A18.室戸岬観測所、2013年2月20日

報告者:近藤純正
2013年2月20日に室戸岬観測所の見学会を行った。露場において超音波風速計による 露場風速の試験観測を行っている。 (完成:2013年2月22日)

本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、 引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを 明記のこと。

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更新記録
2013年2月22日:作成


	目次
	18.1 見学会参加者
	18.2 観測所の説明
	付録 地形の特徴と露場風速観測(速報)


18.1 見学会参加者

参加者(敬称略)、4名。

島田 信雄
大西 政昭
徳増 忠臣
近藤 純正

18.2 観測所の説明

配布資料(「K56. 室戸岬見学会、2013年2月20日」) に基づき室戸観測所の沿革、特記すべき記録的な気象現象について説明 した。以前の室戸岬観測所は台風観測の最前線「台風銀座」として注目されてきたが、 近年では地球温暖化など長期的な気候変化を監視する重要な気候観測所となっている。

次いで、高知地方気象台の北村光良技術課長により、現在の観測機器について 説明していただいた。

見学風景
図18.1 雨量計についての説明する技術課長と見学者。

超音波風速計
図18.2 露場風速用の超音波風速計(受感部の地上高度=1.63m)。

続いて、1月28日から観測中の超音波風速計の原理、試験観測の目的などについて 説明した。 室戸岬観測所は日本の重要な気候観測所であるので、周辺環境を可能な限り一定に 保つ努力をしていかなければならない。

その方法として、
(1)時々、目視により環境に変化がないか注意すること。
(2)露場から周辺の方位360度の樹木等の仰角を測量すること。樹高に換算した場合、 樹高10mが13mになれば大きな環境変化であるので、その前に枝を切り落とすなど 管理すること。
(3)露場風速を長期にわたり観測し記録していくこと。測風塔風速に対する測風塔 風速の比(風速比)の10%の変化は大きな環境変化であるので、この資料を参考にして 露場フェンスの内・外に雑草が茂っていないか、樹木の枝が伸びすぎていないか注意し、 管理すること。

見学会では、いくつかの質問(室戸は高知より高温ではないか? 強風の記録は旧 測風塔の高さが高すぎたからではないか?)があった。それらに対する回答は、 「K56. 室戸岬見学会、2013年2月20日」赤文字で加筆しておいた。

質問の一つに、「室戸の気温は岬の観測所で観測されている値よりも高温ではないか? 高知よりも高温ではないか?」があった。その回答は「室戸の市街地の代表地点 で観測が行われれば、高知と同様に都市化の影響により、高知よりも年平均気温は 1.2℃ほど高い値が観測されると推定される(「K56. 室戸岬見学会、2013年2月20日」の表1の下に書かれた注3を参照のこと)。

室戸岬の観測所では都市化の影響を含まない自然の気象を観測していることに 注意しなければならない。市街地で観測しても、場所ごとに平均気温は異なるのである。 こうした地点ごとの分布を観測するのは微気象観測と呼ばれ、気象庁観測所の目的 ではない。

付録 地形の特徴と露場風速観測(速報)

露場風速の試験観測は1月28日から3月下旬まで行う予定である。現在までの資料を 解析した結果(速報)によれば、露場風速の特徴は次の通りである。

1.露場では、東南東~南の風はほとんど吹くことがない。すぐ南側に森林が広がって いることが原因である。

2.測風塔風向が南東のとき、露場の風向は逆の北西の風向となる。これは南側 の森林上を吹いてきた風がレーダー塔にぶつかり反転すること、その他、風の通り易い 風道を迂回して吹いてくるためである。

3.測風塔風向が北東寄り及び西寄りのとき、露場でもほぼ同じ風向の風が吹く。露場 では、この方向が比較的開けているので、測風塔と露場の風向差が小さい。

4.露場は北東方向がもっとも開けており、この方向からの北東寄りの風は風向変動が 比較的に小さい。

以上は、室戸岬は先端の尖った岬、東西は急峻な傾斜であり、観測所の露場(標高=185m) と風向風速計設置場所(標高=161m)がともに岬の尾根に相当する位置にあるという 地形特徴から生じたものと考えられる。

詳細は、3月下旬まで続ける露場風速の観測資料の解析から明らかにされる。

室戸岬地図
図18.3 室戸岬の地図、国土地理院の電子地図による。赤丸は室戸岬観測所の露場 (北側)と測風塔(南側)の位置。

図18.3は国土地理院の電子地図である。露場と測風塔は約500m離れた位置にある。 風向風速計の高度=21.8mである。周辺は樹木があり、風向風速計の見かけ上の地面 高度はそれよりも低く、有効高度は11.8m程度とみなされるが、尾根沿いにあること により、平坦地よりも風速が強い。

室戸岬の真南26kmに設置されている海上の10号ブイ(高知県が設置)の風速よりも 年平均風速は10%も強い。「A51.室戸岬の気象」の 表65.9に示されている。

注1:土佐黒潮牧場の風向風速計高度
高知県水産振興部水産試験場によれば、「土佐黒潮牧場」の海上ブイの灯火の高さ =6.8~7.9m、風向風速計の海面からの高さ=8~9mである。

注2:海上風と陸上風の違い
海面は風に対して滑らかに近い表面である。滑らかさを表す粗度=10-3 ~10-4mである。一方、陸上で森林で覆われた地表面の粗度=0.5m 程度で大きく、同じ地上高度であっての陸上風速は弱い。

海面上のブイにおける風速が10m/sの場合、陸上の森林上では有効高度=12mの風速 =4.9m/s、有効高度=20mの風速=5.9m/sである。 (「K59. 露場の風速と周辺環境の管理ー指針」 の図59.2を参照。)

室戸岬の風速が海上風速より強いのは、岬の尾根(凸地形)上に設置された測風塔 で観測されているからである。他の凸地形の丘の観測所でも同様に、平坦地形上の 風速よりも強く観測される。室戸岬の観測風速は海上風速に近い値であるので、 海上の気象状態を知る上で参考になる。

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