87. 潮岬測候所
著者:近藤 純正
地球温暖化など気候変動の実態を調べる目的で、気象観測所の周辺環境を
調査している。今回、和歌山県南端の潮岬測候所を視察した。
(完成:2007年12月11日)
もくじ
(1)はしがき
(2)潮岬測候所
(3)無人化後の敷地についての提案
(1)はしがき
日本における気温の長期変化について、より正しい実態を知る
ために気象観測所の周辺環境を調査してきた。その結果、環境変化が
少なく都市化や日だまり効果による気温上昇の少ない観測所は数地点しか
ないことがわかってきた。数地点では、地域的な変動を含むために、20ヵ所余
の観測所を気候変動観測所として選び、都市化や日だまり効果の補正を行う
ことにしている。
紀伊半島南端の潮岬測候所では、1970年頃から1980年頃にかけて年平均風速が
10%程度減少している。また、周辺観測所と比較して、年平均気温が0.2℃程度
上昇していることが予備解析からわかっている。
この原因を探ることが今回の訪問の目的である。
訪問に先立ち、測候所の所長・竹内 新さんに連絡したところ、
(1)古い写真はないが1982年以降については永年気候観測業務報告の
写しがあること、
(2)高層課の中松秀起課長が地元出身なので、1975年ころ以降についての
状況はわかる、
という返事をいただいた。
(2)潮岬測候所
天気予報を参考にして、2007年12月4日の朝出発し、新大阪13:03発の特急
「オーシャンアロー17号」に乗車、和歌山経由にて串本16:07到着。直ちに
タクシーにて潮岬測候所に向かう。
あいにく測候所所長は不在で、高層課長・中松秀起さん、業務課長・才原一浩さん、技術課長・
川口勝正さんに迎えられて、永年気候観測業務報告に掲載された1982年8月
17日撮影の展望写真(測風塔から撮影された周辺の写真)と「田辺・西牟婁
今昔写真帖」(郷土出版社、2004年8月3日発行、146pp.)に掲載の
昭和30(1955)年頃撮影された潮岬・串本・大島の航空写真、及び昭和36
(1961)年に完成間もない潮岬観光タワーから測候所の方向を撮影した潮岬
の家並みの写真(後掲の図87.17に対応)などを見せてもらいながら説明を
聞き、続いて測風塔に案内されて周辺を見渡すことができた。
潮岬は昭和40(1965)年代に水道が引かれ住宅が増えるようになる。
以前はほとんどが平屋であったが、近年は2階建ても建つようになった。
潮岬は風が強い所なので、人家の周囲は生垣で囲まれている。
昭和30(1955)年頃の航空写真では畑地が多くを占めていたが、近年は
農業をする者が減少し、跡地には樹木が生え、しだいに繁茂するように
なった。
これら土地利用の変化と樹木の成長が風速を弱めることになったと考えられる。
なお、潮岬の卓越風向は北西と北東であり、この日(12月4日)は北西風が
吹いていた。
測候所から頂戴した資料によれば、
観測開始:1912(大正元)年
現庁舎の築年:1936年
露場面積=767m2
海抜=73m
風感部の地上高=15.1m
全国6ヵ所ある基準気候観測所(根室、小名浜、輪島、潮岬、石垣島、長崎)の1つ
翌日の12月5日も測候所を再度訪問し、1982年8月17日撮影の写真と見比べながら
ほぼ同じ方向の写真を撮影した。図87.1~12は1982年と今回2007年の写真を
左右に並べた比較である。
写真から判断されるように、1982年から2007年までは大きな変化はないが、
目につくのは樹木が成長したことである。そのほか、
露場に接する南側の畑地に40年ほど前(1967年頃)に平屋が、
その平屋の南側に30年ほど前(1975年頃)に2階建て住宅が建てられた。
この平屋と2階建て住宅は露場近くの風速を弱め、若干の日だまり効果
(平均気温の上昇)をもたらす可能性がある。
図87.1 測風塔から北方向の写真。左:1982年8月17日撮影
(潮岬測候所提供)、右:2007年12月5日撮影
図87.2 測風塔から北東方向の写真。左:1982年8月17日撮影
(潮岬測候所提供)、右:2007年12月5日撮影
図87.3 測風塔から北東方向の写真2。左:1982年8月17日撮影
(潮岬測候所提供)、右:2007年12月5日撮影。
2007年には1982年に比べて宅地生垣や樹木が成長している。
図87.4 測風塔から東方向の写真。左:1982年8月17日撮影
(潮岬測候所提供)、右:2007年12月5日撮影
図87.5 測風塔から南東方向の写真。左:1982年8月17日撮影
(潮岬測候所提供)、右:2007年12月5日撮影
図87.6 測風塔から南東方向の写真2。左:1982年8月17日撮影
(潮岬測候所提供)、右:2007年12月5日撮影。右の写真の道路脇にある
青屋根の右側の倉庫は20年ほど前(1987年前後)に建てたもの。
図87.7 測風塔から南方向の写真。左:1982年8月17日撮影
(潮岬測候所提供)、右:2007年12月5日撮影。
左の写真の一番手前の平屋(露場の南側)は40年ほど前(1967年前後)、
その南側の赤屋根2階建ては30年ほど前(1977年前後)に建てられ、
それ以前は畑であった。
図87.8 測風塔から南西方向の写真。左:1982年8月17日撮影
(潮岬測候所提供)、右:2007年12月5日撮影
図87.9 測風塔から南西方向の写真2。左:1982年8月17日撮影
(潮岬測候所提供)、右:2007年12月5日撮影。無線塔(現在はない)
の向こう側左寄りにある住宅群は<1980年頃に建てられたもの。
図87.10 測風塔から西方向の写真。左:1982年8月17日撮影
(潮岬測候所提供)、右:2007年12月5日撮影。3階建ては1980年7月
10日に完成した測候所宿舎。
図87.11 測風塔から北西方向の写真。左:1982年8月17日撮影
(潮岬測候所提供)、右:2007年12月5日撮影。遠方の林が成長し、
2007年には対岸との間の海面はほとんど見えなくなった。
図87.12 測風塔から北西方向の写真2。左:1982年8月17日撮影
(潮岬測候所提供)、右:2007年12月5日撮影
図87.13 測風塔から見下ろした露場(2007年12月5日撮影)、3枚を横に結合
し多少歪んでいる。
測風塔からの写真撮影を終えて、こんどは測候所周辺から測候所方向の写真
を撮影した。同時に聞き取り調査を行った。
測候所東側を南北に走る道路沿いで、測候所の北北東方向、郵便ポストのある
2階建ての住宅は昭和44(1969)年の建築、それ以前は畑であった。
道路を歩いていた90歳余の女性によれば、昔は天水も利用していたが、
井戸もあった。この地区に水道が設置されたのは昭和40(1965)年頃で、
それ以後、住宅が増えるようになった。さらに、80~90歳ほどの女性によれば、
測候所の露場の南側は昔は畑であった。
図87.14 左:測候所の北東方向からの写真、右:測候所の門前からの写真。
露場の東半分の北側の建物に関して:
(1)測候所の門から庁舎の玄関へ向かう途中、左側に倉庫がある
(図87.14右)。この倉庫の建築年は?
(2)写真では見えないが、庁舎の玄関は風防構造となるように増築
されている。この増築年は?
これらは露場の北側(測候所敷地内)にあり、露場に対して北東の卓越風を
遮るので、日だまり効果を生む可能性がある。この2つに関して測候所で
調べてもらったところ、次のことがわかった。
1. 倉庫(構造CB-1 面積=9m2)建築年次=1973年3月
2. 玄関ポーチ(構造CB-1 面積=6m2) 建築年次=1972年12月
図87.15 左:測風塔の南南東方向から、右:南方向からの写真。
図87.16 測候所北西方向の畑から撮影(3階建ては測候所宿舎、その左側に
測候所があるが手前の住宅に隠れて見えない)、
3枚を横に結合し多少歪んでいる。
図87.17 南方にある潮岬観光タワーから測候所方向の写真(赤矢印が測風塔)、
右は望遠写真(測候所宿舎と測風塔が目立つ)
図87.18 潮岬観光タワーから北方向の写真(ほぼ中央の遠方に測候所がある)、
3枚を横に結合し多少歪んでいる。
(3)無人化後の敷地についての提案
潮岬測候所は気象庁の「基準気候観測所」の1つとして選定されており、
筆者も今後環境を保全していくべき「気候変動観測所」の1つとして選定
している(本ホームページの「所感」の
「温暖化の監視が危うい」)。
潮岬測候所は無人化された場合、卓越風向が北西と北東であることを考慮
すれば、露場のすぐ北側に一般住宅などが建築されると気候変動の監視が
難しくなる。それゆえ、現庁舎の解体後、敷地の売却はせずに、
新測風塔は現測風塔に近い位置に建てて、気象データに不連続が生じない
ようにすべきである。