3月22日

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◆サッカー日本代表フランス遠征現地レポート◆

日本代表フランス遠征、パリ郊外イサンベルでの練習
(天候小雨、気温10度、午前10時〜)

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 24日のフランス戦を前に、日本代表は現地で3日目の練習を行い、従来のシステムの確認などに加え、オプションとして3−6−1のシステムで「3ボランチ」を初めて試した。ボランチの中央には稲本潤一(G大阪)を据え、左は名波浩(磐田)、右に伊東輝悦(清水)がつく。1トップは西澤明訓(エスパニョール)で、中田英寿(ASローマ)はトップ下の中央に位置した。フランスの分厚い中盤からの攻撃に対する選択肢のひとつと見られる。こうなると、中田の動きがチームにとってより大きなウエイトを占めることにもなり、ジダンというフランスサッカーのシンボルに対して、トルシエ監督が中田をチームの「顔」とする意図もうかがえるパターンである。
 練習は約1時間30分ほど行なわれ、午後はフリー。23日夜には、サンドニで前日練習を行う。

◆練習後の選手取材からコメント抜粋

中田英寿「コンディションはいいですし、特にケガをしている個所もありません。久しぶりの合流なので、多少一緒にやっていない部分の戸惑いはあるけれど、それはやって行く中で(解決)できると思います。(監督と話していたが、との問いに)特に(込み入った)話はないですが、コミュニケーションをしっかり取るということです。(フランスに勝つためにやらなくてはならないことは、との問いに)それはたくさんあるんじゃないでしょうか。そういうことが何なのかをわかるための試合でもありますし、(去年のモロッコでの試合は)あれはあれで、もう1年も前に終わった試合だから(参考にはならない)。(サンドニで8万の観衆が集まるアウェイですが、との問いに)まあ観客の数というならオリンピックも非常に多いですしね。サンドニでは初めてだし、(コンディションが)いいところだから楽しみもあります」

高原直泰(磐田)「戦術的、技術的なものをどうするかではなくて、自分たちの力を出すことが先決だと思う。注目している選手はやはりジダン。フランスと戦えることはうれしいし、コンプレックスは感じてない。相手のDFに簡単に寄られるんではなくて、いろいろな駆け引きを試してみたいと思うし、アジアカップのときとやることの基本は変わらない。練習場所は人工芝なんでちょっと(雨も多くて)腰に疲れが来ますね」

稲本潤一「3ボランチは新しくはないと思う。しっかり守ってからのカウンターということで同じだし、自分も3列目からどんどん攻撃に上がってシュートを打ちたい」

服部年宏(磐田)「アジアカップのあとは、みなそれぞれに自分のプレーに自信を持っていると思うし、その意味ではフランスにコンプレックスなんて誰も感じていないだろうと思う。フランスは当然、世界一のチームだから、敬意も払うし尊敬もしている。でもだからといって怖がるものでもなければ、こちらには失うものはないわけだから、しっかりやるべきことをやればいいだけで、変な力みはない」


パリ郊外で公開トレーニングを行う日本代表
トルシエ監督「今回の試合は、日本が初めて本当の意味での国際舞台に立って行う試合として勉強になるものだ。フランス代表は98年のW杯以後、欧州選手権を経て、メンバーは大きく変っていないものの、ユニホームには重み(プライドや存在感という意味)が増している。ただし、責任が大きくのしかかっているぶん、日本のほうが気持ちでは楽なのではないか。日本の若い選手たちは、本当に学ぶことへの向上心を持っていて、私はいわばオーケストラの指揮をしているように仕事に従事できる。日本にとって試合の鍵は、“フレッシュさ”ではないか。世界的にはあまり知られていないという新鮮さもあるし、テクニック、メンタルなどでもおそらくフレッシュな感覚を持って、少しもフランスに劣ることがないと理解してもらえるはずだ。もちろん、世界チャンピオンとの試合に学ぶことは多くある」


      「3ボランチ、1トップ」


2000年6月4日フランス戦の先発メンバー(中盤の底は2ボランチ)

この日、試した3ボランチの新システム
 98年秋から指揮を取るトルシエ監督の練習の中でも、3人を中盤のボランチとして起用したオプションは初めてであった。
 この日10時からの練習では、最初にボール回しを、DFは左に服部、右を森岡隆三(清水)、アウトサイドは右に望月重良(神戸)、左に三浦淳宏(東京V)、ボランチには稲本、名波、トップ下に中田、2トップの右を柳沢敦(鹿島)、左を高原として行った(※22人の遠征のために11人では組んでいない)。この後、DFラインに松田直樹(横浜)を加え、中盤は三浦を中村俊輔(横浜)に代え、伊東が追加された。ボランチは稲本を中央にして名波、伊東が並び、中田の位置とちょうど「ダイヤモンド」を描き、FWは西澤の1トップとした。

「そう、初めての形だったね。ただ、あれでしっかりとボールをまわしたわけではないので、オプションとして有効なのかはまだ未知数で練らないといけないんじゃないか。ただ面白い発想だと思うし、DFラインは多少楽にはなる」と、服部は練習後に説明をした。

 こうした3-6-1の格好によって、想像できる意図はやはりフランスの中盤に対しての守備を厚くする発想と、もう1点が、名波と中村、望月、伊東がそれぞれサイドでポジションチェンジを楽に行なうため、ということである。

 トルシエ監督の頭には、モロッコでの試合も強く頭に残っているはずだ。ハッサン国王杯でもシステム上は3-6-1だったが、ボランチには2人が並ぶ形で、1.5列目から森島寛晃が積極的に飛び出し、西澤の1トップが生かされた。また名波の絶妙なポジションチェンジも有効であったし、ボールを奪われることなくキープし再三突破口を開いた中田の強さはもっとも大きな柱となっていた。
 こうしたテスト結果を元に形成された3-6-1のニューバージョンでは、当然のことながら中田にボールが集中するケースも増える。しかし、そうした任務をまっとうし、「MF」としての実力を存分に発揮させることもまた、世界No.1のチームとの対戦において重要な局面を象徴するものになる。

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 もう1つの鍵はやはり速さ。もともと日本のサッカーはスピード感があるとされているが、監督はこの日の攻撃練習でも「ボールをスタートさせて15秒以内にゴールしたら1人(7人での攻撃)に2万円!」などとジョークを言いながら、速攻を繰り返した。

 パリはここ数日雨が続いており、気温も冷え込んでいる。この日も雨の中の公開練習となったが、フランスからの取材陣も押し寄せた。
 日本選手への質問では、これでもかというほどしつこいくらい「コンプレックスは感じますか」「怖くないですか」との問いが繰り返されていた。
 鎧かぶとに髷を結って、刀と日の丸を背中にさした日本選手と、しゃれた格好のフランス選手が並ぶ絵柄が、この親善試合のポスターである。メディアが繰り返す「コンプレックス」とあの古めかしさを皮肉った「ポスター」が現時点では日本選手への評価のシンボルだ。国際親善という友好的な立場からもこのポスターは適切ではないと日本の関係者は指摘し、大の親日家を自慢する大統領がいる国なのに、と嘆いてもいるそうだ。
 しかし、どこかチグハグなフランスの日本への認識を変えさせるには、ことサッカーに関する限り言葉はいらないだろう。ただ試合が始まれば、それで済むように思う。

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