K138. 平均気温と最高・最低気温の関係


著者:近藤純正
地点間の気温の高低の表し方として、平均気温の高低と最高・最低気温の高低が ある。平均気温として数10分間平均、数時間平均、日平均、月平均、季節以上の 長期平均がある。それら平均気温とヒトを含む動植物の生存・活動は密接に関係 する。いっぽう瞬間的な最高・最低気温は気温の高低を表す大まかな目安を表す パラメータである。
一般に、平均気温が低くても最高気温は高い場合もある。実用的・学問的には、 気温の高低は平均気温で比較することが望ましい。
異なる種類の気温計を並べて比較する場合、数分以下の平均気温は乱流の 特徴を見ていることにすぎず、少なくとも30分以上の長い時間平均値で比較 しよう。
空間広さが狭い場所では、晴天日中は気温の時間変動が激しく、平均気温に 比べて瞬間的な最高気温がより高く観測される。(完成:2017年1月10日予定)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2017年1月5日:素案の作成
2017年1月6日:「まとめ」に参考を加筆、138.3節の最後に備考を追記

    目次
      138.1 はじめに
      138.2 晴天日中の気温変動
     (1)観測環境と気温変動幅
     (2)乱渦の空間スケール
      138.3 大気境界層研究で分かっている変動成分の知識
      138.4 空間広さと気温変動幅の関係
      まとめ
      文献



138.1 はじめに

日最高気温(あるいは日最低気温)の日本一の記録が観測された地点が 「日本一暑い所」(あるいは「日本一寒い所」)とされる場合がある。

これに類する比較として、例えば空井ら(2016)によれば、全国の気象観測地点 での日最高気温(日最低気温)に順位を付け、日本一暑かった(寒かった) 日が最も多かった所として、日本一暑い所(寒い所)を決めることができる。 また、この順位に応じた得点を各観測地点に与え、総得点の最も多い所を 「日本一暑い所」(「日本一寒い所」)とすることもある。別の考え方として、 夏季(冬季)の平均気温や日最高気温(日最低気温)の平均が最も高い(低い) 所を「日本一暑い所」(「日本一寒い所」)と決めることができる。

これらの決め方によって日本一となり、「まちおこし」に利用されている。 たとえば、暑い所の例として岐阜県多治見市(最高気温40.9℃:2007年8月16日)、 埼玉県熊谷市(最高気温40.9℃:2007年8月16日)、高知県四万十市江川崎 (最高気温41.0℃:2013年8月12日)がある。

本州一寒い所の例として、岩手県藪川(最低気温-35℃:1945年1月26日) (近藤、1987)、北海道陸別(2007~2016年の1~2月の寒さランキング ポイント第1位)(空井ら、2016)などがある。

統計方法の違いによって、日本一をいろいろつくることができ、「まちおこし」 に利用されている。しかし、これらは統計が容易であり、暑さ寒さの目安を 表すものである。

問題点1:観測所の局所環境
アメダスにおける気温の観測では、最大1℃程度の誤差(代表性の誤差)を 含むことがある。日本一暑いまちを売りにしていた岐阜県多治見アメダスは、 風通しの悪い(空間広さがきわめて小さい)環境にあり、晴天日中の気温は 隣のスーパー商店のアスファルト駐車場の気温より1℃ほども高く観測される (「M65. 多治見のヒートアイランド観測」)。

気象官署(気象台や旧測候所)に比べて、一般アメダスでは、数m平方程度の ごく局所的な環境が悪くて最高気温が出やすい観測所がある。例として、 岐阜県多治見アメダス、群馬県館林アメダスなどがある。

問題点2:気温計の誤差
気象庁など公的機関が用いている気温観測用の通風筒では晴天日中の気温は、 放射影響による誤差として最大0.3~0.4℃程度あり、高めに観測される (「K99.通風筒の放射誤差(気象庁95型、農観研09S型)」 )。

また、気象官署用と一般アメダス用の通風筒は構造が異なるため両者の放射影響 に差がある。

一般に広く使われている自然通風式(非通風式)気温計では、晴天微風時には 最大5℃程度、気温が高く観測される( 「K98.自然通風式シェルターに及ぼす放射影響の誤差」)。

したがって、最高気温では気象庁観測所で最大0.4℃の違い、自然通風式気温計 を用いた一般用の観測地点では最大5℃の違いは有意でないことがある。 それゆえ、0.1℃の違いで日本一を競う「まちおこし」は、学問的ではない。 しかし役立つならば許されよう。

ただし、気象庁観測所はそのような目的で設置されているわけではないことを 国民は理解していたい。

問題点3:最高・最低気温(瞬間値)は気温の高低の目安
気象庁が最高・最低気温を定義する瞬間値とは、仮に時定数1秒の微細センサ で気温を測ったとすれば、1分余(約80秒~100秒)の時間で平均した気温 データの連続のうち、その日の最大値(または最小値)を日最高気温 (または日最低気温)としている。これは、昔の時定数の大きい棒状の最高気温計 (最低気温計)で観測していた時代の最高気温(最低気温)に近い値となるが、 厳密には一致しない(「K23.観測法変更による気温の 不連続」)。

地点間で比較した場合、瞬間値が高温の地点は平均気温では逆に低い場合があり、 瞬間気温における0.5℃以内の違いは有意でないことがある。

最高・最低気温は瞬間値であり、気温の高低を表す目安に過ぎない。 それに対して実用的には平均気温(数分間平均、数時間平均、日平均、月平均、 季節平均)を用いて比較することが望ましい。ヒトを含む動植物の生存・活動 と密接に関係するのは平均気温である。例えば稲作の場合、出穂期や開花期 の平均気温が重要であり、コメ収量は夏3か月の稲作期間の平均気温と相関関係 が高い(「身近な気象の科学」の図18.2)。

本章では、観測地点の空間的広さの違いや地表面の粗度によって瞬間的な 最高気温が高い場合でも、平均気温は低いことがあることを示し、瞬間的気温 の意味を理解したい。


138.2 晴天日中の気温変動

(1)観測環境と気温変動幅
図138.1は快晴日の熊谷地方気象台の観測露場における正午過ぎの気温変動の例 である。時間間隔10秒で記録した瞬間値の7個(60秒間)の移動平均値を プロットしてある(「K84.観測露場内の気温分布-熊谷」 )。以下の例でも同様に60秒間移動平均値を示す。

図によれば、3時間内の気温は20.0℃~23.2℃、変動幅=3.2℃で激しく変動 している。

一方、図138.2は晴天日中における相模湾の神奈川県平塚沿岸の汀線(波うち際) で観測された海風の気温変動である。3時間内の気温は28.1~28.4℃、変動幅 =0.3℃はきわめて小さい。汀線では、気象台露場に比べて空間広さが広く、 さらに水温が気温に比べて低い「大気安定度が安定」のときの気温である。

熊谷の気温変動
図138.1 熊谷地方気象台の露場における気温変動、高精度通風気温計K2に よる(2014年4月24日13時~16時)。気温計K2はルーチン用気温計の隣に設置。

平塚海岸の気温変動
図138.2 相模湾の神奈川県平塚海岸の汀線(波打ち際)における気温 変動(2013年8月18日)。


図138.3は東京の新宿御苑の芝生広場(K2:風下距離=410m)と密な林内 (K8:風下距離=210m)における3時間の気温の記録である (「K109.新宿御苑の気温水平分布」)。

林内は芝生広場に比べて日射量が10%程度であり平均気温は低い。しかし、 空間広さが狭いため、気温変動幅は大きく、最高気温(30.66℃:13時16分) は日当たりのよい芝地広場(30.27℃:13時42分)よりも逆に0.39℃も高い。

新宿御苑の気温変動
図138.3 東京の新宿御苑の芝生広場と密な林内における気温変動、 2015年7月11日。

以上の例から、瞬間値(最高気温)で気温の高低を表すのは適切でないことが わかる。


(2)乱渦の空間スケール
大気境界層の中では、大小さまざまな乱渦が上下左右に動きながら平均流の 方向へ流れている。そのため、まったく同じ構造・特性の温度計を並べて 観測しても瞬間値は同じ気温を示さない。

図138.4は芝生露場内で4m離して設置した通風式気温計K1,K2の気温差の 時間変化である(「K84.観測露場内の気温分布- 熊谷」)。時間間隔10秒で記録した瞬間値と、60秒平均(データの7個の 移動平均値)、10分平均、1時間平均の4種類をプロットしてある。

図示した3時間の時間内で2地点間の気温差(K1-K2)の瞬間値は-0.7℃~ +0.9℃の幅で変動しているが、60秒平均値では±0.4℃、10分平均値では ±0.1℃、1時間平均では0.05℃以下となり、平均化時間が長くなるにした がって気温差は小さくなる。

2点間の気温差
図138.4 熊谷地方気象台の露場内の2点間の気温差、高精度通風気温計K1とK2 による(2014年4月24日13時~16時)。K1とK2の距離は4mである。

このことから分かるように、例えば、構造・特性の異なる2台の通風式気温計 を比較する目的で、気温の差を見たとき、10分以下の短い時間の平均値は気温計 の特性・誤差をあらわすのではなく、乱流の特徴を見ていることになる。

気温計の特性・誤差を知るには、30分以上、1時間程度の平均値で比較 しなければならないことが理解されよう。

図138.4は2台の気温計間の距離=4mの場合であるが、1m程度に近接させて 比較しても、気温差は小さくなるものの微小にはならない。気温差を微小に するために、あまり近かづけると気温計構造体が相互に影響しあうことに 注意すること。

風速変動はいろいろな周波数成分をもった渦の重ね合わせで表現できるという 考え方がある。このモデルに従って、乱流が含む乱渦の空間スケールを観測 から求めることができる。

図138.5は相模湾平塚沖にある高さ20mの海洋観測塔に4~6台の追従性の 速い微風速計を鉛直方向、あるいは風向に垂直な水平方向に配置して風速変動 を観測し、乱渦の鉛直および水平方向のスケールを求めた。そのうちの水平 スケールを図示したものである。なお、鉛直スケールLzと水平スケールLyの比、 Ly/Lz=1.28である(近藤ら、1974)。

縦軸は海面からの高度、横軸は水平方向のスケールLyである。周期(=1/f、 fは周波数)をパラメータとして表してある。

乱渦のスケール
図138.5 海洋観測塔で観測された大気安定度が中立に近い時の乱渦 の積分スケール(略して、乱流のスケール)Lyと高度の関係(近藤ら、1974、 に基づく)。

図によれば、1/f=10秒(+印)の場合、高度10mにおけるスケールLyは5.7mで ある。周期(=1/f)が長くなるほど、スケール(乱渦の大きさ)は大きくなる。

図138.6は海上において観測された乱流の3次元モデルである(内藤・近藤、1974)。 ただし1/f=10秒の渦で、高度10mの風速U10=5m/s、高度10mにおける 形状である。

風速が強くなると、スケールLx は風速に比例し, Ly, Lz はともに風速の0.79 乗に比例する。詳細は内藤・近藤(1974)に示されている。

乱渦モデル
図138.6 高度10mの風速がU10=5m/s、1/f=10秒の乱渦、ただし大気 安定度が中立に近いときの海面上の高度=10mにおける形状(内藤・近藤、1974、 に基づく)。

図に示されたように、乱渦は風向に沿って前方に傾いたフランスパンに似た 形状をしている。

以上は水平にほとんど一様な広い海面上における結果であり、複雑な狭い空間 における乱流のスケールとは異なるが、定性的な関係は参考にしてよい。

備考:乱渦のスケールの意味
乱流が含む乱渦の積分スケール(略して乱流のスケール:Lx,Ly,Lz)は2点間 の相関係数が小さくなる距離を表している。x方向のスケールLxは相関係数 がe-1(=0.368)になる距離を、y方向とz方向のLyとLzは 相関係数がe-0.91(=0.403)になる距離を示している (内藤・近藤、1974)。


138.3 大気境界層研究で分かっている変動成分の知識

1950~1970年代には、大気境界層内のエネルギー輸送・大気拡散の基礎的研究 が盛んで、乱流構造を知るために風速や気温の時間・空間変動の観測が行われた。

大気安定度を表すモニン・オブコフの安定度スケールL(長さの次元)で無次元 化された高さ(z/L)で乱流変動量が表されるという「乱流の相似理論」から、 多くの観測結果が整理された。 図138.7は風速の鉛直変動成分w'の標準偏差σw(縦軸の分子)を摩擦速度u* (縦軸の分母)で割り算した量(縦軸)と無次元高度(横軸)との関係である。 横軸の絶対値が小さい(図の左)ほど、大気安定度は中立に近く、右ほど 不安定度が大きくなる。

不安定度と風速鉛直成分
図138.7 大気が不安定のとき(L<0)における風速鉛直成分の乱れの強さと 安定度との関係(近藤、1982、図5.1より引用)。

図によれば、乱れの強さは不安定度が増すほど大きくなることを表している。 σ/u*は|z/L|とともに増加するが、途中で減少 するプロットもある。 σ/u*は混合層の中層付近まで増加するが、それより上の混合層 トップに近くなると再び減少する。

次の図138.8の縦軸は気温変動の標準偏差σθを温度スケール(摩擦温度) θ*で割り算した値である。ただしθ*=-(H/cpρ)/u* 、Hは顕熱輸送量、u*は 摩擦速度、cpρは空気の体積熱容量である。詳しくは「水環境の 気象学」の5章を参照のこと。

気温変動の標準偏差σθの無次元量(縦軸)が不安定度とともに 減少しているのは、σθはθ*(顕熱輸送量に比例)で割り算して 表したためである。無次元化しない気温変動の標準偏差σθは 顕熱輸送量 H が大きくなるにしたがって大きくなる。

風速や顕熱輸送量、地表面の粗度などの条件を与えれば、この図から気温変動 の大きさ(標準偏差σθ)を知ることができる。

なお、縦軸の無次元量は、|z/L|とともに小さくなるが、途中から大きく なるのは前図と同様に混合層トップに近い層における特徴である。詳しくは、 「大気境界層の科学」の5章で説明されている。

不安定度と気温変動
図138.8 大気が不安定のとき(安定度スケールL<0、摩擦温度θ*<0) における気温変動の強さと安定度の関係(近藤、1982、図5.2より引用)。

以上は広い理想的な大気境界層における風速や気温の乱流変動についての まとめである。

備考:図138.7~138.8の観測資料
図138.7~138.8のプロットは、ほとんどが1970年代に世界中の研究者に よって得られたデータのまとめである。この時代、超音波風速温度計が 普及しており、風速・気温変動量は超音波風速計によって、一部の気温は 細いセンサー(熱電対など)で観測されたものである。サンプリングの 時間間隔は1秒ないし数秒である。
各プロットに用いた平均時間は30分間程度のものが多い。


138.4 空間広さと気温変動幅の関係

多くの観測所は、必ずしも広い理想的な場所に設置されているわけではない。 気温や風速の乱流変動の基本的性質は理想的空間における場合と同じであるが、 観測所の広さを表す「空間広さ」や「木漏れ日率」によって独特の振る舞いを 示す。

注:空間広さほかの定義
空間広さの定義は「K121.空間広さと気温-日だまり 効果のまとめ」の121.2節を参照し、木漏れ日率の定義は次の 「林床の木漏れ日率と林内の見通し(詳細)」を参照のこと。

次の「林床の木漏れ日率と林内の見通し(詳細)」 をクリックして参照してください。その後、プラウザの「戻る」を押してもどって ください。

林床の木漏れ日率と林内の見通し(詳細)


気象庁観測所は各地域を代表する気象を観測するために設置されており、 観測所環境の維持管理のために、これまでのシリーズ研究「日だまり効果の 基礎研究」や「森林内の気温」、その他の章で研究してきた。

図138.9は晴天夏の正午前後の時間帯において得られた空間広さと気温変動 の標準偏差の関係である。

空間広さと気温変動
図138.9 晴天夏の正午前後における、空間広さと気温変動の標準偏差の関係 (「K79.都市の地上気温の分布-新しい視点・解析法」 の図79.5に同じ)。気温変動の標準偏差σを求める時間(平均化時間)は 30分間である。


図によれば、空間広さが狭くなるほど気温変動幅は大きくなる。したがって、 平均気温が同じでも空間広さが狭い観測所では最高気温は高くなる。

⊿=(最高気温Tmax-平均気温)とすれば、次式が得られる (「K79.都市の地上気温の分布-新しい視点・解析法」 )。

⊿/σ=3.2±0.9℃

したがって、

最高気温 Tmax=平均気温+(3.2×σ)・・・・夏季

この式から最高気温が推定できる。

例:広い空間と狭い空間で観測される平均気温と最高気温
広い所に設置されている理想的な気象観測所(空間広さ>30)で晴天日の 正午過ぎに観測された平均気温=30.00℃、最高気温=30.96℃(σ=0.30℃) の場合とする。

この近くに環境の悪い観測点(空間広さ=2)があれば、そこでの平均気温 =31.5℃と推定される(「K79.都市の地上気温の分布ー 新しい視点・解析法」の図79.1を参照)。
一方、上記の式より、最高気温=33.32℃(σ=0.57℃)と推定される。

つまり、平均気温は1.5℃高め、最高気温は2.36℃も高めに観測されることになる。

空間広さ≒2の例として岐阜県多治見アメダスがある (「身近な気象」の「M65.多治見のヒート アイランド観測」 を参照)。


まとめ

地点間の気温の高低の表し方として、平均気温の高低と最高・最低気温の高低 がある。瞬間的な最高・最低気温は気温の高低を表す大まかな目安を表す パラメータである。

平均気温として数10分間平均、数時間平均、日平均、月平均、季節以上の長期 平均がある。これら平均気温とヒトを含む動植物の生存・活動は密接に関係する。 それゆえ、実用的・学問的には、気温の高低は平均気温で比較することが 望ましい。

(1)一般に、平均気温が低くても最高気温は高い場合もある。

(2)異なる種類の気温計を並べて比較する場合、数分以下の平均気温は 乱流の特徴を見ていることにすぎず、少なくとも30分以上の長い時間平均値 で比較しよう。

(3)乱流はいろいろな周波数成分をもった渦の重ね合わせで表現できる という考え方がある。このモデルによれば、ある周波数 f の乱渦の空間 スケールは風速とともに大きくなり、高度とともに大きくなる。

(4)空間広さが狭い場所では、晴天日中は気温の時間変動が激しく、 平均気温に比べて瞬間的な最高気温がより高く観測される。

参考
(5)必要なサンプリング数
大気中の乱流変動はランダムではないが、風速や気温の変動が仮にランダム で、その大きさは正規分布をもつものとすれば、N 回の読み取りをすれば、 誤差は次式で表される(「地表面に近い大気の科学」の式1.26)。

⊿=σ/N1/2

例として、気温変動の標準偏差σ=1℃のとき、N=90(20秒間隔で30分観測) とすれば⊿=0.105℃、N=720(20秒間隔で4時間観測)とすれば⊿=0.037℃ となる。注意:Nを増やすために、時間間隔を短く1秒や5秒にしても、温度計 のレスポンスは速くないので、意味はない。

筆者らの都市公園内の日中の気温分布の観測では原則として4時間平均の 観測を行った(「K115.新宿御苑の気温分布(2)」)。

並べて行う通風筒の比較観測では1時間平均値ごとにプロット した(「K99.通風筒の放射影響(気象庁95型、農観研 09型」)。

(6)z/L, u*, θ*の近似値の求め方
無次元高度z/L, 摩擦速度u*, 摩擦温度θ*は、顕熱輸送量や運動量輸送量 など乱流計測によって求められる要素によって定義されている。 これらは一般的な気象要素(平均風速、平均気温)によっても求めることが できる。詳しい式は多くなるので、「水環境の気象学」の式(5.45)~(5.18)、 式(5.120)~(5.127)、地表面のバルク係数が分かっている場合は5章の 「5.4 バルク式」の節を利用することができる。


文献

近藤純正、1982:大気境界層の科学.東京堂出版、219pp.

近藤純正、1987:身近な気象の科学―熱エネルギーの流れ.東京大学出版会、 189pp.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学ー理解と応用.東京大学出版会、 324pp.

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学―地表面の水収支・熱収支―. 朝倉書店、337pp.

近藤純正・内藤玄一・藤縄幸雄・渡部 勲、1974:海上風の乱れのスケールと 軸の傾き.国立防災科学技術センター研究報告、第10号、25-40.

内藤玄一・近藤純正、1974:海面付近の風速変動の相関と乱渦の三次元モデル. 国立防災科学技術センター研究報告、第10号、83-96.

空井猛寿・浜田始・亀田貴雄・高橋修平、2016: 日本一寒い町、北海道陸別- 気象庁による2007年から2016年までの10年間の観測データに基づく―. 天気、63、879-887.

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