K110.明治神宮・代々木公園の日中の気温分布(2)


著者:近藤純正・内藤玄一・近藤昌子

東京の明治神宮・代々木公園において夏の晴天日中の気温を観測し、広い芝地を基準とした 気温差を用いて気温の水平分布を表した。ここに、気温差ゼロは都心部ビル街を代表する 気象庁大手町露場の気温にほぼ等しい値である。
快晴に近い晴天日について調べてみると、よく管理された代々木公園は林内の風通しが よく、気温の場所による違いは小さく、気温差は-0.6℃~+0.3℃の範囲にある。 これに対し、隣接する明治神宮境内の大部分は自然に近い森林であり、気温差は -1.3~+0.3℃の範囲にある。そのうち密な森林域での気温差は-1℃前後 (-1.3~-0.7℃)である。明治神宮・代々木公園全域の気温差平均値は約0.5℃であり、 従来の報告で示されたような顕著な森林クールアイランドは観測されない。
特殊な例として、大雨後の林床下の土壌が湿った日、及び雲の多い日には林内気温の上昇 が遅れ、その結果として気温差は1℃ほど低温側にずれて、マイナスの最大値として -2.3℃が観測された。 (完成:2015年8月5日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2015年7月31日:素案の作成
2015年8月2日:細部に微少な加筆


  目次
      110.1 はしがき
      110.2  林内気温を決める要因
      110.3 気温の観測
      110.4 気温差の水平分布・風下距離との関係
   110.5 気温差の風速依存性
      110.6 まとめ
      引用文献


観測協力者・機関(敬称略):
徐 健青
松山 洋・山川大智・和田範雄
明治神宮
東京都建設局東部公園緑地事務所
代々木公園サービスセンター



110.1 はしがき

森林内は日陰が多く、風通しがよければ涼しく感じる。体感温度は気温のほか日射量、 風速、湿度に依存する。憩いの場としての夏の森林公園はいかに管理すべきか?

森林クールアイランドに関する従来の認識
従来の研究によれば、都市内の緑地・森林公園の気温は周辺市街地に比べて数℃も低い、 いわゆるクールアイランドが報告されている。

クールアイランドはヒートアイランドと対になる用語である。ヒートアイランドは都市中 心部が郊外に比べて高温で、等温線を描くと島の等高線の分布に似た同心円型の分布に なる。

図110.1は神田ら(1997)による明治神宮・代々木公園で行なわれた観測を基にして、 模式的に描いた森林クールアイランドである。森林外縁部に比べて中心部が4℃ほどの 低温になっている。

この気温分布形のクールアイランドは真実だろうか?
もしかして、研究者たちの思い込みで描かれた気温分布ではなかろうか?
不正確な気温計で観測された見かけ上の気温分布ではあるまいか?

真実を知るには観測の正確さが不可欠である。正確な観測によって、真実の気温分布を知 りたい。

クールアイランド模式図
図110.1 都市内の緑地・森林公園の気温分布、従来知識の模式図(神田ら、1997、 の観測を模式化してある)。
上:気温の水平分布(中心部が低温のクールアイランド)
下:気温と風下距離の関係


間違った思い込みの2例
(1)夏の都市河川は大気を冷却するか?
夏の川沿いでは涼しく感じることから、川水が大気を冷却した結果だと思い込んでいる 人々は多い。川沿いで涼しく感じるのは、風通しがよいことと、地表面から少し離れた 高さにおける低温空気が吹いてくることによるのである。

(2)日中の小規模散水で気温が2~3℃下がるか?
夏の日中、50~60℃に熱せられたアスファルト舗装面の温度が散水によって10℃以上も 下降することから、地上1.5m高度の気温も2~3℃下がるという実験結果がテレビや新聞 などで報道されたことがある。

2~3℃も下がるというので、気温記録のどこを読み取ったかを問いただしたところ、 激しく変動する30分間ほどの気温記録のうち、気温の最大値と最低値の差が2~3℃ほど あり、これが散水の効果だという。

実際は、日中の小規模散水の効果は殆ど無いと考えてよい。

日射の強い日向の気温は、散水の有無にかかわらず、気温は2~3℃の幅で変動して いるのが普通である。人間の思い込みは恐ろしく、不思議である。思い込んでいると、 その気温変動の幅を散水の効果だと読み取ってしまうのである。

昨年、生命科学・万能細胞の分野で世界的な大発見(理化学研究所の研究)が報道された。 それは研究者の思い込みによるものであったらしい。これは多くの関心を集めたが、 それに類似する研究は決して少なくないのではなかろうか?

気温観測の誤差
屋外での気温観測は簡単なようだが、とても難しい。市販の通常気温計では 1~2℃の誤差、極端な場合は5℃以上の誤差がある。この誤差を知らずに測定している 研究者たちは多い(「K98.自然通風式シェルターに及ぼす放射 影響の誤差」を参照のこと)。

気象庁や農業関係機関が用いている強制通風式の気温計でも、晴天日中は0.3~0.4℃ほど の放射影響による誤差がある(「K99.通風筒の放射誤差(気象庁 95型、農環研09S型」を参照のこと)。

放射影響の大きい気温計を用いて森林公園で観測する場合、日陰の少ない森林 外縁部では気温は高めに観測され、日陰の多い森林内部では放射影響は小さくなる。 その結果、見かけ上の気温分布として森林内部が非常に低温として観測されることがある。

新しい考え方
高精度気温計を用いた筆者らのこれまでの研究によれば、気温分布は 水平スケール30m~100m程度の局所的空間の風通し、及び地表面がアスファルト舗装 か芝地などの種類によって大きく異なる。それゆえ、都市ヒートアイランドや森林 クールアイランドについて、従来の同心円型の等温線を描く表現から、新しい表現方法 へと進化していくべきだろう。

すでに別章で示したように、樹木・建物など障害物近くの風速(風通し)は空間広さの 関数で近似的に表される。空間広さとは、観測点から周辺を見たときの樹木・建築物まで の距離を X、樹木・建築物の高さを h、その仰角をαとしたとき、次式で表される。

 空間広さ:X/h=1/tanα

現実の風向は時間変動するので、主風向の方位の±20°範囲で平均した空間広さを 用いる。長時間の場合は、風向が大きく変動するので、方位360°について平均した 空間広さを用いる。

空間広さについての詳細は、
「K57. 森林内の開放空間の風速」
「K63. 露場風速の解析ー北の丸と大手町」
「K64. 観測露場内の地物の仰角測量」
「K75. 日だまりの気温―各地の観測結果」
などが参考になる。


空間広さ=1は、α=45°である。森林内では空間広さは 1 以下に相当し、空間広さ を用いるのは適当でなくなる。それゆえ、森林内では見通しが良好か不良のパラメータを 用いる。

一方、林内気温を決める林床の放射環境を表すパラメータとして、「木漏れ日率」を 用いる。

林内外の気温差は林床の放射環境を表す「木漏れ日率」と「見通し」の兼ね合いに依存 する。風通しの良し悪しは、見通しと関係する。

次の「林床の木漏れ日率と林内の見通し(詳細)」 をクリックして参照すれば、プラウザの「戻る」を押してもどってください。

林床の木漏れ日率と林内の見通し(詳細)


東京都心部には比較的広い森林公園が数か所あり、それぞれの特徴をもつ。明治神宮境内 は大部分が自然に近い森林に覆われているのに対し、それに隣接する代々木公園は、 よく手入れされ、林内は見通し良好で100m以上の遠方まで見える。

神宮の森の航空写真
図110.2 明治神宮と代々木公園の航空写真、方位の北は写真の上方向(カシミール、 電子国土空中写真より)。
代々木公園は南西部、明治神宮境内は北東部。写真の下のほうを東西に伸びる道路 「放射23号線」の南側は陸上競技場・屋外ステージのあるB地区であり、今回の観測は 北側A地区の森林公園を対象としている。 (「K106. 神宮の森・代々木公園の日中の 気温分布」の図106.1に同じ)

本章の目的
こうした特徴をもつ明治神宮・代々木公園について気温水平分布の特徴を明らかにし、

・ 森林公園内に設置されている気象観測所(例:北の丸露場)の管理指針
・ 快適な森林公園の管理指針

に役立てたい。

これまでの本シリーズ研究によれば、森林内の気温差は±1℃程度であり、多用されている 非通風式気温計や精度の低い強制通風式気温計では観測誤差に匹敵する。そこで本研究 では高精度気温計によって観測を行なう。

110.2 林内気温を決める要因

理論的に分かっていることとして、林外に比べて林内が高温になるか低温になるか を決める主な要因は次の5つである。

(1)林床の放射環境(日射量がいかほど届くか)
(2)林内の熱拡散(風通しがよいかどうか)
(3)林床面下の貯熱効果(雨後の土壌水分が多いとき地温・気温の上昇は遅れる)
(4)ボーエン比の気温依存性(気温の異なる春と夏で樹木による加熱効果が異なる)
(5)森林上の一般風速(強風時の気温は一様化される)

これらの要因を意識してデータ解析し、理論的な関係を確かめたい。

次の「林内気温を決める主な要因(詳細)」 をクリックして参照すれば、プラウザの「戻る」を押してもどってください。

林内気温を決める主な要因(詳細)


本シリーズ研究では、
放射環境は簡易パラメータ「木漏れ日率」で代用している。

森林の規模としては森林公園や防風林を想定し、面積が100m平方~1000m平方程度の 森林を対象として、林内の見通しの良好・不良による気温の振舞いに注意する。

林床面下の貯熱効果については、晴天が続く条件と雨後の林床面下の土壌水分量が多い条件 における林内気温の違いに注意する。

ボーエン比の気温依存性については、春(4月、5月)に比べて夏(6月~8月)は気温が 高く、放射量が同じであったとしても、その配分比(ボーエン比=顕熱/潜熱)は 夏に小さくなり、森林の大気加熱効果は小さくなる。

強風時は鉛直・水平混合が盛んで、場所による気温の差は小さくなることが予想される。


110.3 気温の観測

気温は高精度の強制通風式気温計を用いて観測する。この気温計の総合的誤差(通風筒 に及ぼす放射影響を含む)は0.03℃程度である(「K92. 省電力 通風筒」「K100. 気温観測用の次世代通風筒」)。

観測は原則として快晴日または直射日光の強い薄曇りの日に行なうこととし、1日の最高 気温が現れやすい時間帯の11時~15時までの4時間を原則とする。ただし、風向や天気など の条件によって短縮することもある。 気温のサンプリングは20秒ごとに行ない、4時間の平均気温をもとめる。センサーは Pt1000オーム、受感部の直径は2.3mmを用いている。

通風式気温計は伸縮棒(長さ0.85m~2m)の上端に取り付け、三脚に載せて気温は 自動記録する。通風筒の吸気口の地表面からの高さは1.5mとする。気温計の うちの1台は広場基準点で、他は小規模芝地や林内で観測する。

気温差の定義:
林内と広場基準点の平均気温の差は次式で定義する。

 気温差=林内気温-広場基準点の気温

広場基準点の気温とは、周囲が開けて空間広さが広い芝地上の気温である。 気温差がプラスのときは林内が高温、マイナスのときは林内が低温である。

明治神宮・代々木公園では、明治神宮境内北部の宝仏殿前の広い芝地、または代々木 公園のみの観測の場合は中央広場を広場基準点として選ぶ。

東京都心部の公園(北の丸公園、新宿御苑、明治神宮、代々木公園)にある広場基準点の 気温は、ビル群からなる市街域の気温を代表している( 「K108. 東京都心部の代表気温ー大手町露場の代表性」)。

本章では、2015年夏(6~7月)の観測のうち、

広場基準点の気温>27℃

の場合を解析する。ただし、後掲の気温差の風速依存性のグラフでは25.57℃の条件も含む。


110.4 気温差の水平分布・風下距離との関係

晴天日中の明治神宮・代々木公園の周辺では南寄りの風が吹くので、公園の南縁を 風下距離ゼロの基準とし、気温差と風下距離との関係を見てみよう。

図110.3の上図は気温差の水平分布である、ただし大雨後の気温差はプロットしていない。

下図は風下距離と気温差の関係であり、代々木公園(丸印)と明治神宮(四角)は記号を 変えてある。 下図では大雨後の気温差も別の記号(紫色)でプロットしてある。

神宮・代々木公園の気温分布
図110.3 明治神宮・代々木公園の気温差の分布(広場基準点の気温>27℃)。
プラス:基準点より高温(℃)、マイナス:基準点より低温(℃)
上:気温の水平分布、赤丸印は日向、青四角印:林内、赤二重丸印:広場基準点
(方位の北は地図の右、1200mのスケールは地図の下にある)
下:気温差と風下距離の関係


下図にプロットした大雨後に関して;
気象庁の北の丸露場では降水量63.5mm(16日)、14.5mm(17日)、0.5mm(18日)が あり、その直後の7月19日に観測した4地点の気温差は-2℃前後となっている。

なお、7月19日の北の丸における11時~14時の日射量は3.16、3.30、3.22、3.03 MJ/m-2であり、十分に強い日射の条件である。

大雨後の7月19日を除外すれば、気温差の幅は1.6℃(-1.3~+0.3℃)であり、比較的に 小さい。これは高精度気温計を用いて得られた結果であり、新宿御苑で得られた気温差の 幅1.3℃とほぼ同程度の幅と言える( 「K109.新宿御苑の気温水平分布」を参照)。

図110.3(下)の縦軸は、前述したように東京都心部の気温を基準とする気温差に近似的に 等しいので、気温差がプラス地点は都心部市街域より高温、マイナスは市街域 より低温である。

気温差にプラスとマイナスがあるので、森林公園は市街域より低温であるとは必ずしも 言えない。

今回の観測では、観測点は均等に配置されたものではないが、図110.3下図のプロットから 明治神宮・代々木公園全域の気温差平均値を概算してみよう。

代々木公園の日向の平均値=+0.01℃、林内の平均値=-0.23℃
明治神宮の日向の平均値=+0.07℃、林内の平均値=-0.84℃
無樹木域は代々木公園:20%程度、明治神宮:10%程度である。
代々木公園北側A地区の面積は約45万平方メートル、
明治神宮境内の面積は約70万平方メートル、

を用いると、全面積平均の気温差≒-0.5℃となる。

図110.3にプロットした資料は表110.1に示した。

表110.1 観測地点の風下距離、気温差、木漏れ日率、周辺樹木の平均樹高の表 (2015年6~7月、広場基準点の気温>27℃の条件のみ)
 風下距離:図110.3の上図(地図)の下端に示す0mを起点とした風下距離、
  気温差:広場基準点の気温を基準とした気温、プラスは基準点より高温
 木漏れ日率:観測時間中の複数観測者による平均値
 樹高:観測点周辺の平均的な樹高
  場所の略称:(例)社務所N150は社務所の北方150mの地点、
          六角休所N20は「六角の休憩舎」の北方20mの地点


 月/日  場  所          時  刻   風下距離 基準気温 気温差 木漏れ日率 樹高
                            m    ℃   ℃     %   m
                     
 6/24  南門E60      13:00-15:00      40     28.11   -0.01      49      7
        渋谷門E100                    10             -0.13       9     15
        六角休所N20                  490             -0.56      10     15
        小池E                       330             -0.26      75      7

 6/25  中央広場     12:00-15:00     410     27.28   -0.02     100      9
     小池E                        330             -0.11      68      7
        御苑北口S30                  540             -0.94       7     18
        隔雲亭前庭                   470             -0.18      65     15
     西道曲がり                   350             -1.16       4     25
     林苑詰所                     650             +0.17      65     18
    社務所N150                   930             -1.29       4     25

  7/19  社務所N150   11:00-14:00     930     32.97   -2.29      17     25
        林北端S100                   950             -1.90      11     20
        林苑詰所                     650             +0.01      88     18
    西道曲がり                   350             -2.15      20     25
    南鳥居N100                   250             -1.63       6     20

  7/20  社務所N150   11:00-15:00     930     31.28   -1.00      16     25
        中鳥居N100                   670             -0.27      11     22
        御苑北口S30                  540             -0.75      13     18
        隔雲亭前庭                   470             +0.25      69     15
    菖蒲田休所下                 560             +0.02      73     15

 7/22  社務所N150    11-12:30/      930     31.25   -0.49      17     25
        小池E           14-15:00     330             -0.14      73      7
        六角休所N20                  490             -0.17      54     15
        西門斜面上                   210             -0.08      32     16
    渋谷門E                       10             -0.02      21     15

  7/27  白休憩NE50   12:30-15:00     190     33.39   -0.60      12     18
        丘の広場                      90             -0.36      86     16
    バラ園                        60             +0.21      85     17
    葬場殿跡NW50                 180             -0.33      20     13
    オリーブ広場                 140             +0.19      89     17



110.5 気温差の風速依存性

森林上空の一般風が強い日は、鉛直方向の混合が強く、林内外の気温の差は小さく なることが予想される。

明治神宮境内でもっとも湿っぽく感じられた社務所の北方(略称:社務所N150)に注目する。 図110.4に示すように、気温差(マイナス)の絶対値は風速が強い日に小さくなる。

風速依存性
図110.4 明治神宮社務所の北150m(略称:社務所N150)の林内の気温差と風速の関係。
風速は北の丸公園の科学技術館屋上(地上高度=35m)の値、ただし明治神宮と北の丸 公園は離れているので、横軸の風速は11時~15時の4時間平均値である。


この図には、雲の多い「晴・曇り」の条件の場合もプロットしてある。

大雨後の晴天日には、林外の広場基準点の地温・気温の上昇は相対的に早いが、林内では 日射が弱く風速も弱いので、林床面下の乾燥化が遅れ、熱容量が大きいので、地温・気温 の上昇は遅れる。その結果として、気温差は通常より1℃ほど低いほうにずれている。

今回の日帰り観測では、観測回数が少ないので、気温差の風速依存性については、 他所における長期観測からも確認したい。

110.6 まとめ

明治神宮・代々木公園で、快晴または日射量の大きい晴天条件における2015年夏の 正午前後の気温を観測し、広い芝地の気温を基準とする各観測点の気温差をもとめた。

(1)よく管理された代々木公園は林内の風通しがよく、気温の場所による違いは小さく、 気温差は-0.6℃~+0.3℃程度である。これに対し、隣接する明治神宮境内の大部分は 自然に近い森林であり、気温差は-1.3~+0.3℃の範囲にある。そのうち密な森林域 での気温差は-1℃前後(-1.3~-0.7℃)である。

観測点は均等に配置されたものではないが、図110.3下図のプロットから明治神宮・代々木 公園全域の気温差平均値を概算してみると、全面積平均の気温差≒-0.5℃となる。

(2)大雨後の例外を除けば、最高温地点と最低温地点の気温差の幅は1.6℃で小さい。
この気温差の幅は新宿御苑で見出された1.3℃よりはわずかに大きい。

(3)大雨後の林床下の土壌が湿った日には林内気温の上昇が遅れ、その結果として気温差 は1℃ほど低温側にずれて、最低値として-2.3℃が観測された。

(4)樹木の無い日だまり地点では、春とは異なり、気温差は+0.2℃程度の小さな値で あり、マイナスのこともある(図110.3上)。

(5)気温差は風が強い日は小さくなることが見出された(図110.4)。

憩いの場としても森林公園
代々木公園や新宿御苑の木陰における盛夏晴天日における平均気温は、ビル群のある 都心部に比べて0.5℃前後の低さである。快適な公園であるためには、風通しを良くして 体感温度を下げることである。

代々木公園の大部分は、樹木の根元から2m程度までの枝・葉はほとんど無く、 風通しは比較的によいほうだが、昔からこの公園に来ている人の話によれば、最近は樹木が 成長し、熱がこもるように感じるという。

樹木の樹冠部層で吸収された日射エネルギーの一部は、ボーエン比の 気温依存性にしたがって顕熱に変換されて大気を加熱している。この熱をよりよく発散 させるには、例えば樹高10m以上の樹木なら、根元から高さ3~4mまでの枝・葉が無い ほうがよい。つまり、風通しをいっそう良くすることである。

さらに、林床面下の貯熱効果を大きくして日中の地温・気温の上昇を抑えるには、土壌 水分量を多くすることである。それには、林床の貯水能力を高めるように工夫することで ある。


引用文献

神田 学・森脇 亮・高柳百合子・横山 仁・浜田 崇、1997:明治神宮の森の気候緩和機能・ 大気浄化機能の評価(1)1996年の夏期集中観測.天気、44、713-722.

備考:上記文献において、データを取得した1996年は、正しくは1995年に行なった 観測である。気温は8月10日13時~14時に自転車で走りながらの観測である(著者に確認、 2015年3月24日)。

この時間帯の気象庁大手町における天気は薄曇り、日射量≒2MJ/m2、気温 =34.5℃、風速≒3m/sである。また、1995年8月1日から10日までの天気は晴または曇り 一時雨で、降水量は、ナシ(1日)、8mm(2日)、ナシ(3日)、0mm(4~6日)、 ナシ(7~9日)であり、8月10日は特殊な条件ではなかったと見なされる。


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