45. 高松ほか香川県内観測所
近藤 純正
地球温暖化の資料収集と観測所周辺環境の視察を目的として、2005年
6月12日から16日にかけて香川県内の気象庁観測所(高松地方気象台、
多度津アメダス、滝宮アメダス、財田アメダス)および近畿中国四国農業研究
センター四国研究センターの観測露場(生野地区、仙遊地区)を見てまわった。
同時に古い気象資料を入手することができた。
当初の計画では12日はJRと琴平電鉄を利用し、各最寄の駅からは徒歩で多度津、
滝宮、財田の3観測所を廻る予定であった。ところが12日(日曜日)の朝、
JR多度津駅に着いてみると善通寺市にある四国研究センター傾斜地気象研究室
の研究室長・菅谷博さんがおられて、「1日で廻るには厳しい道程なので車で
案内しましょう」と迎えてくれた。この日はこれら3観測所を廻り、
さらに四国研究センターの2つの観測露場も見ることができた。
14日は四国研究センター生野地区の傾斜地気象研究室で古い気象資料を
いただき、また「温暖化問題」について講演し活発な議論ができた。
16日は高松地方気象台の周辺環境の視察と古い気象資料の入手ができた。
前もって台長・大野久雄さんに連絡してあったところ必要な資料は
防災業務課長・長澤芳美さんが準備してくれてあった。午後は「温暖化問題」
について講演し、ここでも活発な議論ができた。
(2005年6月 日完成)
もくじ
(1)高松地方気象台
(2)多度津アメダス
(3)滝宮アメダス
(4)財田アメダス
(5)四国センター生野地区
(6)四国センター仙遊地区
(1)高松地方気象台
琴平電鉄の三条駅で下車して東の方へ約500m歩くと気象台があった。
高松の中心地から離れた閑静な住宅地にあった。近くには僅かではあるが
水田があるので、気象台が創設された時代(1941年高松測候所創設)
には田畑が広がる郊外であったと思われる。測風塔から眺めると、
新しい広い道路が整備されている。
最近50年間における高松の年平均気温の上昇量は1.7℃/50yr であり、東京の
上昇量1.7℃/50yr と同じである(本ホームページの「研究の指針」の「10.都市化の判定
基準」の表10.1参照)。それゆえ、高松地方気象台の周辺がどんな状況か、
期待して訪れたのであるが、予想外の環境であった。
気象台の宿舎は解体されて空地は広くなっている。1.7℃/50yr の年平均気温
の上昇量は、観測所の周辺が水田から都市住宅地へと急激に変化している
ことのほか、高松の都市中心部における都市化の影響もこの付近まで
及んでいるのか、と想像した。
(左)高松地方気象台正門、奥のやや左方に測風塔が見える。
(右)風力塔から見下ろした地上気象観測露場、左下に白いフェンスで囲
まれたウインドプロファイラの一部が見える。
高松地方気象台の風力塔から眺めた風景。(左から)北、東、南、西方向。
(2)多度津アメダス
元の多度津測候所の庁舎と宿舎は解体され、無人の「多度津特別地域気象
観測所」となっている。
明治時代に香川県では最初につくられた測候所である。多度津は昭和初期
まで交通の要衝にあったところである。当初、測候所は瀬戸内海の海岸に
あり、その北側は海水浴場であった。
ところが1960年代から1980年頃にかけて海水浴場が埋めたてられた。海岸線は
北方へ移動し、海水浴場は住宅地に生まれ変わり日の出町となった。
そのため年平均風速は63%に減少し、年平均気温は約1℃上昇した(「研究の
指針」の「11.温暖化は進んでいるか(2)」の図11.11と図11.12を参照)。
こうした環境変化を目で確かめるために、今回、期待をもって多度津アメダス
を訪れたのである。
2つのことがわかった。
(1)周辺はごく標準的な住宅地である。
(2)多度津アメダスの敷地は、想像していたよりも広く確保されている。
多度津アメダスの敷地。左:北東側から撮影(手前は売り出し中の空き地)、
中央:北西側から、右:南西側からみたアメダスの敷地。
日の出町の住宅地風景。右は日の出町北側を東西に走る道路から南の
アメダス方向を見た写真。
アメダスの風力塔と気温などの観測露場はフェンスで囲まれ、さらにその
外側は2重のヘンスで囲まれている。目測すると、20m×20m以上の
広さがある。あとで気象台で聞くと、観測所の敷地面積は600平方
メートルである。それ以外の旧測候所庁舎跡は整地され、道路脇に
「売払予定地」の立て看板があった。
売払予定地をざっと見積もってみると、住宅6軒分の広さがある。多度津町が
小公園として利用するかもしれないという話も聞いた。
今後この売払予定地に住宅が建設されるか、小公園として整備されかによって、
露場の周辺の風通りが変化し、風速と気温に変化が現れる可能性がある。
(3)滝宮アメダス(稜南町大字北1023)
アメダスは香川県立農業経営高校敷地内にあると聞いていたので、校舎敷地
内とその周辺を探したが見つからなかった。
道路脇に学寮と農場を示す矢印案内があったのでその方向へ行ってみると、
右手(北側)に運動場があり、さらに進むと道路の左手(南側)に学寮らし
き建物、右手に農場らしいものがあった。
農場入り口から北西方向へ農場内道路があり、右手前方にアメダスが見えた。
この付近は丘陵地であり、気象観測所としては当初は適地であったと思われ
る。しかし残念ながら、近くには低木が生長しビニールハウスもあり、
南東50m前後の場所に背丈10mほどに生長した樹木があり、
これらが気象観測にとって環境悪化を生みつつある。
この21年間の年平均風速を調べてみると、最近の1998~2004年(7年間)の
平均風速が最初の7年間に比べて85%に減少している。これは樹木の生長と
ビニールハウスの大型化の現れであると判断したい。
滝宮アメダスの気象観測露場。農場入り口から北西~北方向を見る。右手に
白く見えるのはアメダス配電盤、その奥に黒く見えるのはビニールハウス、
道路を挟んで左側にもビニールハウスが見える。
滝宮アメダスの気象観測露場。露場の右手(東側)は生垣を挟んでミニ公園
があり、下のほうに池がある。
滝宮アメダスの気象観測露場。左:西側のビニールハウスの方向から東側の
アメダスを見た写真、白いボックス(アメダス配電盤)の左側に古い百葉箱
がある。右:農場案内図、赤丸印がアメダスの位置、左下は学寮の配置
図。
(4)財田アメダス(財田町財田上2500-1)
財田アメダスは財田町役場の敷地内にあると聞いていたので、役場を訪ねて
敷地内を探したが見つからなかった。日曜日であったが幸い、同じ敷地内
にある公民館が開いていたので尋ねると、以前のアメダスの近くに病院施設が
建てられ観測には不適となり2002年3月8日、現在地の財田町我久水源地の
敷地内に移転したという。
教えてもらった道案内にしたがって新しいアメダスを訪ねると、水源地事務所
と思われる敷地が財田川の北側にあり、その敷地の半分強は庭木の植栽、
残りの半分弱は何もない材料置き場のように見えた。その片隅にアメダスが
設置されていた。付近は田植え前の水田が広がっていた。
アメダスの南西に新しい大きな一軒屋の農家がある。農家の敷地はアメダス
の敷地より高いが、水田はアメダスより一段と低い。南側の一段低い
土地にはビニールハウスが建てられている。ビニールハウスが風速の観測に
及ぼす影響は小さいとみなされる。
ここは理想的ではないが、アメダスとしては次善の適地とみなさ
なければなるまい。滝宮アメダスが環境悪化の方向へ向かっているので、
今後の香川県内の気候変動監視観測所として重要となる。
財田アメダスの気象観測露場。赤矢印で風向風速計の塔を示す(風速計地上
高度は9.3m)。
(5)四国センター生野地区(大麻山地区)
近畿中国四国農業研究センター四国研究センターは旧「四国農業試験場」
である。四国研究センターは仙遊地区(善通寺市仙遊町1-3-1)
と生野地区(善通寺市生野町2575)の2箇所からなる。
生野(いかの)地区は大麻山の傾斜地にあり、圃場面積は180,900平方
メートル、山林・原野・その他を含めると856,720平方メートルである。
斜面の北側は散在する住宅地域に接しており、南が高くなった傾斜地である。
多くのアメダスと違って、農場内の観測露場は広々としたところにあり、
広域気候の監視に適している。
生野地区の航空写真、北方向から斜面を見る。赤矢印は気象観測露場を指す
(写真は1996年撮影、四国研究センターの提供による)
。
生野地区の斜面の上方から下方を見る。(左)草地の斜面を見下ろす、遠方
は善通寺の市街部。
(右)斜面上方から気象観測露場の遠景、赤矢印は風速観測塔。
(6)四国センター仙遊地区
仙遊地区は平坦地にあり、圃場面積は59,090平方メートル、その他を含めると
124,944平方メートルである。この周辺には空き地もあるが住宅地や市街部が
隣接している。
仙遊地区の航空写真、赤矢印は気象観測露場を指す。写真の上が北西方向、
手前が市街部、その右手方向(北東方向)はJR善通寺駅に至る
(写真は1996年撮影、四国研究センターの提供による)
。
ホームセンター「ダイキ」の屋上駐車場からの仙遊地区の眺め。
仙遊地区圃場内から気象観測露場の遠望。ただし中央の写真はフェンスで
囲まれた露場。