K204.観測塔上の温暖化観測所は何か所必要か


著者:近藤純正
観測塔上で気温を測るの温暖化観測所が1地点のみ設置された場合、何年間の観測 を行えば日本を代表する気温の長期変化の傾向を知ることができるだろうか、 日本の34地点の地球温暖化量1881年~2019年(139年間)の資料を用いて検討した。

気温には大きな年々変動(標準偏差σ=0.5~0.6℃)、太陽黒点数変動と同じ 約10年周期(変動幅≒0.2℃)、大規模火山噴火・海洋変動に伴う30~40年の 周期的変化・気温ジャンプ(変動幅≒0.4℃)が混在するため、50~100年以上 の長期資料が必要となる。これでは長すぎるので10か所に設置すれば、10~20年 の短期資料から気温変化の傾向を知ることができる。

それら10か所と気象庁の34の重要な地上観測所によって、日本の地球温暖化量 を高精度で評価し、温暖化対策に役立てるようにしたい。 (完成:2020年7月28日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2020年7月19日:素案の作成
2020年7月20日:図204.1の下に説明(その1)、(その2)を追記

    目次
        204.1 はじめに    
        204.2 気温の長期データ
        204.3  観測期間と気温上昇率の分布
        まとめ           


204.1 はじめに

前報では、観測・統計方法の違いによる年平均気温の補正、日だまり効果や 都市化による昇温量を補正して、1881~2019年の139年間の日本の地球温暖化量 を再評価した(「K203.日本の地球温暖化量、再評価2020年」 )。

これらは地上高度1.5mにおける気温の観測値には、露場近傍の観測環境の変化 による影響「日だまり効果」を受けやすい。そのため、観測環境の悪化した観測所 の代替観測所を見つけ、データの接続を続けていかねばならない。こうした地上 観測は今後も続けるとともに、地球温暖化量の評価精度を高めるために、 観測所近傍の地物の影響を受けにくい観測塔上で観測する「地球温暖化観測所 設置の提案」を行った(「K196. 地球温暖化観測所の 実現に向けて」)。

その結果、国立環境研究所の地球環境研究センターが大気中の温室効果ガス濃度 の長期変化を観測するために設置している、山梨県富士吉田市内にある高さ 32メートルの観測塔上への試験的な設置が実現することとなった。 同センターは、沖縄県波照間島と北海道落石岬でも大気中の温室効果ガス濃度 の長期観測を行っており、地球温暖化観測所のネットワーク化が期待される。

本論では、地球温暖化量の評価精度を高めるために、従来の地上観測に加えて、 観測塔上の「地球温暖化観測所」を全国に何か所設置し、何年間の観測を行えば 日本を代表する気温の長期変化を知ることができるかについて検討する。


204.2 気温の長期データ

前報(「K203.日本の地球温暖化量、再評価2020年」)、 すなわち全国34地点の地球温暖化量1881年~2019年(139年間)の資料を用いて 検討する。

この資料は、観測・統計方法の違いによる年平均気温の補正、日だまり効果や 都市化による昇温量を補正してある。利用の便利さを考慮して、ごく最近の 気温は観測値に一致させてあるため、昔の気温の数値は観測値と一致せず、 ずらした値になっている。

温暖化評価誤差の概算見積もり
前報の全国34地点の数値データ(表203)から、データの揃った期間1893年~2019 (127年間)について年平均気温の年々変動の標準偏差を求めると次式をえる。

  σ=0.56℃±0.06℃ ・・・・・・(1)

観測塔上で行う地球温暖化観測所が1か所とすれば、何年間の観測を行えば日本 を代表する気温上昇率が得られるだろうか? 仮に期間の長さをN=50(年間)と すれば、誤差の目安は次式で表される。

  Δ=σ/N1/2 =0.56/501/2=0.56/7.1=0.08℃  ・・・・・・(2)

地球温暖化量≒0.7℃/100y=0.35℃/50y、したがって0.08/0.35=0.32、 ゆえに地球温暖化量の評価には概略32%ほどの誤差を含むことになる。 1か所では50年以上、100年間の観測を続行しなければ正しい気温上昇率は 得られないことになる。

これでは長すぎて温暖化対策に間に合わない。次節では何か所が必要かに ついて検討しよう。


204.3 観測期間の長さと気温上昇率の分布

前報の139年間の気温変動の図203.2から感覚的にわかることは、気温には年々 変動(標準偏差σ=0.5~0.6℃)、太陽黒点数変動と同じ約10年周期 (変動幅≒0.2℃)、大規模火山噴火・海洋変動に伴う30~40年の周期的変化・ 気温ジャンプ(変動幅≒0.4℃)があるために、緩慢に上昇する地球温暖化量は、 長期間のデータを見なければ、正しい評価は得られない。

このことに関して数値的に見てみよう。上記の139年間の気温データを用いて、 期間の長さと全国平均の気温上昇率の関係を表204.1に、また気温 上昇率の緯度分布を図204.1に示した。

これらの表または図から、1か所の観測所では少なくとも70年間以上のデータ が必要であることがわかる。

表204.1 平均化期間(期間の長さ)と全国平均の気温上昇率、その 平均値からの偏差(34地点偏差)の表。
期間と全国平均昇温率

表に示されたように、期間の長さが短くなるほど、全国平均の気温上昇率が 大きくなっているのは、選んだ年による偶然性のほか、特に1990年以後に極端な 低温年が無い状況が続いていることによる。

期間と昇温率の緯度分布
図204.1 気温の上昇率(℃/100y)の緯度分布。上から順番に期間の長さ が120年、70年、30年、14年の場合。


緯度分布に示された各点のバラツキから、全国に10か所の観測塔上で観測する 「地球温暖化観測所」があれば、10~20年の短期間の観測データから地上観測所 の観測環境の変化状態を監視するとともに、周辺地物の影響を受けにくい良質 のデータを得ることが可能となることがわかる。
理由を以下に説明する。

説明(その1)
「地球温暖化観測所」が全国に、緯度24°N~46°Nの範囲に10か所設置された 場合、例として14年間観測を続けた場合を想定しよう。表204.1と図204.1の最下段 の14年間を参照すると、プロットの平均値=3.12℃、プロットのバラツキ (標準偏差)=1.69℃である。N(観測所数)=10とすれば、誤差の概略値は σ/N1/2=1.69℃/3.12=0.54℃と見積もりできる。平均値に対する 誤差の割合は0.54℃/3.12℃=0.17、つまり10か所の観測所の14年間の観測は、 概略 17% の誤差で日本平均の気温変化傾向(気温の上昇率)を知ることができる。

説明(その2)
「地球温暖化観測所」は、緯度24°N~46°Nの範囲に分散して設置される。
気温の変化傾向は短期間では緯度によって異なる。例えば、約10年周期変動や 気温ジャンプの変動幅は緯度によって、つまり地域によって異なるからである。
各地域に分散して設置される「地球温暖化観測所」は、その近傍の地上観測所 (従来の観測所)数か所の観測環境の変化を監視する役目ももっている。 前記の説明(その1)で考察した広い範囲でのバラツキ(日本全域の標準偏差) よりも狭い範囲のバラツキ(地域ごとの標準偏差)は小さい(図204.1参照)。 それゆえ、比較的によい精度で近傍の地上観測所の観測環境の変化 「日だまり効果」を知ることができる。

もちろん、「地球温暖化観測所」は多いほどよいが、経費・長期の維持や必要な 精度を考慮して10か所とした。


まとめ

従来の地上高度1.5mにおける気温の観測値には、露場近傍の観測環境の変化に よる影響「日だまり効果」を受けやすい。そのため、観測環境の悪化した観測所 の代替観測所を見つけ、データの接続を続けていかねばならない。この作業から 精密な地球温暖化量を評価していくことは、現実には難しい。

そのため、地上観測は今後も続けるとともに、観測所近傍の地物の影響を受け にくい観測塔上で観測する「地球温暖化観測所設置の提案」を行った (「K196. 地球温暖化観測所の実現に向けて」)。

日本の34地点の地球温暖化量1881年~2019年(139年間)の資料を用いて 検討した結果、従来の地上観測所に10か所の「地球温暖化観測所」を設置 すれば、10~20年後には精密な気温の長期変化が見えはじめ、緊急を要する 温暖化対策に役立てることができる。



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