の宿「ふかうら文学館」 とも呼ばれる(写真110.6)。

文学館
写真110.6 ふかうら文学館、旧秋田屋旅館(12月21日)。

文学作品はもちろんのこと、太宰が食べたという食事も展示されている。大町桂月 の部屋もある。桂月は私の故郷・高知県生まれ、全国を旅した酒豪でも有名である。 近代日本の詩人、歌人、随筆家、評論家である。

高知の桂浜にも桂月の記念碑がある。私が大学院学生のとき数年間研究した 十和田湖の休屋には、桂月が十和田湖を広く世に知らせたことから顕彰碑「乙女の像」 があり、晩年を過ごした蔦温泉には大町桂月歌碑もある。他にも多くの記念碑がある はずだ。

青森県の蔦温泉や酸ケ湯温泉には私が仙台から十和田湖への往復の途中、何度か 泊ったことを思い出す。酸ケ湯温泉には日本の最高積雪を記録・更新している アメダスがある。本文を書いている2013年3月3日の9時の積雪の深さは501センチ メートルである。

深浦で見落としてならないのは円覚寺である。この寺には国の重要文化財 「薬師堂内厨子」や日本最古といわれる「北国船の船絵馬」等が奉納されている。 他所では見たことのない、珍しい髪の毛を用いて刺繍した多くの掛け軸には感動する。 海上運航の安全を祈願して多くのチョンマゲが奉納されている。 いつもベテランの海浦由羽子さんが案内してくれる。

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