読書録

シリアル番号 1320

書名

「司馬遼太郎」で学ぶ日本史

著者

磯田道史

出版社

NHK出版

ジャンル

歴史

発行日

2017/5/10第1刷
2017/10/15第10刷

購入日

2018/01/23

評価



望月氏から幕末と明治について、目からウロコの説を展開していると一読を薦められる。これを買うために江ノ電の乗って藤沢に出かける気にもなれず逡巡していたところ、たまたま、すでに購入して読破していたS.K.が郵送してくれたので一気読み。

司馬が作家になるまえに参加した戦争がみじめな敗戦で終わった時、頭に浮かんだなぜ「明治維新はアジアの一隅で成功したにも関わらず、敗戦という失敗に突き進んだのか」という疑問が司馬の作品を書く原動力になっていた。司馬があげた成功と失敗の要因を整理すると;

明治維新の成功の理由:
@信長の合理性と直観性、「信長は言語をもって長々と自分の考えや思想を伝えない」これはマイケルポランイーの言う「暗黙知」というものであろう。この直観を合理性で押し通すので結局明智に暗殺される。とはいえ追従の天才、秀吉がその方針を推進したので日本に支配体制を構築できた。
A秀吉が世俗権力を宗教権威に優越させた
B吉田松陰が新しい価値の創出と予言をした
C長州の村医者の子大村益次郎が合理精神で近代的陸軍を作った。大村の合理主義は人の神経を逆なですることがある。大村は思想から距離をとった
D国民国家構想や新政府の構想をもっていた勝海舟、福沢諭吉、坂本龍馬がいた
E江戸時代の行政の末端機関の庄屋が機能していた
F弱者の自覚があった

失敗の導火線:
@「太平記」が楠木正成をスター化したこと。日本の皇室は北朝系なのだが、太平記は南朝を正当化している。明治天皇は南朝が正統であると裁断。以後、陸軍の軍人たちの国家主義的思想のもとになった。同様に頼山陽と徳富蘇峰が日本人の歴史観をゆがめたとする。
A山県有朋の世代になるとすでに戊辰戦争の最中に倫理的腐敗が始まっていた
B長州藩の忠義の思想・動機を大切とする「狂」に代表される傾向
C西郷は革命後の体制を考えずに幕藩体制をこわしただけ
D秀吉の朝鮮出兵以降日本に目覚めた中国、朝鮮蔑視思想
E日本の対ロシア、対米の宣戦布告の詔勅は「天佑ヲ保有シ万世一系皇祖ヲ践メル大日本帝国皇帝ハ・・」と天の助けがそなわっているから神風が吹いたという 御話しで始まっている神がかりな代物。にもかかわらず日露戦争の勝利で国民は舞い上がってしまった。ルーズベルトにそうしてもらったことも知らずに。要す るに井の中の蛙。これが前例主義または経路依存症となる。私は前例主義とは形式主義、明示知しかうけつけないという狭量性と等価と思う。
F幕末、英国やフランスにまなんで持っていた多様性がドイツ一辺倒になって消えてしまった。
G北一輝が言い出した帷幄上奏(いあくじょうそうけん)

失敗の導火線に連なる萌芽として日本会議の陰謀に引っ掛かって改憲にまっしぐらの山県有朋の後輩たちの動きが不気味。国民もトランプと北朝鮮の見せかけの 虚勢に引っ掛かってナショナリズムが高揚し、多分改憲案を支持するだろう。マスコミは居眠りして知らんぷり。NHKは磯田道史を起用しているが、司馬の メッセージはオブラートにつつんで番組ではつたえていない。なにより「西郷どん」を取り上げて国民の気をそらしている。これも忖度か。日本の第二の敗因に なるか?

磯田は太平記と頼山陽と徳富蘇峰が日本人の歴史観をゆがめたとしている。た しかに太平記の楠木正成はアホな後醍醐天皇にどこまでも忠誠を尽くす人物としてして描かれている。しかし頼山陽は陽明学者であり、幕末における革命イデオ ロギーを造ったといえる。徳富蘇峰は山県などと一緒になって軍国主義をあおり、終戦後にA級戦犯容疑をかけられたわけで、太平記や頼山陽といっしょくたに するのはおかしい。

「鬼胎の時代」に文部省がだした「国体の本義」のなかに日本語に主語が無いのは無私の心があるからだと書かれている。しかし磯田は「共感性」があるから主語が無いといえる。これと
「自己の確立」がこれからのグローバル化の時代に大切となるという「意味不明なことをいって結論としている。これをよんで磯田は全く司馬を理解していないと考えた。後日読んだ石原靖久の「司馬遼太郎で読む日本通史」 の方がが正確に司馬の言わんとするところを理解していると思う。磯田の本はベストセラーらしい。ということは磯田の世代は今、マスコミや政治や企業を動か している世代であるが、司馬が学んだことをしっかり受け取っていないということが言えるだろう。そして昭和の失敗を繰り返す予感がする。

磯田は信長や明智を描いた「国盗り物語」、吉田松陰を描いた「世に棲む日日」、「龍馬がゆく」、西郷と大久保を描いた「飛ぶが如く」、土方を描いた「燃えよ剣」、松平容保を描いた「王城の護衛者」、河井継之助「」、日露戦争を描いた「坂の上の雲」を推奨する。

その他、街道もので私が読んだものは「白河・会津のみち、赤坂散歩」、「嵯峨散歩 仙台・石巻」、「愛蘭土紀行 I  II」、「オランダ紀行」、「三浦半島記 街道をゆく42」、「島原・天草の緒道 街道をゆく17」、「信州佐久平道潟のみちほか 街道をゆく九」、「南伊予・西土佐の道」、「歴史と視点 ー私の雑記帖」、「南蛮の道 I II」、「アメリカ素描 I II」、「郡上・白川街道 堺・紀州街道ほか」、「熊野・古座街道 種子島みち ほか」、「十津川街道」、「越前の諸道」、「大徳寺散歩 中津・宇佐のみち」、「空海の風景 上下」がある。随分と愛読したものだ。


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