K112.太陽光パネルを利用した林内日射計


著者:近藤純正

林内の日射量は強い直射光から微弱な木漏れ日まで分布している。こうした分布の 平均値を測定する目的で、131mm平方の太陽光パネルを利用した日射計を作った。 日射量と出力電圧は直線関係であり、温度依存性は小さいことがわかった。なお、 出力電圧の応答は早く、電圧計も含む追従時間は1~2秒程度である。 (完成:2015年9月30日)。

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更新の記録
2015年9月24日:素案の作成
2015年9月25日:細部を訂正、混濁係数の説明を加筆し図112.3を変更
2015年9月26日:112.2節に(3)応答性を加筆
2015年9月30日:「林床の木漏れ日率と林内の見通し(詳細)」を追加


  目次
      112.1 はしがき
      112.2  日射計の製作と特性
     (1)直線性
     (2)温度依存性
           (3) 応答性
      112.3 まとめ
      引用文献



112.1 はしがき

森林内の気温は林内の風速のほか放射の条件に依存するので、林床の日射量が林外の 何%であるかを知らねばならない。しかし林床の日射量の分布は、強弱のまだら 模様であり高精度の測定は難しい。その強弱は、強い直射光から葉面の重なりに よるピンホールで拡大された微弱光の木漏れ日まで分布している。

林床の放射強度は10 W/m2から1000W/m2の広い範囲に分布して いる。そのため、受感部の面積が数平方cmしかない通常の日射計で測る場合、 サンプリング数は数百~1000個程度が必要であり、林床を歩いて測る方法もあるが、 大変である。

これまでの筆者らの研究では、林内日射量のかわりに林床の「木漏れ日率」を用いて いる。初心者は微弱光の木漏れ日も強い直射光と同等に計数しがちであり、木漏れ 日率の目測は熟練を要するが、1~2日間ほど訓練すれば個人差は小さくなる。 熟練に1か月ほどかかる雲量の測定に比べれば容易である。

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林床の木漏れ日率と林内の見通し(詳細)


ここでは、林床の木漏れ日率と直接測定による日射量との関係を明らかにする目的で、 受光面積の大きい日射計を作ることにした。

東京秋葉原の電器街のラジオデパートで131mm×131mm、2.4W(Vmp=12V, Imp=0.2A)の太陽光パネルを入手した(1,980円)。この広さなら手軽で、通常の 日射計受感部の面積の100倍程度あり、林内の日射量の高精度測定が可能となる。

林内日射量の林外日射量に対する比を知るために、林内の平均日射量(Si)を歩き ながら観測する。その前後に林外の広い場所における日射量(So)を観測し、 その比(=Si/So)をもとめるので、日射計の精度・経年変化はあまり気に しなくてもよい。ただし、日射量と出力がほぼ直線関係か、また温度依存性が 小さいかが問題となる。

以下で示すように、日射量と出力は直線関係になり、温度依存性も小さく、 実用になることがわかった。


112.2 日射計の製作と特性

入手した太陽光パネルは12Vのバッテリー充電用であり、日射計に作ったときの 最大の出力電圧がこの1/3(=4V)以下になるように回路を作ることで、日射量と 出力電圧の関係を直線化した。すなわち、最大の出力電圧は太陽直射光がパネルに 垂直のときに生じる。この条件において、出力端子に電気抵抗20オーム(5W) を接続し閉回路を作り、20オーム抵抗の両端間の出力電圧を最大約4Vとした (図112.1)。

回路図
図112.1 太陽光パネルを用いた日射計の回路図。


最大日射量の出力電圧(4V)のときの電流=4/20=0.2Aであり、ワット数= 4V×0.2A=0.8Wとなる。0.8Wは、このパネルの規格(最大出力電力2.4W) の1/3である。

太陽光パネルの裏面に塩ビパイプの取り付け具を接着した構造とした。これを垂直の 塩ビ管に付けたL字アングルに差し込んで固定する。電圧はデータロガー (T&D社のおんどとり、TR-55i-V, 16,000円)に2秒ごとに記録したのち、 PCに吸い上げて平均し、林外の値で規格化する。

データ吸い上げにはコミュニケーションポート(T&D社のおんどとり、TR-50U2, 13,300円)を用いる。このコミュニケーションポートは気温計(Pt1000のセンサー) のデータ吸い上げにも用いる共通品である。

図112.2は三脚に取り付けた太陽光パネルを用いた日射計である。水準器を参考に してパネル面が水平になるように設置する。L字アングルと水平の塩ビ管は強い 弾力で固定されており、手で水平の塩ビ管を回すことでパネルを水平にすること ができる。L字アングルの垂直部は垂直の塩ビ管の外側に縛り付けられており、 L字アングルの水平部は水平の塩ビパイプの中に隠れて見えない。

日射計
図112.2 太陽光パネルを利用した日射計。上:受光面、下:三脚に取り付けた 全体写真。


林内の日射量を測る場合は、パネルに接着された水平の塩ビ管に、別のL字型の 塩ビ管を差し込み、手で持って移動観測する。あるいは、図112.2(下)に示す垂直の アルミ伸縮棒を三脚から離して、手で持って移動観測する。

林内では、原則として約30m×30mの面積の4隅に標識を置き、「のろのろ歩き」 で測定し、6分間(データ数=30個×6=180個)を2回行なって1観測とする。詳細は 次章で述べる(「K113.林内の日射量と木漏れ日率の測定」 )。

(1)直線性
日射量と出力電圧が直線関係であるかを調べた。1日中が快晴のことは稀である ので、今回は2015年9月11日~13日の快晴時の電圧を記録した。いっぽう、 「地表面に近い大気の科学」(近藤、2000)の付録Eに示した「快晴日日射量の 日変化」の計算プログラムで計算し、図112.3の赤線で表した。ただし、計算条件 として、day=255(9月12日、1月1日からの日数)、緯度=35.3°、大気圧P=1000hP、 日平均気温T=24.5℃、日平均水蒸気圧Vp=23.5hP、付近一帯の地表面アルベド ref=0.15、ロビンソンの大気混濁係数Dust=0.05を用いた。

この計算プログラムは「水環境の気象学」(近藤純正 編著、1994)の4.9節の 式(4.69)~(4.74)をもとに作成されている。

図112.3のプロットは、電圧(V)に係数225 W m-2 V-1 を掛算して単位をW m-2 に変換してある。たとえば、出力電圧=1V のとき225 W m-2、出力電圧=4Vのとき900 W m-2 となる。

なお、この係数は日射量の日変化を計算するに際して、周辺一帯の地表面アル ベドと混濁係数を仮定し、大気全層の水蒸気量を地上の日平均水蒸気圧から推定した ものである。それゆえ、係数は概略値である。

日射量の日変化
図112.3 太陽光パネルを利用した日射計による日射量の日変化の観測値(プロット)。
赤線は快晴日の計算値(9月12日、緯度=35.3°、大気圧P=1000hP、日平均気温 T=24.5℃、日平均水蒸気圧Vp=23.5hP、付近一帯の地表面アルベドref=0.15、 ロビンソンの大気混濁係数Dust=0.05)。


備考1:ロビンソンの混濁係数
日本における大気混濁係数(Yamamoto et al,1968 の混濁係数)は1970年ころ最大 で、その後は減少する傾向にあり、最近は年平均値で0.1程度である (「身近な気象」の「M59. 都市気候」の 図59.8を参照)。

いっぽう、上記の日射量の計算式に用いる混濁係数はRobinson(1966)の混濁係数で あり、Yamamoto et al.(1968) の値のほうが0.02~0.04程度大きめに出る (「水環境の気象学」の4.4節参照)。

このことから今回の計算には、神奈川県平塚市の9月11~13日(空は比較的に澄んで いた)のロビンソンの混濁係数として Dust=0.05を用いた(「水環境の気象学」の 表4.3)。


図中のプロットのうち、赤線で示す計算値から大きく下方にずれたプロットは、 雲片が太陽直射光を遮ったときの値である。

これらを除く観測値(プロット)と計算値(赤線)の比較から、この日射計の出力 と日射量はほとんど直線関係にあることがわかる。

(2)温度依存性
太陽光パネルを用いた発電装置では、発電効率がパネル温度に依存することが欠点 とされており、パネルの温度が高温にならぬよう工夫する研究が行われている。 各メーカによって異なるが、最大出力電力はパネル温度1℃の上昇に対して 0.3~0.45%/℃低下、すなわち、最大出力温度係数=-0.3~-0.45%/℃と言われ ている。

しかし、この係数をもとめた条件(温度はどこの温度でどのようにして測ったか、 光源として何を用いたかなど)が不明である。

つまり、最大出力温度係数がこの日射計にも適用できるかどうか、太陽光を 利用した自然の条件について確かめる。


備考2:パネル面の温度上昇
日射が注がれている状態で、パネル面はその寸法が大きいほど熱交換 係数(まわりの空気との顕熱交換係数)が小さくなるので、温度上昇は大きくなる。 今回用いるパネルは、大規模発電に用いているパネルに比べて寸法が小さいので、 温度上昇はそれほど大きくならない。

備考3;出力のレスポンス
出力電圧を電圧計で見ていると、電圧計も含めて、追従時間は1~2秒程度である。 また、パネル面の肉厚は約3mmで、直接空気に触れて熱交換も容易に行なわれる構造 であり、パネル本体の温度のレスポンスは3~5分程度である。

備考4:パネル上面の温度測定の方法
日射が当たっている状態で、日陰にならぬよう、パネルの真上から放射温度計 (Hioki、FT3700、波長=8~14μm)で面平均の温度を測定する。この放射温度計 は、赤色レーザー光が測定範囲を示すので、パネルの範囲を出ないように注意する。 ボタンを押している時間の平均温度が表示される測器である。


野外の条件では、 この日射計の温度は気温に比べて20℃ほど上昇するので、上記の温度係数と同じなら ば6~9%ほど感度が低下することになる。しかし、ここで製作した日射計では、 最大出力電力付近ではなく、それよりはるかに小さい出力電力の範囲を利用している。

日射計に直射光が当たっているときのパネル上面の温度を放射温度計で測定する。 風を当てたときと微風時のパネル面温度の違いと、出力電圧の違いを調べた。

図112.4は窓際に設置した太陽光パネルに送風装置で風を当てる実験の写真である。 送風装置は、プラスチックのバルダンで作った筒状の箱にファンモータ3台を並べて ある。ファンモータの電源オフ時はパネル面上の風速はゼロに近く (≒0.2~0.6m/s)、電源オン時は3.5~4.0m/sである。風速は熱線風速計で 測った値である。この風速変化に対して、パネル面の温度差と出力の電圧差を 測定した。

温度係数をもとめる実験
図112.4 パネル面(左)と送風装置(右)。送風装置はファンモータ3台を使い、 うち2台は下段に横に並べ、1台は上段に重ねてある。実験時は窓ガラスを開けて、 パネル面に太陽直射光を当てて行なう。送風装置で風を当てないとき、窓辺は微風 (0.1~0.6m/s)である。


実験は、2015年9月22日と23日の快晴時に行なった。図112.5(上)と図112.6(上) に日射計の出力電圧の時間変化を示した。22日は雲片のかかる10時過ぎまで、 23日は薄い雲片が太陽面にかかった時間帯(10-11時)は欠測としてある。 各図の上のプロット1点は2秒間隔で記録した6分間(データ数=180個)の平均値 である。

温度依存性、9月23日
図112.5 日射計出力の温度依存性の実験(9月22日)。
上:出力電圧の時間変化、赤印は微風時、黒印は風を当てた時の値。
下:放射温度計による太陽光パネル面の温度、赤印は微風時、黒印は風を当てた時 の値。

温度依存性、9月22日
図112.6 前図に同じ(9月23日)。


図112.5~112.6からわかることは、微風時とパネル面に風を当てた時のパネル面の 温度差は10~12℃ほどある。このときの出力電圧の差は明瞭ではない。温度係数が -0.3%/℃ならば、10℃の温度差で縦軸の差は1目盛ほど変化するはずだが、 不明瞭である。

温度依存性があるとすれば、10℃の温度差につき、大きく見積もっても3%、または それ以下である。

(3)応答性
この日射計の応答性は、通常の日射計に比べて、非常に早い。その理由は、通常の 日射計は受感部の温度変化を測るのに対し、この日射計ではパネルの受感部が光 エネルギーに反応することによる。また、受感部は直接空気にふれて周囲の大気 との熱交換を盛んにする。

出力電圧の応答性については「備考3;出力のレスポンス」に記したように、 電圧計も含めて、レスポンスは1~2秒程度である。

測定時に林内を歩く早さは「のろのろ歩き」で、原則として30m×30m範囲を 縦横に6分間かけて測る。詳細は次章の「K113.林内の日射量 と木漏れ日率の測定」で説明される。


112.3 まとめ

林内の日射量を測定する目的で、131mm平方の太陽光パネルを利用した日射量を 作った。実用性が十分にあることがわかった。

(1)日射量と出力電圧は直線関係である。

(2)出力電圧の温度依存性は小さく、温度係数の正確な値は見出すことができ なかったが、パネル面の温度10℃の変化に対して、大きくても3%である。


参考文献

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学-地表面の水収支・熱収支-. 朝倉書店、pp.350.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学―理解と応用.東京大学出版会、pp.324.

Robinson, N.(ed.), 1966: Solar radiation. Elservier, 347pp.

Yamamoto, G., M. Tanaka and K. Arao, 1968: Hemispherical distribition of turbidity coefficient as estimated from direct solar radiation measurements. J. Meteor. Soc.Jpn., 46, 287-300.

 

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