基礎2: 気温・地温と局地循環

著者:近藤純正
	研究課題
	2.1 気温・地温変化と地面条件
	2.2 各種地表面における地表面温度の日変化
	2.3 地中温度の日変化
	2.4 大気境界層内の気温鉛直分布
	2.5 盆地の冷却過程

	2.6 地形による冷却の違い
	2.7 谷地形の循環流
	2.8 循環流の役割り
	Q&A
	文献
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地表面では太陽からの放射量(日射量)と大気からの赤外放射量(大気放射量) の変化により、その温度が上がったり下がったりしている。同時に、地表面上 の大気温度も変化する。気温が変化すると気圧も変化し風も変わる。 地表面温度や気温の日変化の振幅は地表面が湿っているかどうかによっても 変わる。
この章では、地温や気温の変化の仕組みと海陸風などの局地循環が果たしている 役割りを理解しよう。



研究課題

(1)海岸から内陸にかけて10~30の気象観測所(アメダス)を選び、 晴天日の気温日変化パターンが降雨日からの経過日数に よってどのように変わってくるかを調べる。
(2)近くの野外で、各種地表面の表面温度と地中温度の日変化を 観測し、(1)と同様のことを明らかにする。

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研究課題に対するヒント


2.1 気温・地温変化と地面条件

岩手県盛岡の北東約20kmのところに藪川がある.ここは本州一寒いところ として知られ,1945年1月26日に-35℃を記録している。

この日,盛岡の最低気温は-20.6℃であったので,藪川は盛岡より 14.4℃も低温であった。藪川は盛岡に比べて標高が525m高いところにある。 平均的には,気温は標高100mにつき0.65℃低くなるので,通常なら 盛岡より3.4℃程度の低温であれば異常ではない。

これよりさらに 約10℃も低温であったのはなぜだろうか?当日は晴天であったが, 藪川では密度の小さい新雪が深く積もっていた。地形以外 の影響を考察してみよう。 (注:現在の藪川のアメダスは当時の場所から移転している。 Q&Aの2.1を参照。)

積雪深と最低気温の関係を調べてみる。盛岡は積雪が少ないが, 標高の高い藪川は積雪が多いところである。図2.1 は1980年1月から 10月にかけての藪川における積雪深(上図)と,晴天日の藪川と 盛岡における最低気温の差(下図)である。

積雪深と最低気温の差
図2.1 藪川の積雪深と、晴天日における盛岡と藪川の最低気温の差。

最低気温の差は,積雪のない季節には6℃前後(黒丸印)であるのに対し, 積雪のある冬期は6℃前後から14℃前後の範囲まで広がっている。

(注)積雪があるときでも前日の最高気温が高く部分的に融雪が起き、 液体水が積雪内に含まれるときは冷却されにくく, 藪川と盛岡の最低気温の差は小さくなる。

他の地点についても同様に調べてみると,密度の小さい 積雪が50cm以上積もった晴天日は,朝の最低気温が異常に低くなる

図2.2 は中国の半乾燥域にある蘭州における降雨後の連続的な快晴日 における最高・最低地表面温度の変化である。

最高・最低地表面温度の変化
図2.2 中国蘭州における、降雨後の日最高・最低地表面温度の変化。

横軸のdayは1月1日からの日数である。day=194(7月13日) に17.9mmの降雨があり,地面は湿った。最高地表面温度は 7月13日の雨日と比べて翌日には6.4℃上昇し, その次の日にはさらに13.8℃の上昇,その後は少しずつ次の 降雨が起きる日の前日(day=200)まで上昇している。

一方,最低地表面温度の値そのものはあまり変化していないが, 最高温度から最低温度までの変化幅(温度較差)は日ごとに大きくなる。

この例では,①地表層近くの地中水分量の減少によって 蒸発量が減る、②地中に熱が伝わりにくくなる、という 2つの理由によって,地表面温度の変化が大きくなった。 地表面温度が変わるので, 気温の日変化も変わることになる。

このホームページに掲載した「身近な気象」の「2.放射冷却と盆地冷却」 の章に示してあるように、 夜間の冷却速度は地表面以下(積雪があるときは積雪面以下)の地中の 熱的パラメータに大きく依存し、 この値が小さいほど冷却が激しい。

日中は逆に、熱的パラメータが小さいほど、地温の上昇は激しい。 つまり土壌中(積雪中)に水分が少なければ、熱容量も熱伝導率もともに 小さく、地温変化が大きくなるわけだ。 表2.1 に代表的な土壌その他の熱的パラメータの概略値を掲げた。

表2.1 代表的な土壌その他の熱的パラメータの概略値。 (水環境の気象学、表6.9、より転載)
熱的パラメータの表

2.2 各種地表面における地表面温度の日変化

熱容量(cGρG)は熱量をどれだけ貯めうるかを, 熱伝導率(λG)は地表面と その下層との間での熱の伝えやすさを表すものである。 それゆえ,cGρGλGは,夜間には 地表面の冷却の度合いを, 日中には地表面温度の上昇の度合いを決めるパラメータとなる。

日中は,夜間に比べて一般に風が強く対流活動が盛んなので, 顕熱と潜熱の輸送量も大きくなる。したがって,(a) 地表面からの蒸発量が 重要となる。また,(b)地表面のアルベード(反射率) が小さい場合には,日射量は多く吸収されて,地表面温度は上昇しやすい。

図2.3 は地表面がアスファルト, コンクリート,裸地,芝生の場合について,晴天日の地表面温度の日変化を 比較したものである。

4種類の地表の地表面温度の日変化
図2.3 4種類の地表の地表面温度の日変化。 (杉本・近藤、1994;地表面に近い大気の科学、図4.6、より転載)

アスファルト面は黒くアルベードが小さいので、 コンクリート面より日中の温度が上昇している。芝生地では蒸発が もっとも盛んで,地表面に入る日射量の多くが蒸発の潜熱に費やされる ため昇温しにくい。アスファルト面と芝生地では正午の温度は,10℃も違う。

これらの観測は距離100m以内の近接した範囲で得られたものである。 したがって,各地表面上の気温(高度1m以上)はほとんど同じとみなして よいだろう。もし,これらの地表面が広大で数100m以上の広がりがあれば, 各地表面上の気温も地表面温度に応じて変わってくる。 つまり,砂漠のような蒸発量の少ない地域では,蒸発散が盛んな 森林・草地に比べて,気温も高くなる。

2.3 地中温度の日変化

図2.4 は春秋分ころ、晴天日の乾燥した裸地を想定した場合の地温の時間変化 である。
地表面からの深さゼロ(地表面)、0.05m、0.13m、0.25m における地中温度の時間変化を示した。

地中温度の日変化
図2.4 地中温度の日変化。(地表面に近い大気の 科学、図4.10、より転載)

地表面での変化を基準としたとき、位相は深さに比例して遅れる。最高温度 の時刻は、深さゼロでは13時であるのに対し、深さ0.13mでは19時と なっている。

図2.5 は同じ地中温度を鉛直分布で表わしている。各曲線は3時間ごとの 分布である。

地中温度の鉛直分布
図2.5 地中温度の鉛直分布。(地表面に近い大気の 科学、図4.10、より転載)

深くなるにしたがって、地中温度の振幅は指数関数的に減衰し、深さ 0.5mではほとんど日変化はなくなる。

位相の遅れも振幅の減衰も、ともに地中の温度拡散係数の関数で表わされる。 温度拡散係数は、次式で定義される。

a=λ/cGρG・・・・・・・・・・・・・・・(式1)

ここに、λG は土壌(積雪がある場合は積雪)の熱伝導係数、
cG は比熱、ρG は密度、cGρG は単位体積当りの熱容量である。

2.4 大気境界層内の気温鉛直分布

地表面から大気へ輸送された顕熱は、まず最下層の大気を加熱し、拡散に よってしだいに大気境界層全体を昇温する。図2.6 は春秋分ころを想定 したときの朝6時から18時までの3時間ごとの温位鉛直分布の変化である。

温位鉛直分布の日変化
図2.6 温位鉛直分布の日変化。(地表面に近い大気の 科学、図4.8、より転載)

6時の分布では、高度500m付近より下層に強い逆転層が見られる。

太陽が昇り地表面が加熱されると、大気は下層から昇温しはじめ、 鉛直方向によく混合された、ほぼ等温位の大気混合層 が形成される。

大気混合層は9時には高度200m付近まで、15時には高度1,400m付近まで 達している。

(注)混合層内では温位はほぼ一様になっているが、気温は高度100m につき約1℃±0.2℃程度の割合で低くなっている。

2.5 盆地の冷却過程

盆地の冷却過程
図2.7 盆地の冷却過程。(地表面に近い大気の 科学、図8.13、に加筆)

図2.7 は盆地の冷却過程を説明したものである。
小スケールの盆地とし、静穏な条件を想定する。夕方、日没が近づき日射量がしだいに減少すると、 盆地の底や周辺の斜面では放射冷却が始まる。

斜面上では冷気流が発生する。
夕方、斜面の頂上付近で発生した冷気流は、斜面の最下端近くまで流れ 下ることができる。1時間ほど経過すると、盆底から安定な空気層の堆積が 始まる。盆底では風速はほとんどゼロに近く、地表面温度は放射冷却に したがって下がっていく。

夜半から朝方にかけては等温位線(点線)は盆底の上空ではほぼ水平 になっているが、斜面近くでは傾斜している。

下層ほど温位は低温になっているため、ずっと上の斜面から流れはじめた 冷気塊の温度はある距離を下ると、その高度の温位と同じになり、 下まで入り込めず、図に矢印で示したように、ほぼ等温位線に沿って流れ、 水平方向にたなびく。

このようにして盆底の上空に冷気が堆積する。汚染物質など微粒子があれば、 盆底近くに停滞する。

2.6 地形による冷却の違い

前述のように、斜面上では冷気流が発生する。この際、冷気塊は斜面へ 顕熱を運ぶことで空気の温度は低下するが、斜面の冷却 は抑制される。 平地と斜面について冷却速度の違いを比較したのが図2.8 である。

平地と斜面の夜間冷却の比較
図2.8 平地と斜面の地表面の夜間冷却の比較、実線は斜面、点線は平地、 図中のパラメータは地中の熱的パラメータである。 熱的パラメータが小さいほど冷却は大きい。(地表面 に近い大気の科学、図6.12、より転載)

図の横軸は夕方からの時間を表わし、縦軸は夕方かの地表面の冷却量 である。夕方とは、水平面日射量(全天日射量)が大気放射量に比べて 無視できるほど小さくなった頃である。他の条件にもよるが、 平坦地では日没30分前、盆地など日当たりが悪い場所ではこれより早い 時刻を夕方とする。

斜面(実線)では1~2時間も経過すると、斜面流(大気)から地表面に 与えられる顕熱によって、冷却はあまり進まなくなる。

盆地では,一般風がないときでも,夜間は斜面下降流 が,日中は斜面上昇流が発生し,大気と 斜面の間で比較的大きな顕熱・潜熱の 交換が起きる。そのため,盆地大気の気温の日較差は平地に比べて大きくなる。

また,一般風がやや強いときには,周囲の山岳による 遮蔽効果によって 風速が弱くなり,日中,盆地の底の部分の地表面は昇温しやすく, その結果でも,気温が平地に比べて高くなる。

 一方,山地の地上部では夜間は冷気が,日中は暖気が溜まりにくく, 気温の日変化は小さい。図2.9(左図)は茨城県筑波山の山頂(標高868m)と 麓の下妻(標高20m)における晴天日5日間平均の気温の日変化である。

山地と平地の気温日変化
図2.9 山地と平地の気温日変化。(森・近藤、1984; 地表面に近い大気の科学、図4.13、より転載)

15時から朝までの気温変化量は麓では約15℃であるのに対し、山頂では 約4.5℃である。同様に,図2.9(右図)は宮城県川渡の山頂(標高572m)と, ゆるい傾斜の尾根線上(標高550m),および麓の平地(標高175m)における 晴天日10日間平均の気温の比較である。気温変化量は平地で約12℃, 尾根線上で約6.5℃,山頂で約4.5℃である。

両図からわかるように,冷気を堆積しやすい山麓平地や盆地では, 気温は日の出直前まで下がるのに対し,冷気を流出しやすい山頂では 日没約1時間後から気温はほとんど下がらない。

そびえ立つような地形ほど冷気は溜まりにくく,その気温は地形の影響を 受けていない同一レベルの大気温度に近い値となる。このことを利用して, 盆地底の上空の気温を推定することができる。

2.7 谷地形の循環流

図2.10 は日中の谷地形における局地循環流の模式図である。

谷地形の循環流
図2.10 谷地形の循環流。(Kuwagata and Kimura, 1995;地表面に近い大気の科学、図6.17、より転載)

①斜面上昇流、②反流、③山地上の狭い範囲で生じる強い上昇流、④盆底 上空の広い範囲で生じるゆっくりとした沈降流、が循環している。 この循環流によって、谷部の湿った空気が、日中、山地部に運ばれる。

2.8 循環流の役割り

海岸域では海上と陸面間で気温に差ができ気圧差が生じ,日中は 海風 が発生する。また,平地と盆地間でも昇温のしかたが違い気圧差ができて, 平地から盆地へ向かう循環流、平地ー盆地風 が形成される。

これら「海風」や「平地ー盆地風」が気温に及ぼす影響を見てみよう。 図2.11 は1991年6月8日の晴天日に仙台平野南部から福島盆地にかけての アメダス4地点における気温の日変化を示している。

平地・盆地風と気温変化
図2.11 平地・盆地風と気温変化。(Kimura and Kuwagata, 1993;地表面に近い大気の科学、図4.14、より転載)

この日は高気圧に覆われ,上空の一般風は南~南西の風であった。 海岸から5kmの亘理では9時ころから気温はほとんど上昇しなくなる。 これは海上からほぼ一定温度の東寄りの風が吹き始めたことによる。

図中の矢印は風向が急変した時刻を示し,海風が始まったころである。 海岸から風に沿って約30kmにある白石での風向の変化は13時であり, その後,気温は下降し始めた.約40kmにある梁川(福島盆地の 入り口)では15時に風向が変わり北寄りとなり,約50kmの福島では 16時30分ころ風向が急変した。

この時刻は循環流「平地ー盆地風」が盆地 へ到達したことを示している.この程度の距離までは「海風」は入り 込まないと考えられており,「平地―盆地風」の到着である。 福島における日中の最高気温は亘理に比べて6℃以上も高くなっている。

この場合は、海岸近くにあった湿った空気が「平地ー盆地風」によって、 内陸盆地に運ばれ、夕方になって内陸の大気が多湿となる。

ここで例とした地域一帯は,海風の生じる範囲と平地―盆地風の生じる 範囲が隣接しており,両範囲を区別する境界は明らかではない。 盆地に近い平野部では,「海風」と「平野―盆地風」が合体した状況の風が 吹いていると考えてよいだろう。

次に、海陸風や谷風など小規模の循環流が結合されて大規模循環流となる例 を示しておこう。

図2.12 は関東平野部から碓氷峠を越えて長野県の佐久盆地・長野盆地まで の広域を想定したものである。

大規模循環流
図2.12 小規模循環流の結合によってできる大規模循環流。 (Kurita, et. al.,1985; 1990, に基づく)

午前中の海岸域では海陸風が、内陸平地~斜面域 では谷風が、 平地~台地域では平地・台地風が生じていた。 やがて、海岸域から内陸平地間では広域的な海風循環が形成される。

午後になって、各循環流が結合されて、内陸の熱的低気圧に向う 大規模流となった。

京浜地帯から碓井峠周辺にまでやってきた汚染物質は、夕方になると 斜面下降風として佐久盆地・長野盆地の地上付近に流れて来る。 この過程によって、汚染源から100~200kmの遠方で夜間に 光化学スモッグ が起こったことがある。

Q&A

以下の質問は気象予報士向けに行なった講習会で出されたものである。

Q2.1:藪川の最低気温はなぜ本州一なのか,他の地域でも同じ状態の ところはあると思われるのだが?

 A2.1:そのとおりである.気象の記録は,気象官署あるいはアメダス 観測所などで記録されたものが正式になる。実際には,藪川より低い 最低気温が生じていても,そこに観測所がなければ,その温度は 「推定値」と考える。実は,藪川で1945年に氷点下35℃を記録したのは 現在のアメダス地点ではなく,地形的にずっと下流で,冷気が溜まり そうな場所における値である。

5万分の1の地形図を眺めて,地形的に低温が出そうなところとして, 同じ北上高地の門馬アメダスがあるので行ってみた。 このアメダスは盆地の底ではなく,鉄道線路脇の小高い丘状の地点に 設置されていた。もし,このアメダスが数100m離れた盆地状地形の くぼんだ場所に設置されていれば,放射冷却が激しい夜間の最低気温は もっと低温に記録されると思われる。

最低気温には局地性があり,わずか200~300m離れた場所間で, 10℃も違うことがある。

ただし,気象観測所はそのような局地的な低温が出現する場所に 設置するのがよいとは限らない。目的にもよるが,なるだけ, その地域の広い範囲を代表できる場所に設置するのがよい。

ついでに付記しておきたいことは,東北地方南部3県のアメダス観測所 について風速計設置場所が適当かどうかを調べたところ, 67個所中の29個所(約43%)は,すぐ近くに障壁となる建物などがあり, 風速観測値には代表性がなく,利用に際しては注意が必要である (桑形・近藤,1990)。

昔の観測所(現在はアメダスとなっている)では役場の人とか, 農家の人に依頼して観測が行われていたが,現在の風速はケーブルを 使って電気的に測るようになっているので,今後は,更新に際しては 適地に風速観測塔を移設するのがよい。また,周辺に低木があって 当初はよかったとしても,樹木が成長し,風速計が樹冠の中に埋没 したような例も見られるので注意しよう。

Q2.2: 朝もやの解消は接地逆転層の解消によるものか?
晴天で空気が乾燥した 風の弱い朝のこと,日の出前に煙か,もやがたなびいていた。 このことから接地逆転層ができていたと思った。 日が昇ると煙やもやはなくなったが,これは逆転層の解消による ものと考えてよいか?

A2.2: 煙やもやのたなびきは,その層の安定度が非常に強く、乱流が弱く, 拡散がほとんどないときに見られる.直射光があたると, ①微粒子層が日射の吸収により直接昇温する,②地表面が加熱され, 大気は下層からの顕熱輸送量によりしだいに昇温する(乱流による加熱), ③加熱した地表面からの赤外放射量の増加により高度1m~10m付近の 層が昇温(赤外放射による遠隔的な加熱)する。その結果, しだいに乱流が激しくなり,煙やもやが消失したと思われる。 なお,日の出直後の0~10mの大気層の平均的な昇温速度は10分間あたり 0.3~1℃程度である。

Q3.3: 「海陸風」や「平地―盆地風」のような循環と同じような 原因で吹く局地的な風は他にあるか?

A3.3: 「海陸風」は海上と陸上で,「平地―盆地風」は平地と盆地で 顕熱交換量が違うことが主な原因で発生する局地風である。 同じようなことは,森林域と砂漠化域(都市化域)の間でも, あるいは積雪域(多積雪域)と無積雪域(少積雪域), などでも起こりうる。これらの現象は,やや広域の気圧の傾きが 小さいときについて,数日~長期間の資料を統計すれば,明瞭に 見いだすことができる。

広い平地が積雪で覆われると,日中でも積雪面の温度は0℃以上には なれず,地表面近くの気温も,普通なら0℃以上になれない。 しかし,近くに樹木の生えた山地があると,山地では樹木の 日射吸収により昇温し,山地から平地への循環流が形成される。 その結果,平地の日中の気温が10℃程度まで上昇する(Yamazaki, 1995)。

現実の大気現象は,いろいろな原因が重なって生じているが, 特定の条件のときには,その条件で発生する現象が顕著になる。 したがって,データ解析ではその現象が顕著に現れる条件ごとに 統計を行えば,興味ある現象が見いだされる。

文献

Kimura, F. and T. Kuwagata, 1993: Thermally induced wind passing from plain to basin over a mountain range. J. Appl. Meteor., 32, 1538-1547.

Kuwagata, T. and F. Kimura, 1995: Daytime boundary layer evolution in a deep valley. Part I: Observations in the Ina Valley. J. Appl. Meteor., 34, 1082-1091.

桑形恒男・近藤純正,1990:東北南部から中部地方ま でのアメダス地点における地表面粗度の推定.天気, 37,197-201.

近藤純正,1987:身近な気象の科学.東京大学出版会, pp.189.

近藤純正(編著),1994:水環境の気象学-地表面の水 収支・熱収支-.朝倉書店,pp.348.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学ー理解と応用ー. 東京大学出版会、pp.324.

近藤純正・桑形恒男,1984:盆地内に形成される夜間 冷気層(冷気湖)の厚さと地形との関係.天気,31, 727ー737.

Kurita,H., K.Sasaki, and H.Muroga, 1985: Large-range transport of air pollution under light gradient wind conditions. J. Climate Appl. Meteor., 24, 425-434. Kurita,H., H.Ueda, and S.Mitsumoto, 1990: Combination of local wind systems under light gradient wind conditions and its contribution to the long-range transport of air pollutants. J.Appl.Meteor., 29, 331-348.

森 洋介・近藤純正,1984:冷気の堆積・流出を考慮 した山地の夜間放射冷却.天気,31,45ー52.

杉本荘一・近藤純正,1994:仙台市におけるヒートア イランドと各種地表面温度の日変化の観測.天気, 41,541-544.

Yamazaki, T., 1995: The influence of forests on atmospheric heating during the snow-melt season. J. Appl. Meteor., 34, 511-519.

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