K98.自然通風式シェルターに及ぼす放射影響の誤差


著者:近藤純正
自然通風式(非通風式)の気温観測用シェルター3種類について放射の影響による気温 観測の誤差を調べた。晴天日中の無風時には5℃以上高めに、シェルター高度の風速が 1.5m/s程度のとき1~1.5℃ほど高めに、夜間の微風時は0.2~0.6℃低めに観測される ことがわかった。この結果に理論的考察を加えると、風が強い晴天日中の誤差は、 風速5m/sで0.3~0.4℃、10m/sで約0.2℃と推定される。 (完成:2014年11月29日)

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更新の記録
2014年11月22日:素案の作成
2014年11月29日:完成

  目次
      98.1 はしがき
      98.2 放射影響の誤差の定義
      98.3 試験器と温度センサー
      98.4 無風時の直射光による放射影響の誤差
   98.5  風があるときの放射影響の誤差
    (a) 1時間の平均気温
        (b) 瞬間気温
        (c) 風速依存性の推定
     まとめ
     文献


98.1 はしがき

野外の気温観測では、ファンモータを用いた通風式気温計を用いるべきであるが、 現実には「自然通風式」が多用されている。その悪い例として、直径80mm程度、 長さ200mmほどの塩ビ・パイプを横にして、その中に気温センサーを入れて観測する 者がいる。あるいは、プラスチック板で太陽直射光のみを防ぎ、気温センサーは露出の ままで観測している者もいる。これらの方法では、晴天日中の気温は3℃以上も高めに 観測されるだろう。

1970年代まで使われていた気象庁気象観測所の百葉箱内でも微風晴天時には1℃ほど高め の気温が観測されていた。最近使用されている小型の自然通風式(非通風式)シェルター では1℃以上の誤差があると考えられる。

ガラス温室内の室温を「自然通風式」で測っている例もある(図98.1右)。温室内は 無風であり、晴天日中の室温はおそらく5℃以上高めに記録されると推定される。

シェルター使用例
図98.1 野外で見られる自然通風式シェルターの観測例。
左:公園の気温観測、右:温室内と室外の気温観測

機器の測定原理について、気温計と放射計と風速計(熱線風速計)は同じであり (「大気境界層の科学」の3章)、本人は気温を測っているつもりでも実際には日射量、 あるいは風速の違いを測っている場合がある。

このことに気づいていない研究者が、例えば日中の都市ヒートアイランドを観測した とき、仮に都市内の気温が一定であったとしても都市中心部が高温となる等温線を描く ことになる。なぜなら、開けた郊外の風通りの良いのに比べて都市中心部は密集し風速 が弱く、非通風の「自然通風式」気温計の指示値は弱い風速ほど高めに表示されるから である。

他方、仮に日中の都市内の気温が一定の場合、都市中心部は見かけ上クールアイランド として観測されることもある。なぜなら、非通風の気温計に及ぼす放射による誤差は 日射量に概略比例するので、建築物の日陰が多い都市中心部では、非通風の気温計は 低温に表示されるからである。

こうしたことから、精度の悪い非通風の「自然通風式」気温計を用いた観測結果は 定量的にも定性的にも信用できないことになる。

この章では、非通風の「自然通風式」シェルター3種類について、放射の影響による気温 観測の誤差を測定した。この結果に、理論的考察を加えることにより風速が強いときの 誤差も推定することができた。

98.2 放射影響の誤差の定義

放射影響の誤差とは、放射(日中は日射、夜間は大気放射)による気温観測の誤差を 意味し次式によって定義する。

放射影響の誤差=(シェルター内気温センサーの指示値)-(通風式気温計2台の平均値)

基準に用いる通風式気温計(K1とK2)は放射による影響が無視できる気温計である。 これらは「自然通風式」シェルターの両側に並べて設置した。数m範囲内であっても 気温には空間的な違いがあるので、K1とK2の違いが大きいときのデータは不採用とする。

K1とK2は4重の通風筒構造の気温計である( 「K92.省電力通風筒」の図92.16)。排気部の後方に白色プラダンで作った雨除け があり、観測しないとき雨除けは折畳んでダンボール箱に入れて運ぶことができる。 すでに、 室戸岬など多地点で観測に使用したものである。

不完全なシェルターを用いた気温観測では、日中は太陽直射光のほかに、天空・雲の 散乱光、地面反射光、および加熱された地表面からの高温放射(長波放射:赤外放射) によって、高めに観測される。地上における晴天日の太陽直射光は概略1000W/m 程度である。

夜間は下向き大気放射(目に見えない長波放射:赤外放射)と冷却された地面からの 長波放射によって気温は低めに観測される。晴天夜間には気温より概略20℃低い温度が 出す黒体放射量に相当する下向きの長波放射があり、シェルターに入る正味放射量は マイナス100W/m 程度である。

気温のサンプリングと平均値
気温は20秒間隔でサンプリングし、各1時間の平均気温をもとめ、放射影響の誤差は 1時間間隔で求めた。ただし、瞬間気温に及ぼす放射影響の誤差は、20秒間隔の気温を 用いる。

98.3 試験器と温度センサー

自然通風式シェルターは、筑波大学から借用した重田式シェルターと酒井式シェルター、 および新規購入したヤング社製の小型シェルターの3台である。


表98.1 試験器の仕様

         重田式   酒井式  ヤング社製
 皿の枚数          5枚         8枚       6枚
 皿の直径        110mm       70mm      120mm
 皿構造部高さ    100mm       70mm      100mm



酒井式では、プラスチック製の皿を組み合わせた構造体下端の中心にある穴の下から センサーを挿入する。その際、発泡スチロールの円柱形小片の中心軸にセンサーを 挟んで穴に固定した。重田式でも同様にセンサーを固定した。ヤング社製では、 付属のアダプターにセンサーをネジで固定した。いずれのシェルターも下からセンサー を挿入・固定するように作られている。

ヤング社製では太い温度センサーも支持具で固定できるようになっているが、今回使用 した温度センサーは細いので、差し込み口の穴は密閉されなく、穴を上下する空気流が ある。

これらシェルター内に取り付ける温度センサーは立山科学工業社製のA級Pt1000オーム、 3導線式、受感部直径=2.3mmである。本試験で用いる温度センサーは厳密に検定 されたものであり、誤差は±0.02℃程度である( 「K69.気温観測用 Pt センサーの安定性と器差」と、 「K91.Ptセンサーの検定(比較検定)」を参照)。

通常用いられている温度センサーの直径は6mm以上のものがある。直径が大きいほど 放射の影響が大きく誤差は大きくなる。放射影響の誤差は2つの成分からなり、日中は、

(1)シェルターの皿の加熱による高温空気がシェルター内部に溜まる影響
(2)シェルター内壁からの長波放射によってセンサーが高温になる影響

夜間は日中の逆で冷却と低温になる。

各成分の風速との関係は、理論的には次の通りである。

前者(1)について:
シェルター内に溜まった高温空気はシェルター周辺の風速に比例 して流れ去るので、誤差は風速に逆比例して小さくなる。なぜなら、シェルターが吸収 した放射エネルギーは顕熱として風によって流れ去ることでシェルター壁面温度は準定常に 保たれている。放射条件が一定であれば、流れ去る顕熱エネルギーは一定で、その空気 の温度は流れ去る風速に逆比例するからである。

その具体例として、「K83.気温観測に及ぼす樹木の加熱効果-実測」 の83.2節「熱と気温の関係-黒網受光面による昇温」の計算で示したように、気温上昇量 は風上側で吸収した太陽エネルギーに比例する。

シェルターが吸収する放射エネルギーはシェルター壁面の放射吸収率に比例するので、 シェルターが汚れてくると放射影響の誤差は大きくなる。今回、新規購入したシェルター は汚れていないためか、放射影響の誤差は小さめに測定された。そのほか、わずかな 構造の違いもある。あとで示されるように、降雨中~降雨直後の試験によれば、 シェルターを作る皿の形状が少し複雑なヤング社製の放射影響の誤差が小さいのは、 わずかな皿の形状の違いによると考えられる。

後者(2)について:
高温になったシェルター内壁がセンサーに及ぼす放射影響 は、周辺風速がある程度大きい時、風速の平方根に逆比例して小さくなる。ごく大まか に、センサーの直径が3倍になれば誤差は約1.5倍になる(「大気境界層の科学」の 図3.4;「K16.気温の観測方法」の図16.3)。

したがって、本試験で使用したセンサーの直径2.3mmより大きいセンサーを観測に用い た場合、放射影響の誤差は大きくなる。

さらに注意すべきは、「自然通風式」シェルター内の気温センサーに及ぼす放射影響の 誤差は風向と太陽方位角にも依存する。日射の照射面から温度センサーを経て反対側に 風が吹くとき(正午ころなら、南寄りの風のとき)、誤差は大きくなると考えられる。

98.4 無風時の直射光による放射影響の誤差

ガラス窓をきれいに掃除して、2階の広さ8畳の室内に設置されたシェルターに太陽直射 光が当たる状態で放射影響を調べた。室温むらが小さくなるように、遠方に置いた扇風 機を運転して室内空気を混合させた。この際、扇風機からの風がシェルターに直接当たら ないよう扇風機を首振りさせながら試験した。

基準の通風式気温計(K1, K2)のファンモータも運転しているので、自然通風式(非通風 式)シェルターの回りは完全無風ではなく風速は0.2m/s程度と見なされ、野外ではほぼ 無風時の試験としてよいだろう。

室内実験
図98.2 ガラス窓こしに太陽直射光を当てた試験。中央部に設置した非通風式3台を 挟んで両側に基準の通風式気温計(K1, K2)を設置した。右端のK1は非通風式のやや 背後の、左端のK2は非通風式のやや前面(ガラス窓側)の空気を吸引する位置にある。

試験日2014年11月15日の太陽の南中時刻は11時25分ころである。自然通風式(非通風式) シェルターに及ぼす日中の放射影響と太陽高度との関係は単純ではなく、複雑な関数関 係になると考えられる。

試験結果を表98.2に示した。7:00-8:00の値が若干小さめであるのは、太陽高度が低く 光路長が長く直射光が弱いことによる。基準の2つの通風式気温計の1時間平均の気温差 (空間むら:K2-K1)は7時~10時の時間帯で大きく0.18~0.29℃であったが、非通風式 の放射影響の誤差がはるかに大きいのでデータはすべて採用してある。空間的な気温 むらを考慮すると、表98.2に掲載されている放射影響の誤差の精度は±0.2℃以内で ある。

表98.2 無風時における自然通風式(非通風式)シェルターの放射影響の誤差 (2014年11月15日、快晴)。
  数値:太陽直射光による温度上昇(℃)
  戸外無風時(推定):試験結果の誤差の最高値×1.3

 時刻       K2-K1     重田式   酒井式  ヤング製小型
 7:00- 8:00     -0.18℃   4.4℃       3.4℃       3.4℃
 8:00- 9:00     -0.29      5.8         4.4         3.8
 9:00-10:00     -0.19      6.2         4.5         3.9
10:00-11:00     -0.06      5.6         4.0         3.4
11:00-12:00     +0.02      6.0         4.9         3.0

   平均            -0.14      5.6         4.2         3.5

戸外無風時(推定)    ----     8.0         6.4         5.1



この結果を戸外に適用する場合、ガラス面の反射・透過率による減衰はゼロであり、 太陽直射光のほか天空の散乱光、地面反射光、高温地表面からの長波放射(赤外放射) が加わるので、放射影響は30%程度大きくなるものと推定される。その推定値、つまり 戸外における無風晴天時の放射影響の最大値を表の最下段に赤数値で示した。

放射影響の最大誤差は、ヤング社製小型では5℃、酒井式では6℃、重田式では8℃と 見込まれる。

98.5 風があるときの放射影響の誤差

前節の室内試験と同様に、庭にシェルター3台とそれらの両側に基準の通風式気温計 (K1, K2)を設置した。設置した地上高度は2mである。わが家の周辺は2階建ての 住宅地であり、庭の南側には幅員4~6mの道路が東西に走っている。

庭の実験
図98.3 手前(左上方)から順番に基準器(K1)、ヤング社製小型、酒井式、重田式、 基準器(K2)。

以前に筆者の庭において高度1.75mの風速を超音波風速計で調べたことがある(2013年 7月23日~9月18日)。その結果によれば、日中の風速は1~2m/s、夜間は0.2~1m/sで ある。ただし、台風時など暴風時は除外する。

今回の試験中の目測風速はそれと大差ないので、日中の試験結果はシェルター高度の 風速が1.5m/s前後、夜間は0.5m/s前後の時における誤差と見なしてよいだろう。

参考:筆者の庭における2013年9月16日9時57分36秒の台風時の最大瞬間風速 (1秒間)=15.6m/s(高度=1.75m)、最大瞬間風速(3秒間)=12.7m/s(高度= 1.75m)であった。同日の小田原アメダスの最大瞬間風速=20.2m/s(風速計高度=10m) であった。

 (a) 1時間平均気温
2014年11月の15日から21日までの6日間の試験結果を図98.4に示した。1時間平均気温 の空間的なむら(K2-K1)は最大0.07℃、多くは±0.02℃以内であったので、 すべてのデータは採用してある。

各プロットは1時間平均気温の誤差を示している。「晴」のときは雲の通過で放射量が 時間的に変動し、また風速も時間変動するので、誤差は瞬間値が平均化されている。

1時間平均気温の試験
図98.4 放射影響の誤差の時間変化(1時間平均気温の誤差)。
図中の「晴」は直射光もあるが、雲も存在し、日射量がときには小さくなる条件、 「曇」は雲がほぼ全天を覆う状態を意味する。 試験期間中(11月15日~21日)、庭に設置した「自然通風式」シェル ターに直射光が完全に当たる時間帯は8時からである。


3つのシェルターについて、ヤング社製は誤差がもっとも小さく晴天時の日中は1℃前後、 夜間は-0.2℃である。

日中の誤差がもっとも大きいのは重田式(形がもっとも小さい)で晴天時に1~1.6℃で ある。夜間の誤差(マイナス)が大きいのは酒井式で-0.5~-0.7℃である。酒井式 では、天蓋皿の放射冷却が大きく冷却された空気がシェルター内に溜まりやすいと考 えられる。

空が曇った場合は、それぞれの誤差は晴天時の概略半分以下である。

夜間の曇天時についてみると、横軸=92~95時の時間帯には、放射影響の誤差は-0.03℃ (ヤング社製)、-0.04℃(重田式)、-0.06℃(酒井式)である。

降雨の影響についてみると、夕方~日没頃の横軸=135~138時(降雨中:135時は午後3時、 138時は午後6時)には、ヤング社製は0.00~-0.03℃で小さいのに対し、酒井式は -0.14~-0.22℃、重田式は-0.07~-0.11℃で冷却が大きい。皿の形状のわずかな 違いによると思われる。ヤング社製の皿の形状は少し違ってやや複雑である。

135時は午後3時であり、誤差がマイナスになっている意味は雨で濡れた皿の外壁 (気温より低温)からシェルター内に流入した冷気によるものと思われる。 この傾向は雨上がりの144時(夜中の午前0時)まで続いている。 なお、この時間帯の気温の空間的むら(K2-K1)は±0.01以内であった(曇天時や 降雨時は気温の空間的むらは小さい)。

重田式と酒井式は降雨中とその直後は、放射影響の誤差のほかに、シェルター表面の 濡れによって気温は0.1~0.2℃程度(湿度に依存)低めに観測される。

なお、この降雨中は風が弱く、センサー自体は濡れてなく、センサー受感部は湿球に なってはいないと考えられる。

 (b) 瞬間気温
図98.5は瞬間気温についての誤差である。瞬間気温の温度むら(K1-K2)>0.15℃は除外 してある。11月16日の24時間分(20秒間隔の全データは4320個=3×60×24)であり、 除外したデーは全データ4320個中の3%(132個)である。

1時間平均気温の図98.4と比べると、誤差は約1.5倍となり、晴天日中の重田式では最大 3℃、酒井式とヤング社製では最大2℃である。晴天夜間の誤差(マイナス値)は重田式 で最大-0.6℃、酒井式で最大-1℃、ヤング社製で最大-0.5℃である。

瞬間気温の試験
図98.5 放射影響の誤差、ただし瞬間気温(11月16日の24時間分)。


 (c) 風速依存性の推定
ほぼ無風時(風速≒0.2m/s)の誤差は表98.1に示した。また、風速1~2m/sのときの誤差 は図98.4に示した。これらを参考にして、さらに98.3節「試験器と温度センサー」で 述べた誤差と風速との理論的関係(誤差に含まれる2成分の影響)からシェルターに及ぼ す放射影響の誤差と風速との関係を推定することができる(図98.6)。

風速依存性
図98.6 「自然通風式」シェルターに及ぼす放射影響の誤差(縦軸)と周辺風速(横軸) の関係、晴天日中の推定曲線(青線:重田式、赤線:酒井式、緑線:ヤング社製)。 風速が大きくなると誤差は風速に逆比例して小さくなることを示している。なお、黒の 実線と破線は有効放射量 R-σT4=70W/m2(Tは気温の絶対温度、σはステファン-ボル ツマン定数)のときの円柱と球に及ぼす放射による温度上昇である(「大気境界層の科 学」の図3.4;「K16.気温の観測方法」の図16.3)。


図98.6は球と円柱の温度上昇の図(黒の実線と破線)に「自然通風式」シェルターの 誤差の関係(青、赤、緑の線)を重ねて描いた図である。

ここで試験した自然通風式シェルターに及ぼす放射影響の誤差は、晴天日中の風速が 5m/sのとき0.3~0.4℃、10m/sのとき約0.2℃になると推定される。つまり、風速が強い ときでも誤差は意外に大きい。注意すべきは、微風~数m/sの通常の弱風のとき、 風速依存性が大きく気温を測っているつもりでも風速を測ることになる。

まとめ

3種類の非通風の「自然通風式」シェルター内に取り付けた直径2.3mmのPt1000センサー の気温上昇量(日中)と気温下降量(夜間)を放射影響の誤差として求めた。

プラスチック製の皿を重ねて作られた構造のシェルター内は、日中は日射加熱面からの 顕熱によって高温空気が溜まっていることと、シェルター内壁が放つ長波放射によって 内側の気温センサーが昇温し、気温観測値は真値より高めとなる。夜間は低温の下向き 大気放射によって気温観測値は低めとなる。これを放射影響の誤差とした。

(1)室内のガラス窓こしに直射光を当てて測定した結果から戸外条件を推定すると、 ほぼ無風時における放射影響の最大誤差は、ヤング社製小型では5℃、酒井式では6℃、 重田式では8℃となる(表98.1)。

(2)風の吹く戸外における1時間平均気温の測定結果では、ヤング社製で誤差がもっと も小さく晴天の日中は1℃前後、夜間は-0.2℃である(図98.4)。

重田式(形がもっとも小さい)では晴天時の誤差は1.0~1.6℃である。夜間の誤差 (マイナス値)が大きいのは酒井式で-0.5~-0.7℃である。酒井式では天蓋の放射 冷却で冷却された空気がシェルター内に溜まりやすいと考えられる。

なお、全試験時間6日間(144時間)の平均気温は K1=K2=10.69℃、同じ気温であった。 日中のプラス誤差、夜間のマイナス誤差を含む6日間について、重田式の誤差=0.11℃、 酒井式の誤差=-0.04℃、ヤング社製の誤差=0.11℃であり、 長時間の平均誤差は非常に小さく、おおよそ±0.1℃の範囲内にある。

(3)瞬間気温については、誤差は1時間平均気温の場合の約1.5倍となり、晴天日中の 重田式で最大3℃程度、酒井式とヤング社製で最大2℃程度である(図98.5)。

(4)重田式と酒井式では、上記の放射影響の誤差とは別に、降雨中と直後はシェルター 表面が濡れることによって気温は0.1~0.2℃ほど(湿度に依存)低く観測される。

ここで示した試験は、裸地面のアルベドが小さい11月の湿った条件における結果である (日中の「地表面温度-気温」≒5℃)。地面が乾いた条件では地面反射が大きく、 さらに地表面温度が高温になり地表面からの長波放射も増え、放射影響の誤差は 20~30%程度大きくなると考えられる。

(5)理論的考察と上記(1)(2)の試験結果から、誤差の風速依存性の関係を推定 することができる(図98.6)。非通風の「自然通風式」シェルターの誤差は、風速が 5m/sのとき0.3~0.4℃、10m/sのとき約0.2℃である。

考察によれば、「自然通風式」シェルターのよる放射影響の誤差は太陽方位角と風向と の関数であるとともに、太陽高度の複雑な関数でもある。さらに、シェルター内に取り 付ける気温センサーの大きさにも依存する。今回の試験で使用した3台のうち、新品の ヤング社製は、放射影響の誤差がもっとも小さかった。シェルターが汚れてくると 日射の吸収量が増し、その結果として放射影響の誤差が大きくなることに注意しよう。

定性的にも定量的にも信頼される観測結果を得るにはファンモータを備えた通風式気温計 を用いよう。 なお、高精度のA級気温センサーでも器差の許容差は±0.15℃とされており、筆者が 行なった15本の検定でも器差は±0.15℃であった(器差は気温に依存)、センサーは 検定したものを使用しよう。

参考文献

近藤純正、1982:大気境界層の科学.東京堂出版、pp.219.

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