63. 伊豆の網代測候所(現・特別地域気象観測所)

近藤 純正

伊豆半島にある網代測候所(現・特別地域気象観測所)を訪ねた。 (2006年10月07日完成予定)

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  	  もくじ
		(1)はしがき
		(2)網代測候所とその周辺
(1)はしがき
伊豆半島先端の石廊崎測候所のデータは気候変動の監視に利用できると 思っていたが、1965年頃から年平均風速は減少し、気温日較差は増加傾向に あり、そのままのデータでは広域の気候変化としては利用できなくなった。 詳細は「研究の指針」の 「K24. 伊豆石廊崎の樹木生長と気温上昇」の図24.1を参照のこと。

そこで、石廊崎のデータの補正に使えそうな観測所を探した。 石廊崎の北方にあり、相模湾に面した網代測候所におけるデータは気候 変動資料として利用できるかどうか検討した。

網代測候所(現在は無人の特別地域気象観測所)は網代港を見下ろす標高 67mの所にある。漁港の周辺は昔から栄えてきたところで、測候所近辺の 周辺環境は目立った変化がないという。

網代測候所の訪問前に、静岡地方気象台防災業務課長・小林達雄さんに 次のことを教えていただいた。

測候所は北に向いた斜面中腹上にあり、露場から下がる斜面は測候所の 土地ゆえ、民家は建てられない。周辺の樹木は生長が見られるものの (特に南東~南方向)、石廊崎と違い、測候所敷地内はまめに伐採・剪定 を行っているので環境変化は少ないと言える。

風向はWSWとNNEが卓越する。特にWSWの強風は局地的に著しい。 寒冷前線が静岡県内を通過するとき、網代付近のみWSWの強風が吹くことが ある。この強風は最近の調査では”おろし風”であると推測されている。

一方、網代測候所で観測した年平均風速を調べてみると、1973年頃から1982年 頃にかけて約15%減少している。 以上の予備知識をもって網代を訪ねた。

(2)網代測候所とその周辺
2006年10月3日、JR網代駅から国道35号線に沿って歩き、トンネルの手前から 右側階段を上る近道を行くと、製菓工場(菓子舗間瀬工場・宿舎)があり、 その北側に測候所があった。

南の菓子向上からの網代測候所
写真1 網代測候所の南側の菓子工場(菓子舗間瀬工場・宿舎) 脇の道路から撮影した網代測候所。
写真中央に測候所の測風塔と現在使用されていない無線塔が見える。 菓子工場の測候所にもっとも近いコンクリート建て(屋上に給水塔)は 1980ないし1981年に増築した部分。


この工場・宿舎は測候所に隣接しているので、いつ出来たかを 知るために工場で訊くと、1971年に建てたものだという。全部その ときに建てたか? と尋ねると、測候所にもっとも近い部分は1980年か 1981年に増築したものだと教えてくれた。

この工場は測候所の南側に位置し、卓越風向の北北東の風のとき、測候所の 背後の障害物となり風を弱める効果がある。

1973年頃から1982年頃にかけて網代測候所の年平均 風速が約15%減少した第一の原因は、この工場・宿舎の建設と 増築が関係しているのではないかと思った。

曲がりくねった上り坂を行き過ぎた位置(測候所の東側)から撮影したのが 写真2である。

東からの網代測候所
写真2 坂道の上のほう(東側)から撮影した網代測候所
赤屋根庁舎の向こう側に測風塔、その右手に無線塔があり、見えないが それらの間に露場がある。見えないが左端の崖の陰に菓子工場・宿舎 がある。


露場の東から
写真3 東側から見た露場、この右に無線塔がある(写真4)
(横2枚の合成写真)


写真3に写った百葉箱(現在は使用していない)の向こうに背の高い樹木 があり、これは測風塔の南西側である。風向にもよるが、この樹木の影響で 測風塔と露場の風速が弱めれているのではないか、と気になった。

露場の東から2
写真4 東側から見た無線塔、左に露場がある
(横3枚の合成写真)


露場の南から
写真5 南側から見た露場(横2枚の合成写真)


測候所脇の坂道を登り道路の頂上部にくると、最近廃校となった中学校が あった。 そこからの帰途、4階建てアパート(1995年築)があり、網代で育ったという 二人のお年寄りに聞くと、測候所周辺は昔からほとんど変わっていない。 昔は林の中のあちこちに狭い畑があったが1965年の頃から耕作はやめて 植林した部分もあるという。

測候所の南側に菓子工場が建てられる前の状況を訊くと、あまり背丈が 高くない樹木が生えており、それを整地して工場ができたという。

帰途は、測候所へくるとき登ってきた近道とは別の道路を下がって港町の 市街地へ入り、公民館で昔の状況を聞くことにした。

網代港近辺の樹木は昔から伐採して燃料にするということはなかった。 港は栄えていて、燃料は北のほうの宇佐美方面から売りにきていた。 また製材所でできた、はぎれ材も燃料として売っていた。製材するための 樹木は地元材ではなく、他所からのものであったという。

この話は、測候所へ登ってくる途中で会った作業者たちに聞いた内容 と同じであった。筆者は、伊豆半島先端部にある石廊崎測候所周辺の樹木が 1960年頃以前は木炭生産のために伐採されていたが、その後、炭焼きがなく なって背丈の高い樹木が増え、石廊崎測候所の風速が減少してきたことが 頭の中にあり、網代でも同じことがなかったかどうかを確かめたかった のである。

聞き取りの結果、網代の状況は石廊崎とは違っていた。

網代港に沿って(国道135号線に沿って)西進し、測候所が遠望できる位置 まできて、撮影したのが写真6と7である。測候所の南西側に生えていた 大きな樹木と測候所の位置関係を知る目的である。

網代測候所の遠望
写真6 網代港の西方から東の半島を望む、赤矢印は測候所測風塔


網代測候所の望遠
写真7 測候所近辺の望遠(写真5の中央部)
赤矢印は測候所測風塔、その右側の建物は菓子舗間瀬工場(測候所寄りの 部分は1980~1981頃の建て増し)、緑色のかまぼこ屋根とその右側は1971年 に建築された工場。測風塔と工場の中間(露場の南西側の一段低い場所) に大樹がある。


写真7から判断すると、測風塔と無線塔の間に薄く緑色に見えるのが 露場周囲に張られたフェンス、その下の手前の斜面(褐色)には樹木もなく、 現在のところ西風に対して露場の風通りはよいと考えられる。

他の樹木が生長し、露場が見えない状態にならないよう、今後注意する 必要があろう。

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