M58.砂時計で学ぶみんなの科学(砂漠気候)

著者:近藤純正
砂時計というごく簡単な装置の中にも、よく観察してみると面白い科学を見出すことができる。 これは、平塚市内の升水記念市民図書館(理事長:升水由稀さん)で行った小学4年生以上の親子参加に よる授業「子どもも大人もいっしょに科学!」ー砂時計から見えてくる地球の自然、身近な科学の 世界を探検しますーの内容に少し専門的なことを加筆してある。(完成:2011年8月10日)

授業は当初、3月19日に計画されたものであるが、3月11日に東日本大震災が発生、計画停電などが あったため延期され、夏休み期間の8月9日に行われた。主催は(財)升水記念市民図書館、協力は 三菱東京UFJ銀行平塚支店、後援は平塚浜岳中学校区子ども読書活動推進協議会である。

●本章は、講義・講演内容に、研究の背景などを加筆した要約である。また、 日本気象学会誌「天気」の「気象ABC」、第58巻(2011年)、p.1075-p.1078に掲載され た内容である(印刷仕上げで2段組4ページ)。

本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、 引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを 明記のこと。


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更新記録
2011年3月1日:ほぼ完成、一部未完成
2011年8月10日:完成




     目次

            Q 蒸発速度と風速の関係は?
            58.1 80日間砂時計の発案
            58.2 24時間砂時計で遊ぼう
        祈りで砂の流れが止まるか? 砂は崩れて安息角をつくる
        オリフィスの大きさ     見えないものに気づく
        ハプニング         砂時計の栓を開けると何が起こる?
        大気圧           照明で雲が発生
        その他の実験
            58.3 森林の蒸発散
            58.4 砂漠の蒸発と風速の関係
            付録 子どもたちの砂時計
            参考文献


Q 蒸発速度と風速の関係は?

図58.1 は風洞内で測定された、ぬれた松の幹の重量の時間変化である。風速が1m/sのときは緑の 丸印実線で示した。風速が3m/sのときは、実線(a)と破線(b)のどちらの曲線にしたがって変化 するか?

森林からの蒸発散の特徴を知るために、造成地から貰って きた松の幹(長さ30cm、直径=10cm、松の断面は防水塗装)に十分に水を含ませたのち、 風速=1m/sで重量変化を48時間にわたり測定すると、図58.1の緑の丸印実線で示すように時間とと もに減少した。

松の幹の蒸発実験
図58.1 ぬれた樹木の乾燥過程の実験。 (「研究の指針」の「気象学夏の学校」 の図6.9に同じ)

こんどは風速=3m/sとし、同様な実験を行うと、数時間までの重量は直線的に減少し、その割合は 風速1m/sのとき約3倍になった。つまり、蒸発速度は風速に比例した。その後の蒸発速度と風速の 関係を問題としている。

この実験から、松の幹が乾燥していく過程が砂漠の蒸発の性質と同じであり、洗濯物の乾燥やクッキー の湿り・乾きなど家庭科の科学とも共通していることに気づく。砂時計で遊ぶことから学ぶことが いっぱいある。

58.1 80日間大砂時計の発案

1988年に仙台市民(代表:小野恒夫氏)から、「‘89グリーンフェアせんだい」の会期80日間に 合わせて80日間大砂時計を作り、「時間、環境、資源」などのテーマを話し合いながら「心の豊かさ とは何か」を考えるシンボルにしたいという提案があった。

日常見かける砂時計の3分間計を20cmの高さの石段一つにたとえるなら、80日間大砂時計は 8,000m級の世界最高峰に相当する。こんなに高い山になると、寒くなり空気も薄く風も強くなって 登れなくなる。大砂時計は、これと似たところがあり、予想外のことが起こるかもしれない。 だが、これに挑戦してみたい!

最初に8時間計から始まり、だんだん大きなものへと作っていった。砂時計の砂は、上側のガラス 容器から小さなくぼみ「オリフィス」を通って下側のガラス容器に流れ落ちて行く。

58.2 24時間砂時計で遊ぼう

この話は、すでに大学専門課程の3年生の気象学の講義でも、地球物理学者たち、流体工学者たち、 あるいは気象学会シンポジウムでも行った内容である。

以下の58.2-[1]~58.2-[9]節は、(財)升水記念市民図書館において小学4年生以上の親子同伴15組の 「子どもも大人もいっしょに科学!」で行った授業である。

以下の写真は三菱東京UFJ銀行平塚支店の林 航太さんに撮影していただいたものです。

講義風景
図58.2 24時間砂時計を前にして80日間大砂時計の話。

58.2-[1] 祈りで砂の流れが止まるか?
オリフィスから流れ落ちる砂は、数本の糸のようになって、下側のガラス容器に溜まります。 小さな砂の山はだんだんと高く、富士山のようになります。しばらくすると、オリフィスの砂の流れ が遅くなりました。最初、平らであった上側のガラス容器の砂は、まん中に窪みができ始め、 やがて窪みは富士山とちょうど正反対の形となり、蟻地獄のように、周りの砂を崩しながら広がって いきます。

オリフィス部に注目すると、小さな砂粒は上から整然とした集団になって集まってきます。 そしてオリフィス部が狭くなるにしたがって、砂の集団は速さを増し最大速度となり、オリフィスを 通過します。砂時計がまるで生き物のように見えてきました。

さて、オリフィスの砂の流れを止められるか、だれか、「砂の流れ、止まれ!」とお願い してみてください。

止まってくれません。

こんどは私が砂時計にそっと手を当て、心をこめてお願 いしてみよう。「砂の流れ、止まっておくれ!」。

数秒後に砂の流れがピタッと止まった、なんと不思議、みんなは驚きました。私がガラス容器から 手を離すと、砂は再び流れ始めました。

この一時停止はオリフィスに大粒の砂が詰まっていたからなのでしょうか。手を離すときの わずかな振動で、偶然、流れ始めたのでしょうか?

もう一度、同じようにガラス容器に手をそっと当ててみました。また砂の流れが止まるではあり ませんか。砂時計はまるで魔法のようです。別の子どもがやってみました。止まりかたが違います。 砂時計は人見知りをするのです。情熱的な人とそうでない人とでは、はっきりした違いがあります。

58.2-[2] 砂は崩れて安息角をつくる
ふと、下側のガラス容器に溜まった砂の形を見ると、もう大きな山になりました。富士山のようです。 頂上が数分間ごとに険しくなると、崩れてすそ野に広がっていきます。山崩れです。1回ごとの山崩れ は同じではありません。今度はこちら側が崩れそうだと思うと、別のところからはじまり、崩れかた も違います。

山の斜面と水平面のなす角度は安息角と呼ばれています。粒子の大きさ、かどの丸み、含有水分など によって変わります。この砂時計の安息角は約35°です。

斜面のある場所に家を建てた場合、斜面の傾斜が安息角よりも大きいときは、崩れる心配があります。

上側のガラス容器と下側のガラス容器の砂の量を見比べました。下側の砂の量を見て、 「もう、こんなに時間が過ぎ去ったのか」と。上側を見て、「残っている時間はもうこれだけか」 と思いました。砂時計は過ぎ去った時と、残された時の量をはっきりと教えます。過去をどのように 過ごしてきたのか。また、残された時間に何をすべきか、何ができるか。

こんどは砂時計の上側のカラス容器に手の平で触ってみると、オリフィスを流れる砂が急に速く なりました。手を離すと、元にもどりました。

58.2-[3] オリフィスの大きさ
砂時計の砂は、どのようにしてオリフィスを流れ落ちるのでしょうか?砂粒の直径は0.2mm、 オリフィスの穴の直径は1.6mmです。穴の直径は砂粒の大きさの8倍ですから、オリフィスを完全 に通り抜けることができます。

仮に、オリフィスの穴の直径が1mmだとすると、穴は砂粒の5倍もあるので、砂は流れると思うかも しれませんが、砂はオリフィスで詰まります。

別のことを連想しました。人々がたくさん集まる大ホールの出入口は広く作られていて、人間の身体 の幅の数倍以上はあります。もし、出入口の寸法が身体の幅の2~3倍しかなければ、非常時に 人々が殺到すると、身動きができなくなります。砂時計が動くには、砂粒が集まるオリフィスの 直径は砂粒の大きさの6倍以上でなければなりません。

58.2-[4] 見えないものに気づく
先ほどの観察で砂の流れが止まった理由はなぜか、皆さん気づきましたか?

砂時計はガラス容器に砂を入れたあと、砂がこぼれないように密封してあります。中の空気は約1気圧 で、外の気圧と同じです。

最初は、砂の流れは速いのですが、下側のガラス容器に砂がたまってくると、砂の増えたぶんだけ 空気のいる場所が狭くなり、気圧が高くなります。上側のガラス容器は砂が少なくなったぶんだけ 気圧が低くなります。上下のガラス容器の間で1~2ヘクトパスカルの気圧差が生じます。 水柱では10~20mmの高さに相当します。

この気圧差で下側のカラス容器から上側のガラス容器へ向かって空気が流れます。砂は下向き、 空気は上向きに流れています。

オリフィスでは砂の流れは見えますが、空気の流れは見えません。空気は狭いオリフィスで風と なって砂の落下に抵抗しているのです。手の平で下のガラス容器に触ると、体温で中の気圧が急に 高くなり、上向きの風が一層強くなりました。この吹き上げる強風が砂の落下を止めたのです。

オリフィスを通り抜けた空気は、こんどは多くの砂の隙間を通って、上端まで行かねばなりません。 砂の隙間は小さく、砂の中に小さな土粒子が混じっていると、隙間を塞ぎ空気の流れを止めます。 もちろん、大粒粒子が混じっていてもオリフィスで詰まるので、砂時計を作るには砂の精製が重要と なります。

砂が乾燥しすぎの場合は、静電気が起こって砂粒が固まるし、湿り過ぎても固まって砂が流れなく なります。


注1:砂の精製
砂の精製が不十分だと、砂の流れが止まる。また同じ量の砂で長時間の砂時計を作ることが できないし、面白い実験ができなくなる。

その1 泥の除去:砂を大きなボール容器に入れ、水を注ぎかき回すと、大粒の砂から順番に 沈殿する。微小粒子の泥などは沈殿が遅く上のほうに濁った状態にあるので、これを流す。この操作 を数回繰り返せば泥などは除去できる。

その2 大粒子の除去:砂を乾燥させたのち、網の目状の篩(ふるい)にかけて細かい粒子と 粗い粒子にふるいわけて、粗い粒子は除去する。

その3 適度に乾燥:砂をオーブンに入れて乾燥させると乾燥し過ぎとなるので、そのあと 広げて自然の状態で空気にさらしておく。あるいは、最初から砂を広げて自然の状態で乾燥させる。


58.2-[5] ハプニング
砂の流れが止まって、悔しかったことがあります。24時間砂時計に続いて1週間砂時計を作りました。

1週間計に砂121kgが入れられて公開実験を行ったときのことです。1989年4月7日、だんだん成功の 時間が近づいてきました。砂時計を見守っていた小野恒夫さんと石峰修さんは午前10時38分、 「あと3~4分で計測終了!」と周囲の人々に知らせました。テレビ取材のライトが一斉に照らし始め、 緊張が高まってきました。

その瞬間、砂の落下が止まりました。残念!惜しい!あと2分半を残したままです。連続時間 99.98%で、残りの0.02%で止まってしまったのです。突然の出来事に、石峰さんはオリフィス部を たたきました。しかし砂は止まったままでした。

プロジェクトチームは、オリフィス部を本体から取り外しました。オリフィスに残った砂を紙の上に 落として空けてよく見ると、何ということでしょう。最小部の直径1.45mmのオリフィスに、 「通行止め」の道路標識のような X 字が作られているではないか。この X 字は少したたいても 外れません。繊維質の針のようなごみが2本重なってX字を作っていたのです。

普通なら、細長い砂はオリフィスを通るとき、縦になったり斜めになったりして落ちるのですが、 偶然にもその瞬間水平になったのでしょう。約70億個の砂粒の中に、悪さをしたごみが2個あった のです。70億は世界の人口に相当します。みんなが前を向いてオリフィスというトンネルを抜ける プロジェクトを行ったのに、それが終わる直前に、2人だけが横を向いたために、つまずき転び、 後ろに残った人々を止めてしまったのです。

58.2-[6] 砂時計の栓を開けると何が起こる?
ここには24時間砂時計のほかに3時間砂時計があります。3時間砂時計は、ガラス容器に砂を入れ 密封したときの栓が開けられるように作ってあります。

この3時間砂時計も動いています。もし、栓を開けると、上側のガラス容器の気圧と、皆さんがいる この室内の気圧が同じになろうとする。そうすると、オリフィスの砂の流れはどうなるのでしょうか?

現在、上側のガラス容器の気圧は下側より低くなっており、オリフィスでは下から上向きに風が吹いて います。上側の栓を開けると、どうなりますか?

子どもAの答え:
「栓を開けると、低くなっている上側のガラス容器の気圧が急に高くなるので、オリフィスの砂の 流れは押されて速くなります。」

この考えに異論はないですか?それでは、栓を開けますので、オリフィスをしっかり見ていて くださいね。

栓を開ける瞬間
図58.3 3時間砂時計の栓を開ける瞬間。

なんという不思議! みんなは驚き、あっと叫びました。

栓を少し緩めると、シューという音をたてて私の手から栓が飛びはね、オリフィスでは下からの 強い風で、砂は吹き上げられるかのように動いて流れが止まってしまった。私もびっくりしました。

砂は止まったのち、しばらくすると、再び落下し始めました。

実はね、きょうの実験は当初3月の予定でしたので、私は今年のお正月に予備実験のために、砂時計の 栓を開けて、お正月の空気を砂時計に入れてありました。さきほど栓を開けると中に詰っていたお正月 の空気(高い気圧の空気)がきょうのこの部屋の空気より濃くて(気圧が高くて)、噴出したわけです。

もしも、砂時計をたくさん作っておいて、その一つの栓を開けて1月1日の空気を入れて栓をする。別の 砂時計は2月1日の空気を入れておく。・・・・・・・

そうして、きょう順番に砂時計の栓を開けてオリフィスの砂の流れがどうなるか(止まるか、止まって いる時間が長いかどうか、流れ落ちる速度が速くなるか、など)を観察することができる。 砂時計は、このようにして、過去(昔)のことをちゃんと覚えている。

別の実験をしてみましょう。この部屋は2階ですね。砂時計を屋上に持っていって、栓を開けると どんなことが起こりますか? あるいは、1階へ運んで栓を開けるとどうなりますか? 頭の中で考えてみましょう。・・・・・・・・

栓を開ける瞬間
図58.4 いくつかの回答例の一つに賛成して挙手する親子たち。

屋上や、階下で実際に実験する代わりにこの部屋で別の実験をしてみよう。 ここに20ミリリットルの注射器があります。いま実験している3時間砂時計の上下のガラス容器の 容積はそれぞれ3リットル(3000ミリリットル)です。注射器と砂時計の栓の間をゴム管でつなぎ ました。

注射器を20ミリリットルだけ、急速に引いてみるので、オリフィスの砂がどうなるかよく見て いてくださいね。イチ・ニイ・サン・・・・・。砂の流れは止まり、しばらくすると、また正常に 流れはじめました。

今度は注射器を押して元にもどし、20ミリリットルの空気を急速に上側のガラス容器に送ってみます。 ・・・・・・

空気を入れた瞬間、オリフィスの砂の流れは高い気圧に押されて下向きに噴射しました。

20ミリリットルは3000ミリリットルの1%以下のわずかな量です。みなさん”ヘクトパスカル”という 呼び名を聞いたことがありますか?・・・・知らない!・・・・・。テレビでほとんど聞かない のかな?

それでは今後注意していてくださいね。台風がきたようなとき、「950ヘクトパスカルの強い台風が ・・・・・・」と放映されることがあります。ヘクトパスカルは気圧のことで、普段の気圧は 1000ヘクトパスカル程度です。

1000ヘクトパスカルの1%はいくらですか?・・・・・・

10ヘクトパスカルです。砂時計の上下のガラス容器の中の気圧が10ヘクトパスカル違ったでけで 砂の流れが止まって吹きあげられたり、逆に急激な速さで下向きに噴射したりしたわけです。

1ヘクトパスカルは水柱で10mmに相当し、重さでは1平方cm当たり1グラム(1平方m当たり10kg) です。2階と4階で高さの差が約10mあれば、1ヘクトパスカルの気圧の差があり、上方ほど空気が薄く なっています。富士山は3700m以上もあるので気圧が低く、空気が薄くなっています。

質問:
砂時計の中の空気を真空にしたらどうなりますか?

答えは宿題:
はい、同じ質問は学者からも出たことがあります。いろいろな答えがあり、真空にすると、 (1)空気の流れが無くなるので砂の流れは止まる、(2)砂の流れの速さは変わらない、 (3)おそくなる、(4)早くなる。

正解は宿題にしておくことにしておきましょう。

58.2-[7] 大気圧
気圧とは、この面から上空にある空気の重さのことです。もともと気圧は水銀柱の高さで測られて いて、1000ヘクトパスカルは水銀柱750mmの重さが押す力のことです。水銀の比重は13.6ですから、 面積1平方cm当たりでは約1kg(面積1平方m当たりでは10トン)の重さに相当します。

1000ヘクトパスカルは水柱では10mの重さに相当します。したがって、水の深さ10mまで潜ると、 圧力は大気圧と水圧の両方が加わり2倍の2000ヘクトパスカルになります。

人体の血圧、たとえば75~150ミリは聞いたことがありますか? これは水銀柱75~150mmの圧力の ことであり、普段の大気圧より10~20%大きい圧力で心臓からの血液が身体中に送り出されている ことです。

この日のお話はここで終了し、ペットボトルを使って各自が砂時計を作りました。そのときの写真 はこの章の最後に示してあります。

以下は大学3年生以上に講義した内容です。

58.2-[8] 照明で雲が発生
砂時計の上側のガラス容器につくられたすり鉢状の形状が美しく、その時間変化を写真に 撮っておこうと考え、照明ランプを照らしたままにしてありました。

しばらくして戻ってみると、上側のガラス容器の内壁に水滴の雲ができているではありませんか。 私はとても驚きました。照明ランプを消すと、ガラス容器の内壁にできていた雲は消えてしまい ました。

これが砂漠の気象だと直感的に思いました。つまり砂漠では、日中太陽が昇り地面を照らすと 地面温度は上昇し、砂の層に含まれていた水分が蒸発し、上空へ昇り雲となって浮かぶ。 太陽が沈むと雲は消えて再び砂漠の地中へ還っているのだと。

空気は温度が高いほど水蒸気を多く含むのに対し、地中は逆で、温度が高いほど含みうる含水量は 小さくなります。この互いに異なる性質によって、昼夜の水分の流れが地表と大気の間で起こっている のです。

クッキーや魚の干物が乾いたり湿ったりするのも同じ現象です。

58.2-[9] その他の実験
(1)オリフィスでは砂の落下に対して下から吹き上げる風が抵抗しているが、温度が変わると 砂時計の時間は変わりますか?

(2)砂時計を斜めに傾けて動かすと砂時計の時間は変わりますか?


注2:空気の粘度(粘性係数)と微粒子の落下速度
粒子に働く重力に逆らって、空気の粘度(粘性係数)に比例した抵抗力が作用することで粒子の 落下速度が決まる。重力と抵抗力が釣り合った状態のときの落下速度を終端落下速度という。
落下速度は粒子の密度に比例し、空気の粘度に逆比例する。

空気の粘度:空気の粘度は温度とともに大きくなるが、その変化の割合は比較的小さく、 0℃ から 50℃ の温度上昇に対して粘度は 1.13 倍の増加となる。
水の粘度は空気とは逆に温度上昇に対して小さくなる。50℃ の粘度は 0℃ の粘度の 0.31 倍と なる。

砂時計の中では、温度の変化に対して砂に含まれる水分の状態がわずかながら変る。そのため、 オリフィスの砂の流れは、空気の粘度だけで決まるわけではない。様々な要因があるにしても、 通常、砂時計の時間は温度によって大きくは変化しないことが特徴である。

注3:砂時計の精度(誤差=時間の狂い / 設定した時間)
これまでに製作した砂時計の精度は、8時間計で0.50%、24時間計で0.35%、1週間計で0.17%、 80日間大砂時計で0.04%であった。

物理量の基本単位は長さ、重さ、時間の3つである。最近の時計は電波時計などの出現によって、 精度は非常によくなったが、昭和中期までの計測器の多くは高精度ではなかった。 精度が0.2%の精密計器は0.2級計器で、普通は移動させない。精度が1%のものは1級計器、 2%のものは2級計器と呼ばれている。

一般に精密計器になればなるほど取り扱いが難しく、雑に扱うと精密な測定はできなくなる。 高い精度を必要としない場合は、普通級の計器を利用するがよい。


58.3 森林の蒸発散

私は、砂漠における水の循環についての研究と同時に、それと正反対の湿潤気候の森林における 水の循環の研究もしていた。図58.1に示した風洞実験において、松の幹が十分に湿っている間は、 蒸発速度は風速に比例したが、松の表皮付近が乾いてくると、蒸発速度は風速と無関係になった。 その瞬間、この性質こそが、砂漠の蒸発現象だと考えた。

実は、1986~87年の頃のこと、中国の乾燥域における水循環を明らかにする目的で、日本と中国の 共同研究プロジェクトが起こり、現地観測への参加の打診を受けたことがある。しかし、乾燥域では 蒸発量は少なく、湿潤域で開発された従来の「蒸発量は風速に比例する」(水蒸気は風の鉛直成分で 運ばれる)の原理に基づく方法では誤差が大きく観測できないことは明らかであり、プロジェクトに は参加せず、砂漠に応用できる「裸地面蒸発モデル」の開発を目ざした。

58.4 砂漠の蒸発と風速の関係

図58.1の実験から、砂漠では蒸発量は風速と無関係になることに気づき、そのころ裸地面蒸発の 数値モデル計算をしていた三枝信子さんにこのことを伝え、再現できるかを試してもらった ( JAM、1992)。

松の幹の乾燥実験でも、新しく開発した「裸地面蒸発モデル」でも、ある程度乾燥化が進んだ段階 では、蒸発量は風速と無関係になる。乾燥化が進んだ段階とは、松の幹なら1日後、砂漠なら大雨で 裸地面が十分湿ってから数十日後に相当する。

図58.5を参照すると、蒸発速度は、水の蒸発面が表面にあるときは大気中の抵抗 r1(交換速度の逆数) つまり風速に依存するが、蒸発面が表面から深いところになる(乾燥が進んだ)ときは r1+r2 による。 r2 は分子拡散を表す抵抗で非常に大きく、r1+r2≒r2 となり、大気中の風速とほとんど無関係になる。

水蒸気の流れの抵抗表示
図58.5 水蒸気の流れの抵抗表示。

この性質は、昔から多くの人々が無意識であれ知っていることであり、薄手のシャツ類の洗濯物は、 風当たりの強いところで乾かすのに対し、厚手の衣類や濡れた靴などは、強い風に当てるのではなく、 風通しのよいところで陰干しにしてゆっくりと乾燥させている。

付録 子どもたちの砂時計

2011年8月9日に開催した親子参加による授業「子どもも大人もいっしょに科学!」ー砂時計から 見えてくる地球の自然、身近な科学の世界を探検しますーの後半では作業を行い、ペットボトルを 使ってみんなで砂時計を作りました。

この作業では三菱東京UFJ銀行平塚支店のスタッフに手伝っていただき、写真は林 航太さんに 撮影していただいたものです。

みんなで砂時計を作る
図58.6 親子で砂時計を作る風景。

砂を網「ふるい」にかける
図58.7 砂を金網「ふるい」にかけて大粒の砂を除く作業。

組み立て
図58.8 砂時計を組み立てる。

試運転
図58.9 砂時計の試運転。

みんなで砂時計を作る
図58.10 かわいいシールなどを貼って、砂時計が仕上がった。

参考文献

砂漠の水収支、蒸発量についての詳細は、以下に示す章と参考書から学ぶ ことができる。

参考となる本ホームページの他の章:
「研究の指針」の「6 気象学 夏の学校」:後半の節 「6.7 乾燥域の水収支・熱収支(気候変化)」と「6.8 新ポテンシャル蒸発量の利用の勧め」 が参考になる。

参考書:
○近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学ー理解と応用ー.東京大学出版会、pp. 324.
8章「乾燥域の気象」-降水量と蒸発量の関係、熱収支・水収支の季節変化、土壌面蒸発の式、水資源

○近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学ー地表面の水収支・熱収支ー.朝倉書店、pp. 350.
8章「土壌面の熱収支」-土壌の含水率、土壌内の水分輸送、計算モデル

○Kondo, J., N. Saigusa and T. Sato, 1992: A model and experimental study of evaporation from bare soil surafaces. J. Appl. Meteor., 31, 304-312.



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