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1.歩こう地球環境のために =近藤 純正=

以下の約1,400字の文章は、高知新聞社
から掲載の許諾を受けたものである

いま歩くことが楽しみである。健康によいばかりか、 素適な景色があり、出会った人たちと楽しい会話がで きる。そのうえ、エネルギーの節減にもなり、地球環 境の保全に役立つ。

私は15年ほど前に行なった心臓手術の後、健康維 持の目的でハイキングを繰り返しているうちに、歩く ことに自信がついた。平均的には1kmの距離につき15 分の速度以上は出せないが、平地なら1日に最大50 kmまで歩けるようになった。この距離は、若い健康 なときでも想像できなかった。

最近、各地に専用の遊歩道が整備されている。私の 住む神奈川県内でいえば、茅ケ崎から江の島までの湘 南の海岸沿いに10kmの遊歩道がある。これは車道の海 側に造られ、両者間には松林の帯が続いている。伊豆 大島、伊豆の山々、富士山が見えて素晴らしい。

横浜市都筑(つづき)区の緑の回廊は12の公園を 結び、直径3kmの環をなし、歩く距離は15km前後も ある。うち1kmは一般道を含むが、緑道と車道は立体 的に交差し、歩行者重視の立場で造られていて、安心 して歩くことができる。

高知市内では鏡川の北岸沿いに、潮江橋から鏡川橋 まで河川敷に造られた遊歩道がある。南岸の土手と河 川敷の遊歩道もよい。ただ途中、一般道を通らねばな らない所がある。

播磨屋橋から農人町、青柳橋、登りの遍路道、その 途中の伊達兵部の墓、五台山の竹林寺、牧野植物園を 巡るのは、帰省した際の私の気に入りのコースである。

昨年1月、ひとりで歩き遍路の旅に出た。そのとき 「日本一だ!」と感動したのは大方町入野松原の海岸 沿いの遊歩道であった。砂浜に足を踏み入れれば、色 とりどりの貝殻が目を奪い、長い弓状の渚に寄せる小 波に心弾んだ。そして立ち昇る冬の海霧に、朝の陽光 が射していた光景は何とも素晴らしかった。

私たち人体は1日に2,000キロカロリーのエネルギーを消費 する。これは昼夜の平均値で約100ワット(人間は寝ていて も心臓など動いているわけで、このうちのかなりの部 分が基礎代謝として使われている)。平地の歩行中はこ の2倍としても200ワットに過ぎない。昔、貴族が4頭だ ての馬車に乗った場合でも3キロワット程度であった。

1キロワットは体重50kgの人が階段を毎秒2メートル の速度で上るときに相当し、人間も瞬間的には1キロワット は出せる。乗用車は走行時80キロワット前後、歩行者の 数100倍のエネルギーを使う。それゆえ、車が徒歩の20 倍の速度を出すとしても、同じ目的地までには数十 倍のエネルギーを消費する。

先進国の人々は物を大量消費し、贅沢な食事をして いる。これらは莫大なエネルギーを消費して得たもの である。石油など化石エネルギーの消費によって大気 中の二酸化炭素が増加している。その増加速度は地球 の過去数十万年間に起きた変動と比べれば、異常な大 きさである。

ほかにも、森林の減少と荒廃、有害物質による汚染 など、地球環境が悪化している。環境悪化は、人間の 贅沢と儲け第一主義から生じたのである。

地球環境の保全は、私たち一人ひとりの暮らし方に かかっている。どんな暮らしをすべきか。たとえば、 4km以内の通勤は徒歩か自転車としてはいかがか。地 球環境の保全への貢献だと認識すれば可能だと思う。
(高知県吾川郡伊野町出身・神奈川県平塚市中里49 の6)

―2003年5月16日付高知新聞朝刊『所感・雑感』に掲載―
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