K168. 最低気温、凍霜害の予測(2)夏の住宅街


著者:近藤純正
作物葉面の最低温度の予測を目指す研究である。この第2報では、夏の住宅街に おける気温と葉面温度の観測値、気象庁数値予報モデルによる気温予報値、 および微風晴天夜の地面温度の放射冷却の計算値を比較する。

前報で用いた観測地周辺一帯の地表面温度を代表する「かまぼこ板面の温度」 と今回用いたサツキ群落内に設置した模型葉面の温度「葉面温度」は、夜半 以後の最低温度起時の時間帯では0.1℃±0.4℃の違いで、ほぼ一致した。 それゆえ本報告では、微風晴天夜の放射冷却による地面温度の計算値と 「葉面温度」を比較する。

放射冷却の初期条件として、夕刻の有効放射量=0となる時刻の地面温度は 気温の観測値に等しいとする。都市気候の影響を考慮し周辺一帯を代表する 地表層の熱的パラメータ(「熱慣性」の2乗)として、 大きめのcgρgλg =2×106Js-1K-2m-4 を設定した。

2018年6~7月の12晴天夜について解析した結果、葉面温度の最低値と放射冷却 計算値の差(誤差)は-0.41℃±0.92℃となった。マイナスは計算値が低い ことを意味する。葉面温度は風速に敏感であり、気温と葉面温度の差は微風夜 に約2℃、風速が強くなるにしたがって小さくなる。

凍霜害防止が目的であり、夕刻に曇っていても朝方晴れて葉面温度が急激 に低下することを考慮して、放射冷却の計算は晴天夜の平均有効放射量を 用いる。3夜について解析した結果、葉面最低温度の観測値と放射冷却計算値 の差(誤差)は0.14℃±0.75℃となった。

気温予報値は日本気象協会発表の1時間ごと気温を用いた。気温観測値との 差は-2.15℃±0.74℃となり、全体的に2℃ほど低いほうにずれた。 しかし、このずれはデータ蓄積によって改善される見込みである。 (完成:2018年7月20日)

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更新の記録
2018年7月15日:素案の作成


    目次
        168.1 はじめに
        168.2 観測       
        168.3 地面温度の放射冷却の計算
        168.4 放射冷却計算値と葉面温度の比較
      (a) 葉面温度と地面温度の違い
      (b) 晴天夜の比較
      (c) 気温と葉面温度の差、風速依存性
      (d) 夕刻曇り朝方晴れ、予報外れの夜の比較
        まとめ
        参考文献
                  



168.1 はじめに

数値予報研究が進歩し、地点ごとの気温予報の精度が向上してきた。前報で 紹介したように、気象庁予報部の「ガイダンスの解説」(2018:数値予報課 報告・別冊第64号) によれば、アメダスが設置されている地点について、 数値予報の誤差RMSE(二乗平均平方根誤差)は、24時間先までなら1.2~2.5℃ 程度であり、場合によっては10℃以上の外れの例もある (「K166.最低気温、凍霜害の予測(1)秦野市千村」)。

将来は、質の高い観測データの蓄積と予報技術の進歩によって、0.5℃~1℃ 程度の誤差(誤差の限界)に改善されるであろう。

現実の日本における農耕地はアメダス設置点に比べて複雑な小地形にもある。 地表面被覆状態も複雑である。近くに傾斜地、森林があり、近傍の循環流や 冷気堆積の影響によって気温分布は複雑になる。

本シリーズ研究の最終的な目的は、地域の代表地点(風通しと日当たり良好 な地点)について、代表的作物の葉面温度を予測することである。 この予測値を基にして、小地形内の最低温度分布・作物の葉面温度を予測 することである。

応用段階では、予測地点に作物の「葉面温度」を観測できる基準の「葉面温度計」 を設置する。葉面温度計として、簡易放射計( 「K161.夜間観測用の簡易放射計・微風速計」)の受感部に用いている 直径60mmの円盤状受感部およびデータロガー・自動データ送信機を想定 している。

基準の「葉面温度計」で観測される最低温度と作物への降霜の関係は、 別途、作物ごとに調べておく必要があるが、理論的には作物による違いは 2~3℃以内と見込まれる(「地表面に近い大気の科学」の図5.7)。


168.2 観測

相模湾沿岸から約2kmの神奈川県平塚市の住宅街の庭で放射量、気温、風向・ 風速などの観測を行う。近隣はほとんど2階建住宅である。観測点の庭には 草花・野菜が植えられていて、その南側は住宅域内の東西道路、三叉路から 南に延びる住宅道路もあり、住宅街としては日当たりと風通しはよい。

高度2mに2次元超音波風向風速計Wind Sonic(Gill Instruments Ltd.)、 高度1.2mに精密通風気温計と夜間観測用の簡易放射計 (「K161.夜間観測用の簡易放射計・微風速計」) を設置した。風向・風速は1秒ごと記録から1分間平均の風向・風速を求めた。 気温と放射計は1分間隔で記録した。

観測期間は2018年6月4日から7月11日までの1か月余である。

6月4日から21日まで、周辺一帯の地面温度を代表する、土壌面に置いた 「かまぼこ板面の温度」の観測と、葉面温度を代表するサツキ群落内の温度を 「模型葉面温度計」で観測した。「模型葉面温度計」は、簡易放射計・ 微風速計に用いた直径60mmの円盤状受感部である (「K161.夜間観測用の簡易放射計・微風速計」)。

模型葉面温度計はサツキ群落の上端の少し下に設置した。ここに、 「群落の上端の少し下」とは、天空率は大きいが風当たりが少し悪く、夜間に 最も低温になりやすく近藤純正、2004:地表面に近い大気の科学―理解と応用.東京大学出版会、pp.324. 凍霜害を受けやすい位置である。

この温度計による温度を「葉面温度」、かまぼこ板面の温度計による温度を 「地面温度」と呼ぶことにする。

葉面温度計
図168.1 サツキ群落内に設置した「葉面温度計」

地中温度計
図168.2 地中温度計を埋めた土盛り。
赤矢印の下に地中温度センサが埋めてあり、右方の白色板の間にデータロガー がある。


ほかに、地中温度も観測した。図168.2は地中温度計を埋めた土盛りの写真で ある。地中温度計は土盛りした地中の深さ0.1mに設置した。地中温度を測る 目的は、前日に比べて気温が急激に上昇または下降した夜間の地表面温度と 気温は、前の日の影響を大きく受けて上昇・下降の大きさが変わる。

その例は、都市アーケード街で観測された 「K157.日だまり効果、アーケード街と並木道の気温(まとめ)」 の図157.5上段に示すように、前の日に比べて 気温が10℃ほども低下した2017年8月30日と31日は、前の日の高温による貯熱 の効果によって気温が高温ぎみになった。

地中温度のデータは、こうした貯熱効果の補正を行うデータとして利用する 目的であるが、今回の観測期間中は、その条件が起きなかったので観測データ は解析しない。


168.3 地面温度の放射冷却の計算

微風晴天夜の放射冷却の初期時刻 t0 は有効放射量 (R↓-σT)=0の時刻とする。 ここにR↓は下向き放射量、σはステファン・ボルツマン定数、 T は気温(K)である。

初期時刻 t0 は毎日変更せずに30分単位で変えた。

この期間中の地表層の熱的パラメータ( cgρgλg) は試行錯誤で有効値をもとめ、 2×10Js-1K-2 m-4とした。これは前報で用いた値の4倍であり、住宅街は 前報の秦野市千村の森林を含む畑地に比べて、舗装地面が多く住宅を構成する 熱的パラメータが大きい、つまり都市化の効果によって地面温度の変化振幅 が小さいことによる。

地面温度の放射冷却の計算は「水環境の気象学」の式(6.62)~式(6.70) を用い、「エクセル」で計算できる。

微風晴天夜の放射冷却の初期時刻における有効放射量は19~22時観測の平均値 を使用する。ただし、夕方が曇りの夜は、途中で晴れる可能性を考慮して この季節の晴天夜の代表値(放射計出力=-1.0℃、換算値=-66W/m2) を用いる。


168.4 放射冷却計算値と葉面温度の比較

(a) 葉面温度と地面温度の違い
図168.3と図168.4は気温、葉面温度、地面温度の時間変化である。 図168.3(6月7日~8日)は快晴夜の記録であり、南風は日没前の1m/s程度から しだいに弱くなり日の出ころは0.2m/sになった静かな夜間である。 21時~翌朝5時の時間帯は「葉面温度」(緑破線)と「地面温度」(黒線)の 違いは±0.3℃の範囲内にあり、気温(赤線)より約2℃ほど低い。

放射や気温など、6月7~8日
図168.3 気温(赤線)、葉面温度(緑破線)、地面温度(黒線)の時間変化、 6月7日~8日。

放射や気温など、6月12~13日
図168.4 気温(赤線)、葉面温度(緑破線)、地面温度(黒線)の時間変化、 6月12日~13日。


図168.4(6月12日~13日)は晴れたり曇ったりの夜間である。23時~翌朝5時 までは葉面温度と地面温度はほとんど等しく、2時間程度の周期で変化する雲の 出現・消失(放射量の時間変化)とよく対応している。気温(赤線)との差は 1時までは北東風の風速が1m/sで0.5℃以下であったが、2時から風速が0.5m/s 前後に弱化して日の出時刻(4:28)前後は2℃ほどに大きくなった。

表168.1は夜間の気温、地面温度、葉面温度の最低値の一覧表である。 表の最下段に示す赤数値は地面温度と葉面温度の差の平均値と標準偏差:

-0.09℃±0.43℃

であり、地面温度と葉面温度はほぼ等しいことが分かる。それゆえ以後の 解析では、最低気温・最低地面温度の起時時間帯(2時~5時)の葉面温度 最低値と放射冷却の計算値(4時)を比較することにする。

なお表に示すように、気温と葉面温度の温度差は微風時には2℃前後である。 次節では風速と温度差の関係が明らかにされる。

表168.1 気温、地面温度、葉面温度の最低値の比較一覧表。
地面温度と葉面温度


(b) 晴天夜の比較
微風晴天夜を仮定したときの放射冷却による地面温度の計算値(時間とともに 単調に低下)と葉面温度の観測値を比較する。

解析した15夜間のうち、12夜間がおおむね晴天夜である。以下では、代表的な 3例を示す。

(例1) 6月25~26日、図168.5
南風の微風快晴夜である。放射冷却の計算値は微風の時間帯には葉面温度の 変化傾向とよく似ている。

図168.5の上から2段目と3段目(風速)を比べると、夜半の0時~3時に 風速の0.4m/sから0.7m/sへ、その後に0.2m/sの微風への変化に対して葉面温度 が約2℃上昇・下降しており、葉面温度は風速に敏感である。つまり、葉面は 熱容量が小さいため、風速変化にともなう熱収支変化に反応してその温度が 急激に変わる。

放射・気温・風速、6月25~26日
図168.5 有効放射量・気温・葉面温度・風速の観測値、微風晴天夜の地面温度 の計算値、気温予報値(2018年6月25日~26日)
上1段目:有効放射量(R↓-σT4)、放射計の出力単位℃で示す
2段目:予報気温、微風晴天夜の地面温度の放射冷却計算値、観測気温、葉面 温度の観測値、地中0.1m深さの地中温度の観測値
3段目:風速
4段目:風向(0°は北風、90°は東風、180°は南風、270°は西風)


(例2)7月3~4日、図168.6
一晩を通して南寄りのほぼ一定風速1m/sの風がある夜である。図の 上から1段目によれば、早朝2時からしだいに雲が低くなり5時ころには 下層雲の曇りとなった。葉面温度は21時~4時の時間帯にほぼ一定であった。 その結果、微風晴天夜の放射冷却の計算値(4時)は葉面温度の最低値より 2.75℃も低くなった。2.75℃は全解析の最大誤差である。

例2は気温と葉面温度が低下しない「風の吹く朝方曇り」の典型的である。

放射・気温・風速、7月3~4日
図168.6 前図に同じ、ただし7月3日~4日。


(例3)7月9~10日、図168.7
上層の薄雲が広がるが放射条件としては快晴に近い夜である。南寄りの風速は 夕刻の1m/sから単調に弱化し、日の出ころ0.2~0.3m/sとなった。葉面温度 と放射冷却の計算値はほぼ一致している。

朝方3時以後に注目すると、一時的に下層雲が広がりそれに応じて葉面温度 (緑破線)は敏感に反応し、1℃の幅で変化、気温(赤線)も0.5℃の幅で変動 している。

放射・気温・風速、7月9~10日
図168.7 前図に同じ、ただし7月9日~10日。


例1~例3と同様な晴天12夜の一覧表を表168.2に示した。

表168.2 観測一覧表(平塚市住宅街、2018年6~7月)
晴天夜一覧表


表の最下段列には12夜の平均値と標準偏差を示した。放射最低Tr(微風晴天夜 の地面温度の放射冷却計算値、4時の値)と葉面温度の最低値Tsの比較、 および日本気象協会発表の予報気温最低値Fと観測気温の最低値Tの比較は、 次のとおりである。

Tr-Ts=-0.41℃±0.92℃ ・・・・・(1)
F-T=-0.65℃±0.74℃ ・・・・・(2)

式(2)の第1項(-0.65℃)の絶対値が大きいのは、全体が低温側にずれている ことである。しかし、このずれはデータ蓄積によって改善される見込みである。


(c) 気温と葉面温度の差、風速依存性
葉面温度は気温に比べて、いくら低くなるか、風速との関係を調べてみよう。

表168.2の右欄群に示された最低温度起時の時間帯(2時~5時)の平均風速と 気温・葉面温度の差の関係を図168.8にプロットした。この図には表168.1に 掲載した気温・葉面温度の差の関係も含めてある。

上図は気温と葉面温度との差が風速に強く依存することを示しており、 理論的に妥当な結果である。つまり、葉面温度は微風時には気温より2℃程度 低くなるが、風が強くなると大気・葉面間の顕熱交換量が大きくなり葉面温度 は気温に近い値に収束する。

ただし、温度差の値は夏の晴天条件(有効放射量の平均値≒-60 W/m2) のときであり、他の季節つまり一般には、温度差は有効放射量の大きさに 比例する。

他方、下図に示す予報気温と葉面温度の差に関しては風速依存性が明確でない。 その理由の一つとして、現段階における予報気温の曖昧さが考えられる。 ただし、データが蓄積されれば、風速依存性が見える可能性はある。

気温葉面温度差と風速
図168.8 最低温度起時の時間帯(2時~5時)平均の風速と温度差の関係。
上:気温と葉面温度の差
下:予報気温と葉面温度の差


(d) 夕刻曇り朝方晴れ、予報外れの夜の比較
夕刻曇りの夜間は、朝方晴れてくる可能性があり、もし晴れた場合に葉面温度の 最低値はいくらになるか、凍霜害対策では重要な予測である。

図158.9は6月12日~13日を例として示した。夕刻曇りの夜の放射冷却の計算では、 放射量は当日夜の観測値ではなく、季節ごとの晴天夜の有効放射量の平均値を 代入する。

この第2報では有効放射量の初期値として温度差単位で-1.0℃ (有効放射量-66W/m2)を用いた。図の上1段目に示すように、 夜半から時々晴となり、2時過ぎと4時前後には短時間の快晴となり、同時に 風速は1m/sから微風になった。このとき、葉面温度は急下降して放射冷却の 計算値とほぼ等しく18℃ほどになった。

放射・気温・風速、6月12~13日
図168.9 夕刻曇り、朝方晴れる場合を想定したときの放射冷却の計算、6月12~13日。
上1段目:有効放射量(R↓-σT4)、放射計の出力単位℃で示す
2段目:予報気温、微風晴天夜の地面温度の放射冷却計算値、観測気温、 葉面温度の観測値、地中0.1m深さの地中温度の観測値
3段目:風速
4段目:風向(0°は北風、90°は東風、180°は南風、270°は西風)


表168.3は同様な夕刻曇りの3夜の一覧表である。表の最下段に示す放射最低 Tr (微風晴天夜の地面温度の放射冷却計算値、4時の値)と葉面温度の最低値 Ts の比較、および日本気象協会発表の予報気温最低値 F と観測気温の最低値 T の 比較は、それぞれ次のとおりである。

Tr-Ts=0.14℃±0.75℃ ・・・・・(3)
F-T=0.27℃±0.39℃ ・・・・・(4)


表168.3 夕刻曇りで、天気が大きく変わる可能性がある夜間の一覧表。
 記号は表168.2と同じである。
夕刻曇り朝方晴れの夜一覧表



まとめ

凍霜害防止を目的とした本研究が実用化されたとき、該当地点に設置すべきは 数万円(10万円以下)の安価な機器としたい。目標として、基準の葉面温度計 (直径60mmの円盤状受感部およびデータロガー・自動データ送信機を含む) を想定している。

この目標を目指した基礎的な研究を推進している。この第2報では、夏の住宅街 において気温と葉面温度の観測値、気象庁数値予報モデルによる気温予報値、 および微風晴天夜の地面温度の放射冷却の計算値を比較した。予報値は日本 気象協会発表の1時間ごと気温予報値を用いた。

(1)「かまぼこ板面の温度」とサツキ群落内に設置した模型葉面の温度 「葉面温度」は、夜半以後の最低温度起時の時間帯では0.1℃±0.4℃でほぼ 一致した。それゆえ本報告では、微風晴天夜の放射冷却による地面温度の 計算値と「葉面温度」を比較した。

作物への降霜は葉面温度によって決まるので、葉面温度の観測が重要となる。 今後、葉面温度は基準の「葉面温度計」を用いる。

放射冷却の初期条件として、夕刻の有効放射量=0となる時刻の地面温度は 気温の観測値に等しいとする。周辺一帯の住宅街を代表する地表層の熱的 パラメータとして、大きめのcgρgλg =2×106Js-1K-2m-4 を設定した。

(2)2018年6~7月の雨天日などを除く 12晴天夜について解析した結果、 葉面温度の最低値と放射冷却計算値(4時)の差(誤差)は-0.41℃±0.92℃ となった。マイナスは計算値が低いことを意味する。

凍霜害防止が目的であり、夕刻に曇っていても朝方晴れて葉面温度が急激に 低下することを考慮に入れておかねばならない。夕刻曇りの3夜について、 晴天夜の平均有効放射量を用いて放射冷却を計算した結果、葉面最低温度と 放射冷却計算値(4時)の差(誤差)は0.14℃±0.75℃となった。

(3)葉面温度は風速に敏感であり、気温と葉面温度の差は微風夜に約2℃、 風速が強くなるほど小さくなる(図168.8の上図)。ただし、今回の温度差の値 は夏の晴天の日の出ころの条件(有効放射量の平均値≒-50 W/m2) であり、他の季節つまり一般には、温度差は有効放射量の大きさに比例する。

例えば水蒸気量の少ない冬期、有効放射量≒-100 W/m2 程度となり、気温・葉面温度差は4℃程度になりうる。

備考(有効放射量の測定原理)
簡易放射計は、気温と物体温度(葉面温度計受感部)の温度差が有効 放射量に比例する原理を利用している。原理式は「水環境の気象学」の式(6.33) であり、物体は乾燥面でβ=0、熱容量(貯熱量 G)は無視できることを 仮定している。

(4)気温予報値と気温観測値との差は-2.15℃±0.74℃となり、全体的に 2℃ほど低いほうにずれたが、このずれはデータ蓄積によって改善される見込み である。

今後の課題
(5)この第2報では、「葉面温度」の観測は直径60mmの円盤状受感部を 「基準の葉面温度計」として用いた。

気温と葉面温度の差は作物の種類による。同じ放射量と風速の条件であっても、 小さい葉面は大きい葉面に比べて熱交換が大きく温度低下量が小さい。そのほか、 葉面の粗密や風に対する傾斜など「葉面群落構造」によって熱交換が異なる。 それゆえ、試験・理論計算によって作物の種類・生育段階ごとに調べて おかねばならない(参考:「地表面に近い大気の科学」の図5.7)。

(6)この第2報で解析した葉面温度と放射冷却計算値の差(誤差)が全般的 に小さくなったのは、高温の夏期条件のためである。それゆえ今後の研究では、 季節や地域による特徴を明らかにし、どこにでも通用する高精度の予測法を 見出したい。


参考文献

気象庁予報部、2018:ガイダンスの解説、数値予報課報告・別冊第64号、気象庁 予報部、pp.248.

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学-地表面の水収支・熱収支.朝倉書店、 pp.350.

近藤純正、2004:地表面に近い大気の科学―理解と応用.東京大学出版会、 pp.324.

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