2003年5月12日
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サッカー
北澤 豪 引退試合会見
(東京・国立競技場 会議室)
昨シーズンまで東京ヴェルディ1969で(読売時代から通算すれば)12年プレーを続けた北澤 豪氏が、6月21日に国立競技場で引退試合を行うことが発表された。
引退試合は、1試合目がヴェルディ・オールスターズとJオールスターズとの対戦で、ヴェルディは松木安太郎氏が、Jは加茂周氏がそれぞれ監督を務め、また第2試合は、東京ヴェルディ1969と横浜F・マリノスの現役選手が対戦。こちらにも北澤は出場することになっており、1試合目は、MFを組んだラモス、カズ、武田ら、ヴェルディの黄金時代を築き上げたメンバーとともにプレーをする。この日は、日本代表監督の立場から離れて、ともに創世記からJリーグを戦った仲間としてジーコ、エドゥ両氏も出席する華やかな会見となり、北澤は「やるからにはすべてを出し尽くしたいと思うし、同時に、選手のみなさん、ファンと幸せな一日にしたい」と話した。
●北澤 豪 引退試合●
日時:6月21日(土)
場所:東京・国立霞ヶ丘競技場
試合:
(1)ヴェルディ・オールスターズ×J・スターズ
(2)東京V×横浜FM
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ジーコ監督「自分の労を決して惜しまず、最後までチームに貢献しようとする彼のサッカーの姿勢は、今の代表に見習ってもらいたいものだ。ファルカン監督時代、彼は日本の情報がなく、私が助言をした際、「どんなことがあっても北澤だけは外してはいけない」と言ったことを思い出す。本当に、一緒に試合をしたかったがコンフェデレーションズ杯(対フランス戦の日)があって参加できない。しかし、彼のサッカーへの姿勢は、本当に誰もが見習わなくてはならないし、私はフランスW杯の予選、韓国戦で復帰し勝利したときの、彼の目の輝きを忘れられない」
エドゥ氏「チームの勝利に汗をかくことがどういうことか、彼はそれをピッチで常に示し続けた。次元の違うサッカーへの取り組みだったと思う。彼にはいい思い出がない。ラモスと2人には本当に悩まされたし(鹿島監督時代)、2人のせいで、私はJの歴史に名前を残す監督になれなかった(笑)。初年度、鹿島スタジアムの試合で確か3−0で前半勝っていた試合を、彼ら中盤の力で形勢を逆転されたことを思い出す。自分たちの力で試合を打開する、見事な手本だった」
ラモス氏「このメンバー(ヴェルディとJの)で、ちょっと年は取りすぎてるけど、サッカーなら絶対に負けないね。優勝は無理でも、上位には絶対に入れるサッカーができるし、せっかくきーちゃんのための試合だから、いい試合をして、どんな汚いプレーも体を張ってやるから(笑)。きーちゃんとできたことは僕の誇り。いい試合にしてあげたい」
松木監督「彼のようなプレーヤーがいなくなるのは寂しい。若い選手を引っ張っていける数少ない選手だった。個人的には、ドーハの時の韓国戦が印象に残っている。このメンバーがそろうなんて、僕も楽しみです」
加茂監督「北澤にはいつも苦しめられた。地味でも放っておけない、うるさい選手だった。当日は、お客さんも楽しんで感動してもらえる試合にしたい。現役ほど動けないし、荒っぽいこともないだろうが、いい試合をお見せする」
「次元の違うサッカー」
自分を犠牲にしてもチームに貢献する、とはどういうことか。これは選手たちが、ピッチで見せているのが、単にボールをさわり、あるいはボールから離れていく、テクニックにとどまらないことを意味する。
例えば、簡単なシーンでもよくわかる。
もし自らが得点を決めたとしても、北澤は絶対に喜ばない。それが同点でも、もちろん負けていればなおさら、そして、その時間帯がロスタイムなのか、ホームなのか、今チームはどのポジション、どういう順位で状況にいるのか、そうしたすべてを考え、ゴールに突っ込んでいくはずだ。
ボールをネットから掻きだして、それをセンターラインに置くために。そうしてすぐにでもリスタートするために。
以前にも書いたが、自己犠牲を徹底的に払う選手こそが、自己表現をむしろ強烈にできる、ということが、サッカーの、団体競技の実は深い魅力ではないかと思う。引退したマイケル・ジョーダンがラストゲームを前にした会見で、やはり同じように、「自分は犠牲を払ってでも、チームのためにプレーをしたかった。それが楽しかった」と発言し、その表現について、「才能がなくても、情熱でチームを助ける選手がいる。スターになろうとして、リーダーになれない選手がいる。私なら前者が欲しい」と話していたが、北澤の引退に、監督や選手、ジーコらが寄せたコメントとよく似たものである。
「チームのために」と口で言うのは簡単だが、それを本当に体現できる選手は決して多くないことを思うとき、北澤が、国立競技場で最後に見せてくれるプレーの価値は、シュートやパス、運動量ではない。「チームに貢献するために汗をかく。こんなことをやり続けることは至難の業だ」とーコは話し、そういうプレーヤーとの試合に本当に出場をしたいと申し出ていたそうだ。
「犠牲を払う」とはどういうことか、何もサッカーに限らず誰もが知りたいと思う概念について、北澤は、日本代表がフランスと対戦する同じ日、鮮やかに示して、それを置き土産にするのではないかと思う。

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