K74.露場風速の解析ー室戸岬


著者:近藤 純正・島田信雄
高知県東部の室戸岬観測所で露場風速を観測した。この岬の頂上部の平坦に近い所に 露場があり、その東・西は傾斜角約35°の崖である。風は東・西の崖を上ってくるため、 頂上部の露場面近くでは剥離による乱流が強く平均風速は弱い。一方、測風塔は露場の 南約500mの尖った地形の尾根に設置されていて、測風塔風速が他の丘(深浦、津山) よりも強めである。そのため、風速比(=露場風速/測風塔風速)は他の観測所に 比べて小さい。

これまでに得た各地の結果をまとめると、露場通風率は露場広さの関数で表され、 平坦地と丘(深浦、津山)に大別される。室戸岬の測風塔風速が尖った尾根の影響 で1.36倍強く出過ぎていることを考慮して補正すると、室戸岬は丘グループに含めて よい。丘の露場通風率は平坦地の約70%の大きさである。 (完成:2013年5月8日予定)

本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、 引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを 明記のこと。

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更新の記録
2013年5月2日:素案の作成


  目次
        74.1 はしがき
          観測所の環境維持・管理
          室戸岬の解析上の注目点
        74.2 露場風速計の設置
        74.3 仰角の測量
        74.4 風速比と風向差
        74.5 露場広さと露場通風率
        74.6 各地の露場通風率
        74.7 まとめ
        参考文献



74.1 はしがき

環境の維持・管理の原則
重要な気候観測所近傍の環境を維持・管理するのに次の3つが必要である。
①露場から周辺地物の仰角・高さ・水平距離を方位5°間隔で測量すること。
②露場内の高度 1.5~2mで風速(露場風速)を観測すること。
③露場周辺の樹木等が観測の障害にならないか将来環境を予想すること。

①により、露場の周辺、概略30~400mの範囲の環境変化がわかる。仰角αを示す地物 の高さ h とそこまでの水平距離 X を測る意味は、仰角の測定値がどの位置にある 地物によるものか、周辺環境の詳しい情報を得るためである。

その例が「K65. 北の丸露場の風速減率と周辺の森林遮蔽率」 の表65.5に示されている。

②により、露場内および露場フェンスの外側に雑草・低木が生えれば、風速比 (=露場風速/測風塔風速)が変化し、露場内から近傍50m程度までの環境変化が 分かる。露場フェンスの外側に成長する低木は、①の測量値には反映されないので、 ①と②を総合して環境変化を評価する。

③は観察力と想像力によるものであり、低木のうちに早めに除去し、先送りしない こと。いずれも記録に残し、長期資料の解析に役立てる。

仰角αの変化、すなわち1/tanα=X/h(X:露場空間の広さ、h:地物の高さ)の 30%の変化と、風速比(露場通風率)の10%の変化が大きな環境変化であり、 これ以上の変化が生じないように管理しなければならない。

室戸岬の解析上の注目点
これまで観測してきた丘(津山、深浦)に比べて室戸岬は大きい地形であり、風は 崖を吹き上げるため、測風塔風速に比べて地面に近い露場風速が弱くなるか?  その度合いは丘と同程度か? また、露場の乱流強度(=風速変動/平均風速)も 丘と同程度か?

(結果は図74.10と図74.12に示されるように、風速比(露場通風率)はこれまでの 結果よりも小さくなる。また、図74.9に示されるように、露場の乱流強度は丘と 同程度の大きさである。)

図74.1は室戸岬付近の地図、図74.2は地形断面図である。露場はほぼ平坦な尾根にある のに対し、測風塔は尖った岬の尾根にある。室戸岬は深浦や津山よりも断面が大きい 岬地形である。地形の違いが露場風速にどのように現れるか、注意して解析する。

室戸岬の地図
図74.1 室戸岬の地図(国土電子地図による)。2つの丸印の北側は露場 (標高=185m)、それより約500m南方の丸印は測風塔の場所(標高=150m、測風 塔高度=21.8m)。

地形断面
図74.2 室戸岬(上)、津山(中)、深浦(下)の地形断面図(国土電子地図の等高線 から読み取り作成)。室戸岬の図中の黒実線は露場の東西断面、緑破線は測風塔の 位置の東西断面で形状が違う。

解析に用いる資料
これまでと同様に、測風塔風速が3m/s以下の資料は除外する。解析に利用した資料と 条件は次の通り。

露場風速計の設置場所:室戸岬観測所の露場内
測風塔風速>3m/s(この条件のデータを全資料とよぶ)
測風塔風速計の高度:ZA=21.8m
ゼロ面変位:d=15m×0.7=10.5m(15mは測風塔近辺の平均樹高、推定値)
有効高度:ZA-d=11.3m
露場風速計の高度:Zr=1.63m

露場通風率の定義
風速比=露場風速 / 測風塔風速・・・・・・観測値
風速比理想値=Ur/UA=ln(Zr/zo) / [ln(ZA-d)/zo], zo=0.003m
      =6.30/8.23=0.765
露場通風率(%)=風速比 / 風速比理想値

72.2 露場風速計の設置

これまでの他の観測所と同様に、露場風速は超音波式風速計(ウインドソニック、 PGWS-100-1、乾電池式)で観測する。観測は1秒間隔で風速・風向をデータロガーに 収録する。 このデータから10分間平均の風速・風向および風速変動と風向変動の標準偏差を 求める。測風塔の10分間平均の風速・風向と比較し、風速比(=露場風速/測風塔風速) と風向差(=露場風向-露場風向)、露場通風率の方位角依存性を求める。

備考1(不良電池)
最初、室戸岬観測所の露場に超音波風速計を設置した2013年1月28日に、60日間 以上の記録が可能なように単一乾電池を並列に、8個×2=16個をセットしておいた。 2月20日に途中経過を見に行くと、18日分しか記録されておらず、2月15日~20日の 5日分のデータが記録されていなかった(電圧はあり、データロガーの緑LEDランプは 点灯していたが、書き込み時の赤ランプLEDは点滅していなかった)。静岡、宮古、 深浦、津山ではこのようなことは生じなかった。室戸岬で使用した新品電池16個の 中に不良品が1個混ざっていたと考えられる。

露場内の写真は図72.3~72.5に示した。

北方向の写真
図72.3 露場風速計の南側から北方向を撮影(2013年1月28日)。左端に局舎の一部が 見える。

南方向の写真
図72.4 南方向を撮影(2013年1月28日)。

西と北東の写真
図72.5 西方向(左)と北東方向(右)を撮影(2013年1月28日)。

74.3 仰角の測量

仰角の測量は、露場の基準点(ケーブル埋設のコンクリートが十字になった地点) で行った。セオドライトの接眼レンズの地面からの高さは1.4mである。真北は磁石の 方位に偏角6.8°西を補正して決め、周辺樹木の仰角αは方位5°間隔で測量した。

仰角の測量値の結果
 仰角の平均:<α>=10.9±8.5°
 露場広さ1:1/<tanα>=1/<h/X>=5.03
 露場広さ2:<1/tanα>=<X/h>=10.99±9.95
 パラメータ比:露場広さ2 / 露場広さ1=2.18

ただし、<>は全方位の平均値を表す。パラメータ比が大きいほど方位による 空間広さが一様でないことを意味しており、空間の広さの割に風通しが良いこと を表す。

定義:方位別の露場広さ=X/h=1/tanα
森林など樹木群の場合、仰角αを示す高さ h は各方位の視界内に見えるもっとも 高い樹高の仰角とし、その樹木までの水平距離がXである。
  方位は0°が真北、90°が東、・・・である
Xは水平距離(m)
hは樹高・建物などの高さ(m)
  αはhを見たときの仰角(°)

ただし、正確には仰角αは地面のレベルで測った仰角であるが、露場広さが通常の 広さの場合(特別地域気象観測所など)、近似的に、接眼レンズのレベルで測った 仰角α1≒αとする。狭い観測所や試験地などでは、接眼レンズ以下の 地物の仰角α(マイナスの値)を補正し、α=|α|+ α1とする。

仰角の測量およびその利用上の注意:
(1)仰角α<1.8°のときの取扱い
(2)樹木等の場合、仰角の平均値を読む
(3)露場通風率と露場広さの関係を調べるときの、仰角の移動平均値
(4) 遠くの電柱、露場内の機器などの取り扱い
については、次をクリックして参照のこと。

クリックして次の 「仰角の測量およびその利用上の注意」を参照し、プラウザの「戻る」を 押してもどってください。
仰角の測量およびその利用上の注意


仰角の測量値に基づいて計算した露場広さ(=X/h=1/tanα)の方位角分布を図74.6に 示す。赤実線は露場通風率の解析(後述)で使用する露場広さである。

露場広さ
図74.6 室戸岬における露場広さの方位角分布。プロットは測量値、赤実線は±20° 範囲(方位5°間隔で測ったので9点)の移動平均値。

図74.6によれば、北~東と西~北は開けている。ただし、北西側にレーダー・ドーム がある。仰角=0~2°の方位は5°、30~35°、45~55°、300°、345~350°である。

備考2(露場広さの最大値)
前述の注意の(1)によれば、α<1.8°はα=1.8°と置き換えてX/h=1/tanαを 計算することにより、α<1.8°のときのX/h=1/tanα=31.8(最大値)となっている (図74.6)。

74.4 風速比と風向差

図74.7(上)は風速比(=露場風速/測風塔風速)の風向依存性である。風速比の 平均値(赤四角印と赤実線)は0.13~0.36の範囲に分布している。仰角との関係は 後述する。

風速比
図74.7 室戸岬における風速比(上)と風向差(下)の測風塔風向依存性。小プロット は10分間値、赤四角印付き実線は平均値である。

図74.7(下)によれば、風向差の平均値は測風塔風向がSW~W~N~NE (225°~270°360°~45°)でゼロに近いが、他のW~SW~S(90°~180°) では大きい。平均値(赤四角印)でなく10分間観測の各プロットに注目すると、 SE(135°)の測風塔風向はプラス90°前後のズレと、-135~-180°のズレの 2群に分かれている。

これを図74.8に模式的に示した。測風塔の風向(実線)と露場風向が大きく違う場合 を破線で表した。矢印破線は露場風向の平均的なずれであり、実際には大きな幅が ある。つまり、風向は定まらず、乱流が激しく風は渦を巻くような吹き方である。

風向ずれ模式図
図74.8 室戸岬における風向のズレの模式図、小赤丸印は露場風速の観測地点。 上半分の図は風向が大きくずれない場合(測風塔風向も露場風向も実線)、下半分の 図は大きくずれる場合(実線は測風塔風向、破線は露場風向)を示す。

図74.9は風向変動の標準偏差(上図)と乱流強度(=風速変動/平均風速)(下図) である。

風向風速変動
図74.9 室戸岬における風向変動の標準偏差(上図)と乱流強度 (=風速変動/平均風速)(下図)の風向依存性。

露場における突風率(=最大瞬間風速/平均風速=Umax/U)の比較を表74.1に 示した、ただし参考のために示した海上風は高度10mの値とする。突風率は海上で 1.4、平坦地の静岡の露場(東が開けており、測風塔風向が東のとき)では1.9で あるのに対し、丘(深浦、津山)や岬(室戸岬)では突風率は3程度である。


表74.1 露場の乱流強度(=風速変動/平均風速)の比較。
風速変動の標準偏差をσとし、最大瞬間風速:Umax=U +4σ を仮定
資料数は対象とする風向の10分間データの個数

                σ/U        Umax/U       資料数
  海上(U10m=10m/sのとき)    0.10           1.4      ―
  静岡(NE~Eの風向)           0.24           1.9      703
  深浦(NNWの風向)             0.52           3.1      329
  津山(露場内)(WNWの風向)   0.50           3.0     1006
  室戸岬(E, Wの風向)          0.52           3.1      978


備考3(海上風の乱流強度)
海面上の高度10mの風速がU10m=10m/sのときの摩擦速度はu*=0.381m/s (「水環境の気象学」の図7.6)、および風速変動の標準偏差σU/u*= 2.7(「地表面に近い大気の科学」の式3.3)の関係により、σ/U= 0.10となる。

74.5 露場広さと露場通風率

風速比は露場風速計と測風塔風速計の高度(Zr, ZA)によって変わるので、この節では 露場通風率について調べる。

図74.10は各方位の露場通風率と露場広さの関係である。今回得られた平均的な関係は 黒実線である。緑破線(平坦地実験式)に比べて0.45倍である。

露場通風率
図74.10 室戸岬における露場通風率と露場広さとの関係。上図は横軸を直線目盛、 下図は対数目盛で表してある。緑破線は平坦地における実験式、黒実線は平均的な 関係、赤四角印は全資料平均値(その横座標は「露場広さ2」)である。

室戸岬の露場風速が平坦地に比べて著しく小さいのは、次の地形の特徴(1)、(2)による。

(1)崖を吹き上げる風
東または西方向から岬の崖を吹き上げてくる風が、頂上部の地面付近で剥離を起し 大きな乱流となり風速が弱くなる(おそらく地面から20m以下の高度)。この特徴は丘 (深浦、津山)で見出された関係である。深浦と津山では破線の0.7倍程度の風速減 であったが(「K72.露場風速の解析ー津山2」の図72.11を 参照)、室戸岬の露場通風率はさらに小さくなっている。

(2)測風塔の設置場所
図74.1(地図)と図74.2(断面図)に示したように、室戸岬は東西の崖の高さが 200m近くあり、さらに測風塔風速が500mほど南に離れた所、尖った岬の尾根 にある。

秋から春(9月~3月)にかけて、室戸岬の測風塔風速は、沖合26kmにある 「黒潮牧場―10号ブイ」における海上風速に殆んど等しい(「気候応援会情報」の 「A51. 室戸岬の気象」の図65.1)。この ことからもわかるように、室戸岬の測風塔は尖った岬地形の尾根に設置されており、 他の丘(深浦、津山)に比べて風速が大きい。

ちなみに、3観測所の観測期間中の微風時も含む測風塔風速と露場風速を表74.2に 比較した。

室戸岬は、深浦や津山よりも測風塔風速が強く、露場風速に対する測風塔風速の 比が0.25、深浦や津山の約73%(=0.25/0.34)である。つまり、露場風速を基準に すると、室戸岬の測風塔風速は1.36倍(=0.34/0.25)も強いことになる。


表74.2 観測期間中の測風塔風速と露場風速
    風速3m/s 以下、津山は2.5m/s以下の微風時も含む
    日数は欠測日を除く。深浦と津山は露場外観測も含む。

 観測所  観測期間 日数  測風塔風速  露場風速 露場風速/測風塔風速
              月/日         m/s          m/s  (微風時も含む)
深浦  10/4~12/16  77日   4.37         1.45       0.33
津山  12/14~3/15    92日      2.39         0.84       0.35
室戸岬   1/28~4/22    78日   6.11         1.53       0.25


室戸岬では、N~ENEの方位が比較的によく開けているが(図74.6)、その風の通り抜け 去る方位のS~WSWの近くには樹木があり、風止めの役目をしている可能性がある。 深浦と津山で検討したのと同様に、樹木などの風上側(露場広さがマイナス)において 観測された露場通風率の関係を見てみよう。

風下側の障害物影響
図74.11 風上側での風速比(=U/U0)と風上距離との関係、U0 は障害物に影響されない遠方の風速。
破線:一辺が 2h の角柱の風上側(X/h はマイナス、X/h=0 は角柱の風上端)での 風速比(=U/U0)と風上距離との関係、ただし 非圧縮非粘性流体に対する ポテンシャル流、
プロット:観測値、深浦と津山と室戸岬、いずれも開けた方向からの風で反対側に 風止めがある場合。

図74.11は、樹木がその風上側の風速を弱める割合を示したものである。縦軸は 障害物の影響のないときの風速 U で割り算してある。平坦地上の円柱や 角柱など単純な障害物の風上側の風速は近似的に非圧縮非粘性流体のポテンシャル流 (破線)で近似される(Kondo and Naito, 1972)。

図によれば、室戸岬の縦軸の値は深浦や津山のプロットよりも小さい。その理由は、 すでに前記の地形特徴(1)(2)で説明した。


表74.3 風速比と露場通風率のまとめ、2013年1月28日~4月22日(欠測日を除く78日間)
  X/h=1/tanα:各方位の露場の広さ(±20°範囲の平均)
    ただし全資料平均値(測風塔風速>3m/s)のX/hは「露場の広さ2」(=<1/tanα>)
  風向:測風塔風向(ZA=11.8m)
 露場通風率の計算:ZA-d=11.3m、Zr=1.63m
  資料数:10分間平均値の資料数、ただし測風塔風速>3m/sのとき

        風向  風速比 露場通風率 資料数
    X/h  (°)       (%)
   22.5      0      0.356       46.6      30
   24.0     22.5    0.339       44.3     141
   25.7     45      0.279       36.5    1214
   21.8     67.5    0.280       36.6    2690
   13.4     90      0.238       31.1     282
    7.4    112.5    0.162       21.2      86
    4.4    135      0.159       20.7      31
    2.9    157.5    0.135       17.6      53
    2.6    180      0.160       20.9      91
    2.6    202.5    0.127       16.6     246
    3.2    225      0.125       16.3     212
    5.1    247.5    0.151       19.7     338
    7.8    270      0.183       24.0     696
   10.3    292.5    0.233       30.5    2603
    8.3    315      0.244       31.9    1187
   13.4    337.5    0.213       41.0      64

   10.99 全資料平均 0.242       31.6    9964


74.6 各地の露場通風率

図74.12は、これまでの一連の研究によって各地で得られた全資料平均の露場通風率と 露場広さの関係である(ただし、津山は観測期間中に偏った風向が卓越したため、 全方位平均値)。横軸は、上図では「露場広さ1」(=1/<tanα>=1/<h/X>)、 下図では「露場広さ2」(=<1/tanα>=<X/h>)で表してある。

「露場広さ2」は、仰角αの平均値が大きくても開けた方位があれば(風の通り抜け 易い方位があれば)、大きくなるパラメータである。そのため、全体的な傾向をみる のに用いる。

図中の緑塗りつぶし四角印は、露場通風率が小さめの観測点(北の丸露場)を示し、 露場広さを定義する面積の範囲内に低木の樹木が密に存在することで通風が悪く なっている(「K65.北の丸露場の風速減率と周辺の森林遮蔽率」 を参照)。

各地露場通風率まとめ
図74.12 各地における露場広さと露場通風率の関係、全資料平均(ただし津山は 全方位平均)の関係。上:横軸は露場広さ1、下:横軸は露場広さ2で表してある。 記号の(外)は露場外の公園での観測値。
緑破線:平坦な林内空間で得た実験式
赤破線:丘の関係(深浦、津山)

全体的な風通しを表す場合に用いる「露場広さ2」を横軸とした下図において、 赤塗つぶし四角印は丘(深浦、津山)を表し、平坦地で得た実験式(緑破線)の 約70%の露場通風率となっている。丘で露場通風率が小さくなるのは、 (1)斜面・崖を吹き上げる風の特徴と、(2)風下側の風止め作用が重なったこと、 さらに(3)測風塔風速が強めになることによる( 「K72.露場風速の解析ー津山2」の図72.1、及び同章の表72.1の下に書いた 説明を参照)。

室戸岬の露場通風率は、丘で得られた関係よりもさらに小さく、平坦地(緑破線) の約45%である。

前記のように、室戸岬の測風塔は露場から離れた南方の尖った岬の尾根にあり (図74.1と図74.2参照)、測風塔風速が1.36倍強めだとして、全資料平均の露場通風率 31.6%を1.36倍すると、補正通風率=43.0%となる。これを図74.12に矢印で示した。 そうすれば、室戸岬のプロットも丘を表す赤破線の周りに分布することになる。

74.7 まとめ

室戸岬観測所の露場において露場風速を観測し、方位別の露場通風率(風通しの良し 悪しを表すパラメータ)を求めた。

(1)露場風速の特徴
これまでの各地で得た関係と同じように、各方位の露場通風率は露場広さとともに 単調に増加する関数で表され、近似的に露場広さの対数に比例する。しかし、 平坦地で得られた関係の45%と小さい(図74.10)。

その理由は観測点の東側と西側が急峻な崖であり(水平距離200mに対して標高差 130~150m)、平均傾斜角は約35°(図74.1、図74.2)、崖を吹き上げてきた風は、 露場面に近い高度で剥離を起こし、乱流が激しく、露場風速の平均値は測風塔風速に 比べ著しく低下するからである(地形特徴1)。

さらに、室戸岬では丘(深浦、津山)と違って、測風塔が露場から南に約500m離れた 尖った岬に尾根にあり測風塔風速が1.36倍ほど強めに観測されているからである (地形特徴2)。この強めの測風塔風速を補正すると、全資料平均の露場通風率は 約43%(=31.6%×1.36)となり、丘を表す関係式(図74.12の下図の赤破線)の周り に分布することになる。

注意: 室戸岬の測風塔風速が「強め」は、深浦や津山に比べて強めに出る 地形であることを意味し、風速値が怪しいとか強すぎることではない。海上風速に 近い値であるので、利用価値は高い。

備考4(測風塔風速の代わりに境界層トップの風速の利用)
将来、測風塔風速が観測所周辺を代表しなくなる可能性があるので、測風塔風速 の代わりに境界層トップの風速 Utopを用いた解析も同時に行うことが望ましい。 さらに、測風塔風速の境界層トップの風速に対する比も求めておく。 この比が変わるのは、測風塔周辺100m~1kmスケール範囲の環境変化である。

(2)風向のずれと乱流の強さ
室戸岬の露場は、レーダドームを除外すれば、南西~北西~北東が比較的開けており、 この風向(測風塔風向)のとき、露場での風向のずれは平均的に小さいが、 東~南東~南の測風塔風向のとき、露場風向は大きくずれ、しかも風向は定まらない (図74.7、図74.8)。

露場での風向変動の標準偏差は50°前後あるので風向不定の風に近い。乱流強度 (=風速変動/平均風速)の標準偏差は0.4~0.6程度もあり、激しく乱れている (図74.9)。

崖を吹き上げてくる西寄り、東寄りの風のときの露場風速の突風率 (=風速変動/平均風速)は3.1であり、深浦と津山の突風率と殆んど同じである。

(3)これまでの各地を含む露場通風率のまとめ
各地の結果をまとめると、全資料平均の露場通風率は「露場広さ2」の関数で表され、 平坦地と丘(深浦、津山)に大別される。室戸岬の測風塔風速が1.36倍強すぎると して補正すると、室戸岬も丘の関係式の周りにプロットされる。丘の露場通風率を 表す関係式は平坦地の約0.7倍の大きさである(図74.12の赤破線)。

参考文献

Kondo, J. and G. Naito, 1972: Disturbed wind fields around the obstacle in sheared flow near the ground surface. J. Meteor. Soc. Jpn., 50, 346-354.

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学―地表面の水収支・熱収支.朝倉書店、 pp.350.

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