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※無断転載を一切禁じます 陸上 IAAF(国際陸連)グランプリ陸上大阪大会2003 春のサーキットの締めくくりとなるGP大会が行なわれ、今季、初めての国際大会に出場した室伏広治(ミズノ)が、6投目に82メートル95をマークし、自身の大会記録82メートル59を更新して優勝を果たした。室伏は4月、ホームグランドである中京大記録会で始動し、6投全て80メートルを越える超安定投法を見せ、この日も、1投目から81メートル25、82メートル06、82メートル64、81メートル55、82メートル65と、すべてで2試合12投げ連続、しかも参加選手中でも唯一80メートルを越える投擲で、パリ世界陸上での連続メダル(2001年エドモントンで銀メダル)へ大きな期待を抱かせた。 末續慎吾「手ごたえのあるレースができたが、順位がせめて2番と思っていたので残念。今日は70メートルまで誰も視界に入ってこなくて、このまま勝っちゃうかと思ったが、最後に減速してしまった。ただ、向かい風での1秒台は初めてのことなんで、最後までレースをした感覚が残っています。今年は疲労感がなく、いい調子で日本選手権に臨めそうです」 為末 大「2戦目で何とか収穫を得たレースでした。日本選手権まで国内で、それからGPで欧州に出て、世界陸上を目指したい。米国での冬季練習は、環境も素晴らしく、クラブは地域に根ざしていて本当に楽しい経験をしたと思う。今回もチームメイトが来日して会えて、これまでになかった感覚が新しいモチベーションになっている」
「マグマが活発に……」 「やめてくださいよ! そういうのは。変なプレッシャーになるじゃないですか」 もちろん、試合において、80メートルが何投続くのかは、競技力をそのまま示すものではないし、「1回でも83メートルを投げれば後は60メートル台でもいい競技」と室伏本人が説明するように、アベレージは意味を持たないだろう。 「今日は初の国際大会ということで緊張した。それもいい緊張でしたし、内容に非常に満足しています。安定性を持つことは大事なことですが、むしろ逆のアプローチだと思います」 会見では流されてしまう「逆のアプローチ」とはこういうことだ。競技者はうまくいったパフォーマンスとそのプロセスに当然のことながら固執する。安定を求めるからだ。しかし、ハンマーのような技術系ではこれは安定を求めるあまり革新が足りず、今度は技術が向上しなくなるケースがある。 父重信氏は、これまで「レベルアップとは、底の数値を上げること」と繰り返し、年次記録を解説してくれたが、ここまでの安定ぶりにはさすがに驚きを隠せないようだ。
(大阪・長居競技場)
9秒台突破の注目を集めている男子百メートルの末續慎吾(ミズノ)は、5日の水戸国際で10秒03をマークし、勢いに乗って、世界記録保持者ティム・モンゴメリ(米国)との対戦に臨んだ。スタートから加速して70メートル付近までは先頭だったが、ラストはモンゴメリ、また水戸で黒人選手以外では初の9秒台となる9秒93をマークしたばかりのジョンソン(豪州)に抑えられ10秒17の3位。向かい風での自身最高記録だったこともあり、6月の日本選手権に夢の記録がつながれた。
今季2戦目の為末 大(大阪ガス)も、4月の織田記念大会から調子をあげ、49秒60で3位に入った。女子では、四百メートルハードルで吉田真希子(FSGカレッジリーグ)が56秒13と自身の自己記録を更新して日本新記録を樹立した。
会見を終えた室伏は、声のトーンを一段上げて、照れくさそうに笑った。これで中京大記録会から通算して12投全ての試技で80メートルを越える安定ぶりに、「昨シーズンの最後って何? だっけ?」と、思わず「連続記録」を彼に尋ねたときだった。何でも、「記録」にしたがるのは、メディアの悪い癖であるけれど、しかし、この日も、室伏以外は誰も80メートルを越えておらず、また、ハンマーのように、回転とともに投擲するような種目では、タイミングやハプニングも、細かい所で続出するのが定番とされているだけに、こんな「快記録」は、まずお目にかかることができないだろう。最終投擲で最高記録を出すことは、恐らく、集中力に置けるビッグイベントのシュミレーションだったのではないか。室伏のこうした投擲を、ライバルでもあり、この日は2位となったアヌシュ(ハンガリー)は「素晴らしいというよりも、信じられない」と、12連続80メートルを踏まえた上でコメントしている。
室伏は、この迷路にはまらないよう大胆に改革を求めてアプローチをかけて行くうちに、現在のように「安定している」という、パラド安定しているのだ、という面白いパラドックスを説明しているわけだ。会見では、そこまで深く追求されないし、またされても、説明不可能だが、室伏の競技への取り組みを非常に明確に示しているパートだった。
だからこそ、今後の課題について「もっと豪快に、もっと大胆にやって行くことで、体力の上に技術がついてくる」と話している。
「81から82でエネルギーが溜まっている感じですね。ここから爆発ということもあるかもしれない」
父も、現状を火山のマグマにとらえ、大幅な日本記録(83メートル47)の更新を予言する。そういえば、セディフ(旧ソ連、86年)が世界記録86?74をマークした時も、長く80メートル台が連続していたという。
「(世界陸上に向けて)常に自分を高めて行くという気持ちを持ち続けることです。継続して行くことが大事です」
アベレージとピーク、安定と不安定といった、正反対の方向をひとつの向きに変えて行く、気の遠くなるような「継続」の結果が、12本連続での80メートル突破ならば、驚くこともないのかもしれない。
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