K97.ヤング式通風筒ーファンモータ交換


著者:近藤純正
ヤング式通風筒は気温観測に及ぼす放射影響が少ない割に安価で軽いという特徴がある が、シロッコファン(多翼ファン)が使われており、翼の間隔が狭く野外で数か月以上 用いると、小昆虫などが詰まりやすい。そのため、大改造してプロペラ式のファン モータに取り換えた。その結果、全体の大きさも小型化されて運搬時の容積を約1/3に することができた。 (完成:2014年11月12日)

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更新の記録
2014年11月10日:素案の作成
2014年11月12日:完成

  目次
      97.1 はしがき
      97.2 データ回収時ごとの掃除
      97.3 分解掃除
      97.4 通風筒中心部~排気部の大改造
      文献


97.1 はしがき

ヤング式通風筒数台と手製の通風筒数台を用いて2013年1月~9月の期間に熊谷、室戸、 四万十川流域の3地域で気温の長期観測を行なった。それらは「身近な気象」の 「M68.冬の室戸海岸は高知市内より平均2℃ほど暖 かい」「M71.室戸海岸の気温、盛夏」、 および「研究の指針」の「K84.観測露場内の気温分布-熊谷」「K95.江川崎周辺の気温観測2014年のまとめ」に示されて いる。

これらの観測が終わり通風筒を撤収したあと、接着部以外の部分はすべて分解し、掃除 を行なった。手製の通風筒はプロペラ式の7枚羽であるのに対し、ヤング式通風筒は47翼 のシロッコファン(多翼ファン)、翼間は3mmで狭く、クモの糸や小昆虫の死骸などが 付着していた。

ヤング式通風筒は他の市販の通風筒に比べて安価なうえに、日射の影響が最大0.2℃で 小さく性能もよい特徴を持つが、ファンの翼間が狭く障害物が付着して通風 速度が落ちるという欠点があることがわかった。この通風筒は他の通風筒に比べて 分解が簡単なため、1~2カ月ごとに現場で天蓋部を開けて掃除すればよい。

しかし、筆者の場合、約1か月ごとに行なったデータ回収日の天候などの都合により 分解掃除が難しいことがあったので、今回は大改造してシロッコファンをプロペラ式 ファンモータに取換えることとした。この際、通風筒の3重構造(すでに改良して4重 構造)の吸気部のみ活用し、中心部胴体~排気部は新しく作り変えた。

ファン2種
図97.1 左:ヤング式通風筒の排気部(下方から撮影)、翼の間隔が狭い(翼構造体の内径=48mm)。
    右:山洋電気製のファンモータ、翼の間隔が広い(外枠の寸法=80mm×80、プロペラ構造の外径=75mm)。


97.2 データ回収時ごとの掃除

約1か月ごとのデータ回収時に、通風筒の吸気口から覗いて異常がないか確認した。 クモの糸や昆虫の卵などが付着している場合は、針金などで除去した。何回か繰り返して いるうちに、付着物の除去に使う工具として家庭料理用のステンレスの「金属串」が 最適であることがわかった。筆者が用いているステンレス串は長さ=160mm、 肉厚=1mm、先端部の幅=1~2mm、手元の幅=5mmである。

97.3 分解掃除

前節で述べた応急的掃除では汚れなどは完全に除去できないので、数か月に1回の頻度 で分解掃除する必要がある。

掃除の方法は次の通りである。接着部以外のネジ止めなど分解可能な部分はすべて分解 して各部を掃除する。センサー部も取り外す。

多重構造の吸気円筒部は45~50℃程度の湯に入れて、ビンを洗うように前後左右に 揺すって汚れを落す。細棒も差し込んできれいに掃除する。

センサーは水温計と異なり完全な防水構造ではないので、湯に長時間浸けておかず、 汚れは拭き取る。

97.4 通風筒中心部~排気部の大改造

ヤング式の3重構造の吸気口とそれに加えた4番目の内部通風筒はそのまま活用する。 これらはヤング式通風筒をすでに改造した吸気部である。すなわち、吸気口の上部に 続く部分は1重構造であるので、その外側に直径55mmの雨どい排水管(円筒)を被せ、 さらにアルミ箔表面の断熱シートを巻き断熱構造に加工してある (「K92.省電力通風筒」の図92.2と図92.4を参照)。

ヤング式通風筒に用いられているブロアー(シロッコファン:多翼ファン)は取り外し、 吸気部に続く中間部(プラスチック)は切断・除去する。

除去した部分は、ダンボール構造のプラスチック製白色プラダン(ポリプロピレン: ホームセンターで入手)で作り変える。プラダンは軽量で曲げに強く加工が容易な材料 である。

吸気口に近い部分の断面は円形であるのに対し、排気口に近いファンモータ取り付け部分 は四角形であるので、プラダンを円形からしだいに四角に変形するように形成する。

まず、金属アングル2個を用いてファンモータ取り付け部を四角断面構造にしておく。 プラダンの反対側の断面が8角形になるように折り曲げておいて、ネジ止めしながら 断面が円形になるよう吸気部に固定する。固定には接着剤は使わず、 振動等で外れないようネジ止めする。隙間にはバスボンドを詰める(図97.2の右)。

次いでファンモータ(枠の大きさ=80mm×80mm)を挿入、固定したのち、 雨除けカバーをビスで固定すれば完成である。

通風筒構造
図97.2 大改造した通風筒の構造。ファンモータをアングルの手前に取り付けたあと、 雨除けカバーを排気口にビスで固定する。アングルの役目は、①ファンモータがずれ ないようにする金具、②四角の角柱形を保つことである。 この写真では、吸気口付近にファンモータ用のDCケーブルが巻き付けられている。

運搬時通風筒
図97.3 運搬時の通風筒(上)とデータロガー収納ケース(左下)を広げたときの写真。 雨除けカバー(通風筒番号5を書いてある)は閉めた状態で運搬する。

支柱への固定時
図97.4 支柱に固定した状態の通風筒。緑色の細ロープで吊り下げ(右)たのち、 白色の糸で垂直支柱に縛り付けてある。この方法は別の手製通風筒で5カ月間テスト済み。 通風筒を鉛直支柱に固定したのち、雨除けカバーは赤矢印のように回転させる。矢印の 右にある白色の張り糸(写真では薄くて見づらい)をずらせば雨除けカバーは開いた 状態で固定できる。

図97.3は、ファンモータ用の電源ケーブルとセンサーを取り付けた状態、図97.4は野外 の観測時に支柱に取り付けたときの写真である。排気は通風筒から斜め上方に抜ける ので、排気の再循環を防ぐ水平板(排気の下降流防止板)は不要である (「K92.省電力通風筒」の図92.5を参照)。

したがって、通風筒全体の大きさは小型化され、運搬時は通風筒3個を1つのダンボール 箱に入れることができ、荷物の大きさは従来の概略1/3となった(図97.5)。

荷物
図97.5 左:従来のヤング式通風筒1台の荷物、右:大改造通風筒3台の荷物。


数日~数か月の比較的短期観測や移動観測では、取り付け作業が簡単にできるよう、 通風筒は細紐で支柱に吊り下げ、糸で支柱に縛りつける方法で十分である。この取り 付け方法は、すでに四万十川流域において、別の手製通風筒で5カ月間のテスト済みで ある。

強風地や1年以上の長期観測の場合の取り付けは、しっかりしたポールにボルト・ ナットで固定するなど工夫する。室戸岬漁港「とろむ」では、単管パイプを支柱とし、 ヤング製通風筒付属の取り付け具(厚さ=5mm、アルミ板L字形)を用いたが、 台風による30m/s以上の暴風で破壊されることはなかった。

このような場合を想定し、ヤング製通風筒付属の取り付け具に通風筒を固定するネジは 残してあるので、大改造型は強風地でも観測に利用できる。

まとめ

ヤング式通風筒を4重構造に改造した通風筒をさらに大改造した。ヤング式はシロッコ ファン(ブロアー、多翼ファン)が使われており、翼の間隔が狭く野外で数か月以上 用いると、小昆虫などが詰まりやすい。そのため、プロペラ式のファンモータに取り 換え、排気が斜め上方になるように加工した。その結果、無風時の排気の再循環を防ぐ 水平の下降流防止板も不要となり、全体の大きさも小型化された。3台を入れた荷物 (取り付け具、データロガー、クッション材を含む)の重量は4kgである。

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